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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 25


こうして幸太郎の仕組んだ



『リーブラ教によるオーガス教襲撃』は



大勢の死者を出して、ひとまず幕となった。



もちろん、黒幕である幸太郎までたどり着ける者など皆無。



幸太郎は『自分が正しいと思っている者』に、



『お前は正しい』という根拠を与えた。



その結果、目先の快楽に取りつかれ、暴走したのだ。



これはこの先、ずっとお互いを憎みあう発端となる。



もしかしたらリーブラ教の中にも、



『これは後世へ禍根を残すことになるのでは?』



と考える者はいたかもしれない。



だが、思慮の浅い者ほど



『痛快だ』



『気分がいい』



『スカッとする』



という感情から逃れられないから、



最後は大多数の信者が『討つべし!』と叫び、



それが『待て』という意見をかき消す。



そして民主主義の悪い側面だが、頭の悪い者の意見に



全体が引きずられることが止められない。



酷い言い方をするなら、



『平均点が50点ならば、半数の人間は50点未満の存在』



ということを意味するのだから。



幸太郎は、その50点未満の層を狙って操ったのだ。



幸太郎は本当に性格が悪い。



人類が長年、王や貴族による統治を続けてきたのは、



この『50点以下』の意見に引きずられないように



するためと言っていいだろう。



政治はきれいごとだけでは済まないのだ。





例えば、ガザ地区へのイスラエルの攻撃を止めようと、



アメリカの大勢の大学生が反戦デモを行った。



50以上の大学でデモやハンガーストライキが行われ、



逮捕者だけでも2300人を超えたという。



それは、全くの正論だ。非の打ち所がない。



人命が失われてゆくのを止めようとすることが悪いはずがない。



イスラエルが正しいとか、ハマスが正しいとかの話とは



別次元のことを言っている。





ところが責任ある立場の者は、これに『そうだ、そうだ』と



諸手を上げるわけにはいかないのだ。








『では、その大学生たちがテロリストに拉致されたときに


武力の選択肢を放棄するのか?』








そう、大学生たちは『観客』の気分でいるからいい。



しかし実際に自分たちが夏フェスとかで楽しんでいる時に



武装集団が乱入し、人々が虐殺され、女性がレイプされ、



服をはぎ取られて人質として拉致されたときに、



『救出は話し合いでね!』と言うだけの気概を



本当に持っているのか?



毎日、毎晩殴られ、犯され、のどが渇き、



明日自分が生きているかわからない状況で、



本当に『絶対に戦ったらダメ』と言える覚悟を持っているのだろうか?





・・・『こいつら皆殺しにして、早く救出に来い!!!』・・・。





まあ、これが一般人の正常な反応だろう。



自分が『当事者』になれば、



意見なんて、あっけなく手のひら返し。



人間らしい。



あのデモに参加した大学生たちは『観客』に過ぎないのだ。





違う? いいや『観客』だ。





例えばハンガーストライキ。そのストライキで彼らが



『命を落とす』可能性はあるだろうか?



ゼロ。



全く、その可能性は無い。親が養っているから。



立てないほど衰弱すれば、



救急車がやってきて医者が病院で待ってる。





彼らはハマスから撃たれる可能性も無いし、



イスラエルから撃たれる可能性も無い。



つまり彼らは『特に何のリスクも背負っておらず』、



『何のリスクも背負う気がない』くせに、



『他人に対して行動を変えろ』と『一方的に』要求しているのだ。





『当事者』たちは彼らの意見を聞くべきだろうか?



仮に自分が銃を持ち、仲間が次々に死んでゆく境遇にいたら、



その『ご高説』とやらに感銘を受けると思うだろうか?





何より逮捕者だけで2300人もいたというが、



ではデモの参加者で『よし、俺が人質を交代してハマスと



話をつけてやろう!』と



イスラエルやガザ地区へ乗り込んだ人間が



何千人いたのだろう? 残念ながら寡聞にして聞かない。





『進撃の巨人』ふうに言うなら、



『何も捨てる気が無いくせに、



何かが変わることを期待している』のだ。



しかも、『赤の他人に対して』、



『誰かやってよ』という姿勢で。





そして、仮に自分が人質になって、救出して欲しいという場合、



救出するための兵士だって『誰かの息子』なのだ。



その兵士が自分の救出のために死ぬことを、



デモの参加者たちは容認できるのだろうか? 



さらに、自分を救出する兵士が



5人死んだ、10人死んだ、40人死んだ、100人死んだ、



1000人死んだと犠牲者が増えた場合、



今度は『彼らのために犠牲者を増やすな!』という



デモが起きるだろう。正論だ。



人質になった学生たちは、



このデモに賛成するのか? それとも反対か?





何より、『HOW』で言うなら、最も簡単な停戦の方法は



『自分たち5000人が人質となるから、


今の人質を解放しろ。


そして、自分たちの開放は話し合いで決めよう!』



と提案すればいい。



少なくとも『人質救出』という部分に関しては



イスラエルの大義名分が失われる。停戦する可能性はある。



5000人の人質は、ほとんどの人が二度と家に帰れないだろうが、



まあ、自分の望み通りなのだから『本望!』と叫んで



死んでゆくはずだ。





もちろん、現実はそうはならない。



デモに参加した学生は全員『親がダメって言うから』とか、



『夏休みにディズニーランドへ行く約束があるから』とか、



何かしら自分勝手な理由でデモ隊を見捨てて逃げてゆく。



『もう二度と家には帰れないだろう』と分かれば、



手のひらを返す。



それが普通。



『当事者』になるのは『楽しくない』からだ。



そう、『楽しくない』のである。



デモはとっても楽しいが。





まあ、『観客』なんてそんなものだ。みんな一緒。



安全な所から、自分は一切手を汚さずに



当事者たちへ『自分の価値観』で罵声を飛ばす。



さぞや楽しかろう。








幸太郎は『目の前の楽しさから逃げられない』層を



狙い撃ちにした。絶対に成功する作戦。



作戦を立案した瞬間から、全員が幸太郎の意のままに踊り狂う。



そして、大勢が死んでゆく。





幸太郎は、ひどいやつだ。






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