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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 21


 クルームリーネは、思わず後ずさった。





「こ、この骨は、『この子たち』は、まさか・・・


エルロー辺境伯が殺した子供たちなのか・・・」





『面倒なものを発見してしまった』とクルームリーネは



苦い顔になった。ここに埋まっているのは、



『黒フードのネクロマンサー』が殺した



ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフ、



そして信者たちだと思い込んでいたのだ。





しかし、ここに埋まっているのは、子供たちの骨ばかり。



無論、全部掘り返したわけではないが、



そもそもゲーガン司祭たちの中に子供は1人もいない。



そしてこれほど大量の子供たちの死体が『埋葬』ではなく、



『捨てられている』といえば、



エルロー辺境伯の『黒い噂』以外に思いつくものがなかった。





証拠は無いが、その推測は正しい。





「ゲーガン司祭たちがどこにいったのかという謎は残るが、


この子たちを弔いに来たというのか、『黒フードのネクロマンサー』は。


そして、偶然『黒フードのネクロマンサー』を発見した


ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフは襲いかかった。


子供たちの弔いの邪魔をされ、


怒った『黒フードのネクロマンサー』は


マラケシコフたちを返り討ち。皆殺しにして死体をどこかへ


隠したというわけか・・・? 


しかし、しかし、そうならば・・・。


まずい、これはまずいぞ」





クルームリーネが苦い顔になるのも仕方ないだろう。



なぜならエルロー辺境伯が虐殺した子供たちは



『調査したが見つからなかった。噂は根も葉もないデタラメである』



という建前をバルド王国は崩していないのだから。



ところが、ここに子供たちの死体があり、



しかもそれを『黒フードのネクロマンサー』が



弔いにきているとしか思えない状況が出現した。





「まさか、『黒フードのネクロマンサー』は


バルド王国に雇われているのか? 


繋がっている? グルなのか?」





クルームリーネがそう思うのも仕方ない。



なぜなら一応ファルネーゼはバルド王国の辺境伯だから。



幸太郎は確かに、今回は報酬ゼロという条件で



『バルド王国のファルネーゼ辺境伯』に雇われている。





ややこしいことになっているのだ。





「エルロー辺境伯が邪魔になったから殺すように命じられたのか?


だから頑なに正体を隠すし、


さっきの『意味不明』な状況をわざわざ作ったということか?


『繋がり』がバレると困るのはバルド王国の方か!?


だから中央政府は『黒フードのネクロマンサー』に対して


全く、銅貨1枚も賞金をかけていないのか!


我々オーガス教も、リーブラ教も奴を探して殺すように


指令が出ているが、もし奴がバルド王国の貴族や中央政府と


通じているのなら、踊らされているのは、我々の方だ。


中央政府は最終的に、勢力が強くなりすぎたオーガス教と


リーブラ教をつぶすつもりなのかもしれない・・・」





クルームリーネの顔に暗い影がさす。





「いかん・・・。この発見を報告するわけにはいかん・・・。


何がどう転がるか全く見当がつかない、


何も見つからなかったことにするしかないだろう・・・。


バルド王国から我々への攻撃が始まる『きっかけ』になりかねん。


『森に喰われた』という噂を利用して隠すしかない。


待たせてある6人も・・・始末しなくては・・・」





『始末しなくては』と熱に浮かされたように



繰り返しつぶやくクルームリーネ。



もう、どこかおかしくなっている。





土を戻し、谷を出て、ゆらゆらと森の出口を目指して歩く。



だが、来た時と比べて顔つきも、姿勢も、歩き方もおかしい。



自分では正常だと思っているが、



すでに正常な判断力は無くなっている。



その証拠に『始末しなくては』と、ずっと言い続けているのだ。





そう、『血の雨』を浴びすぎたせいである。





心や魂は物質的なものではない。だから100%完全に



外部の影響を遮断する方法も無いし、



ましてや、ここにあるのは



拷問を受けて殺された子供たちの強力な怨念だ。



水面に波紋が広がるように、認識できなくとも『波』が伝わり、



水に絵の具が溶けるように混ざり続けるのである。





幸太郎が避雷針代わりになったような特殊なパターンは例外だ。



ただ、その幸太郎とて、最初は死にかけた。





自分を見失わない方法はただ一つ。自分を客観視して、



『波』が来ていることを認識し、



自分にどんな変化が起きているかを、



離れた位置から観測し続けることだ。





クルームリーネが森の出口に差し掛かった時、彼女はもう、



お供の信者たち6人を全員殺すつもりでいた。



『そうするしかない』と思い込んでいる。





「始末しなくては・・・始末するしかない・・・。


これを公表はできないのだから・・・。


始末しなくては・・・」





クルームリーネの視界に信者たちが見えたとき、



予想外のことが起こった。





「あ! お待ちしておりました! 大変です! 教会が・・・


リーブラ教の襲撃を受けました!!


アイアロス様が討ち取られ、お亡くなりに・・・!!」





お供の信者は6人だった。



だが、そこに新たな『7人目』がいたのだ。



そして、この『変化』と『ニュース』の驚きが



クルームリーネの攻撃衝動を押しとどめた。





「ブルルッ!!」





さらにミストラルが攻撃態勢をとり、強く、いなないた。



そしてやや頭を低くすると、額のツノが輝き、強い光を放つ。





クルームリーネはその白い光を浴びると、目を見開いて



ビクッと震え、硬直。



その後、2,3回頭をブンブンと振って



『すまん、もう大丈夫だ』とミストラルへ礼を言った。





(いかん、長く『血の雨』を被り過ぎていたようだ。


危ない、危ない・・・。ミストラルがいて、本当に良かった。


私まであの怨念に飲み込まれる所だった・・・。


ここは人が立ち入らない方がいい。


ネクロマンサーのジョブ以外の者なら


5分と正気を保てないだろう・・・)





正気に戻ったところで、改めてニュースの内容を思い出し、驚いた。





「な、なんだと? さっき何て言った!? アイアロスが死んだ!?


リーブラ教の襲撃!? 何を言ってるんだ、


ちゃんと詳しく説明しろ!!」








クルームリーネは、一通り詳しく説明を聞いた。



この信者は商人の使いだ。つまり出家しているような



信者ではなく、普段は商売をしている一般人。



リーブラ教がオーガス教の教会を襲撃したと聞いた商人は、



自分の店員を武装させ、クルームリーネに知らせるために、



急遽、馬を走らせたのだ。





当然だが、もうこの時点でとっくに教会は焼け落ちているし、



教会にいた信者たちは皆殺しになっている。



ただ、このメッセンジャーは、そこまで見る前にコナの町を



飛び出していた。だから、そこまでは知らない。





「アイアロスを殺したのはリーブラ教のサーラインと


ロザリアか! あのクソガキどもが!


グレナン司政官は一体何をしているのだ!?


ええい、私はすぐにコナへ戻る!」





「お気をつけて! なぜ彼らが襲い掛かってきたのか、


全く理由がわかりません」





「直接聞くからいい! 


お前たちは巻き込まれないように、ゆっくり来い。


場合によってはコナの町は戦場になるぞ!」





「は、はい!」





クルームリーネはユニコーンにまたがると、今度は逆に



コナの町へ向かって疾走した。





(くそっ、面倒な事ばかり起きやがる!


状況証拠からの推論に過ぎないが、


『黒フードのネクロマンサー』が


ここにいた可能性は高い。


そしてバルド王国の貴族に雇われている可能性も高い。


目的は何だ?


黒幕は誰だ? 


もし、奴がここにいたのならば、


一昨日ゴブリンの巣穴を壊滅させたのは別人か?


いや、そちらこそ確かな証言がある。ならば奴はカーレで


突然ゴブリンの巣穴の情報を得て、いきなり巣穴を壊滅させて


女性たちを救出したのか? 


時間をかけて事前調査をしていた結果ではないのか?


・・・まさか、『黒フードのネクロマンサー』はカーレの冒険者!?


しかし、それほどのネクロマンサーが


カーレにいるなど聞いたことがない。


もし冒険者なら、いきなり聞いた情報からすぐに巣穴へ向かい、


その場で状況を把握し、巣穴を壊滅させ、捕えられた女性たちを


完璧に救出したことになるぞ・・・? 


本当にそうなら、そいつは


人外の武力と知力を備えた、正真正銘の怪物だ!!


どうする・・・? 探してみるか? 


しかし私ですら勝てる保証は・・・。


それに『子供たちの遺体』の件もある。


公表するわけには・・・。


あー! くそっ、めんどくさい!! ややこしい! イラつく!!





『パス』!!





いったん、そっちは『森に喰われた』ままでいい!


それより教会が襲われた方だ! いったい何を考えている!?


戦争する気か!?)





ユニコーンは疾風のように荒野を駆け抜けてゆく。



クルームリーネは森での調査の結果を、



とりあえず棚上げすることにした。



今はそれどころではない。








このクルームリーネによる調査は、完全に幸太郎の計算外だった。



まさかこれほどの人物が、



しかも、よりによって死霊術を使える人間が



綿密な調査を行うなど、思ってもみなかった。



特に、森の奥までやって来るなど有り得ないと考えていたのだ。



あの制御が効かなくなり『止まなくなった血の雨』は



ネクロマンサー以外には耐えられないだろうから。



どれほど強力なスキル、元素魔法や召喚魔法が使えたとしても、



何の役にも立たない。



誰であろうと、ひとたまりもないはずなのだ。



そして実際にネクロマンサーでもある



クルームリーネ自身さえ



少しおかしくなっていたほどの怨念。



ユニコーンが助けてくれなければ、



彼女だって狂っていたはずである。






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