天秤の皿の上
幸太郎がエルロー辺境伯に恐れをなして逃げる、
これは、もちろんありそうなことだった。
だが、もう一つありそうな事がある。
エルロー辺境伯がお金で解決しようとするかもしれないのだ。
そして、その時、幸太郎はお金に目がくらむかもしれない。
もしくは、美女を用意すると言われたら、
幸太郎は最後までモコの味方をしてくれるだろうか?
幸太郎は、良くも悪くも、完全に『中立な立場』
なんのしがらみも持っていないのだ。
ひどい言い方をするなら、土壇場でモコを裏切っても
なんら困る事情を幸太郎は持っていない。
しかし、モコにとって幸太郎は、
奴隷商人以外で唯一『隷属の首輪』を外せる存在。
子供たちの救出に、そして子供たちの未来に
不可欠な力を持っている男なのだ。
(だから・・・モコは自分の人生を俺に差し出す・・・と言っているのだ。
貴族が買収に使うお金に匹敵するものを、
モコは持っていない。成功報酬も約束できない。
少なくとも、エルロー辺境伯が買収を持ち掛けてきたとき、
天秤にかけるだけの価値があるものは
自分の体と命以外に何もない・・・。
俺がモコを奴隷にして、そのままモコを裏切る
可能性だってあるってのに・・・。
あえて命がけの覚悟を見せて、俺に裏切らないでほしい、と
全身全霊で訴えているんだ・・・。
女の子にこれほどの覚悟をさせてしまうとは、
男として失格だな・・・)
幸太郎はようやく、モコの考えが読めた。
そこまで考えが至らなかった自分の不明を恥じた。
なんと、情けない・・・。
「わかった。そこまで言うなら、モコの命は俺がもらう。
どの道、情報を得るために、
もう一度モコには首輪をしてもらう必要があったから、
そのまま俺の奴隷として召し抱える。それでいいな?」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
(C)雨男 2021/11/21 ALL RIGHTS RESERVED