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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 28


「いやあ、ひどい言われようですね、幸太郎君。


濡れ衣というものですよ」





オーガスは『クスクス』と楽しそうに笑っている。





「でも、やっぱり君は面白いなあ。私の乾いた人生には、


ぜひとも君という存在が必要です。どうですか? これを機に


私と『トモダチ』になっていただけませんか?


君とは永遠の友情が築けそうです」





「何度も言いますが、あなたには恐怖しか感じませんよ。


絶対に勝てそうもない、本物の悪魔です」





「幸太郎君は、大きな誤解をしているようです。


私は『自分の不運な境遇を嘆く人たち』に


夢と希望を与えているだけなのですよ。


彼らの喜びに満ち溢れた顔を見ましたか? 


頭も今一つで、勉強もしないし、本も読まない、


特に何か努力もしないけど、


突然他人を意のままにできる力が手に入った彼らの目は


きらきらと輝いているではありませんか。


私は止むに止まれぬ思いから力を与え、


救済の手を差し伸べているだけです。


一切の見返りを求めずにね。そう、無償の愛、なのですよ。


私は彼らの美しい、輝く顔を見るのが大好きなのです」





「その『与えられた力』でイキリ散らした


『俺は無敵、最強だ』って顔が


絶望に染まるところまでが『セット』で好きなのでしょう?


嘘は良くないですよ。いや、嘘はついてないですか。


『半分しか伝えていない』だけですよね」





「幸太郎君、それは正確ではありませんよ。


彼らの『俺は最強だ』って輝く顔は本当に好きなんです。


そのあとは彼らの才覚であって、


まさか破滅を迎えたりするなんて、まったく夢にも思いませんでした。


ああ、胸が痛みます」





オーガスは自分の胸に手を当てて『悲しそうな顔』で首を振った。



その表情の白々しいこと。



確かにオーガスの言う通り、幸太郎の推測は正確ではない。



オーガスから能力をもらった連中は、死後も



『こんなはずじゃない! こんなはずじゃないんだ!』と叫び、



誰彼構わず食ってかかり、怒鳴り散らす。そして、



『俺のバックには大神オーガスがいるんだぞ! オーガスだぞ!!』



『オーガス! 俺を助けろ! オーガス!! 聞こえないのか!?』



『お、お前たち、俺を誰だと思ってやがるんだ! 



俺は、俺は最強の・・・』



『話が、話が違うじゃないかああああ!!』



などと喚き、泣き叫ぶ。



だが『オーガス』はそもそも偽名だし、



正体のルキエスフェルはれっきとした悪魔だ。



どこにも、誰にも願いは届かない。



霊界の者たちは、全員『あーあ』と冷めた目で見るだけ。



オーガスに力を与えられた者たちは、それにすがり、



頼るだけの『無能』なのだ。



無能だから、そもそも自分の力でない



与えられた力でイキリ散らし、それを使うことに執着、固執する。



そう、オーガスは無能な人間から、さらに『考える力』を



自ら放棄するように誘導しているのである。





そして、地獄の下層に落ちた結果・・・最後は魂が砕け散る。





オーガスは、他人の魂が砕け散る所までレールを敷いてやってる



ようなもの。そのレールはいつでも自由に降りることができるが、



結局、ほぼ誰もレールから外れる事もなく、魂が滅ぶ。



もちろん、オーガスは『そういう人間』を選んで



力を与えているのだ。





オーガスは精神的に未熟な者を好んで選び、



自分をコントロールできなくては扱いきれないような



強大な力を『与えるだけ』で人間を狂わせる。



あとは何もしない。ただ見てるだけ。



だが『それだけしかしない』のが面白いのだ。



自分の思い通りに人が狂い、



何もせずとも思い通りの選択をして、



思い通りに破滅し、



思い通りに地獄の下層で



『オーガスの名を呼びながら』魂が砕け散る。



『いつでも、自由にそのレールから外れることができる』のに、



思い通りにレールの上を『自分の意思で』走ってくれる。



強制してないのに、常に最悪の選択をして、



常に最悪の方向へ一直線。



オーガスはこれが愉快でたまらないのだ。





「胸? 痛いのは腹でしょう? 『笑いすぎて』」





幸太郎は白けた顔でそう言った。



確かにオーガスは聖騎士マラケシコフが首ちょんぱされた時に、



窒息しそうなほど笑い転げていた。



なぜならマラケシコフは



最後に『オーガス助けて』と口を動かしていたからだ。



幸太郎は、まるでそれを間近で見ていたように言い当てた。





オーガスはまたも目を輝かせて幸太郎を見る。





「やっぱり面白いですね。君はいいです。とても面白い。


まあ、今日はアステラ様やムラサキ様の手前、


ここで引き下がるといたしましょう。


それに、本来、話があるのはリーブラの方ですからね」





リーブラは、やや不機嫌そうにオーガスを睨んでいた。





「・・・話を戻そうか。ともかく私は宗教こそ


諸悪の根源だと考えている。私が悪魔になった理由は


『全ての宗教を滅ぼしたい』からだ。


この世界に理想郷を作るなどという大それたことは言わんが、


私は『今日より、もう少しマシな明日』を作りたい。


人間が勝手に作り上げた『カカシの神』など不愉快なだけだ。


神が欲しいなら、毎日東から上るアステラの本体に


手でも合わせておけばよい。だが、




『本物の神は自分に都合のいいことを言ってくれない』




からな。


宗教の開祖などという連中は『自分に都合のいい教義』を


広めたいから宗教を作る。


神を食い物にする詐欺師どもだ。


アステラやムラサキが地上に関与できない理由も知っている。


理解もできる。


・・・よくわかっている。


だが、本物の神が人々の前に姿を現し、導かぬから、


詐欺師どもが幅を利かせて人々を騙し、


欲望のままに暴利をむさぼり、


人々を迷わせ、戦争を起こし、苦しめるのだ。


だから、私がやる。


私が女神となり、全ての宗教を滅ぼす。


アステラやムラサキがやらぬと言うのなら、私が神となって


この不条理な世界を是正してやるのだ。


最善ではないだろう、最適ですらないだろう。


すでに大勢の人々を巻き込み、死ぬ必要のない人の命を奪い、


無意味な屍の山も築いてきた・・・。


だが!


・・・だが、これ以上放っておいてなんになる! 


何もせずに黙って泣けというのか!?


私はそれが我慢ならぬ!」





リーブラの言葉には力があった。間違いなく本音だ。



幸太郎は二コラの件があるというのに、やはり敬意を抱かずには



いられなかった。





「マリーちゃん・・・」





「・・・その名は捨てた。あの時『マリー』は死んだのだ、


ムラサキ様・・・いや、ムラサキ。


今の私は悪魔。そしていつか本物の女神となる存在だ」





ムラサキの悲しそうな顔に、思わずリーブラの昔の顔が現れた。



だが、昔何があったのか、それは知ってはならないことだろう。



幸太郎は胸の痛みと共に、『絶対に聞いてはならない』と自戒した。





(アステラ様も・・・悲しげだ。たぶん・・・だけど、


この『マリー』こそが、先代の、


初代の『荒野の聖者』だったんだろう)





幸太郎の悲しげな姿を見たモコ、エンリイ、ファル、



エーリッタ、ユーライカ、クラリッサ、アーデルハイドは



全員同じ考えが心に浮かんだ。





『この女神リーブラと、幸太郎さんは・・・似てる・・・』





特に、モコ、エンリイ、ファルは『いつか幸太郎も同じ道を



辿るのではないか?』と不安になった。





(ご主人様は、この世界で生きるには優しすぎる。


もしかしたら、いつかこの世界に絶望し、


『女神リーブラ』のようになるのかもしれない。


もし、そうなったときは・・・私は・・・。


ううん、私はご主人様を信じる。ご主人様が悪魔になんて


ならない。なるわけない。私のご主人様なんだもの)





(幸太郎サンはニコラの時も逃げることはせずに、


『自分にしか倒せない』と町の人たち、そして


殺された人たちのために涙を流し、戦った。


幸太郎サンにはなんの利益にもならないのに、命をかけて・・・。


そう、『今日よりマシな明日』を作るために・・・)





(幸太郎様は子供たちの魂を救うために、魂に亀裂が入るまで


祈り続けた優しいお方。でも、その一方、人狩りたちは


躊躇なく殺し、その上、宗教同士が争うような計略を練り、


実行なさる厳しい一面もお持ちになっている・・・。


幸太郎様が天使となるか、悪魔となるか・・・。


女神リーブラ様は『悪魔になってしまった幸太郎様』なのかも


しれないわ・・・)





「ムラサキ、もう、そのガキは放っておきなさい。


自分で選んだ道なのだもの。どのみち最後の結末まで、


手出しはできないわ」





「・・・はい・・・」





アステラも、言葉は厳しいが、少しだけ悲しそうだった。



そのアステラとムラサキを見たリーブラは美しい唇を少し開き、



『ごめんなさい』という言葉が喉まで出かかった。



だが、それは絶対に言えない。



口を閉ざし言葉を飲み込む。



もう、道を違えたのだから。



もう決意し、覚悟を決めたのだから。



そして、もう二度と『あのころ』には戻れないのだから。








「宗教こそが諸悪の根源。・・・幸太郎、お前もそうは思わないか?


お前になら私の言ってる事がわかるであろう?」





リーブラは、再び幸太郎に顔を向けた。





「おっしゃることは理解できます。


正直に言えば、私も同感です。確かに突き詰めれば


諸悪の根源は宗教だと言っていいと思います」






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