アステラとムラサキの心配
アステラとムラサキは幸太郎に、死霊術に傾倒してほしくなかった。
元々死んだ人の魂を使役する魔法。死体を動かす魔法。
そして、一番危険なのは死者との『交信』だった。
幸太郎は、最初の森で10体ほどの亡者と交信してみた結果、
『あんまり亡者と交信してると気を病む』と悟った。それで良かった。
そもそも正常な者なら、大抵すでに冥界へ戻っているはずなのだから。
実は『交信』は一番危険な要素を含んでいた。
幸太郎がいた地球でも『ウィジャ盤』『こっくりさん』『降霊会』など
霊と交信しようという試みはあるが、
まともな霊と会うことはほとんどない。
当然の話だ。
例えば、幸太郎が現代の日本から『ビル・ゲイツ』に
おもちゃのトランシーバーで交信しようとしたとする。
『ビル・ゲイツ』がトランシーバーに応答する可能性はあるだろうか?
結局、近くで聞いてた誰か、もしくはたまたま電波をキャッチした誰かが
『ワレコソハ、びる・げいつ、デアル。ヒレフセ、グミンヨ』
などとなりすまして、いたずらするのが関の山。
はっきり言うなら、仮に幸太郎が現代の日本から
アメリカの『ビル・ゲイツ』に国際電話をかけたとして、
彼は電話口にでるだろうか? 無い。ゼロ。
彼が暇で暇で死にそうだった場合。庭にロープを張ってターザンごっこを
しながら奇声をあげていたら、もしかしたら電話に出るかもしれない。
まして死者との交信。正気でないものは狂気をまき散らすだけだし、
『我はアステラなり』という偽物や、天使の名を騙る
見栄っ張りは大勢いる。
もし、幸太郎が騙されたり、誤った情報を基に行動したら
とんでもない結果を招くかもしれない。
アステラとムラサキはそれを心配していたのだ。
(C)雨男 2021/11/12 ALL RIGHTS RESERVED