イベントだ!
イベント当日。天気もいい。準備は万端。
あとはグリーン辺境伯たちと、ファルネーゼ辺境伯、
サンドウィッチ伯爵、ライトハイザー子爵夫人、
そしてリヴィングストン侯爵の入場を待つだけだ。
午前9時。執事のフランクが先導し、日よけテントのある貴賓席へ
グリーン辺境伯たちが着席した。
ファルネーゼ辺境伯とエメラルド嬢は仲良く並んで座っている。
楽しそうだ。母親を失ったエメラルド嬢が久々に
明るく笑う姿にグリーン辺境伯とフランクはホッとした。
貴賓席の警護には武装した騎士たちの他に
ブランケンハイム、ヴィンフリート、
シャオレイたちがいる。
さらにファルネーゼ辺境伯の雇った
ジャンジャックとグレゴリオがいた。
まあ、戦って勝てるようなメンツではない。
100人で襲えば100体の屍が誕生するだけだろう。
幸太郎は貴族の仮面舞踏会で使うような、
わかりやすく言えば
タキシード仮面のようなマスクを着けて
司会をやっている。
サポートはエーリッタとユーライカ。
幸太郎はこの日のためにギブルスへ『背広』を発注。
モコを助ける時にボロボロになった背広を見せて、
同じデザインのものを仕立ててもらった。
もちろんナイロンなど無いので綿と毛糸だ。
ついでにワイシャツとネクタイも。
腕に『司会』の腕章をつけて出来上がり。
エーリッタとユーライカは会場の花ということで
ちょっとセクシーな、へそだしミニスカ衣装にする。
元の地球なら『女を売り物にしている』と
非難が殺到するかもしれないが、
男が喜ぶから戦略として正しい。
男の性欲は経済をブン回すのだ。
インターネットの黎明期。突如急速に普及した
理由の1つは、エロ画像目当てのおっさんども。
へそだしミニスカエルフに『スタッフ』の腕章をつけて完成。
モコ、エンリイ、クラリッサ、アーデルハイドは
会場の警備にあたってもらっている。なにしろ
『相手は孤児だ』とナメてかかって
商品をドロボーする輩が現れないとも限らない。
速やかに撲殺、(ゲホンゲフン)、
もとい、捕縛しなくては。こちらは『警備』という
腕章をつけてある。
孤児たちはバザーの売り子と大会のサポートなので
『スタッフ』という腕章をつけてもらった。
ルーク、イサーク、ヨサーク、タゴーサクも
『スタッフ』という腕章。
子供たちを助ける何でも屋だ。
これで一般人と差別化できるだろう。
幸太郎がグリーン辺境伯に拡声器を渡し、
イベント開始の挨拶をしてもらった。
といっても、本当に短い挨拶だ。
『今日は孤児院を建て直すための資金を集める催し物だ。
助けると思って買ってやってくれ。
それに大会、さらに競売など見どころも多い。
私も楽しませてもらおう。
ぜひ皆も楽しんでもらいたい。
では、始めよう!』
たったそれだけだ。余計な言葉は不要と思ったのだろう。
なお、拡声器はダークエルフの村で
クロブー長老が持ってた物と同じものを
バーバ・ヤーガとエドガン、ヒガンに
作ってもらった。木製の拡声器は大部分のパーツを
ドライアードたちが作ったので、短時間で完成だ。
イベント開始!
子供たちのチャリティバザーは意外とにぎわっている。
廃品回収で、多くの店舗が物資を提供してくれたおかげだ。
クラリッサとアーデルハイドの指導で衣服などは
かわいく修理できていて、主婦たちに好評。
他にも修理した鍋や靴もバンバン売れていく。
なにせ『安い』からだ。
ただ、客が驚いたのはそっちではない。
孤児院の子供たちの計算の速さ。そして言葉遣い。
幸太郎の作戦の『本当の目的』の1つはこれである。
子供たちに計算と敬語を憶えさせて、
『有用な人材』だとアピールすることだ。
うまく噂になれば『うちで雇いたい』という店が
現れるかもしれない。
そうでなくとも、商売の経験があれば、
孤児たちが新しい店を開く可能性にもつながる。
幸太郎が孤児院を建て直す費用を出すのは容易い。
だが、それでは『一回で終わり』なのだ。
『次』に繋がらない。
他に困ったことが起きた時に
自分たちで稼ぐ方法を知らなければ、
また誰かに頼るしかないだろう。
『自分たちで運命を変える力』
幸太郎が孤児たちに贈りたいのは金ではなく、
自分たちの腕で未来を掴み、手繰り寄せる力だ。
幸太郎がダンジョンから持ち帰った武器や防具は
簡易競売にしてある。
もちろん、幸太郎の名前では箔が付かないので、
B級冒険者のジャンジャックとグレゴリオが
ダンジョンから持ち帰って、
ギブルスに預けていたものという
嘘の設定を孤児たちに説明させた。
競売の武器や防具には、こんな説明の札が
貼りつけられている。
『大会の予選が終わるまでに、この紙に名前と金額を
書いて下さい。一番高い値をつけた人に売ります』
これは幸太郎が『HUNTER X HUNTER』の
ヨークシン編で見た競売を参考・・・というか
システムをパクッているのだ。
最初は全然客がついてなかったが、次第に様子が変わる。
『おい、これって、まさか・・・』
『トライクロスの紋章・・・。この剣、もしかして
カーネリアス騎士団の・・・?』
『でも、カーネリアス騎士団って、もう100年くらい
昔に英雄王と戦って国自体が滅んだはず・・・』
『いや、ダンジョン内から持ち帰ったってんなら・・・』
『ほ、本物かよ!?』
『お、おれ、紙に書いとこ。えーと、金貨5枚、で、どうだ』
『どいて下さい。これはウチで買い取ります。
金貨20枚!』
『ちょっと待った! こいつは一級品だぜ。
俺が買おう。金貨22枚だ!』
『では、私は金貨25枚!!』
『はっはっは。これは骨董品、美術品としても
非常に価値が高いシロモノですよ。価値の分かる者が
手にするべきです。金貨50枚出しましょう』
コネルトがでっぷりした体を揺らしながら姿を見せた。
正直、コネルトは孤児院再建のための
バザーの話を聞いた時は小馬鹿にしていた。
廃品回収した物を修理して売るなど、
果たしていくらになるというのか。
何百年がんばっても
再建の費用には届くはずもないと。
『どうせゴミを修理しただけのガラクタ市よ』
しかし・・・B級冒険者によるダンジョン内から
持ち帰った武器、防具の出品という隠し玉。
まさかこんな掘り出し物が並んでいるとは
思ってもいなかった。
自分の使用人が息を切らせて報告に来た時は
耳を疑ってしまったほど。
だが、見かけた以上、
商売人として黙って指をくわえている
わけにはいかない。
目の前を『お宝』がただ通り過ぎて
他人の手に渡るのを見ているだけなど、許せないのだ。
今までの態度? さあ記憶にありませんが?
『お客様、競売に参加するのでしたら、こちらの紙に
ご記入をお願いします』
まだ10歳にも満たないだろう孤児が、
丁寧にシステムを説明する。
コネルトはその言葉遣いにも驚いた。
そして完全に今までとは見る目を変えた。
手のひら返しだろうが何だろうが、売り手がちゃんと
読み書き計算ができて、言葉遣いもできるのであれば
『侮っていい相手ではない』と認識する。
相手が子供でも、だ。それが商売人というもの。
ただ、やはりと言うか、相手が孤児だとトラブルも発生した。
『おい! これは俺が買うって言ってんだ!!
この盾を今すぐ売れってんだよ!
わからんか、このガキ!!』
相手が子供、孤児だと上から目線で
圧力をかけてくる客が現れるのは当然とも言える。
特に冒険者たちは敬語も使えないバカが多い。
だが、幸太郎の想定内でしかない。
『ガシャッ』と甲冑の音を鳴らしながら、
警備の騎士が孤児たちの背後に現れて
『ジロリ』と睨む。
ただそれだけでトラブルは収まった。
言葉で言ってもわからないだろうが、
武力や権威なら1秒で相手に伝わるのだ。
説得は相手が理解できるレベルの話をしないと意味が無い。
幸太郎がフランクに依頼して手配してもらっていたのだ。
そして、『警備』の腕章をつけたモコたちが速やかに捕縛。
捕縛した愚か者たちは、
『キャサリン支部長の個室』へ放り込む。
キャサリン支部長自らが1対1で説得してくれる。
セクスィーなパンツ一枚で、舌なめずりする
キャサリン支部長と縛られたまま個室で缶詰。
ナムアミダブツ。
この事が知れ渡ると、孤児たちに詰め寄る者は皆無となった。
解放された者が泣きながら逃げてゆくのを
目の当たりにしたせいである。




