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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 16


 翌日。サーラインとロザリアは、待ち続けていた。



ローディストのクルームリーネが『ガイコツの森』へ



出かけるのを。





そして、その時はやってきた。しかもあっさりと。





クルームリーネは朝の9時近くになると、ユニコーンにまたがり、



数人の馬に乗った信者を引き連れて



コナの町の門から出て行ったのだ。



やはりアイアロスはついて行かない。





サーラインとロザリアの予想通りである。



まあ、当然と言えば当然だ。持っている情報の差が、



そのまま結果に出ているだけ。ただし、実はこの時、



1つだけサーラインとロザリアが知りえぬことがあったのだ。



この結果は『予想通り』なのだが、



実は『偶然の産物』でもあった。





アイアロスとクルームリーネは、同じコナの町に



サーラインとロザリアが来ていることはもちろん知っている。



しかし『知っている』だけだ。



この2人がオーガス教の教会を襲いに来たとは



考えたことも無い。別に同じ町にリーブラ教の



聖騎士が2人いるからといって特段挨拶に行ったりもしない。



そもそもオーガス教とリーブラ教は仲がいいわけではないので、



わざわざ会いに行く理由が無いのだ。



だが、もし会いに行っていたら、



教会に集まっている信者の数や様子、



そしてなぜ聖騎士が2人も集まっているのかに疑問を感じ、



この後の展開は変わっていたかもしれない。



『これだけの人数。何をする気だ?』と。





情報の差とは、かくも恐ろしいのだ。








クルームリーネがコナの町から出発して1時間後。



教会にある大きな時計を見て、サーラインが作戦の決行を宣言した。





まず、サーラインとロザリアがオーガス教の教会へ



アイアロスを訪ねて行った。



教会の礼拝堂へ入ろうとすると、



オーガス教の信者たちがサーラインとロザリアを止めた。





「今、礼拝堂には入れません。アイアロス様はゲーガン司祭たちの


無事を大神オーガスへ祈っておられます。


もうしばらくすれば終わりますので、それまで、


どうかここでお待ちを」





サーラインは穏やかな笑顔でオーガス教の信者たちを押しのけた。





「そのゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフ殿について、


情報が入ってきたのだ。火急のことゆえ、無礼は承知だが


入らせていただく」





サーラインもアイアロスに劣らず美男子だ。



その笑顔で言われると、人はどうしても強く出られない。



そして、やはり美しいロザリアも爽やかな笑顔でうなずく。



オーガス教の信者たちはあっけなく通してしまった。



どのみち、力づくでは聖騎士を止められないし、



ロザリアが小脇に抱えている少し膨らんだカバンに



『何か手がかりが見つかったのか?』と期待してしまったのだ。





「少し事情のある話ですので、私たちとアイアロス殿だけに


してください」





そう言って、ロザリアは礼拝堂の扉を閉めた。



これで詰みだ。



女性と子供たちに大人気のアイアロスは間もなく死ぬ。





礼拝堂の中のアイアロスは片膝をつき、左手で拝む仕草を取り、



『大神オーガス像』の前で祈っていた。



オーガスの正体は『大悪魔ルキエスフェル』なので、



祈ったところで無駄なのだが、



アイアロスは知らないのだから仕方ない。





「アイアロス殿、祈りの最中に失礼する。


しかし、火急の用なのです」





サーラインとロザリアは祈り続けるアイアロスへと



歩みを進めた。



アイアロスはサーラインとロザリアが接近すると、



祈りを中断し、立ち上がる。



さすがに無防備に背中を向けたままで



隙だらけなどという愚かな聖騎士はいない。





「祈りの最中に入ってくるとは、いささか無粋ではありませんか?


しかし、それほど急ぎの用とは何事です?」





ロザリアがサーラインより少し前に出た。





「ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフ殿について、


重大な情報が入りました。まずはこの台帳をご覧ください」





そう言うとロザリアはカバンから奴隷の入荷・出荷を記した



台帳を取り出した。





「なんですか? 台帳? いったい何の・・・?」





アイアロスが左手を台帳へ伸ばした瞬間、



ロザリアがスキルを発動した。





「スキル使用禁止! 右手で剣を持つ事を禁止!」





「!!」





アイアロスは踏み込んでくるサーラインに反応し、



一瞬左の腰にある剣を反射的に抜こうとした。



だが、剣の柄を掴もうとする右手が直前で止まる!



ロザリアに『禁止』されたからだ。





アイアロスはサーラインから距離を取ろうと飛び退く。



だが、サーラインの踏み込みも速い。





アイアロスはスキルの発動も禁止されている。



左手では剣を抜きにくいので、サーラインの剣を



右手を犠牲にして防ごうとした。





しかし、サーラインのスキルを使った剣を止められないことは、



アイアロスも知っている・・・。





「『月光剣』!!」





サーラインの剣が光を帯びた。そして剣は三日月のような



光の軌跡を残し、弧を描く。





アイアロスの右手と首は切断され、礼拝堂の床に転がった。



床に転がってなお、アイアロスの顔は美しい。



まるで眠っているかのような死に顔である。



アイアロスの体は血を吹き出しながらオーガス像に激突し、



倒れ、動かなくなった。





サーラインのスキルは『月光剣』。



その能力は『空間に断裂を作る』こと。夜に使用すると、



剣の軌道の残光が三日月のように見えることから、



この名がついた。



空間そのものを斬るため、物理的防御も、



魔法による防御も無意味。わかりやすく言えば、



ドラゴンの『ドラゴニック・バリア』や『竜鱗』ですら



豆腐のように切れるということだ。





ただし、基本的に剣の届く範囲しか効果が無く、



やはり1日3回以上発動すると激しい頭痛がするのは



他のスキルと同じ。



そういう意味では使い勝手の良くないスキルと



言えなくもない。



しかし、使いどころを間違えなければ効果は絶大。



『半実体』のカース・ファントムですら、一撃で冥界送りに



できるだろう。半分は実体なのだから『月光剣』の影響は免れない。





ロザリアのスキルは『禁止事項』。



ターゲットを指定して、相手に対し強制的に2つのルールを課す。



『○○してはならない』という行動制約をつけることができるのだ。



しかも、このスキルは1日に20回も使える。





非常に汎用性が高く、応用の効く、便利な能力だが、



実はそんなに強くはない。



効果範囲もロザリアから30メートルくらいで限界。



そしてロザリアから離れれば離れるほど、強制力が弱まり、



すぐに効果が切れてしまう。



その上、『呼吸禁止』『心臓を動かすのを禁止』など



生命に関わるような命令は全然効かない。



人間の生命力はそんなに弱くないのだ。



また一度の命令で複数の事柄を禁止すると



あっという間に効果が切れる。



例えば、先ほどのアイアロスで言うと、



『武器を持つ事を禁止』と言えば、



右手、左手、口でくわえるなどの手段に加え、



剣、槍、斧、ハンマー、ナイフや弓など



様々な種類の武器を持つ事もできなくなる。



一度に複数の選択肢を封じることになるが、その分効果は薄くなる。



アイアロスなら1秒もかからず打ち破るだろう。



また『魔法使用禁止』とするなら



シャオレイ相手だと数十もの魔法を禁止することになり、



やはり1秒も効果はでない。



バーバ・ヤーガや、バーバ・ババなら



そもそも全く効果が無いだろう。





ただ、これほど便利なスキルも珍しいので、リーブラ教では



重宝されている。



『嘘をつくことを禁止』『答えないことを禁止』とすれば、



自由に相手を自白させられるし、



落下する花瓶に『落下禁止』と言えば、



花瓶は10分くらい空中に浮いたままだ。





そして今回アイアロスに『スキル使用禁止』としたように



限定的な使い方をすれば、例え相手が聖騎士だろうと、



少なくとも30秒くらいはスキルの発動を阻害できる。



ちなみにロザリアが最もよく使うのは『目を開くことを禁止』だ。








アイアロスの体がオーガス像に激突した音を聞いた信者たちが、



『何事か』と、慌ててドアを開け、礼拝堂に入ってきた。



しかし、手遅れだ。



信者たちは床に転がるアイアロスの首を見て悲鳴を上げた。






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