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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 5
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イベントだ! 5


 誰もサンドウィッチ伯爵と戦いたがらないため、



自動的に予選3回戦目は消滅。



32人の決勝トーナメント進出者は決定。



まさか、こんな形で決まるとは幸太郎もギブルスも



全く考えていなかった。





サンドウィッチ伯爵が、あまりにも強すぎるせいである。





しかし、これで『予選終わりでーす』とすると、



あまりにも中途半端感が否めない。



尻切れトンボという言葉がピッタリあてはまる。



せっかく盛り上がってきたというのに、



冷や水をぶっかけるようなもの。





しょーがないので、予定には無いが、ギブルスが



一肌脱ぐことになった。





エキシビションマッチ『サンドウィッチ伯爵VSギブルス』だ。








「ふふ、ギブルスよ。お前が相手か。いいだろう、


一度対局してみたいと思っていた。


念話の水晶玉で見たお前からは


強者の匂いが漂っていたからな」





サンドウィッチ伯爵は少年漫画の悪役みたいな



セリフを言いながら席に着いた。





「いやいや、伯爵様、これはただの余興です。


どうぞ、お手柔らかに」





ギブルスは微笑を崩さず席に着く。



もちろん、元々ローゼンラント王国の貴族である



ギブルスは『盤兵遊』のルールを知っている。



弱くはない。むしろ強い。



だが、ギブルスにとって『盤兵遊』は



商売のための『コミュニケーションツール』だ。



わかりやすく言えば、取引先とゴルフに行くようなもの。





だからギブルスは勝とうとしているのではない。



サンドウィッチ伯爵を満足させようと考えているのだ。





「ギブルスよ。コイントスの必要はない。


先手は譲ろう。さあ、かかってくるがいい」





ギブルスの先手と決まった。



まずは仕切り板で隠し、互いの陣形を作った。



ここですでにギブルスは仕掛けてきた。





「むむ? 『弓兵士』と『魔導士』を全て左翼に


配置するとは・・・?」





サンドウィッチ伯爵が怪訝な顔をした。





『盤兵遊』と『将棋』の最大の違いは、なんといっても



移動することなく、敵を倒せる『弓兵士』と『魔導士』だ。



いうなれば『砲台』が存在するのだ。



無論、無敵でもなんでもなく、



一回『移動』か『攻撃』をすると、



次の自ターンは駒を裏返して行動不能。



そして射程距離があるので、例えば『騎馬隊』



(これは将棋でいう飛車に相当)の突撃なら一気に倒せる。



ちなみに将棋の角行にあたる『傭兵隊』もいる。





『弓兵士』と『魔導士』は行動すると一回休みになるので、



移動が遅い。護衛も必要になる。



だからスタンダードな使い方は



自陣に配置して迎撃する『固定砲台』だ。



もしくは『伏兵』として最初は配置せず、手駒に残す方法。



つまり攻撃か防御目的かに全振りするのだ。





対局開始してすぐに、ギブルスの意図は判明した。



9×9マスの盤上に左から1~9の番号をつけると、



ギブルスの『弓兵士』『魔導士』は2、3のあたりに



護衛と共に『拠点』を作ったのだ。



要は大阪夏の陣の真田丸。



近づけばクロスファイアで殲滅されるだろう。



無論、崩すことは可能。周囲の護衛を順番に排除し、



力で押しつぶせばいい。



ただ、かなりの犠牲がでるのは避けられない。





ギブルスの『出丸』戦法によって、盤上の中段、左翼は



完全にギブルスに押さえられた。



当然、その分、右翼は手薄になっている。



サンドウィッチ伯爵はこちらを狙うのが当然の選択だ。





だが、最も左の『1の列』が空いているのが本当の狙い。



ギブルスは『騎馬隊』を1の列に移動させ、



『槍兵』と共に突撃!!



なんとサンドウィッチ伯爵より先に



敵陣へ自軍を侵入させることに成功した。



これにより、中盤の3×9マスに



手持ちの『伏兵の駒』を直に打ち込むことができるようになる。



まだサンドウィッチ伯爵は中盤に駒を打てない。



ギブルスが有利なのは誰の目にも明らかだ。





会場がどよめいた。



サンドウィッチ伯爵が守勢に立たされている。



サンドウィッチ伯爵も自軍を



ギブルスの右翼陣へ侵入させたが、



すでに中盤にはギブルスの伏兵が2枚打ち込まれていて、



容易には形勢を覆せない。





「王手!」





ギブルスの声が響く。会場は驚愕の大声が広まった。



なにしろ初めてサンドウィッチ伯爵が『王手』を



かけられたのだから。





「これは! なんとサンドウィッチ伯爵が初めて


『王手』をかけられましたーーー!!


強い! 強いぞ! ギブルスさーん!」





幸太郎が実況掲示板の前で拡声器を使って叫ぶ。





「王手!」・・・「王手!」・・・「王手!」





ギブルスは畳み掛ける。何度も王手をかけた。



しかし、百戦錬磨のサンドウィッチ伯爵は慌てない。





(やるな。驚きだ。だが、これではこちらのキングは


詰まない。それはギブルスもわかっているだろう。


それでもあえて、何度も王手をかけてくるのは


こちらの心をかき乱し、焦らせて、ミスを誘発させる狙いか!


ふっふ、並の打ち手ならいざしらず、それでは、


このジョン・モンタギュー・サンドウィッチは落ちんよ!!)





サンドウィッチ伯爵の読み通りだった。



守勢に立たされているものの、



その指し手には淀みがない。





かなり激しい攻防、お互いの駒の削りあいに似た戦況が



続いたが・・・ついに大勢は決した。





「負けました・・・降伏です」





ギブルスが投了した。もう攻め切れるほどの駒が



残っていないのだ。盤上はかなりガランとしている。



あとは守るだけで、いずれは削りきられるのは確定的。





「うむ。いい勝負だったぞ、ギブルス。


やるではないか。これほど歯ごたえのある相手は久々だ。


またいずれ相手をしてくれたまえ。わっはっはっは!」





サンドウィッチ伯爵は楽しそうだ。



ギブルスの目的はなんとか達成できた。





「決着!! 勝負あり!! 


勝者、サンドウィッチ伯爵ゥゥゥ!!


凄まじい戦いでした! どうかみなさん、この両名に


盛大な拍手をお願いします!!」





会場は大歓声、拍手喝采だ。グリーン辺境伯たちも



惜しみない拍手を送っている。



サンドウィッチ伯爵とギブルスが固く握手すると、



さらにもう一度、爆発的な拍手と歓声が巻き起こる。





「素晴らしい戦いをありがとうございます。


感動的な戦いをありがとうございます。


まさに白刃火花散る、目の離せない攻防でした!


司会の私も興奮が抑えきれません。


まさに名勝負! 強者同士の一騎打ち!


長らく語り継がれることになる戦いでした!!


今、会場にいる皆様は、歴史を、その目で目撃したのです!


そうです、今の戦いは『歴史』そのものだったのです!!」





『うおおおおおーーーーっっ』





さらにもう一度大歓声が巻き起こる。





『盤兵遊』のルールを知らない幸太郎だが、



こういった『煽り文句』は漫画や本で学習しているので



お茶の子さいさいである。





「興奮冷めやらぬところですが、予選は終了いたしました。


この後は休憩を挟みまして、『16歳未満の部』の


決勝トーナメントが始まります。


もしかしたら、この中に未来の達人がいるかもしれません。


どうか、皆様も温かい目で応援してあげて下さいませ!」





サンドウィッチ伯爵、そしてギブルスのおかげで、



予選から大いに盛り上がった。



会場の熱気は予想をはるかに超える。





ステージの上で拳を突き上げて吠えるサンドウィッチ伯爵は



今の戦いに満足げだ。



ドヤ顔で手を振り、歓声に応えていた。








スタッフルーム、というか、孤児院の中へ入り



水を飲むギブルス。



『ふう~~』と息をついた。





(強いね、サンドウィッチ伯爵は。


こっちもほとんど全力を出さないと、とても満足


させられなかった。僕が弱かったら、ひとたまりも


なかったろう・・・。エリザベーテに感謝かな?


鍛えてもらっておいて良かったよ・・・)





実は、イネスはギブルスよりも数段強い。






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