自称・聖人
「なんでネクロマンサーなのかは納得いきました・・・。他に成仏大作戦を
遂行できるジョブが無いんですね・・・」
「うん・・・。これに関しては幸太郎に申し訳ないと思ってる・・・。
どうしたって好かれるジョブじゃないからね・・・」
「はは、まあいいですよ。だから悲しまないで下さい。アステラ様」
「・・・。あんたお人よしね・・・」ちょっとアステラは赤くなった。
「あ。でも今閃いたんですが、その成仏大作戦って私よりも
ずっと適任者がいますよ」
「ん? 誰?」
「私の世界にいた聖職者とか、『聖人の生まれ変わり』を
自称する人たちですよ!」 おお!ナイスアイデア!
「あー・・・。うん。やっぱりそれは誰でも一度は考えるわよね・・・」
アステラは苦笑いした。
「まずね。『聖人の生まれ変わり』は全員却下。問題外なのよ。
1人1人確認したわけじゃないけど99パーセント偽物よ」
「え? なんでわかるんですか?」
「『聖人の生まれ変わり』を自称してるからよ。
それがそのまんま偽物の証明と思ってもらっていいわ」
「???」
「んーと。例えば幸太郎、あんたが聖人の生まれ変わりだと仮定するわね?」
「はいはい」うなずく幸太郎
「聖人の名前をAとする。あんたはその聖人の生まれ変わりなんだから
『幸太郎はAの生まれ変わり』という式が成り立つわね?」
「そうですね」
「あんたから見れば『幸太郎=A』というわけよね?」
「もちろんですね」
「では、その名前の部分に『私』という一人称を代入したらどうなる?」
「へ?・・・『私=私』・・・? あああああああ!!!!」
「わかったようね? 『幸太郎はAの生まれ変わり』は
『私は私の生まれ変わり』になる
そんなの誰でもそうに決まってるじゃない」
「つ、つまりこれはあああ・・・」
「その通りよ。Aという聖人の名前にネームバリューを感じるのは
『他人』だけなのよ。当の本人にはAという名前は何の価値も無いの。
あんた自分の『幸太郎』って名前に『スゲー』って感じる?」
「まったく一円の価値も感じません・・・」
「つまり、もし本当に聖人の生まれ変わりがいたとしても、
その人はいちいち『私はAの生まれ変わりであーる』なんて宣伝しないのよ。
だって、その人にとってAのできることは、全て自分にできること
なんだもの。前世の名前が何だったか、なんて、当の本人には
子供のころ着てた服みたいに、どーでもいいの。むしろ聖人の名前なんて
邪魔なだけよ。現在の自分が自由に行動できなくなるんだもの」
「『聖人の名前にネームバリューを感じるのは他人だけ』
・・・確かに・・・。当の本人には、何の感動もありませんね・・・」
(C)雨男 2021/10/31 ALL RIGHTS RESERVED