イベントだ! 6
盤兵遊の大会の予選はこれで終了。
そして、大会の予選が終了したという事は、
バザーで『簡易競売』にしている武器や防具の入札も
タイムリミットが来たということである。
時間ギリギリに新しい書き込みをする商人が大勢いた。
カーネリアス騎士団の剣は、ついに金貨105枚まで
値上がりしていた。
この剣を『使いたい』冒険者ではなく、
商人が『自分の店で売りたい』と思った結果。
しかも用途は『実戦』ではなく、『観賞用』だ。
何しろ希少なのである。
そして、タイムアップした今も、
次々に新しい値段が書き込まれている盾が1つあった。
『もう時間です! ここまでです!』と
アナウンスを流してはいるのだが、
『待て! 私が買う!』という商人が後を絶たない。
もう孤児たちでは収拾しきれない状態になっていた。
その値上がりが止まらない盾とは・・・。
『何の変哲もないカイトシールド』
そう、別に飾りも何もなく、紋章があるわけでもない
一見普通の盾。
ただし、この盾は裏側に『製作者の刻印』が
入っていたのだ。その刻印された製作者の名前は、
ジャンバ王国の貴族、市民なら知らぬ者はいない。
その名は『ビゼン』。
この人物はおよそ100年前、当代随一と謳われた
ドワーフの鍛冶屋。
なぜ、この人物の刻印が入ってるだけで
こうも高値が付くのか幸太郎には不思議に感じられた。
だが、このジャンバ王国では欲しがる者はいくらでもいる。
この『ビゼン』という鍛冶屋は、あの『英雄王』、
ルーザー・ジャンバの愛剣『鉄板』を作った鍛冶屋なのだ。
ルーザーは傭兵時代、すぐ剣が折れることに悩んでいた。
自分の剣圧が強すぎるせいだ。剣が耐え切れない。
そして貯金をはたいて名工ビゼンに
『折れない剣を打ってくれ』と頼んだ。
金貨12枚で。
ビゼンは呆れた。
『たった金貨12枚で折れない剣だと!?』
もちろんルーザーは大まじめだ。
しがない傭兵に出せる金額はこれで限界である。
ブタの貯金箱を泣く泣く壊すくらいの覚悟で言ってるのだ。
真剣なルーザーの目を見たビゼンは
『ニヤリ』と笑うと言った。
『・・・折れなきゃいいんだな?』
そして出来上がったのが『鉄板』だ。
もちろん、元々この剣に名前など無い。ただの大型の剣。
・・・いや、実は、この剣は『剣』ではなかった。
『切っ先』が無い。
いや、そもそも『刃』すら無い。
薄い部分でさえ厚さ4センチにもなる、分厚い長方形の・・・
『ただの鉄板』だったりする。
ビゼンがどのような技術をつぎ込み製作したのかは
記述が残っていないが、『折れない』ことだけを
目的にされた『長方形の鉄の板』に鍔と柄がついてるだけ。
正確に言うなら、この武器は
『ハンマー』
に分類される。『刃が無い』から。ブッ叩くだけ。
しかし、ルーザーはこの剣をいたく気に入った。
本気で使っても折れないからだ。
ただ、ハンマーなので『切れ味』が無い。あるわけない。
この剣で『斬る』と相手はグシャグシャになって、
全てひき肉になって『撒き散らされる』のだ。
ルーザーに殺された者は、大乱戦でも見分けがつくと
言われるようになった原因である。
ルーザーはこの剣を、見たまんまの『鉄板』と呼んだ。
そして、この折れない剣は幾多の戦場で血を吸い、
あまたの魔物を屠り、魔法を打ち落とし続けるうちに・・・
いつしか青い光を帯びるようになっていく。
命と血を吸い続けるうちに、剣は
『自分が生まれた意味』を理解し始めたのだ。
日本人なら理解できるが、いわゆる『妖刀』である。
そして、戦い続けるうちに、ついに刀身に
『顔のような模様』が浮かんできた。
周囲の傭兵は気味悪がったが、
ルーザー自身はまさに『相棒』として可愛がった。
『敵を殺すと、なんか嬉しそうなんだよぉ~』
ルーザーは周囲がドン引きする可愛がり方をした。
まあ・・・これが『ルーザーが反乱を起こすつもり』だという
噂が立つ一因になったのは否定できない。
何しろ、この剣で敵を殺すと、刀身の顔は微妙に歪み、
喜んでいるように変化するようになっていたから。
この『鉄板』は傭兵仲間、
いや、敵味方問わず噂になっていった。
『血を吸う魔剣』だと。
ルーザーが『英雄王』と称えられ、その愛剣『鉄板』が
英雄王の相棒だと謳われるようになると、
人々はビゼンの打つ武器や防具を欲しがった。
何はともあれ、ルーザーが本気で振るい続けても
全く折れないのは事実だからだ。
英雄王にあやかりたい人々は大金を積み上げたが、
ビゼンは『納得できるモンしか作らない』と
粗製乱造を拒否。
結果として、あまり数は出回らなかった。
そして100年もすると、当然現存してる武器や防具は
少なくなっていく。
そこへ現れた『ビゼン作の盾』。
ビゼンは納得できるものにしか
自分の名前の刻印をしない。
もちろん質の悪い贋作が出回った時期もあるが、
当然100年経った今、贋作など全てサビになって消えている。
今さら『新品』の贋作などに騙される商人もいない。
この盾は商人たちが手に取り、『真品』と判断した。
幸太郎には全っっっ然わからないが、本物にはいくつか
特徴があるという。この盾はその特徴を全て備えている。
何より、噂を聞いて見に来たカーレの鍛冶屋が
『間違いない、本物だぜ。刻印なしでも、盾として
一級品なのは保証する。くくく、いいモンが見れたぜ』
と言い切ったのだ。
現存する数が少ないビゼンの作った武器や防具。
その1つが・・・幸太郎がダンジョン内から
持ち帰った物の中にあったわけである。




