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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 23


 血の雨が止み、霧が晴れてきた。



周囲にあった大勢の『気配』も次々に消えてゆく。



クルームリーネとユニコーンがスキルを解除したからだ。





「・・・お前たちの言ってることは・・・


信用するしかないようだな。


まさかゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフが


人狩りを組織して、


オーガス教を隠れ蓑にしていたとは・・・」





幻影が解けると、サーラインたちの後方、焼け落ちた



教会のそばでクルームリーネとユニコーンが姿を見せた。



サーラインとロザリア、グレナン司政官は



『いつの間に、そんなところへ』と驚くよりなかった。



自分たちの真横を通り過ぎたはずだが、何の音もしなかったし、



気配も感じなかったのだ。先ほどのクルームリーネの



『なんだと!?』という驚きの声も、



そんな遠くから発せられているようには聞こえなかった。





「納得してもらえて良かったです。我々としても


無意味な争いはしたくありません。


我々がしなくてはならないことは、


台帳に記された人々を救出することです。


我らリーブラ教にオーガス教も協力していただけますか?」





ロザリアが微笑んで提案した。もちろん、オーガス教は



汚名返上のために協力する以外に打つ手がない。



リーブラ教主導で誘拐された人々を救出、奴隷から解放するのだ。



オーガス教は負い目を感じながら、アゴで使われ、



引き立て役を演じるしかないだろう。



『証拠』は現状、今クルームリーネが手にしている台帳しかない。



だから台帳を燃やせば証拠は無くなる。



だが、ここまで悪行が知れ渡ってしまった後では、



台帳を焼くのはむしろ悪手でしかない。



『手遅れ』なのだ。



オーガス教にとって事態を悪化させるだけ。



台帳など無くとも、リーブラ教は教団のネットワークを通じて、



各地の奴隷商人が持っている奴隷に『誘拐されたか?』を質問し、



解放してゆけばいい。しかも調査を名目に



貴族や大商人の屋敷にも、



上から目線で高圧的にズカズカと踏み込める。



貴族ですら『正義の味方』に協力するしかないだろう。



そしてリーブラ教は、誘拐され奴隷にされた人々を次々に解放し、



脚光を浴びるのだ。



リーブラ教は、さぞや楽しかろう。








幸太郎に踊らされてるとも知らずに・・・。








「・・・わかった。上の連中に伝えておこう。この台帳は返す」





クルームリーネは、ちまちまと歩くと台帳をロザリアに返した。



そして、ユニコーンに乗る。





「クルームリーネ殿は、このまま我らに協力しては


いただけないのですか?」





サーラインが尋ねるとクルームリーネは首を振った。





「私は他に命じられてる仕事があるのでな。


このことについては


ダブリンの枢機卿たちから話があるだろう。


私は元々、行方不明のゲーガン司祭とマラケシコフを探すのが目的で


ここへ来ている。まずはユタへ行き、念話でダブリンへ


一連の事態の報告をしなくてはならん」





もちろん、クルームリーネは内心



『お前たちへの協力などめんどくさい』と思っている。



クルームリーネは熱心なオーガス教徒でもないし、



オーガス教の名誉など正直なところ興味もない。



なんなら『タダ飯』のためにリーブラ教に鞍替えしたっていいのだ。



だが、一応、今までタダで飲み食いした分の『義理』はある。





「そのゲーガン司祭とマラケシコフ殿は見つかりましたか?」





サーラインが尋ねた。このことはサーラインとロザリアも



興味がある。正体が人狩りの元締めであったとしても、



『司祭』と『聖騎士』がまとめて消えている。



相打ちになったと聞いてはいるが



30人近い信者ごと死体が消えるなど



状況が思い浮かばない。フェデリーゴ司祭によると



『森に喰われた』らしいという話だが、



『本当なのだろうか?』と思っていた。





もちろん、ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフ、



そして信者たちは仲良く幸太郎の馬鹿でかい



『マジックボックス』の中を、今も漂っているのだが。





大量の死体を平然と持ち歩く幸太郎。まさにサイコ。





クルームリーネはひらひらと手を振って答えた。





「いいや、さっぱりだ。『森に喰われた』という噂が出回っている


そうだが、案外それで正解なのかもしれん。


殺されたと・・・お前たちも思っているのだろう?


無論、私もそう思っている。


だが、死体も馬車も何一つ見つからなくて、


だんだん面倒くさくなってきてた所だった。


そして、そこへ、この報告が飛び込んできたってわけだ。


私は、もう飽きた。死体と馬車を探すのはもういい。


『本当に森に喰われたらしい』と報告して終わりだ」





「そうですか・・・。やはり見つかりませんか」





「お前たちは何か知っているか?」





「いいえ、さすがに噂で聞いたこと程度です。


リーブラ教では調査をしておりませんので」





サーラインは嘘をついた。フェデリーゴ司祭が得た情報を



オーガス教に渡すメリットが無いからだ。



そして、一応ファルネーゼに『秘密にする』と約束もしている。





もちろんクルームリーネも嘘をついている。



ちゃんと手を抜かずに調査を行った。



そして状況からの推測でしかないが、



『黒フードのネクロマンサー』が関わっているかもしれないこと。



そして、もしそうならば、



『黒フードのネクロマンサー』はカーレの冒険者かもしれないこと。



そして『黒フードのネクロマンサー』は



バルド王国に雇われているかもしれないこと。



これらは教えない。



教えるメリットが無い上に、下手に情報が広まると、



バルド王国が情報隠ぺいのために



本気で潰しに来るかもしれないのだ。



何より、あの『血の雨』の中で



活動していたほどのネクロマンサーなら、並大抵の相手ではない。



『黒フードのネクロマンサー』と本気で敵対するのは



『とてつもなく危険』だとクルームリーネは判断していた。





「そうか。じゃあな」





クルームリーネはグレナン司政官にロクに挨拶もせず、



さっさとユニコーンと共に門へ向かった。



無愛想を通り越して、無礼というものだ。





だが、これには理由がある。





クルームリーネは内心、激怒していたからだ。





(グレナン司政官め・・・憶えてろよ・・・。


捕縛した信者を殺し、教会を焼いたのは、


自分が関わっていた証拠を消すためだろう!


自分だけ被害者ヅラして、


まんまと逃げおおせていると思ったら大間違いだぞ・・・。


そのうち然るべき報いをくれてやるわ、ゲス野郎が・・・)





そして、もう1つ。





(あのクソガキどもが! なにが


『アイアロスが剣を抜いて襲いかかってきた』だ!


バレバレの嘘をつきやがって! そんなわけあるか!


アイアロスの仇を討つというわけじゃないが、


『それで騙せる』と私をナメたことは後悔させてやる!)





なぜサーラインとロザリアの嘘が、



あっさりクルームリーネにバレたのか? 



それには理由がある。





前日、サーラインとロザリアは



『クルームリーネは1人で調査に行くだろう』と予想した。



それは正しい。



まったくその通りの行動をクルームリーネはしている。





だが、ここに『アイアロスの行動の予想』が入っていないのだ。





アイアロスは『優等生』だ。



クルームリーネが『教会で待ってろ』と



言ったところで・・・





『私も行きますよ』





と言って聞かない男なのだ。



枢機卿たちから『護衛の依頼』を受けたのだから。



クルームリーネから『おおげさだ、鬱陶しい、来るな』と



言われても『ハイハイ』と笑って、結局ついてくる。





これが理由で枢機卿たちはアイアロスを



クルームリーネの護衛に指名したのだ。



クルームリーネがブーブー文句を言っても、



アイアロスなら微笑んで『柳に風』と受け流し、



必ず同行するはずだから。





・・・しかし、現実は違う結果になっている。





『なぜか』アイアロスはクルームリーネに同行せず、



1人、教会で留守番をしていた。





なぜか? その理由は、実に些細な偶然の出来事のせいである。





アイアロスは前日の夜・・・『寝違えた』のだ。





たったこれだけ。これだけの偶然。



翌日アイアロスはクルームリーネにこう言った。





『申し訳ない。実は昨夜寝違えたようで・・・首と右肩が


動かすと痛いのです。おまけにその影響で右手が


剣を持つどころか、馬の手綱を持つのも難しい状況で・・・。


「治癒の奇跡」をかけてもらったのですが、思わしくないのです。


すいません、クルームリーネ殿』





『治癒の奇跡』は回復魔法の改造。



教会に絶対の信仰を捧げた者にだけ、教えてもらえる。



『大回復魔法』に相当する『奇跡』は



コナではゲーガン司祭しか使えなかった。



他のめぼしい使い手も幸太郎に殺された後である。



そのためアイアロスの『寝違え』は



残っている『下手くそ』信者では治せなかったのだ。



無論、クルームリーネは『奇跡』が



魔法の改造だということは気が付いている。





このアイアロスの申し出にクルームリーネは



『ちょうどいいではないか。おとなしく教会で寝てろ。



こっちは私1人で十分だと何度も言ってるだろう』と



笑いながらパンを頬張った。



クルームリーネなら『回復魔法』で治せるだろうが、



『これで鬱陶しいお目付け役がいなくなって



自由気ままにやれる』とアイアロスの『寝違え』を治さなかった。





これが『アイアロスが1人で教会に残っていた』理由だ。



ささいな、本当にささいな偶然。





サーラインとロザリアは『自分たちに都合のいい状況』に喜び、



『なぜ優等生のアイアロスが



枢機卿たちの命令に背き居残っているか?』を考えなかった。





だから一発で嘘がバレたのだ。



『剣を抜いて、襲いかかってきた』など



『あるわけねーだろうが!』と。



剣を抜けるほど回復しているのならば、



すぐにクルームリーネの後を追い、



ブーブー文句を言うクルームリーネに『ハイハイ』と



笑いながら付きまとっていたはずなのだ。





教会にいたということは『回復していない』証明。



剣が抜けるはずはない。



そして『ツイン・ボルテックス』の発動が



間に合わないように不意打ちを仕掛けたということなのだ。





ロザリアが『右手で剣を持つ事を禁止』したが、



実は最初から右手を動かすと首と肩が痛い、



上手く動かせないという状況だった。



だが、サーラインとロザリアは、それを『禁止事項』の結果だと



勘違いしていたのだ。いや、効果はもちろんあったが、



いわば『重複』していた状態だった。








クルームリーネは、ユタへ行く前に『ガイコツの森』から



戻ってくる信者たちを迎えに行った。用がある。






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