プリーストはいないのよ
「でも、一応聖職者やってるんですよね? よくばれないですね?」
「色々魔法を改造して、それっぽい効果のある『奇跡』を演出してるからね」
『回復』の魔法を改造して『回復の奇跡』。ターンアンデッドは『拘束』の魔法を
改造してゴーストやレイスも縛れるように。そしてそのまま地面に埋めるという
『浄霊の奇跡』になっているという。
つまり一旦、目の前から消えるが、実は動けなくなってるだけで相変わらずそこに
いるのだ。長期間見え無くなれば人々は本当に奇跡が起きたように見える。
ゴーストが勝手に成仏したら、もう真相は誰にもわからない。
「つまり・・・本当に『奇跡』が使えるプリーストはいない、と?」
「そう。誰も使えない。彼らが祈ってる相手は結局悪魔なんだもん。
成仏しないわよ。魔法を改造したのは悪魔だけど、現在では『奇跡』を
魔法の改造だと疑う者は誰もいないわ。
だから見た目と名前がプリーストなだけで、こっちの世界には
『プリーストのジョブ』は存在しないの」
「ではネクロマンサーは?」
「死霊術は大概嫌われるんだけど・・・。わかるわよね?
実はこっちの世界で唯一『成仏』の魔法が使えるジョブなのよ。
『成仏』<レスト・イン・ピース>・・・死霊を冥界に強制的に送る術よ」
なんでネクロマンサーにそんな術が?
しかし、これは説明を聞いたら当たり前のことだった。
ネクロマンサーは死霊を操る魔法を使う。つまり呼び出したゴーストが
コントロール不能におちいったり、失敗して手に負えなくなった場合のために
冥界へ強制送還する魔法は必須なのだ。
ネクロマンサーのジョブになったらこの術を覚える・・・というより、
この術ができて初めてネクロマンサーにジョブチェンジできるのだという。
「ああ・・・。つまり、本来はプリーストにしてあげたいけど、
『成仏』が使えるのはネクロマンサーだけ・・・。
だからこっちなんですね・・・」
(C)雨男 2021/10/31 ALL RIGHTS RESERVED