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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 24


 ユニコーンに乗ったクルームリーネは風のような速さで走る。



そして戻ってくる信者たちと合流した。





「お、無事か。ご苦労」





「クルームリーネ様! アイアロス様の仇は討てましたか?」





「うーむ、それがな・・・。ちょっと事情が複雑なことになっている。


まず、商人からの伝令でやってきた者・・・そう、お前は


コナへ戻れ。よく知らせてくれた。


いずれ上から、お褒めの言葉があるだろう。大儀であった。


次に、他の6名だが、このままユタまでついてきてくれ。


全員馬ならば日が暮れる前にはユタへ入れるだろう」





「なぜですか? コナの教会には戻らないのですか・・・?」





「コナの教会は焼け落ちた。もうない」





「教会が!? い、いったい、何が!?」





6人の信者たちの中で、明らかに顔色が変わった者が複数いた。



それは『まさか、バレたのか!?』



『地下の監禁室も見られたのか?』という心配なのだろう。





(やはり、この中にも人狩りと兼業してた者が複数いるようだな)





クルームリーネは暗澹たる思いになった。



もう面倒くさいので、全員殺して、全て投げ出したいところだが、



一応は聖騎士という立場で、義理もある。



何よりアイアロスが死んだので、



面倒を押し付ける相手が現在いない。





「ともかく、ついてこい。面倒なことになっている。


コナへ戻ると、最悪、死ぬぞ? 話はユタへ着いてからだ」





クルームリーネはここにいる6人を



『疑っていない』というフリをした。事情も曖昧なまま。



尋問するのはユタへ着いた後でいい。








なんとか日が暮れる前にユタへ到着。聖騎士の肩書のせいで



門はスムーズに通れる。そしてオーガス教の教会に入ると、



クルームリーネは礼拝堂のオーガス像の前に全員を集めて説明を始めた。



そこでまず、道中『怪しい』と踏んだ3人に



『拘束』の魔法をかけた。



残る3人には『潔白だったら解放してやるから心配するな』と



優しく言ったのだが、



その言葉を聞いたうちの1人が逃げ出そうとした。



人狩りの1人だったのだろう。



その態度にクルームリーネは怒髪天。



散々めんどくさいことが重なり、



イライラが積もっていたところへ、



『逃げられるはずもない』のに、逃げようとしているのだ。





「私が誰だか忘れたか!! 『狂風よ、敵を裂け!! 烈風刃!!』」





風の攻撃魔法は『風刃』『大風刃』そして『烈風刃』の3種類。



クルームリーネは3つのうちの最上位魔法を短縮詠唱でいきなり



ブッ放したのだ。





・・・室内なのに・・・。





クルームリーネの前に出現した5メートルほどの



三日月型の風の刃は



天井や床をブチ壊しながら突き進み、礼拝堂の扉から



逃げようとした人狩りを縦に真っ二つ。



そして、そのまま猛烈な勢いで進み続け、



教会の扉と壁を破壊して外まで飛び出した。





「あ・・・しまった」





クルームリーネが何かを引っ張り戻すような仕草をすると、



『烈風刃』はピタリと止まり、消えてゆく。



風の魔法は、他の元素魔法よりもコントロールの点で



優れている。コントロールしやすさでいけば、



風、火、水、土の順番。



単純質量兵器の『岩弾』などは



ろくにコントロールが効かない。



今の『烈風刃』のように途中で停止なんて無理。



それでもコントロールしてみせた



ナイトメアの魔力がどれほど強大であるかが知れる。





「いかんいかん、イライラが溜まって、ついやってしまった。


『風刃』でよかったのにな・・・。


まあ、やってしまったものは仕方ない。次に生かそう」





彼女は、こんなセリフをずっと前から言い続けている。



成長しない。見た目も成長してないけど。





結局、人狩りと兼業していたのは『拘束』をかけた3人と、



縦に真っ二つになった1人だけで、



残りの2人はただの出家信者だった。



コナのオーガス教は、全員が人狩りだったわけではないが、



中核をなしているメンバーは、



やはり全員人狩りで固められていたという。





拘束した人狩りに『魅了』をかけた結果、



ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフの悪行が



具体的に明らかになった。



ただ、グレナン司政官については



一切全く何も知らなかった。



やはり下っ端では会えないせいだ。



ゲーガン司祭の取り巻き連中だけが知っていたらしい。



直接事情を聞き出したクルームリーネは、ゲンナリしながら



念話でダブリンにいる枢機卿たちに事態の報告をした。





念話の水晶玉の向こうでは、集まった



ダブリンの枢機卿たちが大騒ぎになっている。



まあ、オーガス教始まって以来の深刻な『不祥事』なのだ。



赤っ恥もいいところで、オーガス教の枢機卿たちも



立つ瀬が無いのだろう。





「聖騎士クルームリーネよ。お前はどうしたらいいと思う?」





枢機卿の1人がクルームリーネに質問した。





「しるか。もう私は十分働いた。あとはそっちでなんとかしろ」





無礼にも程がある言い草だが、優秀だし、何より強いから



追い出すわけにもいかない。



敵に回すのは、もっとまずい。



枢機卿たちも苦い顔をするしかなかった。



それに何よりも、確かに証人と情報を持ち帰ったのだ。



しっかり働いている。



捕らえた人狩りたちを尋問すれば



ゲーガン司祭とマラケシコフの行動、そしてコナの教会の



実態がはっきり解明させることができるのだから。





ただ、それでも『上様』の正体までは判明しない。



一般の人狩りではグレナン司政官には会えない、



そしてグレナン司政官が証拠を残さないように



慎重に立ち回っていたということを意味している。



精々、『もしかしたら』程度で限界だろう。



だが、それでは何の証拠にもなりはしない。



貴族に『魅了』や『支配』をかけるわけには



いかないからだ。状況としてはグレナン司政官以外に容疑者はいないが、



表向きは疑っていることすら口に出せない。








あとはユタの司祭と枢機卿たちに任せて、クルームリーネは



会議室を退出しようとした。だが、1つ思い出して振り返ると



追加の報告をした。





「ああ、そうそう。ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフの死体は


全く見つからなかった。馬車や、他の信者・・・というか、


人狩りたちの死体もだ。


町では『森に喰われた』という噂が広まっているようだが、


それで正解かもしれん。


確かに『ガイコツの森』には得体のしれん雰囲気がある。


お前たちも近寄らん方がよかろう。じゃあな」





そう言い残すと、クルームリーネはひらひらと手を振って



会議室を出て行った。



会議室の中は『どうしたらいいか』で



喧喧囂囂の大論争が始まっている。





クルームリーネは『黒フードのネクロマンサー』の可能性について



口をつぐんだ。まだ言わない方がいいのはもちろんだが、



一応バーバ・ヤーガや、バーバ・ババ、あるいは、



まだ知らない他のネクロマンサーの可能性だって、あるにはある。



いきなり決めつけても混乱を招くだけだ。





(ただ・・・私と同等か、それ以上の『死霊術』の使い手となると、


極端に数は少ないはず・・・。


そして何より、うかつに敵に回すのは危険すぎる。


もしバーバ・ババに近い手練れの使い手なら町を


滅ぼせるほどの力を持っているだろう・・・。


とりあえずは今度バーバ・ヤーガの所へ確認に行ってみるか・・・。


が、それは後回しだ。


よく働いたから当分休暇だ休暇。


はぁ、今日は色々あって疲れたな。


まずはワインの白を持ってこさせよう・・・つまみは


ハムとチーズあたりがいいな・・・)





ガイコツの森にあった、子供たちの死体については



クルームリーネは『そのままにしておくしかない』と考えている。



子供たちの霊は全て成仏させてあるようだし、



『血の雨』はどうやっても消えない。



時間の経過で怨念が薄まるのを待つしかない。



できることが無いのだ。





そして『あの場所へ入る者もいないだろう』と踏んでいる。



あの場所はネクロマンサー以外では5分と耐えられない。



クルームリーネですら、あの場所でしばらく調査をした結果、



怨念が浸食して頭が狂いかけたのだから。



耐性のない人間なら、すぐに寒くて震えだし、



命の危険を感じて引き返すだろう。



引き返さなければ? 



正気を保てるのは砂時計より短く、



命が保てるのはその数倍程度か。





そう、クルームリーネも幸太郎と全く同じ計算をしているのだ。



ただし、幸太郎の計算は外れた。



高レベルのネクロマンサーでもある



クルームリーネが調査に来るのは完全に想定外。





人生とは、思い通りにはいかないものである。






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