大物を釣りたい
でっかいガンボア・オオナマズをクラリッサとポメラ主導で
捌いてゆく。クラリッサは鉈を使い、ポメラは包丁を使う。
普通は相手がでかすぎるので、包丁は使いにくいはずだが、
クラリッサの鉈と見事なコンビネーションを見せた。
切り分けた身を、幸太郎はとりあえず鍋に分けて、
『マジックボックス』に保管した。
もし、冷蔵庫無しで新鮮なまま保管できる
『マジックボックス』が無かったら、
幸太郎は毎日の食料の調達にとてつもない苦労と時間を
取られていただろう。アステラとムラサキは、
当然このことを予見していたから、幸太郎に
『マジックボックス』を与えたのである。
この『マジックボックス』と『飲料水』、
『洗浄』『陽光』があるからこそ、
幸太郎は町の外で行動することに抵抗を感じないのだ。
アステラとムラサキの親心。
「さてさて・・・まずは普通にフライパンで塩焼きして
みようか・・・。どんな味なのかな?」
これもクラリッサとポメラがちゃちゃっと焼いてくれた。
この2人の料理の腕は幸太郎より圧倒的にはるか上。
湯気の出るガンボア・オオナマズの身を少しずつ切り分けて、
まずは味見だ。泥抜きしてないのが少し心配。
ぱく。
「・・・」
幸太郎は、このオオナマズの味に覚えがあった。
(甘い・・・これ、これは、ウナギじゃんか!!
なんてこった! ガンボア・オオナマズは
馬鹿でかいウナギのようなものか!!!)
「うまい・・・うまいね! これ」
「うん、おいしい!」
「あらあら、これ、身が甘くて柔らかいわね」
「わ、わたし、もっと食べたいな」
「驚きだ。これ、俺の故郷の『うなぎ』によく似てる」
「うん、美味しいよ! これ!」
いつの間にかエンリイも試食に加わっている。
まあ、旨そうなものをエンリイが黙って見ているなんてことは
有り得ないが。
ちゃっかりエンリイ。
「幸太郎様、私たちも食べたいです」
「もー、私たちのぶんも、作ってよー」
「なんか見てたら、すっごく美味しそうじゃん!」
「了解、了解。とりあえず、今の塩焼きをたくさん作ろう。
味噌をもらったおかげで『たまり醬油』が手に入ったから、
それをつけて食べるのがいいかな」
ファル、エーリッタとユーライカが美味しそうな匂いに
我慢できなくなったようだ。今のはあくまでも、
オオナマズの身の味から、
どんな料理がいいかを調べるだけの目的だ。
ただ、味がウナギと互角となれば話は早い。
『どんな料理にしてもウマイに決まってる』から。
「あたいらに任しとけって」
クラリッサとポメラがすごい勢いで料理を始めた。
もちろん、フライパンでただの塩焼きにするだけだが、
幸太郎とは比較にならないほど美しい手際だ。
そして、幸太郎、モコ、アーデルハイドで味付けの
バリエーションを作る。何しろ『たまり醬油』である。
世界最強の調味料は醤油で決まりだ。
まず『たまり醬油』だけ。
『たまり醬油』に溶かしたバター。
『たまり醬油』に少しの砂糖。
『たまり醬油』にライム。
お好みでダークエルフ自慢のマジックスパイスをかけて、
スパイシーに。
「おおっ! これ、どれもうまいぜ、幸太郎!!」
「ガンボア・オオナマズがこんなにうまいとは!
そして、この、『醤油』か?
俺は、このバター醤油が特に気に入ったな」
「この、たまり醤油というものは素晴らしいのう!
砂糖を少し加えたものが一番合う気がするわい。ひっひっひ」
家具屋へ寄っていたというギブルス、ジャンジャック、グレゴリオも
いつの間にか参加してバカスカ食いだした。
もちろんドライアードたちも嬉しそうにもぐもぐしている。
結局、時間としてはまだ早めなのだが、盛大な夕食会に突入。
野菜スープとパン、酒も出し、村の人たちも集めて
オオナマズをメインとした宴会になってしまった。
追加で味噌をつけて焼いてみたが、それも大好評。
村で味噌を作ってみたいという話が出たが、
さすがに難しいだろう。
ただ、作り方は教える。拒む理由はないから。
それに最初のうちドライアードが協力すれば、
軌道にのせるのは遠い話ではないんじゃないか、と幸太郎は思った。
森の新しい名物になるかもしれない。
みんな満腹になったころ、
幸太郎、ジャンジャック、グレゴリオは
顔を見合わせてうなずいた。
「「「でっかいの釣りたいな!!」」」
悪ガキ3人は早速行動開始。と、言ってもこの世界で
5メートル級を釣り上げる方法は無い。ないったらない。
それこそ日本からダイワ、シマノ、がまかつ、オーナーの協力を
取り付けねばならないだろう。
そして誰も釣れないからこそ、
ガンボア・オオナマズやガンボア・パイクは珍しいのだ。
幸太郎は旅行も好きなので、小笠原の父島で150センチの
地元の人が『イシエイ』と呼ぶエイを釣ったことがある。
おそらく正体はアカエイだろうと幸太郎は思ってるが、
まるで潜水艦に針がかかったような、めちゃくちゃなパワー。
余裕で引きずられた。
地元のおっちゃんが加勢に来て、
堤防の街灯みたいなものにつかまりながら釣り上げた。
また西表島で船から130センチくらいの
サメを釣ったこともある。
引きもすごいが、とにかく重かった。
だから、5メートル級の魚など、人力では絶対に無理だろう。
ジャンジャックとグレゴリオがいても引きずられるか、
糸が切れるか、だ。
そこで、頼りたいのがドライアード様。
幸太郎たちはエドガンとヒガンの武器屋を再び訪れた。
ここは鍛冶屋でもあるので包丁などの品もある。
そこで一番でかくて頑丈だという釣り針を売ってもらった。
「ははっ、あのデカブツに挑もうって奴は久しぶりだな」
エドガンとヒガンが笑った。
やはり、時々挑戦者は現れるらしい。
『釣りキチ』は大概こんなもんだ。それは異世界でも同じ。
このビョーキは残念ながら草津の湯でも
『陽光の癒し』でも治らない。
日が暮れる前、夕方を狙って幸太郎たちはガンボア湖へ
やってきた。ガンボア湖の市場も、ほとんど店じまいしている。
市場から少し離れたところで戦闘開始だ。
でかい釣り針に豚肉のかたまりを刺した。
ガンボア・オオナマズもガンボア・パイクも
何を食うのかわからないので、
とりあえず『肉食だろう』と考え、豚肉をエサにしてみたのだ。
そして、ここからがドライアードの出番だ。
森から蔦を生やしてもらい、釣り針に結ぶ。
それをジャンジャックがカウボーイのように振り回し、
湖へ投げ込んだ。
「さぁて、食いつくかな・・・? うぉっ!?」
投げ込んでからまだ10秒もたっていないが、
強烈なアタリがあった。
ジャンジャックが大きく合わせると、
フッキングの手ごたえがある。
「よっしゃあ! 引け!!」
幸太郎、ジャンジャック、グレゴリオで綱引きのように引っ張ったが、
全然魚をコントロールできない。怪力のグレゴリオがいるのに、
足元の地面がえぐれていくだけで、全く止まらない。
しかし、蔦は切れない。
ドライアードの魔力で強化されている上に、ドライアードが
随時伸ばして切れないよう調節しているのだ。




