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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 31


 リーブラもオーガスも帰って行った。





モコたちは、大事にならなくて、ほっと胸をなでおろす。



ただし、ロストラエルとの敵対は確定。



この先どうなるかは予想がつかない。



直接襲ってくる可能性は、おそらく無いだろうが、



アステラと世界樹によって魂の右腕を分解されてしまったのだ、



カース・ファントムの件もあり、敵対前に戻ることは絶対にない。





「はぁ・・・なんか疲れた気がするわね。難しい話ばっかでさ」





アステラは自分が太陽神のくせに呑気な感想を言って席を立つ。





「そういえば、この六角形のテーブルと椅子は、どうしましょう?


これってオーガスさんのものですよね?」





幸太郎とムラサキも席を立った。





「あんたにあげるわよ。これ自体は、ただのテーブルだし」





「嫌ですよ。あの人の持ち物だったってだけで、何か仕掛けて


ありそうで怖いです」





「じゃあ、私が預かっておきますね。折を見て燃やします」





ムラサキがテーブルと椅子を『マジックボックス』に吸い込んだ。



幸太郎は少しもったいない気がしたが、



だからと言って受け取る気にもならない。



『オーガスの持ち物』が本気で恐ろしいのだ。



どんな罠が仕掛けてあっても、



『だよね・・・』くらいしか感想はでないだろう。





アステラは幸太郎にぽつりと言った。





「・・・あんたは結局、誰の誘いにも乗らなかったわね・・・」





「正直に言うなら、リーブラさんの誘いには心が揺れましたよ。


あの人は本気で世界を変えようとしていましたし、


なにより、何1つとして報酬や見返りを提示しませんでしたから」





「あのガキはね・・・。ま、いろいろあったのよ」





「報酬なしの方が心が揺れるって、いかにも幸太郎君らしいですね」





「貸し借りとか、利益で結びつくような関係は脆いですからね。


すぐに『損した』『得した』って話になってしまいます。


まあ、つまるところ私としては


アステラ様やムラサキさんが


悲しむようなことはしたくないのですよ」





この言葉にムラサキが赤くなって黙り込んだ。かわいい。





「あんたは、それでいいわよ。あのガキは世界というものを


難しく考えすぎ。ま、よく耐えたわね。褒めてあげる」





そう言ってアステラは幸太郎の頭を右手でわしわしと撫でた。





「オーガスさんやロストラエルさんの誘いに乗るくらいなら、


アステラ様に魂を吸収されて


太陽の一部になった方が気分がいいですよ」





幸太郎のセリフに、アステラも少し驚いて赤くなった。





「なっ、ナマイキ言ってんじゃないわよ」





今度はアステラは両手で幸太郎の頭を掴んで、



もしゃもしゃ撫でた。



この行為に幸太郎は思わず目をつぶる。



目の前でアステラの胸が豪快に揺れているからだ。





そして、突然アステラの手が止まった。



幸太郎は恐る恐る目を開けると、目の前にアステラの顔が見える。



鼻と鼻がくっつきそうな至近距離。



そしてアステラは『にやにや』と笑い、



ぼそっと言った。





「・・・このすけべえが。にししし」





今度は幸太郎が赤くなって黙り込む。





「それにしても、あんたいったい、


どこでそんな言葉を憶えたのよ。


魂を吸収されて太陽の一部になるなんてさ」





「あ、実は、先日金剛鬼神様が・・・」





幸太郎はアルカ大森林に現れた



カース・ファントムとの戦いを説明した。





「ふーん。金剛鬼神様がねぇ。


まあ、昔から物好きよね、あの神は。


日本の仮面ライダーシリーズの録画を最初の『1号』から


全部持ってるくらいだし」





幸太郎はアステラが金剛鬼神に対して



『様』を使っていることが気になって尋ねてみた。





「アステラ様は金剛鬼神様に対しても、


閻魔様に対しても『様』という敬称を使っていますが、


アステラ様よりも位が高いのですか?」





「あー、別にそういうわけじゃないの。


神々は通常、お互いに


敬称をつけて呼び合うものなのよ」





アステラは幸太郎の理解できる範囲で説明してくれた。





「言うまでもないけど、太陽系最強の力を持ってるのはあたし。


あたしと戦おうっていうなら、同じ恒星規模の力が無いと


話にもならない。


でも、それと『位』の高い低いは、あんまり関係無いわ。


例えば地球神『クニトコタチの神』様は、力で言えば


私より弱くても、『位』で言えば、私より上よ?」





「この世界でも『国常立のみこと』っていうのですか!


日本と同じですね」





「ああ、クニトコタチって言うのは『役職名』よ。


本名は違うけど、人類が住む星の地球神は全員、


この名前を名乗るの。


ただ、『クニトコタチ』様は絶対神様の


直系の神でもあるわ。絶対神様とリンクしてる時には


『オオクニトコタチノ大神』と名前が変わって、


太陽神に近いパワーがあるの。


そして、ちょっとややこしいんだけど、


地球のエリアを『地球神界』、


太陽なら『太陽神界』って呼んで、


地球上ならクニトコタチ様が位が上。


太陽圏なら、私の方が位が上って変化するの。


そして、神々も時々役職が変わると位が


上がったり下がったりするわ。


・・・ややこしいわよね。あははは」





「難しいです・・・が、ともかく、


それで神々はお互いを『様』と敬称をつけて呼び合うのが


慣例になっているのですか」





「どっちの位が高いかは、相対的に変化するからね。


例外があるとすれば・・・死神、疫病神、貧乏神、かな。


八百万の神々の後ろから数えて3柱の神々ね。


この神々は敬称を付けられることを嫌うのよ。


『我らは穢れを扱う』からってね。


でも、世界には必要な神々なんだけどさ」





「・・・カルフーン博士の『ユニバース25』実験ですか・・・。


ネズミが何不自由なく暮らすと、どんどん命が弱くなって


最後は絶滅するっていう・・・」





「あんた変な所で物知りよね。人間でそれをやったやつが


いたっけ。ともかく、あの3柱の神々がいないと、世界は困るの。


例えば、どれだけ贅沢しても貯金がなくならなかったら?


どんな薬物を体に入れても何の病気にもならなくなったら?


そして、どんな事をしても絶対に死ななくなったら?


人間、そして人間社会にはどんな地獄が出現すると思う?」





「うわー・・・。人間の欲は全くブレーキがかからなく


なりそうですね。他人を拷問しても死なないとなったら、


拷問される人は無限に苦しむことになるわけですから」





「ま、現実には、もっと悲惨なことが起きるわよ。


っと、話がそれたわね」





「神々がお互いに敬称を付けて呼び合うって理由はわかりました。


ありがとうございます。


あ、でも、そういえば地球神様って


お会いしたことないですね」





「あー・・・、うん、それは、ちょっと事情があってね。


今、忙しくて、手が離せない案件を抱えているから。


まあ、いつか機会があったら教えてあげるわよ」





「そうですか。ではアステラ様の仰せのままに」





「うむ、よろしい。謙虚な心を忘れないように。


我が信者よ」





ここでアステラが何かを思い出して、ムラサキへ顔を向ける。





「そうだ、ムラサキ、『あれ』渡しなさいよ」





「あ、はい」





ムラサキは『マジックボックス』から何かを取り出すと、



両手に包み、おずおずと幸太郎へ差し出した。



その手の中には・・・。





『さつまいも』





「先日、アマテラス様に会いに行ったんです。


主な目的は服を買うことだったんですけど、


その時にアマテラス様から、


幸太郎君が『これ』が好きだと聞いて・・・。


鳴門金時と安納芋で迷ったのですが・・・。鳴門金時にしました」





「これは! 日本の! 大好きです!」





幸太郎は大喜びだ。



そして、ムラサキは、もう1つ取り出した。





「こ、この壺の中身は、味噌ですね!」





幸太郎はイモとミソを持って狂喜乱舞。



ギャラリーは全員ポカンとしている。



人類ポカン計画。





「で、これはアマテラス先輩からのお土産よ」





アステラの手の中には、わずか数粒の種もみがあった。





「なんか『りゅうのひとみ』っていうんだって。


美味しいらしいわよ?」





米! 米である! 



日本人には欠かせないハイパーフード。



幸太郎は大喜びしているが、



急に立ち止まってシリアスに聞いた。





「・・・いいんですか? この世界に外来種を持ち込んで?」





「はあ? 何言ってんの? この世界にもサツマイモは


あるわよ。誰も品種改良しないから


野生のままゴボウみたいだけど。


それに米も、もっと南の方に行けば栽培してるっての。


まあ、全部長粒種だけどね。


ジャポニカは無いけど、


この世界にも米自体は存在するわよ」





「そうなんですか。安心しました」





これで遠慮なくドライアードに増やしてもらえる。



そして幸太郎が気付かなかったことをアステラは言った。





「世界樹、この味噌を増やしてやんなさい」





「かしこまりました。ドライアードたちよ、


お手本を見せるから、


よく憶えておきなさい。味噌の作り方だ」





「味噌? この何やらいい匂いがする壺の中のものか?」





ジュリア、モーリー、シンリンも興味があるらしい。



その時、上空から世界樹の葉が数枚、ひらひらと落ちてきた。



それは空中で停止すると、いきなり大量の大豆に変化した。



それが『煮てもいないのに』全て湯気を立てて茹で上がる。



茹で上がった大豆が一瞬で粉々にすりつぶされると、



もう一枚世界樹の葉が降りてきて『塩』になった。



それが大豆に混ぜ合わされる。



そして最後に幸太郎の手の中の味噌が空中に浮き、



大豆の中へ投入された。





あっという間だった。味噌の中の麹菌が全体に行き渡ると、



全て味噌になったのだ。いい香りがする。





「幼子よ、なにか容器はもっておるか?」





世界樹の言葉に幸太郎は大量の壺を取り出した。



その壺の中へ、味噌は空中を漂いながら



キッチリ納められてゆく。





「すごい・・・一瞬で・・・。これなら『たまり醤油』も


とれそうですね」





幸太郎はウッキウキだ。



ドライアードたちも『やり方は憶えた』と胸を叩く。





(そうか、考えてみればドライアード様たちは


『ハロハロの茸』を無限増殖させていた・・・。


つまり、植物だけでなく菌も操れるってことか。


味噌を作れる可能性に全然気が付かなかった・・・。


まあ、どっちみち麹菌を手に入れる方法がわかんないんだけど)





幸太郎は、改めて自分の頭は信用ならないと自戒した。



幸太郎の頭はぽんぽこぷー。





「どれ、幼子よ、その米もかしてみよ」





世界樹が念力で米を宙に浮かせ、少し離れた所に埋めた。



すると、世界樹の落ち葉の中から、猛烈に米が伸びて



あっという間に黄金の平原を生み出した。



ほれぼれするような美しさだ。





「ドライアードたちよ。米はこのように『精米』するのだ」





世界樹があっという間に稲を刈りとり、脱穀。



そして大量の米が空中で精米されてゆく。





「ほう、なるほど、種の外側を少し削り取るのか。


わかった」





幸太郎は、さすがに不思議に思って世界樹へ尋ねてみる。





「世界樹様は、どうして味噌や精米のことをご存じなのですか?」





「幼子よ。我はこの世界だけにいるのではない。


全ての宇宙、全ての文明がある星に存在している。


まあ、物質界と霊界の


狭間のような場所ではあるがな。


だからあらゆる異世界の知識を持っているのだ。


無論、全知全能ではないが、


知識量なら神々にもひけはとらん。


なかでも、日本の文化や食べ物は興味深い。


我は日本では伊勢神宮の森の中にいるくらい


気に入っておる」





「・・・世界樹様は、


どんなお役目を仰せつかっておられるのですか?」





「我の役目は人間のいる物質界と霊界の


相対的な位置を繋ぎとめる、『楔』である。


人間にわかりやすく言い換えるなら、


『この世界のアンカー』と言ったところか」





「アンカー・・・。それは途轍もない大役ですね・・・。


お役目、お疲れ様です」





「ふふ、幼子よ。お前は少し変わっておるな。面白い」





「ありがとうございます」





幸太郎が世界樹と話をしている間に、



ドライアードたちがサツマイモをもりもりと無限増殖させていた。



山のようなイモ、イモ、イモ。





幸太郎は、『あること』を思いついた。






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