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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 15


 会議があった翌日、サーラインとロザリアは昨日のうちに



準備した信者たちの部隊を、コナの町へ送り始めた。



サーラインは第一陣と共に早朝、コナへ向かった。



一応はバレないように馬車数台で小分けにしてある。



残りの部隊はロザリアが指揮を執り、順次、コナへ向かう。



ロザリアは最後の部隊と共にコナの町へ入った。



コナの信者の部隊と合わせれば、総勢60名にもなる計算だ。



ユタとカーレのリーブラ教の教会は空っぽになるが、



何も問題にはならない。



コナのオーガス教の教会さえ潰せればいいのだ。





コナの町の検問所も、ほぼ、問題なく通過。宗教関係者、



そしてサーラインとロザリアの『聖騎士』の肩書のせいだ。



日が傾くころには襲撃を実行できる手筈となっている。





しかし、ここで1つ問題が発生した。





サーラインとロザリアがコナの町へ入ったあと、信者の1人が


次のような報告をしたのだ。





「先ほどオーガス教の聖騎士、アイアロスとクルームリーネが


来ました。教会へ入るところを確認しております」





サーラインとロザリアは顔を見合わせて、表情が曇った。



襲撃計画をそのまま実行すると、この2人の聖騎士と



正面衝突することになる。





あちらも聖騎士2名。こちらも聖騎士2名。



どちらが勝つか見通しが立たない。



もし、サーラインとロザリアが負けた場合、



信者の部隊がどれほどいても、



アイアロスとクルームリーネには歯が立たないだろう。



それほどまでに聖騎士は強いのだ。





「まずいですね・・・。


おそらくは一向に情報が集まらない、


ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフの調査に来たのでしょう」





「『森に喰われた』という話だからな。


死体が一切消えたのなら、


どれだけ調査しても真相にはたどり着くまい。


業を煮やしてオーガス教の枢機卿たちが聖騎士を動かしたか」





「聖騎士マラケシコフが消えたままですからね。


『自力で戻ってこない』以上、誰もが『殺されたか』と疑うのは


無理もないことです。


しかし、これはまずいことになりましたね。


私たちが奇襲を仕掛けても、確実に倒せるのは1人だけ。


どうしても、残った方と衝突します」





「アイアロス殿とクルームリーネ殿か・・・。


やりにくい相手だな。


もちろん、彼らの能力を全て知っているわけでは


ないのだが、『公表している』能力だけでも厄介だ。


アイアロス殿のスキルは『ツイン・ボルテックス』で、


クルームリーネ殿は魔法が得意だったな」





「『ツイン・ボルテックス』は2つの魔力の渦を作り出すスキル。


弓矢、投石どころか人間ですら巻き込まれたら


枯草のようになす術も無く高速で回転します。


クルームリーネ殿の魔法は『マジックアカデミー』主席クラスです。


そして彼女のテイムしているユニコーンも厄介です」





アイアロスの持っているスキル『ツイン・ボルテックス』は



攻防一体の非常に使い勝手のいい能力だ。



最大で直径4メートルほどの円盤状の魔力の渦を作り出す。



剣だろうが槍だろうが魔法だろうが、



渦に触れれば巻き込まれ、



渦の中をグルグルと高速回転してしまう。



しかも、最大出力なら1トンくらいの物体を巻き込み、



空中で回転させることが可能。1トンを超える獣でも、



渦に入れば耐えるだけで、全く動けなくなってしまう。



軽自動車が空中でグルグルと高速回転するところを



想像すればいい。



人間など木の葉のようなものである。



それを2つ発生させるのだ。魔力の渦も、自分から最長で



10メートルくらいまで遠くに動かすことができた。



高さ10メートルから落とされるだけでも、



大抵の兵士は戦闘不能になるだろう。



攻撃にも防御にも優れた、使い勝手のいいスキルである。





また、アイアロスはオーガス教の聖騎士の中では、



特に人気のある男だった。



男でもため息が出るような美形。女性の信者からの求婚も絶えない。



もちろん、貴族からの求婚もだ。



『神に仕える身であり、まだまだ修行中』と全ての求婚を



断っているが、諦めきれない女性も多いという。



また、笑顔を絶やさぬ優しげな雰囲気は子供たちからも



大人気だ。『ツイン・ボルテックス』をゆっくり回転させ、



子供たちを空中で回す遊びには、子供たちの行列ができる。



アイアロス目当てにオーガス教に入信する者も多い。





逆にクルームリーネはあんまり愛想がよくない。



見た目は背の低い未成年の女性。



はっきり言えば小学生程度。



しかし、この外見には1つの噂がある。



『若さを保つ秘法が失敗して、子供の姿に戻ったあげく、



そこから成長しなくなった』というもの。



つまり年齢不詳。



魔法の腕前は達人クラスで、様々な系統の魔法を使いこなす。



また自分でも新しい魔法を開発し続けている。



さらに消え去った古の魔法の探究をする



『シーカー』でもあった。





そして、クルームリーネは魔法だけが強いわけではない。



物理攻撃として、投げナイフやショートソードを使いこなす。



モコと同じ戦闘スタイルということだ。



召喚魔法でしもべを呼び出し、戦わせることもできるが、



魔法以外で最も厄介なのはテイムしている



『ユニコーン』だろう。



白馬の姿をした幻獣。パステルカラーのたてがみや尻尾。



額の白い角など、美しい姿をしている。



だが、その白い角が光ると、様々な力を発揮する。



魔法や幻を打ち消し、自分と主を守る



バリアも発生させることができた。



また、ユニコーンは馬よりも早く駆け、



体当たりすれば象をも跳ね飛ばし、



その光る角の一撃はドラゴンの『竜鱗』をも貫通するのだ。








「ロザリアのスキルで動きを封じ、


私の『月光剣<ムーン・スラッシャー>』で


倒すとしても、アイアロス殿とクルームリーネ殿、2人同時に


相手するのは厳しいな」





「無傷で倒せるのはどちらか1人だけですね。


奇襲が効くのは最初の1人だけですから、


残った方とは正面から戦うしかありません。


しかし、どちらが残っても命がけの戦いになるでしょう」





「どうにも良くない展開だな・・・。


こちらの正義を示すためにも、


できるだけリーブラ教の信者は無傷でいてもらなくては困る。


勝っても、残ったのが私やロザリアだけでは


リーブラ教の体面に傷がつく。


正義がこちらにある以上、『圧勝』で収めたい。


誘拐された人々を『リーブラ教』が救ったという構図が欲しい」





「・・・。サーライン様、ここは機を待ちましょう。


どちらかが、町を離れた時を狙うのです」





「そううまくいくか?」





「可能性は高いと思います。今回の真相を知っているのは、


現在のところ私たちリーブラ教、そして事の発端となった


ファルネーゼ辺境伯だけです。


オーガス教が真相を知らない以上、


どちらか、あるいは両方の聖騎士が調査のために


『ガイコツの森』へ出かけるはずです」





「そうか・・・確かにな。あの聖騎士2名は


ゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフの


『行方不明の調査』にコナへ来ているはずだ。


近いうち、早ければ明日にでも出かけるだろう。


そうすると、調査には


クルームリーネ殿が行く可能性が高いな」





「たぶん、そうなるかと。


クルームリーネ殿は魔法に長け、知識も豊富。


『誰も戻ってこない。死体も無い』という怪現象の


調査には効果的な人材。おそらくアイアロス殿は、


クルームリーネ殿の護衛として呼ばれたのでしょう」





「だが、クルームリーネ殿は無愛想で気位が高い。


例え人当たりが良くて、女性に人気の高いアイアロス殿であっても


『護衛? いらん。教会で待ってろ』と言われるのがオチだな」





「はい。その予想で間違いないと思います。


彼女はユニコーンにまたがり、1人だけで『ガイコツの森』へ


行ってしまうでしょう。


あ、いえ、彼女はめんどくさがりという


話ですので、雑用係に数人の信者を連れて、ですね」





「よし、襲撃は明日に延期だ。


アイアロス殿は惜しい人材だが、


信じる神を間違えたな。リーブラ教に所属していれば、


明日死ぬこともなかったろうに・・・」





聖騎士アイアロスは明日死ぬ。



サーラインとロザリアは話し合いなどする気は無い。



殺すことにためらいも無い。





信じる神が『違う』からだ。






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