中立な存在
モコがなぜ、もう一度幸太郎の奴隷になりたいなどと今さら言いだしたのか?
これはモコの立場になって考えれば理解できることだった。
幸太郎は全ての事情をモコに話した。その結果、モコは知ることになる。
幸太郎はこの世界に対して、一切、なんのしがらみも持たない、
完全に『中立な立場』だと。
確かに幸太郎はモコを助けた。
文字通り死ぬほどの苦痛をともなってなんとかモコを救出した。
しかし、『復活』をあてにしていたら
『命がけ』というわけでは、なかったのではないか?
モコの救出に失敗しても、幸太郎は生き返り、
そのまま旅を続けることになるだろう。
モコの行方は分からないが、だからといって
何か不都合が起きるわけでもない。
元々、幸太郎はこの世界の人間ではないのだから。
モコが恐れていること。それは幸太郎がエルロー辺境伯という
強大な貴族を実際に目にして、予想とのあまりの違いに驚き、
エルロー辺境伯に対して尻込みし、
子供たちを置いて逃げようとするのではないか、
ということだった。
(そして・・・間違いなく、モコが最も恐れていることは・・・)
幸太郎は月を見つめた。
『幸太郎が買収されるのではないか?』
と、いうことだろう。
(C)雨男 2021/11/21 ALL RIGHTS RESERVED