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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 5
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イベントの準備をしよう 3


「そういえば、グリーン辺境伯様、『水面の鏡』は


見つかったのですか?」





だが、グリーン辺境伯が口を開く前に、その表情が



『空振りに終わった』と語っていた。





「いや、残念だが見つかっていない。実は、こちらが


進軍する前に、ピシェール男爵の騎士団長から


交渉が持ちかけられてな。その時、こちらの要求として


『水面の鏡』の捜索も条件に出したのだ。


見た目は何の変哲もない、ただの鏡だということで、


それらしい大きさの鏡は全て提出してもらった。


そして現地でピシェール男爵に『支配』の魔法をかけて


本物がどれだか確認させたのだが・・・。


彼は『全部違う』と言い切った」





「誰かが持ち去った、ということですね」





「そうとしか思えん。だが、そうなると、


その持ち去った人物は、


ピシェール男爵の『乗っ取り計画』が失敗に終わることを


予見していたことになる。


当然だが、ピシェール男爵は


『水面の鏡』を隠していた。彼自身が、そう証言している。


ところが、その場所は空っぽ。何もなかった。


ピシェール男爵と執事、ヘルマン医師しか本物を知らず、


他人が見てもただの鏡。


にも関わらず、隠し場所にない」





「しかし、かと言って、その謎の行商人がピシェール男爵の


屋敷に無断で入り込んで家探しすることも不可能・・・」





「そうだ。これは、その行商人が『人間ではない』可能性を


示唆している」





「そうですね。その行商人は悪魔の変身した姿。


『水面の鏡』は悪魔の持ち物だったと考えれば、


辻褄は合う気がします。


なにせ、『水面の鏡』の能力は、


あまりにも悪趣味ですからね」





(やはり、そのピシェール男爵をそそのかした行商人は


オーガスさんかな)





幸太郎は『鏡と行商人は見つからないだろう』という予想が



大当たりだったことが、残念だった。



こんな予想は当たってもうれしくない。





「では、グリーン辺境伯が


たった4日でお戻りになられたのは、


実質、鏡の捜索だけだったのですね」





「まあ・・・そんなところだ。リヴィングストン侯爵とも


話はついていたのでな。


実際に進軍して戦闘がなければ、


ピシェール男爵領はリヴィングストン侯爵に預けるという


話になっていたのだよ」





実際に何があったのかは、さすがに幸太郎にも



教えるわけにはいかない。








本当の話はこうだ。








ピシェール男爵の計画が幸太郎に打ち砕かれたあと、



当然中央政府から『反乱』認定され、鎮圧に



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵があたることになった。



当初、ピシェール男爵の息子たちは、



徹底抗戦するつもりだった。



捕まれば国家への反逆の罪で



どのみち処刑されるのだから。



バルド王国へ逃げてもジャンバ王国に送還されるだけ。



バルド王国にとって息子たちの存在は、



ほとんど何のメリットもないからだ。むしろ邪魔。



特に政治に疎いファルネーゼには、厄介者でしかないのだ。



現在エルロー辺境伯の軍は残っているが、



騎士団の大半が爵位を捨てて逃げ出しているため、



建て直しを図っている最中。



他国の反逆者が亡命してきても



望まぬ戦争の火種になるだけ。



反逆者を捕えて、速やかにグリーン辺境伯に引き渡し



貸しを作る以外に使い道はないだろう。



だからといって、アルカ大森林に逃げる意味も無い。



ドライアードの気分次第で森の外へ放り出されるか、



その場で殺される。



そしてドライアードが、かばってくれる可能性はゼロ。



ただ、ピシェール男爵の計画を知っていたのは



長男と次男だけで、



3男と、まだ9歳の4男は何も知らされていなかった。





この時、『徹底抗戦だ!』と命じられた騎士団長ボーマンは



目の前が真っ暗になった。



初めて『辺境伯家乗っ取り計画』のことを



知らされたからだ。



『なんという愚かなことを!』『ともに戦った戦友なのに』



『コンスタン様は気が狂ってしまわれた』



『これでは、先代のシャルル様にあわせる顔がない』



ボーマンは即座に覚悟を決めた。騎士の誇りにかけて。





『これではピシェール男爵家の血筋は途絶えてしまう。


反乱扱いとなった以上、咎は親類にも及ぶだろう。


・・・私がやるしかない・・・』





この時、ボーマンには外からの情報は入ってこなかったが、



すでに首都に住んでいたコンスタン・ピシェールの弟たちや



叔父などは捕えられていた。



そして、即座に首を落とされている。



反乱を起こした者を生かしておくわけにはいかない。



他家に嫁いだ女性たちだけは



一応見逃してもらえることになった。



だが、それ以外の男たちは皆殺しだ。



そもそも家族も国家も戦友も裏切ったやつらの



何を、どう信用しろというのか。



貴族である以上、自分に非が無くとも



責は負わなくてはならない。



『私は何も知らない!』と叫んだところで、



そんな理屈は貴族社会には通るはずもない。



ピシェール男爵の血筋に生まれたということ自体が



死刑の理由。



もはや生きてること自体が後々の禍の種とみなされている。





ボーマンは副官はじめ、数人の信頼できる部下と相談をした。



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵相手に



戦おうというのではない。



なんとか3男と4男だけでも救えないか、という話だ。



戦争をしたところで、勝ち目などあるはずがない。



援軍だって期待できない。



いったい誰が『裏切り者』の味方をするというのか? 



信用は全て失ったのだ。



全滅はすでに決定している。





ボーマンは密かに信頼できる部下を密使として



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵に送った。



そして、グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵も



極秘で直接会って会談を開く。





この2人にしても、本音では



ピシェール男爵家を潰したくなんかない。



先代のシャルル・ピシェール男爵は



共にバルド王国相手に戦った戦友。



そして、幾度も苦しい場面で助けてもらった恩がある。



このままでは、あの世でシャルル男爵に



あわせる顔がないのだ。



『甘い』と言われれば反論はできないが、



人間である以上、



感情抜きで行動できる人など存在しない。



理性だって感情の1つに過ぎないのだから。





そして、この両名は恐るべき決断を下した。





『4男のロンだけでも助ける』というものだ。



もちろん、バレれば、いくら辺境伯と侯爵といえど



タダではすまない。



最悪、反乱の兆しありとみなされるかもしれないのだ。



だが、それでもなお、シャルルという『戦友』の孫を



救いたかった。





3男を助けるのは無理だ。



3男のカールはもう14歳だった。



未成年なので社交界にデビューしているわけではないが、



すでに何度か父親について



首都ヨッカイドウに行ったことがある。



つまり、もう他の貴族や執事などに顔を憶えられている



可能性が高いということだ。



しかし、4男のロンは、まだ9歳ということで



男爵領から外へ出たことはない。顔を知っているのは



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵と、



その執事など高位の部下だけだろう。



それにまだ9歳のロンはかくまっているうちに背が伸び、



顔つきも変わってくる。



髪形を変え、体を鍛え、ひげも伸ばせば、



見破られる可能性は激減する。



ロンを知っている者がいたとしても、



それは『9歳の子供』の時の顔なのだから。





最大の難関は『身代わりを用意する』ことだった。



反乱扱いとなった以上、



首検分として、コンスタン・ピシェール以下、



4人の息子たちと3人の妻、親族の首をヨッカイドウへ



送らなくてはならない。



『確実に討ち取った』という証拠だ。



ロンの首の代わりは、同じ年頃で同じような背格好の



子供の死体を探す必要がある。





この世界は人類の天敵が存在するため、



全ての町や村は防壁で囲われている。



小さな村でも丸太の防壁が必要だ。



この世界であまり人口が増えない理由の1つでもある。



つまり、仮にどこかの町で子供を誘拐すると



『突然行方不明』になった



ということで捜索され町の中に噂が広まるのだ。



『外で迷子になった』というパターンが存在しない世界。



ロンの身代わりは万が一にも疑われるわけにはいかない。



ロンと同じ年頃の子供が急に行方不明になったなどと



噂が立つ事すら避けたい。



『もしや、あの首は身代わりでは?』



という疑念を持たれてはならない。絶対にだ。





グリーン辺境伯領とリヴィングストン侯爵領で



極秘に身代わりの死体探しを行った。



『変わった病気が流行っているらしいというが本当か?』



という名目で、あちこちの町や村へ人を送る。



もちろん信用できる人物を少人数で。



この身代わり探しのことは、



知ってる人は少なければ少ないほどいい。



そして、教会の墓地へ行き、



『病気による死人は増えているか?』と質問し、



同じ年頃の子供が死んでいるか確認する。



そして、同じ年頃の子供が死んでいるとわかれば、



『噂の病気かどうか確認したい。顔と体に赤い斑点があるはず』と



墓を掘り返すのだ。





大急ぎで探したいが、慌ててるように見えてはならない。



『別に病気など大したことではないだろう』という



余裕のフリを装う。少人数なのがもどかしい。



気が急く。



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵が



『戦争の準備』を引き伸ばし、必死で時間稼ぎ



しているのだから。





そして、リヴィングストン侯爵領で、ついに見つけた。



同じ年頃で、同じような背格好、



輪郭も似ている子供の死体を。



これなら髪を整え、死に化粧を施せば



貴族らしく見えるだろう。





夜に、もう一度その墓を掘り返す。



すでに昼間掘り返しているので、



もう一度掘り返しても、翌日に異変は気づかれないだろう。



子供の死体に向かって手を合わせる。



『申し訳ない。どうか、君の力を貸してほしい。



我らを助けてくれ』



そして死体の首を切り落とし、



『マジックボックス』に収めた。



これで腐らない。





なんとかロンの身代わりは用意できた。



間に合った。






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