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全ては罠だった
モコの村の人々は、遠くからこっそり様子をみていたが、
特に不審な動きはなかった。
朝から山へ向かい植物や石を採取したり、
森で昆虫の観察を記録したりしていた。
夜も、馬車の周りで焚火をしているだけで、全くどこにも動く気配は無い。
身なりもよく、人相も良かった。とても人狩りや盗賊には見えなかった。
なにより、全く強そうにはみえない。間違いなく村人のほうが強い。
1週間もすると、好奇心旺盛な子供たち6人組は学者を、
こっそり見に行くようになった。
小川で学者が釣りをしていた時、学者は『これをあげよう』と言って
袋に入った飴を置いて馬車に戻っていった。
子供たちは大喜びだった。初めて食べるお菓子だった。
子供たちは度々、学者のところへ飴をもらいにいった。
子供たちに親への秘密ができた。
もちろん、子供たちも学者の手の届く範囲には近寄らなかった。
そこまで不用心ではない。
しかし、会話できるあたりまでは接近するようになった。
学者たちの様子に変化は全くない。
だが。
全ては罠だった。
(C)雨男 2021/11/19 ALL RIGHTS RESERVED