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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 5
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イベントだ! 3


 第一回、盤兵遊世界大会の開始が宣言される。



まずは予選。



16歳未満の部は予選の必要が無く、



逆に32名のトーナメントに



2人足りない状況だったので、孤児の中からルールを



憶えている2人を参加させることにした。



まあ、数合わせだ。





一方、大人の部は参加者が150人を超えている。



参加料は銀貨1枚。子供の部は無料。



元々、幸太郎が『バザーの客』を集めようと



考えた大会だったので、



これほど人が集まるのは、完全に想定外だ。



賞品は子供の部の優勝者がマフマフラビットの毛糸で編んだ



マフラーと手袋。それに加えて優勝者が金貨1枚の賞金。



2位で銀貨5枚。3位は決定戦をしないので2人ともに



銀貨2枚となっている。



大人は優勝賞金が金貨20枚と日本の将棋盤を模した



特製の『ドライアードの手による本ツゲ材盤兵遊の棋盤』。



2位で金貨10枚。



3位の2人は金貨5枚となっていた。





この世界では銅貨10枚で銀貨1枚の価値。



銀貨10枚で金貨1枚と交換される。



通貨の単位は存在しない。



完全に貨幣の価値のみで



通貨の信用は成り立っているのだ。





まあ当然、参加料全部合わせても、賞金とは釣り合わない。



赤字である。だが、それは全然問題ではない。



競売で得られるはずの利益からみれば『端数』だからだ。



すでに簡易競売で売られている



カーネリアス騎士団の剣は



『金貨85枚』まで値が吊り上がっている。



この剣一本だけでおつりがくる。



他の『掘り出し物』も続々と最高値を更新していた。





そして、幸太郎が人を集めたい『もう1つの理由』は、



孤児たちが手にする『金の出所』が



怪しくもなんともないことを



世間に知らせたかったからである。





貧乏もいいとこの孤児院が、突如大金を支払ったとしても、



『ああ、あのイベントのおかげか』と



誰もが納得できる『言い訳』を作る目的。



B級冒険者が気まぐれで色々と手助けしたせいで



大金が手に入っただけと世間に周知するのだ。



こうすれば孤児院から金を巻き上げようと考える人は



出ないはずだと、幸太郎は計算していた。



『全部建て直しの費用に消えました。次はありません』と。








「では、この箱の中の番号を1枚とって下さい」





幸太郎は番号の書いてある木の札が入った箱を



3つテーブルに置く。



参加者は次々に木の札を取った。





「みなさん、札は取りましたね? その番号が自分の


選手番号です! では、番号を呼ばれたら順番に


テーブルに座って下さい。


向かいの人が予選の対戦者になります。


これで32人に絞られるまで予選を続けます。


計算上では1人あたり最低2人に勝たなくては


予選を突破できません。


もし、運悪く3人と戦うことになっても、


それはご了承下さい。


どのみち、この大会には


『あの』サンドウィッチ伯爵が参加しておられます。


予選で3人くらい倒せないようでは、


とても伯爵様とは戦いにならないでしょう」





「はっはっは、司会の君、良く分かっているじゃないか。


その通りだよ。そうだ、なんなら


3人と対戦する選手のうち、


1人は私がやろうじゃないか」





伯爵はもう2人には勝った計算をしている。





1人だけ特別扱いでステージの幸太郎の横で



椅子に座っているサンドウィッチ伯爵。



隣で立っている執事のサミュエルも静かにうなずいた。





すでに火が付いたサンドウィッチ伯爵は、



やる気満々になっていた。



もう相手が強いとか弱いとか、市民だとか、一切関係ない。



とにかく盤兵遊で『勝負』がしたいのだ。



会場の雰囲気、熱気にあてられて、見境がなくなっている。



血の匂いを嗅ぎつけたサメのようなもの。



とにかく棋盤の上で相手を打ち負かさないことには、



血の滾りと飢えが収まらない。



サンドウィッチ伯爵は根っからの『盤兵遊好き』なのである。



まあ、マニアってのは大体こんなモンだ。





「おお! さすがは『世界最強』と謳われる伯爵様!


では、ありがたく申し出を受け取らせていただきます。


では、早速抽選を始めます!」





幸太郎は別の箱に手を入れて、



紙に書かれた番号を読み上げる。





「では、114番の方と、6番の方! 


この長テーブルの端に来てください!」





エーリッタとユーライカが呼ばれた選手を席へ案内する。



テーブルにはアルカ大森林で大量に作った



棋盤と駒が用意してあった。





「もう一度念を押しておきますが、予選のルールは


『持ち時間1分』の早指し勝負です。テーブルにある


砂時計の砂が落ち切る前に、自分の番を終えて下さい。


落ち切った時に指せて無い場合、『降伏』と見做します」





「『早指し勝負』か、うむ、面白い。いいじゃないか!」





サンドウィッチ伯爵は



今までやったことのないルールに興奮している。



もちろん、それでも負けない自信があるのだ。



いや『私のスピードについてこれる者がいるか?』と



わくわくが止まらない。





なお、今回のイベントの準備で、最も大変だったのが



この砂時計を用意することだった。



元々予定にない変更だったからだ。



ギブルスやアカジン、ミーバイ、ガーラ、タマンが



方々駆けずり回って、なんとか用意できた。





1つの長テーブルは5人がけ。10人が向かい合って勝負する。



テーブルや椅子は冒険者ギルドが協力したので問題ない。



そのテーブルが6卓。一気に60人が戦う。



教会と孤児院の敷地が広くてよかった。



なお、子供たちの畑はもう潰してある。



どのみち孤児院を建て直すためには



資材置き場が必要になるからだ。



子供たちは残念そうだったが、ルークの



『また、来年耕そう!』の言葉に全員が笑顔でうなずいた。





グリーン辺境伯の指示で、複数の騎士が巡回し、



厳重に警備する。



サンドウィッチ伯爵がいるのだから当たり前。



そして、そのせいで勝負の結果に文句をつける者はゼロ。



一応ルールでは『待った』をかけると負けになるが、



それでも口に出さず



『頼む、今の待った』と懇願する者はいた。



でも、騎士が『じろっ』と見ると、誰もが引き下がる。








サンドウィッチ伯爵の名前と番号が呼ばれると、



どよめきが起こった。



本人が『世界最強』を自負し、実際『世界一』の



呼び声高い優勝候補筆頭だ。





相手になった男は青ざめた。



なにせ相手は『世界最強』と自分で言うほどの男。



だが、対戦相手はこうも考えた。





(いや待てよ・・・。俺だって盤兵遊には自信がある。


ここで俺がサンドウィッチ伯爵を倒せば、


もう誰も俺には勝てないってことじゃねえか?


そうだ、俺が一番強いってここで証明されるんだ! 


なら、優勝賞金の金貨20枚は頂いたも同然だぜ!!


やってやる・・・やってやるぞ・・・。


見てやがれ、吠え面かかせてやるぜ、伯爵様よぉ!)





幸太郎はステージに、81マスに仕切られた



大きい掲示板を用意し、



その掲示板にフックをつけて、色違いの駒の札をかける。



こうして対局の駒の動きをトレース。



会場の人々にサンドウィッチ伯爵の戦いを



実況することにした。



これも日本の名人戦などの実況を真似したものだ。



解説はギブルスに頼んである。



幸太郎はさっぱりわからないから。





『盤兵遊』の特徴として、開始前に自陣内限定で、



自由に駒の配置を変えることが可能な点がある。



中央に仕切りを立てて、お互いから見えないようにし、



その間に自分の駒を自由に配置してからスタートするのだ。



均等に戦力を配置するスタンダードから、



右翼、または左翼に戦力を集中させる、



一点突破陣形まで



戦いが始まる前から『読み』と『戦略』が求められるのが



『盤兵遊』というボードゲームである。





『スタッフ』という腕章をつけた孤児が、



中央の仕切り板を取り外す。



すると、そこに現れたのは・・・。





「ああーーーっと! これは!? なんと両者とも、


全く同じ駒の配置が現れたァァーーー!!」





エーリッタとユーライカがステージのボードに



駒の配置を並べると、両者とも完全に同じ配置が



現れたのである。





「どうですか? 解説のギブルスさん」





「これは・・・驚きの一言に尽きるのう。


サンドウィッチ伯爵の相手は、


イチかバチかの左翼一点突破陣形。


しかし対するサンドウィッチ伯爵も


右翼に戦力を集中配置。


しかも、1つ1つの駒の配置まで、完璧に同じ、鏡写しじゃ! 


相手の考え、行動を読み切っていることを


意味しておる!!」





サンドウィッチ伯爵はニヤニヤと笑うと、



額に汗の浮いた対戦相手に語りかけた。





「ん? どうしたのかね? 大会は無礼講だ。


そして盤兵遊のゲームでは身分は関係ないぞ?


そうだ、ついでに先手も譲ってやろう。


コイントスは必要ない。さあ始めたまえよ。


君の左翼一点突破の考えは悪くない。


実力差があっても、


一気に敵陣へ切り込むことができれば、


押し切ることも可能だよ」





ゲームスタート。






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