モコ
アステラとムラサキは湯船につかりながら考えていた。
しかし、堂々巡りを繰り返すだけで、
『何が起きたのかさっぱりわからない』
結局はこれに行きついた。その夜の出来事は、それほど不可解だった。
幸太郎は生き返った自分にちょっと驚いた。
生き返っただけでなく、手も足も、腹の傷も、
全てきれいさっぱり修復されていたからだ。
服だけがぼろきれになっている。
幸太郎は自分に抱き着いて泣く少女の背中を、ぽすぽすと優しく叩いた。
「よくがんばったね。もう大丈夫だよ」
だが、幸太郎は異様な感触に驚愕した。少女の背中を叩くたびに
自分の胸に、少女の胸の形がはっきり感じられたからだ。で、でかい!
(な、なんなんだ? 少女じゃないのか?
これはワガママを通り越して・・・
傲慢の域まで達しているのではないか?
まるで大型戦艦並みの胸部装甲だ・・・)
もこもことした量の多い髪。大きな犬のような耳。小さなかわいい顔。
小さな背中、細っそい腰。しかし、アンバランスなほどの豊かな胸。
幸太郎は戦慄した。なんて破壊力だ・・・。異世界おそるべし。
幸太郎はとりあえず、少女の肩を持って体を離すと、自己紹介をした。
「初めまして。私の名前は幸太郎・三ツ矢です。お嬢ちゃんのお名前は?」
「あ。初めまして、私はモコです。・・・私には敬語を使わないで下さい。
ご主人様、これからよろしくお願いいたします」
んん? さっきもたしかご主人さまって・・・?
翻訳こんにゃくの調子が悪いのか?
いや、この世界の慣用句かもしれない。『大将』とか『旦那』みたいな・・・。
幸太郎はとりあえず華麗にスルーした。
(C)雨男 2021/11/12 ALL RIGHTS RESERVED