エルロー辺境伯
「私は一人、別の馬車に乗せられました。
そして、人狩りから首輪をつけられて、
『首都ダブリン』のデーブルス伯爵に売ると言われたのです。
馬車は『中継都市コナ』に向かう途中、
日が暮れたので野営の準備を始めました。
そして・・・盗賊が襲ってきたのです」
「そこへ、俺がひょっこり現れたってわけか・・・」
モコの村が襲われたのは今日だった。
急げば子供たちは助かるかもしれない、と幸太郎は思った。
「モコ、子供たちの行き先は『商業都市ユタ』と見て間違いないか?
その町から、さらに他の町へ移動する可能性はあるか?」
「いいえ・・・おそらく無いと思います。理由があります。
『商業都市ユタ』には、エルロー辺境伯がいるからです」
モコはエルロー辺境伯の『黒い噂』について説明した。
エルロー辺境伯は獣人や亜人を差別していて、
亜人の子供をつれてきては拷問して殺して遊んでいるという。
もちろん証拠は無い。
しかし、『亜人や獣人の子供がユタに連れ込まれるのを見た』
という証言は多かった。
そして、子供たちが町から出て行ったという話は全然ない。
さらに始末の悪いことに、王国の政府でもこのことは
知られているらしいのだ。
しかし、ボロボロになった王国で、国境を任せられるほどの
実力がある人物は他におらず、ユタへ配置換えを頼んだ手前、
黙認しているらしい。
「なんてひどい話だ・・・」 幸太郎は暗澹たる気分になった。
(C)雨男 2021/11/21 ALL RIGHTS RESERVED