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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 5
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イベントだ! 4


 ついに盤兵遊大会にサンドウィッチ伯爵登場。



ステージ上の実況ボードに人々の注目が集まる。



もちろんグリーン辺境伯やファルネーゼ辺境伯、



エメラルド嬢、リヴィングストン侯爵、



ライトハイザー子爵夫人も注目した。





「どちらが勝つと思われますか? グリーン辺境伯様、


リヴィングストン侯爵様」





ライトハイザー子爵夫人が扇で口元を隠しながら



優雅に尋ねた。



この子爵夫人はいかにも『貴族』といった感じの



美しい女性。まだ22歳という若さだ。





「ふふ、もちろんサンドウィッチ伯爵だよ。


昨夜夕食後に3時間も対局に付き合わされてね」





「私もだ。グリーン辺境伯と共に全戦、全敗さ。


伯爵の強さは身に染みたよ。はははは」





「ふふふ。やはり、そうですわね。うちの夫とも時々


夜通し対局してますもの。翌朝、うちのひとは


眠そうなのに、サンドウィッチ伯爵は目がギラギラと


輝いてますのよ? 熱意の桁が違いますわ。


本当に恐ろしいお方ですわ・・・」





リヴィングストン侯爵とライトハイザー子爵夫人は、



この後の『競売』が目的だ。



リヴィングストン侯爵は『世界樹の落ち葉』が欲しい。



そしてこの競売には、もう1つ目玉商品がある。



ライトハイザー子爵夫人が『欲しがっていたもの』が



競売にかけられるのだ。



ギブルスの情報網で、ライトハイザー子爵夫人が『それ』を



欲しがっていることは掴んでいた。



そこでギブルスが手紙を出したのだ。





『子爵夫人が欲しがっていたものが孤児院開催の


競売にかけられる模様。B級冒険者が仕留めたものです。


極美品でした』





彼女は即決で『行く』と返信。



夫のライトハイザー子爵は仕事で来れないが、



夫人は自分の目で確かめたいと、執事を貸してもらい、



はるばるヨッカイドウからカーレまでやってきたのだ。



普通、貴族の妻は単独行動など許されるものではないが、



この女性は夫であるライトハイザー子爵が行動を許していた。



仲が悪いというわけではない。逆だ。



貴族にしては珍しく大恋愛の末に結婚している。



貴族の結婚は通常『愛しているから結婚する』のではなく、



『結婚することになったから、相手を精いっぱい愛する』のだ。



自由気ままに生きられる貴族など、ほとんどいない。



彼女がライトハイザー子爵と結婚にいたるまでには、



時間的には短期間であるものの、



『艱難辛苦を乗り越えて』と言いたくなるほどの



苦労の連続だった。もちろん一般人からすれば、



そんなドロドロした政界、社交界の



糸を引いて粘りつくような事情など



聞いただけで吐き気がするだろうが、



貴族は死ぬまで1秒たりとも『休み』が来ない。








ステージ上の『実況掲示板』を見る人々は



驚きと感嘆の声を交互に発していた。





サンドウィッチ伯爵は相手の『一点突破』攻勢を



真正面から受けて立ったのだ。





しかも。





サンドウィッチ伯爵は相手の怒涛の大攻勢を、



電動ヤスリで削るように、粉々に破壊していく。





無論、ゲームである以上、サンドウィッチ伯爵とて



無傷ではない。



だが、鏡写しの配置だったとは思えないほど



駒の動かし方、位置取り、動かす順番に実力の差が現れた。





対戦相手の大攻勢が『終わった』時、



相手の駒は、ほぼすっからかんになって、



もはや攻めることも守ることも



できなくなっていたほどである。





「おや? もういいのかね? 君の番だよ」





「・・・ま、参りました。降伏します・・・」





対局相手の男はうなだれて、



絞り出すようになんとか声を出した。





「けっちゃーーーくっ!! 勝者! 


サンドウィッチ伯爵ーーーゥ!! お見事っ!!」





幸太郎が拡声器で叫ぶと、



観戦していた人々から大歓声が沸き起こった。



『世界一』と謳われるサンドウィッチ伯爵の実力を



初めて市井の人々は目の当たりにしたのだ。





それも『まさか、ここまで強いとは』という凄まじさで。





相手の考えを『一点突破』と読んだだけでなく、



駒の配置までも完璧に読み切って、



全く同じ配置にしてみせた。



さらに全く同じ布陣にした上で、



完膚なきまでに相手の攻撃を粉砕してみせたのだ。



当然、両者とも一点突破陣形である以上、



守りに回った方が断然不利になる。



しかも先手を相手に譲っていた。



『実力』の違いだけが浮き彫りになる



恐ろしい戦いだったのだ。





(つ・・・強いなんてもんじゃないな・・・)





幸太郎も内心唸る。よく知らないゲームだが、



これほどわかりやすく実力差を見せつけたのだ。



サンドウィッチ伯爵の強さは



ド素人でもはっきり理解できた。





(うーむ、これほどとはな。ゼイルガン、いや


イーナバース全域でも、これほどの手練れは


果たしているかどうか・・・見事だ)





選手の中でも、ひときわデカい大男、グレゴリオは



腕組みして優勝候補の対戦実況を見ていた。





(こいつは、ゴリオでも勝てねえかもな。


だが、ゼイルガンの名誉にかけて、一泡吹かせてやれよ?)





ジャンジャックはファルネーゼ辺境伯の警護をしながら



心の中でグレゴリオに応援を送る。





そのファルネーゼ辺境伯はエメラルド嬢と共に、



テーブルに棋盤を載せて、実況を聞きながら『次の手』を



予想する遊びをしていた。ほのぼの。



グリーン辺境伯、リヴィングストン侯爵、



ライトハイザー子爵夫人も



その様子を微笑んで眺めた。








大歓声の中、サンドウィッチ伯爵は執事と共に



ステージ上の椅子へ戻ってきた。



満足げな顔をしている。



どうも自分の実力を見せつけることができて



気分がいいらしい。



そして市民からの拍手と喝采も。





大会の参加者たちはサンドウィッチ伯爵の実力に恐怖した。



が、棄権したりはしない。



勝てなくとも、3位までに入ればボロ儲けなのは



変わらないから。





『伯爵と当たりさえしなければ・・・』





ほとんどの人は賞金目当てなのだ。








サンドウィッチ伯爵が2回目に登場した時は、



さらに圧巻だった。





相手は一般市民だが、街中で行われる『賭け試合』で



ならした男。珍しく『俺なら勝てる!』と



自信を持っていた男だった。



確かにこの男は一回戦も余裕で相手を下している。





そして勝負開始。





対戦相手も伯爵も、一番スタンダードと言える、



自陣に均等に戦力を配置した陣形。



またも伯爵は相手の考えを読み切ってみせたのだ。





そして、コイントスで先手を取ると、



今度は受けに回らず疾風迅雷の攻撃!





サンドウィッチ伯爵は、あっという間に敵陣中央を



食い破り、なだれ込む。



分断された敵陣はなす術も無く蹂躙され、



キングは取り囲まれた。詰みだ。





「は、速い・・・なんて速攻・・・全てが、速い・・・」





対戦相手は額に汗を浮かべ、そう言うのがやっと。



攻撃が速いだけではなかった。



サンドウィッチ伯爵は全ての手を、



ほぼノータイムで打ってきたからだ。



そう、まるで『開始から投了まで全部知ってるよ』とでも



言わんばかりだった。



予知でもこうはいくまい。



以前、何度も見たことがあるような感じだ。





これはサンドウィッチ伯爵が発明した『棋譜』の成果。



日本で最古の棋譜は1607年のものだそうだ。



棋譜を発明したのは誰なのかはわかっていないという。



だが、この世界では伯爵が自力で考え出したのだ。



『盤兵遊』というボードゲームへの愛が



棋譜を生んだのである。








決勝トーナメントは高校野球、甲子園方式を参考にしたので、



参加人数は32人。



あと数人減らさないと32人にならない。





「さあ、3人目だな。私の対戦相手は誰かね?


はっはっは」





サンドウィッチ伯爵が自分で買って出たので、



予選3回戦のトップバッターは伯爵だ。





ところが・・・対戦相手が『いなくなった』。





番号を呼ばれた選手が、全員『棄権』を申し出たからだ。





「では62番・・・棄権? えー、では次、19番!


・・・も、棄権ですか? ではでは、102番・・・。


ええ? あなたも棄権ですか?」





サンドウィッチ伯爵のあまりの強さに、



抽選で番号を呼ばれた者は



残らず尻込みし、棄権した。



これで確かにトーナメントに必要な32名に絞り込まれたが、



今一つ不完全燃焼な空気が漂う。



特にサンドウィッチ伯爵が『イライラしていた』。



戦いたいのに、相手が敵前逃亡するからだ。



もう、相手が誰であろうと構わない。



盤上で相手をぶった斬り、



仕留めないことには気が済まないのだ。



とにかく戦いたい。





そこへ名乗り出た者がいた。





「仕方ありません。


不肖、このギブルスめがお相手いたしましょう。


トーナメントとは関係ない単なる『余興』ですよ。


伯爵様も、このままでは収まりがつきますまい」





突如エキシビションマッチ開催。対戦相手はギブルスだ。






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