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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 5
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イベントだ! 2


幸太郎は大会の開始を宣言する。



まずは予選から。思いのほか参加者が増えてしまった結果だ。





「ふふふ・・・では、行ってくるとしようか」





サンドウィッチ伯爵が悠然と席を立つ。





「相手は一般市民だ。卿の相手にはなるまい。


少しは手加減してやりたまえよ」





グリーン辺境伯が微笑んで応援(?)した。





「手加減? この『盤兵遊』で私と戦うのであれば、


相手が誰であろうと全力で叩き斬るのみだよ。


私と当たった者は自分の不運を嘆くしかなかろう。


わっはっはっは!」





サンドウィッチ伯爵が執事を伴い、貴賓席を降りていく。



今大会で最強と目されている男である。





元の地球ではカードゲーム好き、



そしてパンにハムや野菜を挟んだ軽食



『サンドイッチ』の名前の由来として名を残している伯爵だが、



この世界のサンドウィッチ伯爵は



ボードゲームの『盤兵遊』の達人、愛好家として



有名であった。この世界の『棋譜』はこの人物の発明。





ただ実は、本人は昨日、グリーン辺境伯の屋敷まで



やってきておきながら、突如参加を渋りだすという



思いもよらぬ反応をしていた。



これに関しては幸太郎どころか、ギブルスも全くの予想外。



連絡を受けたギブルスはグリーン辺境伯の屋敷に出向き、



説得をすることになった。





ただし、苦労はしていない。





サンドウィッチ伯爵が参加を渋っていた理由は、



『相手が弱そうな市民ばかり』だとわかったこと。



自分が勝つのは当然だし、退屈な勝負が続きそうな上、



勝ってもなんの自慢にもならないのが明白だったためだ。





『子供を倒して誇る騎士がいるか?』





そんなことを言いながらため息をついていたという。





そんなサンドウィッチ伯爵を前に、



まずギブルスは耳寄りな情報を教えた。





「伯爵様、実はこの大会にB級冒険者の


グレゴリオという者が参加することになっております。


彼はイーナバース自由国連合の出身で、


かなりの使い手とか。今大会の優勝候補であり、


伯爵様を倒せる可能性のある1人でございます。


勝ち進めば、必ず棋盤を挟んで対峙する時がくるでしょう」





サンドウィッチ伯爵は平然とした表情を崩さないが、



鼻の穴が『ぷくっ』と膨らんだ。



『面白そうだ』と感じたのだろう。





「ほ・・・ほほう? イーナバース出身の使い手とな?


ふう~~~ん、イーナバースでは、


どんな戦術が主流となっているのであろうな。


まあ・・・『世界最強』の吾輩の


敵ではあるまいがな」





自分で『世界最強』と口にした。



イーナバースの強者と戦えるというのは、



大いにプライドを刺激したようだ。



交通手段の限られるこの世界では



滅多に出会える相手ではない。戦ってみたいのだろう。





さらにギブルスは『マジックボックス』から



本カヤ製の足付き将棋盤とツゲの木で作った駒を



テーブルに並べた。



盤兵遊も将棋も、どちらも9×9マスなので



見た目は全く同じ。もちろん幸太郎が元の地球で見た



デザインを元に作ってある。



カヤは成長が遅く、日本ではレアな木になっているし、



加工には本来時間がかかるが、ドライアードがいれば



何も問題は無い。植物と菌に関しては『何でもあり』だ。



あっという間に芽は大木になるし、



切断、乾燥、加工もドライアードには造作も無い。



あとは家具屋が仕上げた。





サンドウィッチ伯爵の目の色が変わった。





「これは・・・美しい棋盤だな。足付きとは変わった


デザインだが、光沢、香り、見事な逸品だ」





「これはローテーブルに載せて使うタイプの棋盤です。


あえてローテーブルに載せて使用することにより、


周囲の空間と隔絶し、より一層、勝負に没頭できるのです。


棋盤はカヤの木、駒はツゲを使用しております。


しかも、これはアルカ大森林の3人の


ドライアード様の手により作られたもの。


この世おいて、唯一無二の品でございます。


どうぞ、1駒打ってみてください」





「む・・・。良い駒だな。どれ・・・」





パシッ!





その瞬間、サンドウィッチ伯爵の体がブルッと震えた。





「こいつは・・・なんという良い音! そしてこの


打ち応えは・・・素晴らしい!」





「そうでございましょう。かつて、はるか南方の商人から


『最高級の棋盤』というものを聞きまして、


その情報を元に作成いたしました。


これが今大会の優勝賞品となっております。


どうぞ、棋盤の裏をご覧ください。


ドライアード様たちからの祝福の言葉が彫り込んであります」





「ドライアードたちの・・・?」





サンドウィッチ伯爵が棋盤をひっくり返して裏を見ると、



確かに文字が焼印の如く彫り込んである。



そこにはこんな文章があった。





『第一回、盤兵遊世界大会優勝記念


汝の比類なき強さをここに称える。


もはや、汝と互角に戦える者は、神をおいて他になし』





この文章を見たサンドウィッチ伯爵は鼻息が荒くなり、



頬が上気して赤みを帯びた。



『第一回』『世界大会』そして『神をおいて他になし』など、



サンドウィッチ伯爵のプライドをくすぐる文句が



並んでいたからだ。





ギブルスはにっこり笑って止めを刺した。





「これは後世、末代まで続く『誉れ』となるでしょう。


いかがですか? これをどこの誰とも知らぬ凡百に


渡してもよろしいのですか? 同じ時代に


サンドウィッチ伯爵がおられたというのに?


後世の者たちはどんな評価をするでしょう?」





「ふ・・・ふっふ、ふはははは、わっはっはっはっは!!


まあ・・・何やら大層な言葉が刻まれておるではないか。


確かに、これをどこの誰ともわからぬ有象無象に渡すなど、


到底、看過できぬ。


・・・絶対にだ。


よかろう、こんな小さな大会で市民相手に本気を出すなど


大人げないと言われるかもしれんが・・・


出場しようではないか。


私の強さに恐れおののいて、対戦相手が逃げださぬと良いがな!」





「油断は禁物だぞ? サンドウィッチ伯爵」





グリーン辺境伯がニヤリと笑う。



そしてサンドウィッチ伯爵はドアのそばに



立っていた初老の男に声をかけた。





「サミュエル! 馬車の中に戻した棋譜のファイルを全て


部屋の中へもう一度入れろ!」





「かしこまりました。旦那様」





サミュエルとはサンドウィッチ伯爵の執事の名前だ。





「今から『検討』をする。


グリーン辺境伯、すまんが夕食まで部屋にこもる。


不作法だが、許してほしい」





「ああ、いいとも。存分にやりたまえ。


夕食の支度ができたら部屋に呼びに行かせる。


私としても卿が負けるところなど


見たくないのでな」





「ふっふっふ、私を誰だと思っているのだね?


グリーン辺境伯。


・・・私こそが世界最強なのだよ」





サンドウィッチ伯爵の目に炎が灯った。





ここでギブルスがサンドウィッチ伯爵に1つ願い事をした。



イベントに出す屋台で軽食にサンドウィッチ伯爵の名を



冠したいと許可を求めたのだ。そう、もちろん、



幸太郎が元の地球で『サンドイッチ』という軽食の名前の



由来をギブルスたちに話したせいだ。





元の地球では『カードゲームをしながら食べれる軽食』だったが、



こっちの地球では『盤兵遊をしながら食べれる軽食』として



売り出すことになった。





サンドウィッチ伯爵は笑って快諾した。



実際に時々パンに野菜や肉を挟んだものを食べながら



対局していたことがあったからだ。



貴族としては少々不作法だが、



自分の名前が後世に残るということが



面白いと思ったのだろう。





サンドウィッチ伯爵の闘争心に火がついた。



果たして伯爵を止められる者がいるだろうか?



この男は『盤兵遊』に関しては、狂気の男なのだ。






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