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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 29


 幸太郎も全ての元凶は宗教ではないか、と思っている。



これは別に幸太郎が史上初に考えたオリジナルの発想ではない。



世の中には同じような考えを持った人は大勢いる。



あまり声に出さないだけだ。





例えば、幸太郎の大学時代に近代史、国際政治の講義を持つ



教授がいた。その教授も幸太郎と会話の中でこんな事を言っている。





『世界の出来事は「宗教」というファクターを排除して考えると、


途端に何が起きてるかわからなくなる』





幸太郎は、この言葉に大きな衝撃を受けた。



今まで、そんな視点でニュースを見たことが無かったからだ。



日本は宗教というものに『異様に寛容』なため、



今一つピンとこない人の方が多いだろう。



『なんかよくわかんないけど、まあ、みんな神様なんでしょ?』



これが大多数の日本人が考えていること。





だが、海外では様子が異なる。





アメリカの第三代大統領トーマス・ジェファーソンは



『独立宣言』の中で『全ての人間は生まれながらにして平等』



『不可譲の権利を造物主から与えられている』と



高らかに謳っている。



だが、そのジェファーソンは100人以上の黒人奴隷を



所有していたし、奴隷との間の子供も作っている。



当時は人種差別が激しく、白人と黒人が交わるのは



法律で禁止されていたという。



もちろん、当時、それを不思議に思う人は



皆無だった。・・・なぜか?





○○○○○は親が○○○○○〇なら、子供も強制的に○○○○○に



入信させられる。



そして絶対に改宗を認めない。退会も許さない。



疑問を持つ事も許さない。



簡単に言えば『いつか地球上の歴史と文化と宗教は絶滅し、



全人類は1人残らず○○○○○○になる。そして



自国の文化、政治、法律よりも○○○○の法が優先する』



ということだ。



だが、当然彼らはそれこそが



『全人類への救済になる』と思っている。



それこそが人類の目指すべき、あるべき姿だと。



そして、なぜ人類が



全て○○○○〇に改宗しないのかが、不思議でならない。



だから日本に対しても



『2100年までに日本を○○○○国家にしたい』と



はっきり言っているのだ。



もちろん日本人が望むならそうなるだろう。



ただし、一度そうなったら、もう2度と元には戻れない。



『他の宗教への選択肢の自由』などというものは



神への反逆に他ならないのだ。



『元に戻そう』などと言えば、



シャイタンの烙印を押され、最悪の場合、処刑されるかもしれない。



彼らが土葬に拘るのは、霊界の存在を認めないから。



世界の終末の日に、神が選別した者だけが永遠の命を与えられ、



生き返る予定になっているので体が無いと困るわけだ。



ただ、高温多湿、雨や台風、地震の多い日本で土葬をすると、



疫病など色々大変だろう。死体とコンニチハ。



タ〇バンが実権を握ったアフガ〇スタンでは、



女性用のドレスが販売禁止となり、



家庭内暴力で苦しむ女性を救うため



離婚まで弁護した女性弁護士に対し、



事実上の死刑判決が下されている。



服飾店、アクセサリー、化粧品の店はほとんど閉鎖に追い込まれる。



それが彼らの正義だ。



タリ〇ンに撃ち殺された女性警察官もいる。



だが、○○○○〇をやめようという人はいない。



みんな幸せなのだから。



しかし、日本の女性は、化粧品も、おしゃれな服も、



アクセサリーも販売禁止となった場合、



本当に耐えられるのだろうか?





中国の正式な名称は『中華人民共和国』。



『中華』ははっきり言えば宗教だ。



『中原』こそが天国であり、



そこから遠ざかるほど地獄である、というもの。



普通の宗教は雲の上に天国があり、地の底に地獄があるという



『上下方向の宗教』だが、この中華は世にも珍しい



『水平方向』の宗教というわけだ。



わかりやすく言うなら中国は宗教国家と言っていい。



わざわざ『自分たちこそ世界の中心、



天国の住人』だと国名で言っているのだから。



そして、この『宗教』があるからこそ、『元』のように



民族も、言語も、文化も、宗教も違う『モンゴル』を



自国の歴史に平然と組み込んで何も不思議に思わない。



元は南宋を滅ぼした。



今で言うなら中国が敗北し、モンゴルに滅ぼされたのだ。



だが、フツーに『中国の歴史』として記載されている。



なぜなら『中原』を支配していたからである。



それは『中華皇帝』を名乗る資格を意味するのだ。



民族が違う? そもそも外国? 何の問題ない。



彼らにとって何もおかしなことは無い。



外国人には1ミリも理解できないが、



ただ『そういう宗教』というだけのこと。



中国の歴史は幾多の国が滅び、幾多の異民族が入り、



散り散りになっても



平気で『自国の歴史』に書き加えるのだ。



いや、『自国』ではなく、『華北平原を支配した者』が



中国の歴史とされる。異民族でも何ら問題ではない。



逆に侵攻した国の人の方が不思議に思うことになる。



これは『中華』という宗教を知らないと絶対に理解できない。





また近年、ウクライナとロシアの戦争においては、



ロシア正教会の総主教が侵攻を支持した。



無論、世界各地にある他の正教会との関係は悪化したが、



意見を撤回する様子は無い。



ロシア国民の侵攻に対する無関心ぶりは



『スラブ民族』の伝統だろう。



スラブの語源はスレイブからきているという。



スレイブは奴隷という意味。



また『ルースキー・ミール(ロシア的世界)』という考え方も



大きな影響をもたらしている。



まあ、つまるところ、ほかの国から見れば



全部宗教みたいなものだ。



他の国では全く通用しない理屈を



武力で押し付けようというのだから。



彼らがウクライナのブチャなどで行った



市民への残虐な拷問について、



彼らは反省したりなどしない。



それを責めれば、真顔でこう言うだろう。



『え・・・? なんで? 俺たちが強いから当たり前でしょ?』



善良な民主主義者よりも、強い独裁者こそ



私たちの支配者に相応しいという考え方である。



そして実際に、その方が社会が安定しているのは否定できない。



その方が『国家として生き残り続けている』という現実がある。



ウラジオストクの意味は『極東を、支配せよ』だ。





イスラエルとガザ地区の戦争も、



根本的な原因を突き詰めれば、宗教戦争が発端と言える。



話し合いになれば、お互いが



『元はと言えば』『いや元はと言えば』



『それを言うなら元はと言えば』・・・。



キリがない。



最後はお互いの宗教の教義に行き着く。



○○○○教とて、



それ以前の小さな宗教を絶滅させて広がったのだから。



武力こそが正義というわけだ。



日本が和平の実現に乗り出すべきだという



意見もあるが『何を』『どうすれば』解決するという



具体的な建策は一度も聞いたことが無い。



と言うよりも、完全な部外者の日本が介入して解決する程度なら、



過去2000年の間に誰かがとっくに



解決策を思いついているはずである。



過去の全世界の人々は



知能で現代人に劣るとでも言う気だろうか?





最近は『地政学』という言葉も耳にするが、



宗教というものに比べたら



二次的な『上っ面』の話でしかない。



例えば先カンブリア紀の『地政学』はどうだったのか?



白亜紀は? ジュラ紀は? デボン紀は?



人類がいない? 



では50万年前は? 10万年前は?



古すぎる? 



ならば関ヶ原や関門海峡、対馬海峡、川中島の



地政学は鎌倉時代のものが



現代でもそのまま役に立つだろうか?



地政学とは政治学と地理学を合成したもので、



その中でも地理的な条件を重視する。



だが、結局、全ては



『人間の考えたことの結果』



によって後から地図に色分けが発生しているに過ぎないのだ。





そもそも『なぜ国境ができるのか?』と言えば、



それぞれの地域で『考え方に違いがあるから』境目が



できるのである。





『人間の世界は思考が先で、現実はそれを後からなぞるだけ』





そして人間の考え方に多大な影響を与え、



行動原理の1つになっているものが『宗教』だ。





戦争は人間からしか生まれない。



それは人間の考え方の違いから起きるもの。



その『絶対に譲れない』考え方の違いを作るのが宗教。





自分たちの言う『共存』と、相手が言う『共存』は



言葉だけが同じで、中身が全然『違う』。



おそらく日本人で耐えられる人はいないだろう。





リーブラの言う『宗教こそ諸悪の根源』という意見には、



幸太郎は首肯せざるを得ない部分がある。



宗教にいい面だって確かにあり、



人の世に秩序をもたらしていることも



否定できない事実だ。



だが、戦争には常に宗教が、影に日向に付きまとう。



誰も彼もが神の名を振りかざし、



神の名において人を殺す。



そして、それに酔いしれる。








「やはりお前には理解できるようだな。


リーブラ教とオーガス教を


相互監視させる構図を作り出したお前なら、


わかってくれると思っていたぞ」





リーブラは微笑んだ。



そして、幸太郎が思いもしなかったことを言い出した。





「幸太郎、私の元へ来い。お前が欲しい。


私の考えを理解できるお前なら、


セリスと共に私の良き協力者となるであろう。


それにお前には注目に値する頭脳と、『遠くの世界』の知識がある。


お前がいれば、お前さえ味方に加わってくれれば、


私の理想は50年・・・


いや、100年は早く実現するだろう。


幸太郎、私の手を取れ、私に力を貸せ!


私と共に歩め!!


共に『今日よりマシな明日』を作ろうではないか!」





幸太郎は驚いた。



まさか、こんなことを言い出すとは、



さすがに思ってもみなかったのだ。





驚く顔のまま硬直する幸太郎。



だが、幸太郎は苦しそうな顔で目を伏せた。





「・・・申し訳ありません・・・」





「・・・だめか・・・? なぜだ?」





「リーブラ様の理想は理解できます。


はっきり言えば賛同もします。


ですが、その理想は・・・実現しないのです・・・」





「実現は不可能だというのか」





「はい。私は故郷の星の歴史を、大まかに習いました。


本も読みました。専門家の話を聞いたこともあります。


そこでわかったことは・・・。





『人の歴史は戦争の歴史。そして同時に宗教の歴史でもある』





・・・ということです。



宗教は戦い続けてきました。



いつも、どこかに敵を作り、いつもどこかの敵を



滅ぼすために血を流すのが



宗教の否定できない側面です。



戦争は人類の歴史。科学の発展も戦争がもたらしたもの。



戦争は人間しか生み出さない。宗教も人間しか作れない。



私の故郷日本という国は平安時代の約400年間と、



江戸時代という約260年間、



大きな戦争の無い時代がありました。



ですが、それはあの星では他に例のない



異常に珍しいことだったのです」





「その数百年、平和だったのであろう?」





「ですが、その日本も結局は他国との大きな戦争をしています。


おそらく戦争は無くならないし、何より・・・



『人間が人間である限り、宗教も無くならない』



・・・と思います。もし、リーブラ様が


女神となって世界を統一しても、


おそらく『○○派』『××派』に別れ、


殺し合いを続けるはずです」





「・・・私が神として介入しても、か?」





「はい。人々は必ずリーブラ様の介入に対して、


自分勝手な解釈を加え、自分に都合のいい事実認定をします。


そして、そのことに対して新しい論争が起き、


その論争が元で、新しい対立が起きるでしょう」





幸太郎はリーブラを論破しようとか、



そんなバカげたことを考えているのではない。



そもそも論破なんかしたところで、相手は



『考え方を変えない』のだから。





あなたの趣味を『金の無駄遣い』『時間の無駄』と



論破する者がいたとして、



あなたは趣味を捨てるだろうか?





幸太郎がリーブラに話していることは自分の妄想ではない。



キリスト教は『カトリック』『プロテスタント』に別れ、



血で血を洗う戦いを起こしている。





そしてキリスト教は悪名高い『十字軍』でアラブ諸国に



戦争を仕掛けた。





○○○○教も『シ〇ア派』『スン〇派』に別れ、



その中でもまた『××派』などが存在する。





結局、どんな神の名を掲げようと、人間はその神の名を



振りかざして他人を攻撃する生き物なのだ。



宗教を無くさずに、それを防ぐ方法は



1つだけあるが、この物語の中では触れないことにする。






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