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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 17


「アイアロス様!!」





「こっ、これは一体どういうことですか!?」





「聖騎士を手にかけるなど、宣戦布告と見做しますぞ!」





礼拝堂に入ってきた信者は6人。



全員が口々にサーラインとロザリアを責め立てた。



しかし、ロザリアは顔色ひとつ変えず、逆に質問をする。





「この台帳に見覚えのある者は?」





『この台帳』とは、もちろん奴隷の入荷・出荷を記した台帳のことだ。



6人の信者は2秒ほど台帳を凝視していたが、



その中の1人が『あっ!!』と声をあげ、



他の4人も驚きの表情を浮かべた。





「有罪」





サーラインはそう言うと、6人全員の首を飛ばした。



1人だけきょとんとした顔だったが、サーラインは『ついで』に殺した。



どうせ奉ずる神が違うのだ。



特にこれといって生かしておく理由が見当たらない。



何しろ『女神リーブラを信仰していない』ということ自体が



地獄に落ちるに十分な『罪』なのだから。





もちろん、これはオーガス教なら逆になる。



しょせん、宗教は他人を認めず拒絶することに心血を注ぐだけだ。



もし他の宗教を全て征服すれば、今度は内部で殺し合いを始める。



・・・神の名のもとに。





「かかれ!!」





礼拝堂の外へ出たサーラインは、教会の敷地の外で待機していた



リーブラ教の信者へ大声で号令を下した。





その号令を聞いたリーブラ教の信者たちが



建物の陰から飛び出し、剣を抜き、



オーガス教の教会へとなだれ込んでくる。





オーガス教の信者たちとリーブラ教の信者たちで戦いになった。





・・・初めのうちだけ。





サーラインはアイアロスの首を脇に抱え、オーガス教の信者たちに



降伏を呼びかけた。



もちろん内心では降伏など1ミリも期待していない。



これはロザリアも同じ。





「ここにゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフが人狩りどもの


元締めであった証拠がある!!」





サーラインの指示でロザリアが台帳を掲げた。





「我らリーブラ教は、誘拐され、奴隷とされた人々を


救出にきたのだ! 歯向かうものは全て人狩りと見做し、斬る!」





今度はサーラインがアイアロスの首を掲げた。





「残念だが、アイアロス殿はオーガス教が


人狩りの巣窟だったことを説明すると、


オーガス教の恥を世の中に知られたくないと言って逆上し、


斬りかかってきたのだ。


ゆえに、止むを得ず、斬った!!


我々としては斬りたくなかった。協力して欲しかった!


だが、聞き入れてはもらえなかったのだ。


もう一度言う!


オーガス教の者どもよ、抵抗すれば、人狩りと見做し、


アイアロス殿同様に斬る!!」





このサーラインの言葉で抵抗を止める者もいた。



だが、ゲーガン司祭が自白した通り、コナのオーガス教は



人狩りの巣窟なのだ。アイアロスの首を見た人狩りたちは



我先にと逃げ始めた。





・・・逃げられるはずもないのに・・・。





すでに教会の敷地の外は、全て武装した



リーブラ教の信者が取り囲んでいる。



昨日からそういう準備をしてきたのだ。逃げ出すなど、



想定内もいいところである。



そして、サーラインとロザリアから



『逃げ出す奴は全て殺せ』と命令が出ていた。





次々と殺されてゆくオーガス教の信者たち。



誰が人狩りで、誰が一般の信者かなど、リーブラ教にとっては



どうでもいいこと。全く戦う気が無い者を除けば、



全て殺す予定だった。



捕縛した人々は、この後の『イケニエ』のために



『わざと』残してある。



『降伏したら助けてもらえる』?



現実をナメすぎだ。





サーラインとロザリアは教会の隅にある小屋から、



地下礼拝堂へと降りて行った。ゲーガン司祭が自白したので



情報には全く間違いがない。





地下礼拝堂は人間の入った檻でいっぱいだった。





元々は地下礼拝堂と、地下墓地だったのだが、もう見る影もない。



地下の隅に墓地にあった干からびた死体が



山積みになって放置されている。



礼拝堂の祭壇やオーガス像は撤去されて無くなっていた。



商売の邪魔だからだ。



もう、ここはただの監獄だ。誘拐した人々を入れておくだけの。





「私たちはリーブラ教の聖騎士サーラインと、


同じく聖騎士ロザリアです!


みなさんを救出にきました! もう安心です! 家に帰れるのです!


オーガス教の人狩りどもは、女神リーブラの名のもとに、


我らが制圧しました!」





ロザリアは檻の中の人々に向かって宣言した。



最初のうちは事態が飲み込めず誘拐された人たちは静かだった。



だが降伏した人狩りによって檻の錠が外されると、



人々から歓声があがった。





「家に帰れるんだ! 帰れるんだ!!」








騒ぎを聞いた町の警備隊が、オーガス教の教会へ駆けつけた。



だが、リーブラ教の信者が『誘拐された人々を救出にきた』と



伝えると、それはすぐさま『グレナン司政官』へと報告された。



事の真偽はともかく、リーブラ教の信者が



ユタ、カーレからの応援を含めて60人くらい、



そしてアウシタンが2人も出動しているのだ。



町の警備隊が10人くらいいたところで、勝負にならない。



上の判断を仰ぐより、どうしようもなかった。





グレナン司政官が部下たちと現場に到着すると、



信者から報告を受けたサーラインとロザリアが待っていた。





「これはどういうことだ!? 説明を・・・」





しかし、その言葉を遮るようにサーラインが『台帳』を突きつけた。





「グレナン司政官。こちらがお聞きしたい。


この台帳はゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフが


人狩りの元締めであった動かぬ証拠。


ゲーガン司祭のサインも本人のもので間違いありません。


さて・・・この台帳にある


『上様』とは、まさかグレナン司政官のことではありますまいか?


ダブリンの枢機卿の方々も、内容を見る限り、


グレナン司政官以外に


該当する人は見当たらないとの見解を示しました。


返答はいかに?」





グレナン司政官は『台帳』を見ると、驚愕の表情で、びくっと震えた。



何度も見たことがあるのだろう。



もう自白したも同然だが、相手は司政官、そして男爵でもある。



証拠がなければ断罪はできない。



一応貴族なので『魅了』や『支配』をかけるわけにもいかない。





そして、サーラインとロザリアも断罪する予定はなかった。



『利用する』だけだ。





・・・『幸太郎の思惑通り』に。





「・・・いや、こんな台帳は知らぬ。これは何の台帳だ?


な、なんだと? コナの付近で誘拐した人々を


奴隷として売っていただと!?


オーガス教がそんな卑劣なマネを! この台帳が証拠か!


『上様が誰かはわからぬが』許してはおけぬ!!


ファルネーゼ辺境伯からコナを預かる身として、


リーブラ教に全面的に協力しよう!」





グレナン司政官は、連れてきた直属の部隊を



オーガス教の敷地へ突入させ・・・





『皆殺し』を始めた。自らも剣を持って。





すでに捕縛されている信者も、見境なく殺してまわった。



人狩りかどうかなど問題ではない。



『何か知ってるかもしれない』から殺すのだ。





これはサーラインとロザリアの予定通りでもある。



リーブラ教としては『できるだけ人を殺したくなかった』という



建前を崩さなくて済む。



だが、これで『異教徒』を皆殺しにできるのだ。



しかも、あくまで殺したのはグレナン司政官だ。



捕縛した信者たちは全て『イケニエ』だ。



グレナン司政官に殺させるため。グレナン司政官が



リーブラ教の味方であることを証明するための。





そして最後にはオーガス教の教会に火を放ち、



教会は焼け落ちた。



グレナン司政官は自分が関わった証拠が



何か残っているかどうかが不安だったからだ。



何も証拠は残していないはずだが、



万が一関わった証拠があるとまずい。



つまり、グレナン司政官にしてみれば、



『これで一安心』というわけである。



イネスの予言通りだ。





最初から最後まで、完全に幸太郎とイネスの思惑通り。



グレナン司政官は、自分が教会に火を放つことまで、



誰かに操られているとは思ってもいないだろう。



会ったことも無い人間から、ここまでいいように踊らされてるなど



考えたこともないはずだ。





だが、幸太郎に操られているのは事実だ。



あの時幸太郎が、数秒で考えた邪悪なシナリオ通りに、



オーガス教も、リーブラ教も、グレナン司政官も、



1人残らず血まみれになって踊り狂っている。



死体の数はすでに30人を越えた。





そして、全員が誰かに操られているなどとは思いもしない。



全て、自分たちで考え、自分の意志で実行したと思っているのだ。





『それが一番気分がいい』のだから。






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― 新着の感想 ―
幸せ太郎と書いて幸太郎なんて名前なのに悪魔も真っ青なサイコパス このサイコパス敵に回すと怖いわ〜
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