大物を釣りたい 2
何の魚がヒットしたのかは全然わからないが、とにかく大物だ。
あの馬鹿でかい針と、豚肉のかたまりに食いつく時点で
並の魚ではないという証明。
「がんばれ! ひっぱれ!!」
「魚の力に無理に抵抗するなよ! 蔦が切れちまう!」
「なんとか岸まで寄せろ! それで勝ちだ!!」
悪ガキ3人組で、必死に魚と格闘。
10分もすると、幸太郎は汗だくだ。
ジャンジャックとグレゴリオはまだ余裕がある。
「ご主人様がんばってー!」
「幸太郎サン、湖に落ちないようにねー」
ギャラリーから声援が飛ぶ。ありがたい。
滝のような汗の幸太郎にはそれが力になる。
イネスやバーバ・ヤーガまでも応援してくれる。
あのクールな武装メイドたちまでも。
しかし、幸太郎には『やばい予感』がし始めていた。
ぜんっぜん魚が弱らないのだ。もう15分くらい経つ。
ジャンジャックとグレゴリオはともかく、幸太郎はくたくた。
そして、こうも暴れ回られると、いつ釣り針が外れるとも
わからない。蔦が切れないのはドライアードの魔力が注がれ続け、
強化されているせいだ。
おそらく魔力なしならワイヤーのハリスでなければ、
一発で噛み切られるか、引きちぎられる程の力強さが
伝わってくる。
「シンリン様! 『プランB』を!」
「わかった!」
シンリンがもう1本蔦を生やし、『釣り糸』を伝うように
水中に向かわせた。
「・・・手ごたえアリじゃ!!」
「さ、さすが、シンリン様! ジャンジャック、グレゴリオ殿、
いくぞ! 引っ張れー!」
魚の抵抗が急に弱まった。暴れる頻度が激減してゆく。
蔦を手繰り、どんどん岸へ寄せる。
「む! 見えてきたぞ!」
「シンリン様! お願いします!」
「・・・見えた! 捉えたぞ!」
シンリンの叫びと共に、水中から『巨大魚の入った水の玉』が
空中へ浮かび上がった。
「これはガンボア・パイクじゃ! でかい!」
ギブルスが驚くのも無理はない。このガンボア・パイクは
平均を優に超える全長7メートルはある大物だ。
さっき食べた2メートルのガンボア・オオナマズすら
捕食しそうな口の大きさ。
パイクはカマスに似た姿をしている。
ワニのような巨大な口には
ナイフのような大きな歯が何本も並んでいた。
幸太郎は大物が釣れた場合、
陸に引き揚げるのは難しいと判断して、あらかじめシンリンに
念力で引き揚げてほしいと頼んでいた。
ただし、『森の中ではないから視認できないと力が届かない』と
言われていた。
もちろん、近距離限定である。相手は水中だから。
それで、3人で引っ張っていたのだが、まるで弱る気配が無い。
もちろん、『そういうこともあろうかと』幸太郎は
策を練っていた。それが先ほどの『2本目の蔦』だ。
あれでいったい何をしていたのかというと・・・。
『ガンボア・パイクの鰓に絡めて引きちぎった』
無論、片側だけで、エラ全体ではない。しかし、
鰓をちぎられたガンボア・パイクは呼吸ができなくなってきた。
水中の酸素を十分に取り込めないのだ。
さらに動けば動くほど出血が激しくなる。
その結果、急激に弱ってきたというわけである。
「ははは、でっかいなあ・・・7メートルオーバーだな」
「見ろよ幸太郎。こいつの鱗はまるで鎧だぜ?」
「凄まじい歯だな・・・。水に落ちた生物なら、コイツは
人間でも喰うだろう。サメのようだ。」
銀色に光る鱗。人間3人分よりでかい巨体。
鋭く大きな歯。まるで怪獣である。
その周りで悪ガキ3人組は踊り狂って大喜びだ。
男なんてこんなもん。
幸太郎はさっそく鉈で鰓の上部に切り込みを入れ、
背骨の下の血管を切る。、尾びれの付け根あたりにも
切り込みを入れ、鰓から口へロープを通して湖へ浮かべた。
これは血抜きをしているのだ。
いわゆる『活け締め』というやつ。
これで美味しく食べられる。
幸太郎たちはさらに追加を狙った。
今度はガンボア・オオナマズが欲しい。
パイクの血の匂いに惹かれてきたのか、またも
エサの投入と同時にヒット。
今度は、すぐに引き上げる。
もう人力では時間がかかりすぎるのが
わかったし、バラす危険も高いので、
最初からシンリンに頼んで、即、魚の鰓を引きちぎってもらった。
「そーれ! そーれ!」
どんどん魚を手繰り寄せる。
「うっひょー!」
「今度はガンボア・オオナマズだぜ!」
「こいつもでかい! 7メートル近くあるぞ!」
広大なガンボア湖の2大肉食魚が両方釣れた。
しかも平均をはるかに上回る・・・いや極大サイズだろう。
感無量だ。
まあ、『釣った』と言っていいのかどうかはわからない。
実質シンリンが釣ったようなものだから。釣り針はともかく、
ドライアードの力で強化した蔦がなくては、長さも足らず、
あっという間に噛み切られていただろうし、
『鰓を引きちぎる』という作戦がなければ、
魚が弱るまでに夜明けが来ていたはずだ。
だが、悪ガキ3人組は、そんなこと気にする様子も無い。
大喜びで踊り狂っている。
ウンバラハラヒレ、ウンバラヒロヘル
『もう1匹』ということで、最後に4メートルクラスの
ガンボア・オオナマズを釣り上げた。
ここで満足して納竿。・・・いや、竿は使ってない。
明日の朝、ガンボア・パイクを実食してみることにした。
入れ食いだったが、これは全然誰も2大怪魚を釣らない、
いや、『釣れない』せいで、スレてないせいだろう。
船の網にかかると、時々船が転覆して
死人がでるほどの怪魚である。
漁師たちは網の感触から、場合によっては網を切ったり、
放棄せざるを得ないほど。
当然市場にはめったに出回らない。
日本のアングラーたちは、この世界へ転移する方法を
模索するかもしれない。
海でも川でも湖でもバンバン釣れるから。
おそらくダイワやシマノ、オーナー、がまかつなどの
日本のメーカーの釣り具は『神器』として祭り上げられるはずだ。
持ち主は『釣りの神』として石像が立つことになる。
釣り人のパラダイス。さあ、死んだらこの世界へ転生だ。
墓前には竿とリールをお供えしてもらう必要がある。
まあ・・・命の危険もあるけど・・・。
翌朝。
またもクラリッサ、アーデルハイド、ポメラ、モコで
ガンボア・パイクを解体。鱗は頑丈で美しく銀色に輝いている。
ギブルスが『アクセサリーの材料として売れる』というので、
みんなで鱗を取り外し、干してから、
『マジックボックス』に収納しておく。
この鱗は7メートルクラスの『超大型』だから
素材として一級品とのこと。確かに銀色の鱗なのに、
光の反射加減で虹色に柔らかく輝くように見える時がある。
これは金属では絶対に不可能だろう。
宝石と相性が良さそうだ。
いい値で売れるなら孤児院の再建計画に使えそうである。
切り分けたガンボア・パイクの肉は、モコたちが買ってきた
鍋や壺に入れて『マジックボックス』に収納。
一部をさっそく実食だ。
もちろん小狼族の村人にもふるまった。
「これもウマイ!」
「おいしいですね、ご主人様!」
「昨日、苦労した甲斐があったってもんだぜ」
ガンボア・パイクは白身で上品だが、少し脂のある濃厚な味わい。
だが、後味もさっぱりしている。
村の人たちにも大好評だ。チワも口いっぱいに
ほおばってモグモグしている。かわいい。
幸太郎は味が何かに似てると思って記憶をたぐった。
(わかった! これ『太刀魚』だ! 太刀魚の白身に
そっくりな味なんだ。ははは、まさか異世界で
太刀魚の味に再会するとはね)
幸太郎はガンボア・パイクの身をチーズ、炒り卵、野菜と一緒に
パンに挟み『ガンボア・パイク・バーガー』を作ってみた。
マジックスパイスを多めにふって、スパイシー仕立て。
「幸太郎様! これ、すっごく美味しいですわ!」
「幸太郎さんの作る料理、おいっしいわー!」
「おいひーよー」
もちろん、エンリイはハムスター状態。かわいい。
ギブルスやドライアードの話だと、この馬鹿でかい
ガンボア・パイクの頭はエドガン、ヒガンが欲しがっているという。
肉を落とし、骨だけにして、乾燥させてから店に飾りたいらしい。
確かに、これを見れば『俺も釣りたい』という者が
店で釣り針を買ってゆくだろう。いい宣伝だ。
ちなみに幸太郎がダンジョン破壊で使っていた
『壊れたラウンドシールド』もいい宣伝になっているという。
この店の武器や防具が『ダンジョン破壊』で使われたという
確かな実績なわけだ。
この日は特にすることも無かったので、バーバ・ヤーガが
『B級冒険者たちにも見せてやれ』と言った『アレ』を見せた。
確かにジャンジャック、グレゴリオ、バスキーは大興奮。
しばらく、それと実戦形式で戦った。
もちろん、あまりの珍しさにギブルスも目からビームが出ている。
当然、アカジン、ミーバイ、ガーラ、タマンたちも。
イネスもバーバ・ヤーガを連れてきて、一緒に観戦した。




