イベントの準備をしよう 9
「はっはっは。ギブルスさんは大金持ちですからなぁ。
たまにはこうやって散財しないとお金が腐って
しまうのでしょう。孤児たちも喜ぶでしょうし、
良い事ではありませんか」
コネルトが笑った。別にギブルスに対して
敵意を持ってるわけではない。
単純に『物好きな爺さんだ』と思ってるだけ。
ただ・・・1人、ちらっとギブルスの様子を伺っている
女性がいた。
彼女の名は『ジュディス』。職業は金融業。
ありていに言えば『金貸し』と『手形交換所』。
・・・銀行と言った方がわかりやすいか。
ジュディスは金融業をやっていた夫を早くに亡くし、
以後、後を継いだ未亡人である。
誰もが彼女には無理だと思っていたのだが、
周囲の予想に反して商売は軌道に乗り、
夫が生きていた頃以上の成功を収めていた。
2人の息子を育てるため、必死で勉強した結果だ。
今ではさらに大勢の部下を抱え、他の町に支店を持つ
大企業にまで成長している。単純な資産でいうなら
ギブルスをもしのぐだろう。
彼女の成功は努力と勉強の結果。それは万人が認めるところ。
ただ、彼女には1つ、特殊能力が備わっていた。
それはスキルや魔法ではなく・・・『勘』である。
そのジュディスがギブルスを見ながら思ったことは・・・。
(・・・カネの匂いがする・・・)
これだ。これがジュディスの特殊能力。
なぜか相手の持ってきた話が『儲かるか』
『見かけだおしか』が、匂いで嗅ぎとれた。
どんなに見栄えのいい人物が、
どんなにいい条件と思われる話を持ってきても、
『ハズレ』の匂いがすれば、即座に断っている。
その勘は今のところ、外れたことがない。
だからこそ、今、ジュディスは混乱していた。
(カネの匂いがするねぇ・・・。でも・・・。
孤児院を建て直す協力って、寄付みたいなモンじゃないの?
金がでていくばかりで、儲かるはずはないのにさ・・・。
儲かるとは思えないのに、あたしの勘は
『儲かる匂いがする。参加しろ』って断言してる。
なんで??? 意味がわからない。理屈に合わない・・・)
ただし、彼女の結論は決まっている。
彼女の経営者としての決断力には
目を見張るものがあった。
女だと思って甘く見ると痛い目に遭うタイプ。
(あとでギブルスさんに頼んで一枚噛ませてもらうと
しようかねぇ・・・。何をする気か知らないけど、
儲け話は2人で独占するべきよ。
知ってる人は少なければ少ない程いい・・・ふふふ)
ここでジュディスは打算で会議を終わらせることにした。
「みんな、あとはいい? 議題や提案のある人は?
・・・そう、もういいのね。
じゃあ議長、もうこの辺でいいんじゃない?
そろそろお開きにしましょうよ」
この誘導が決定打となり、今回の定例議会は終了となった。
つまり、『孤児院再建計画』は
ギブルスが全権を握ることが決定したのだ。
もう商人ギルドは一切口出しできない。
正式に議会に提案されて、賛成する人は皆無だったから。
口出しする人もいない。・・・ジュディスを除いて。
全てギブルスの思惑通りだ。
これで幸太郎とギブルスの計画を邪魔できる者はいなくなった。
商人ギルドの建物から外へ出ると、
ジュディスは周囲を見回してから
ギブルスに近づき、声をかけた。
「お疲れ様、ギブルスさん。とうとう魔物が戻ってきたわね。
これからは私の手形運搬部隊も護衛を増やす必要が・・・」
だが、ギブルスはニヤリと笑うと本題へ入った。
「ひっひっひ、そんな回りくどい話から入らんでもええ。
孤児院再建計画に参加したいんじゃろ?
カネの匂いがぷんぷん漂ってくるというところかの」
「お見通し、か。さすが。あなただけはホントに
敵に回したくないわね」
そうだ、ギブルスはジュディスだけは参加を希望すると
『読んで』いた。全て予想通りだ。
そして、この孤児院再建計画にはジュディスの協力が欲しいと
ギブルス自身も思っていた。その方がスムーズに
事が運ぶだろうから。
「こちらとしても、お前さんの協力は欲しいと
思っておった所じゃて。なにせ・・・
『大金』が動くのでな。
お前さんは手腕もいいし、口も堅い。
協力者としては、まさにうってつけじゃ。ひっひっひ」
「『大金』・・・。やっぱりね。
正直、何がどう儲かるのか
全然わからないんだけど、『いい話』の匂いが
ぷんぷん匂っていたからさ。
さっきのは、商人ギルドの
干渉を排除するためなんでしょ?
誰も気付いていなかったけど、
あれで後から参加したいって人は
ギブルスさんを通すしかなくなったわけだし、
『独占』ってことよね。
もちろん、協力するけど、山分けなんて言わないわ。
そっちの取り分が多くていいわよ」
この辺りがジュディスが並みの商人でないことの証明だ。
「心配せんでも、お前さんはたっぷり儲かるぞ?
近年、一回の商売で、これほど儲かるのは
記憶にないってほどにのう」
「あら? そそる言い回しね。じゃあ、早速、
計画を聞かせてくれないかしら・・・?」
「うむ、お前さんの出番は競売が終わってからじゃよ。
計画を聞かせよう・・・」
2人は近くにあるギブルスの服飾店に入って行った。




