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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 22


 クルームリーネがコナの町に近づいた時、視界に変なものが見えた。





煙だ。





クルームリーネは『ギクリ』とした。





(まさか・・・火を放ったのか!? 教会に!? 教会だぞ!?


そこまでする理由があるのか???)








コナの東門にたどり着いたクルームリーネは、さらに驚いた。



東門が閉鎖されているのだ。



クルームリーネは防壁の見張りに向かって怒鳴った。





「あけろ! 私だ、オーガス教の聖騎士クルームリーネだ!!」





だが、防壁の上の見張りたちは



冷めた目でクルームリーネを見下ろすだけ。



面倒が立て続けに起きてイラつくクルームリーネは、



さらに続けて怒鳴った。





「門ごと吹き飛ばしてやろうか!? ああ!?」





すると、門が少し開き、



儀礼用のフルプレートアーマーを着た騎士が数人出てきた。



この儀礼用のフルプレートアーマーは



見かけだけで、ほとんど実戦では役に立たない。



その代り、とても軽い。軽いと言っても7、8キロはあるが。



この鎧は警察官の制服と同じ用途ということ。





「・・・お帰りなさいませ。クルームリーネ殿。


グレナン司政官様とサーライン殿、ロザリア殿が


お待ちになっております。どうぞ、私たちについてきて下さい」





(・・・剣を抜かないということは、戦う気は無いということか?


罠かもしれんが・・・)





情報が欲しいクルームリーネはユニコーンに乗ったまま、



ついてゆくことにした。





「よかろう。だが、1つ言っておくぞ。


今、私は非常に気が立っている。


下手なマネをすれば・・・手加減は期待するなよ?」





「心得ております。聖騎士と正面から戦うなど愚の骨頂でしょう。


では、こちらへ」





馬に乗った騎士たちの後ろを、クルームリーネとユニコーンが



ついてゆく。どこへ行くのかは、すぐにわかった。





オーガス教の教会だ。





いや、その『跡地』だ。道は見覚えがあるが、近づくにつれて、



どんどん焦げ臭くなってきた。





(やはりあの煙は教会が燃えたのが理由か)





大通りの脇で人々がクルームリーネを見続けている。



その目は敵意に満ちていた。いや、心配そうな目をしている人々も



ちらほらいる。クルームリーネは、だんだん大雑把な状況の予測が



できてきた。





(とにかく何か教会が市民を傷つけるような事件を


起こしたようだな。


行方不明のゲーガン司祭たちと何か関係があるのか・・・?)





行く手に教会の跡地が見えてきた。やはり教会は焼け落ちている。



門のところに3人の人影。待っている人たちがいた。





「お待ちしておりました。クルームリーネ殿」





ロザリアが一歩前に出た。





「まずはこちらの説明を・・・」





「聞いてやる。だが、納得のいかぬ理由だった場合は・・・


覚悟はできているだろうな? アイアロスを殺した報いは


受けてもらうぞ?」





ユニコーンから降りたクルームリーネは苛立った口調で



ロザリアの発言を遮った。





「お前の『禁止事項』で私の魔法を止められるなどと思うなよ・・・?」





これは間違いない。クルームリーネの魔法を『禁止』するなら、



一度に数十もの魔法を禁止することになる。



1秒も効果は無いだろう。





「ブルルッ・・・」





ユニコーンが低くいななくと、急に辺り一面に霧が立ち込めてきた。



霧が発生した瞬間から、急に町の全てが現実感を喪失する。



町も、人影も、まるで夢の中のようだ。



それどころか足元の地面すら、



ふわふわとした曖昧な感覚しか伝えてこない。



そして周囲に、急に人の気配が増えた。



霧に霞む町のあちこちに、黒い人影が歩いているのが見える。



その黒い人影は、どこかで見たことのある人々。



疎遠になった友人、死んだはずの祖父や祖母、両親。



子供のころ遊んだ名前が思い出せない幼児たちが



笑い声をあげながら、霧の中をどこかへ歩み去る。



『遠い日の面影』たち。



そして、全員が背を向け、遠ざかっていくのだ。



誰一人として、こちらを向く者はいない。



次々に黒い人影は現れるが、全てが後ろ姿。



誰もが見覚えがあるのに、こちらを一瞥することも無く



霧の中へ、いずこともなく、消えてゆく。



戻ってくる者は誰もいない・・・。





これはユニコーンの能力『ミスティック・ミラージュ』だ。





伝説でも『ユニコーンを追いかけても絶対に追いつけない』とされる。



それは、この能力のせいだ。



ここにいる人々は自分の心が生んだ幻影。



そうだ、すでに目の前にいるクルームリーネとユニコーンは



『幻影』とすり替わっている。





そして、さらにクルームリーネが自分のスキルを発動させた。



ユニコーンの『ミスティック・ミラージュ』に



自分のスキルを重ねがけしたのだ。





いきなり暗くなり、血まみれの木々が現れ、



『血の雨』が猛烈に降り出した。



さすがに驚いたロザリアとグレナン司政官が小さく悲鳴をあげる。



これはクルームリーネのスキルの効果だ。





『ア・ミラージュ・オブ・マインド』





これはクルームリーネの記憶から作り出した幻影。



ユニコーンもクルームリーネも幻を生み出す能力を持っているのだ。



もちろん、この光景は先ほど『ガイコツの森』で



クルームリーネ自身が『霊感』で見た光景を再現している。





もはやクルームリーネとユニコーンがどこにいるのか、



いや、自分たちの現在位置すら把握できなくなった。



立ち込める霧。



暗くなった町。



突然現れた血まみれの木々。



降りしきる血の雨。



歩み去る懐かしい人々の後ろ姿・・・。





町のあちこちから悲鳴が聞こえる。この2つの幻影は



かなりの広範囲に影響を及ぼすのだ。





「お待ちください、クルームリーネ殿! まずはこの台帳を


ご覧ください!」





サーラインがそう言うと、腰の剣を外し、地面に捨てた。



ロザリアも剣を捨てる。





(・・・?)





クルームリーネはサーラインたちの後ろ、



少し離れた位置からその様子を見ていた。





「どういうことだ」





クルームリーネの言葉にサーラインは台帳を掲げて



『説明』を始めた。



サーラインたちはクルームリーネとユニコーンが



どこにいるか把握できない。





「この台帳は・・・人狩りたちが人々を誘拐し、


奴隷として売り払っていたことを記した台帳なのです。


そして、この台帳にある決裁者の・・・元締めのサインは・・・


『ゲーガン司祭』のサインなのです!!


コナのオーガス教は人狩りの巣窟と化していたのです。


ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフは聖職者の皮をかぶった


人狩りの元締めだったのです!」





「なっ、なんだと!?」





クルームリーネは思わず叫んだ。



無論、それでもサーラインたちは



クルームリーネとユニコーンがどこにいるのか掴めない。



この両者の『幻影』はそんなに甘いものではないのだ。





「本当なのです! どうぞ、手に取って確かめて下さい。


クルームリーネ殿なら、本物のゲーガン司祭のサインかどうか、


判別できるでしょう!」





サーラインが台帳を前に差し出す。しばらくすると、



いきなり台帳が消えた。手に持っていたにも関わらず、



いつクルームリーネが持って行ったのか全然わからない。



姿も見えなかったし、指にすら何の感覚も伝わらないのだ。



これはユニコーンの幻影の効果。





(恐ろしい幻影だな・・・。全く見えないし、気配もつかめない。


周囲は『誰か』の気配だらけで、誰なのか区別は不可能・・・。


おまけに・・・あそこに歩いているのは、私の祖父・・・か。


そして、あっちの背中は、アイアロス殿・・・だな。


それにしても、この禍々しい『血の雨』は、


いったい何の景色なんだ!?)





サーラインは内心『なんて薄気味悪い能力だ』と悪態をつく。





一方、台帳を受け取ったクルームリーネは驚愕の表情で固まっていた。



クルームリーネは別にオーガス教に思い入れはないので、



ゲーガン司祭のサインが本物なのか偽物なのか、正直よくわからない。





だが、それとは別に見覚えのある筆跡もあったのだ。



それは先ほど『ガイコツの森』についてきた



6人の信者のうちの1人の筆跡。



オーガス教の枢機卿の要請でクルームリーネはコナへ来ている。



昨日、教会でタダで飲み食いしてる時に、



『あれが食べたい』



『ワインを持ってこい。・・・違う、赤じゃない、白だ』と



ずうずうしく要求してる時に、



その注文を書き留めていた男の筆跡に酷似していたのだ。





(台帳の内容から判断しても・・・


このコナ近辺で人々を誘拐し、


遠い町へ『出荷』していたのは間違いなかろう・・・。


教会が焼け落ちているほどだ、ゲーガン司祭のサインは


他の書簡と比べてみても、本物だと言い切れるということか。


なんということだ・・・。


防壁の見張りや、町の人々の


冷たい視線も仕方あるまい・・・)





ロザリアが『見えないクルームリーネ』に説明を続ける。





「アイアロス殿のことは申し訳ありません。


我々も殺したくはなかったのです! 


ですが、この台帳を見せて協力を要請したところ、


『オーガス教の恥を世間に知られるわけにはいかない』と


剣を抜き、襲いかかってきたのです。


私とサーライン様は、止むを得ず・・・


止むを得ず、戦うしかありませんでした!


殺したくはなかったのです!」





ここでグレナン司政官も謝った。





「教会を焼いたのは私だ。申し訳ない。


人狩りの巣窟となっていた教会は、もう誰一人として


信じられなくなっていた。


捕縛した信者ですら、今まで何をしてきたかわからない。


私はファルネーゼ辺境伯から、このコナの町を預かる身として、


顔から火が出るほど恥ずかしかった。


自分の足元で、こんな醜い犯罪が行われていたことに、


『まったく』気付いていなかったのだ。


このままではファルネーゼ辺境伯に合わせる顔がない。


メンツを潰された私は、怒りに震え、怒りのままに


信者を殺し、教会を焼いてしまった・・・。


今は少し頭が冷えた。


我に返った私は教会まで焼いてしまったことを悔いている。


申し訳ない、クルームリーネ殿、謝ろう」





そういってグレナン司政官は涙ぐんだ。



それを見たサーラインとロザリアは



『大した演技だ。証拠隠滅のために焼いたくせに。



ゲーガン司祭が見たらなんと言うだろうな』



と内心あきれた。



人狩りの仲間だったくせに、見事な被害者ヅラである。





繰り返すが、これが幸太郎の



『利用させてもらう』というセリフの本質だ。



何も関わっていた証拠を残していないということは、



バレたら『絶対にこういう態度をとる』に決まっている。





そして、もちろんクルームリーネも騙せない。





(この『上様』はお前のことだろうが、グレナン司政官め・・・。


ダブリンにいるオーガス教の枢機卿で、


遠いコナから『毎月』金を受け取ってる奴なんて


誰もいないんだよ!!)





だが、このことは腹に飲み込んでおくしかなかった。



少なくとも、コナのオーガス教が



人狩りの巣窟になっていたことだけは、



間違いないようなのだ。



ここでグレナン司政官をブチ殺してもメリットが無い。



利用する方が得だろう。






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