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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 5
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イベントの準備をしよう


 幸太郎たちはカーレに戻ってきた。



まずは冒険者ギルドに顔を出す。ルイーズに



『帰りました。孤児院の再建計画の準備は順調です。



2週間後にイベントをやります』と伝えた。



別にいちいち報告する義務は無いのだが、



報告、連絡、相談は入れておくに越したことはない。



余計なトラブルが減る。








ルイーズも幸太郎たちがいない間の情報を教えてくれた。



幸太郎たちがいない間に、



カーレでも大きな動きがあったというのだ。



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵の連合軍が



ピシェール男爵領へ侵攻した件である。





もちろん、これ自体は驚くに値しない。



準備が進んでいるのは周知の事実だったし、



むしろ『なかなか始まらない』とすら



人々は思っていたくらいである。



そして『そろそろだ』という噂を



アルカ大森林に出発する前に聞いていたし、



アルカ大森林にいたときに『侵攻が始まった』という



噂は伝わってきていた。





幸太郎たちが驚いたのは、グリーン辺境伯たちが



『4日で帰ってきた』という点だ。



そう『たった』4日。



これでは往復する時間を考えれば、



男爵領では1日くらいしか



滞在していなかったということになる。



ほぼ『真っ直ぐ直進して』『とんぼ返り』で帰ってきたわけだ。



何もすることがなかった? そんなわけはない。



なにしろピシェール男爵は『反乱』扱いなのだから。





(つまり・・・グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵、


そして何よりピシェール男爵側の誰かと


綿密な協議のやりとりがあり、


『あとはシナリオ通りに引き金をひいて終わり』


という状態だったんだろう。


戦闘は無かったか、


または小競り合い程度で決着したってことか・・・。


ピシェール男爵の子供たちは降伏したんだな)





幸太郎の推測は間違っている。『降伏』したわけではない。



騎士団長が息子たちを討ち取ったからだ。



ただし、裏切ったというわけではなかった。



主へ刃を向けるという汚名を着てでも



守りたいものがあったからだ。





もちろん、ピシェール男爵領から帰ってきたのは



グリーン辺境伯とリヴィングストン侯爵だけであり、



それぞれの代理を任せた司政官と武官、



それに合計300人ほどの連合軍は現地に残っている。



一応、小さな戦闘はあったからだ。



治安維持のために、武力は無くてはならない。








ここで2階からキャサリン支部長が顔をだし、



幸太郎たち全員へ手招きした。



幸太郎たち7人はルイーズに手を振り、2階へあがる。





「お帰り、幸太郎ちゃん。アルカ大森林ではどうだった?


孤児院再建計画の準備は進んでる?」





キャサリン支部長はルイーズから



『幸太郎たちが孤児院の建て直しに協力するので、



しばらく留守にする』という話を聞いていた。





「ええ、とりあえず必要と思われるものは、


全て揃いました。アルカ大森林のみんなのおかげですよ。


2週間後のイベントにはキャサリン支部長も


協力してほしいと思いまして・・・。


これ、『お土産』でございます。ぐふふ・・・」





幸太郎は邪悪な笑みを浮かべた。





「あら? この壺の中身は・・・?」





幸太郎は『それ』が何であるかを説明した。





「本物!? これ、すっごいわね・・・。


ほんとにいいの?


・・・オーケー!


手を貸すわ。カーレ始まって以来の面白いことになりそうね。


うふふふ。


幸太郎ちゃんは話がわかるオトコねえ・・・」





キャサリン支部長の協力をとりつけた幸太郎は



さっきのピシェール男爵領への侵攻について聞いてみた。





「ああ・・・あの反乱の鎮圧に向かったはずなのに、


あっさり帰ってきたってやつ? 意外よね。


まあ、実は・・・ピシェール男爵の4人の息子は


とっくに死んでたのよ。侵攻が始まる前にね。


なんでも、騎士団長だった男が、息子たちを殺し、


その首と自分の首を差し出すので、


先代のシャルル様のお墓を


壊さないでほしいって申し出たそうなのよ。


騎士団や兵士たちにも戦わないように厳命するって言ってね」





「そうですか・・・。戦いが始まる前に、


鎮圧が達成されてしまったので、


大規模な戦争にはならなかったんですね」





「そう。侵攻の準備が急に縮小されたのは知ってるでしょ?


あの時にはもう、息子たち4人の首は確認済みだったみたい。


ただ、反乱扱いだったから、


一応、軍は鎮圧のために進軍したけどね。


騎士団長が軍と騎士団を抑えていたから、


戦闘らしい戦闘はなかったらしいわよ。


それで治安維持のための部隊だけ残して、


さっさと帰ってきたってわけ」





「よかった、と言うべきなんでしょうね・・・。


無駄な戦闘と、死者が少なかったんですから。


ピシェール男爵の計画を潰した身としては、


息子たちが処刑されるのはわかっていたことですが、


可哀そうな気がしないでもありません」





親の罪を子供が償うのは愚かしいことだと



幸太郎は思っている。



コンスタン・ピシェール男爵の計画に



加担していたというなら仕方ないだろうが、



長男、次男あたりはともかく、それより下の息子たちは



何も知らなかった可能性が高い。



しかし、これが貴族の家に生まれた者の宿命だ。



家族の者が犯した罪を家族全体で背負う。



『家名』というものが、生まれた時から呪縛のように



死ぬまで24時間、365日、



一瞬たりとも無くなることなく、



背中合わせについてまわる。



『休日』など生涯一度もありはしない。



自由な貴族など、ほとんどいないのだ。



どんなに自由に恋焦がれても、その願いが叶えられた者は



稀である。この世に生まれ落ちた瞬間から



誰かの責任を背負って生きるしかないのだ。



そして、その義務を果たさぬ貴族は短命だ。



だが、死んで肉体を失ったとき、彼らは本当の自由を



得ることになるだろう。





貴族の生活にあこがれるのは、凡人だけ。








ピシェール男爵領侵攻の話の後、



孤児院建て直しのイベントについて、



少し詳しい説明と打ち合わせをする。



すると、1階からルイーズがやってきて、



ノックのあと支部長室に入ってきた。





「あの・・・。シャオレイ様が、幸太郎さんに


話があるそうで、馬車でやってきました。


屋敷まで来てほしいそうですが・・・。


なんと返事したらいいでしょう?」





「シャオレイさんが?」





「幸太郎ちゃん、打ち合わせについては、また後で


やりましょう。行ってあげなさい。


レディを待たせちゃダメよ?」





「わかりました。では、また後で打ち合わせしましょう。


どのみち、グリーン辺境伯の許可が必要なので


ちょうどいい機会です」





一階におりると、ギルドの正面に



豪華な馬車が停まっているのが見えた。



シャオレイはギルド併設の食堂で椅子に腰かけて



幸太郎たちを待っている。





「こんにちは、幸太郎。アルカ大森林から帰ってきたのね。


待ってたわ。さっそくだけど、話を聞きたいから


屋敷まで来てくれるかしら?」





シャオレイは相変わらず美しい。食堂にいた男たちは



鼻の下を伸ばしているし、職員含めて女性たちは



憧れの目でシャオレイを見ていた。





シャオレイの『話を聞きたい』というセリフで、



幸太郎には『ぴん』とくる。





(あー・・・。これはカース・ファントムの件だな。


もう噂が広まっているのか・・・『念話』のせいで


大きな噂話は、ほんとにあっという間に広まるなあ・・・)





カース・ファントムと戦ったアルカ大森林の南端地域は、



ジャンバ王国よりも、ずっと南。



モーラルカ小国群の中に位置する。





幸太郎はエーリッタとユーライカ、



クラリッサとアーデルハイドに



孤児院の方を任せることにした。



頼れる仲間が増えると、安心だ。孤児院の方にも



話を通して、準備を進めなくてはならない。





幸太郎、モコ、エンリイ、シャオレイは馬車に乗り込む。



行先はグリーン辺境伯の屋敷である。








・・・そして、この光景を見ていたヤローどもは



血の涙を流し、歯ぎしりしながら幸太郎へ



呪いの念を送った。





『死ねぇぇぇぇっ!! 今すぐ、死ねっ!!


美女ばかりに囲まれて、あげくにシャオレイさんと


同じ馬車だと!? 神でも悪魔でもいい!


今すぐ、アイツを殺してくれええええ!!!』






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