間抜けな質問
幸太郎が死んだあと、少女はまだ幸太郎の亡骸のそばにいた。
少女はじっと何かを待っているようだった。
少女が待つこと数十分。ついに待っていた時が来た。
幸太郎の額に金色の輪が輝く。そして全身を淡い金色の光が包み込んだ。
少女は真の奇跡を目の当たりにした。
幸太郎の引きちぎられた腕や足、めちゃめちゃになった腹の傷も
みるみるうちに光が修復してゆく。温かい光だった。
幸太郎は再び目を開けた。上体を起こす。『冥界門』はすでに消えていた。
うまく閉じることはできたようだ。カルタスたちも冥界に戻ったらしい。
幸太郎は少女に顔を向けると、果てしなく間抜けな質問をした。
「えーと、大丈夫? お嬢ちゃん怪我はなかった?」
少女は『ご主人様こそ・・・』と言って幸太郎に抱きついて泣いた。
アステラとムラサキは一部始終をずっと見ていた。
二人ともずっと無言だった。
幸太郎が間抜けな質問をしたところで、
アステラが『ふーっ・・・』と息をついた。
「どうぞ、アステラ様」
ムラサキがアステラにタオルを差し出した。アステラはここでやっと
自分が汗だくになっていることに気が付いた。
ずっと腕を強く握っていたせいで、
二の腕にくっきりと指の跡がついていた。
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