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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 12


 フェデリーゴ司祭が出ていき、玄関の扉が閉まると、



ファルとイネスは顔を見合わせて、にやりと笑った。





「うまくいったわよね?」





「はい。間違いなく。近日中にコナのオーガス教の教会は


炎上するでしょう。リーブラ教でなく、グレナン司政官の


手によって」





「台帳に乗ってる人たちはリーブラ教主導で救出されるはず。


オーガス教は平身低頭、協力せざるを得ない・・・。


さすが幸太郎様だわ」





「幸太郎様は大した知略の持ち主ですね。頭が下がります。


特に最後の『話し合いで解決を』というセリフは


相手の選択肢を縛り付けるでしょう。


フェデリーゴ司祭はこの言葉に反発し、


内心『女ごときが』とか思いながら強硬姿勢一辺倒に


なるのは疑いありません。


話し合いよりも、正義を振りかざして


オーガス教を叩き潰す方が気分がいいですからね。


自分自身に対して様々な言い訳をしながら欲望が止められなくなります。


それに、この事件は単にオーガス教とリーブラ教の


相互監視構造が出来上がるだけでなく、


人狩りたち全体に影響を及ぼすはずです。


今までのように誘拐してきた人々を遠くの町の奴隷商人に売っても、


人々が『誘拐されてきた』と言えば、


オーガス教やリーブラ教は被害者たちを放置できなくなります。


オーガス教は汚名返上のために、


リーブラ教は自分たちが正義の味方であると証明し続けるために、


行動するしかないのです」





「せっかく買った奴隷が無料で開放されるようになれば、


奴隷商人たちは人狩りたちが誘拐してきた人々を


買い取らなくなるわよね。そしたら人狩りたちは


商売にならないから、人々を襲って誘拐することもなくなるはずよ」





「貴族の直属みたいな人狩りもいますから、


全て無くなるとは思えませんが、激減するのは確実です。


今まで奴隷に対して曖昧な立場だった教会を、


完全に『正義の味方』の立場へ追い込んだのですから。


おそらく、この事件を見て青ざめる


信者たちは多いはずです。身に覚えのある者は『魅了』で


尋問される前に大慌てで逃げ出すことになるでしょう」





「ああ・・・素敵! 幸太郎様は、この世界に正義の風を吹き込み、


世界全体に大変革をもたらす神の使者、愛の勇者なんだわ!


好き! 好き! 大好き! あのお方こそ、私の運命の人よ!」





いいや、幸太郎はサイコパスなだけだ。



これで宗教同士が争うことになり、将来にわたって憎みあい、



大勢の人々が後世でも死に続けることになっても



幸太郎は全然気にしない。



『自業自得だろ、もっと泣け』としか幸太郎は思っていないのだ。



もし元の地球の人々がこのことを知れば、



極悪非道、残虐な悪魔と罵る人が大多数だろう。





ただし、幸太郎が聞いたら、鼻で笑ってこう言うはずだ。





『じゃあ、いい案出してくれよ。そっちにするから。十秒以内な』








イネスはファルの様子を見て微笑む。





(強くなられましたね。まるで別人のように。


恋は女を変えるわね。


ギルベルト、やっぱり幸太郎様は、あなたに似てるわ・・・)





一見、平和な光景のように見えるが、今、この瞬間、



幸太郎の邪悪な作戦が世に放たれたということ。



本当は全然いい話ではない。





何より、幸太郎に踊らされてる者の中で、



災厄の種をばらまいた黒幕までたどり着ける人間は



誰もいないのだ。








一方、ユタのリーブラ教の教会。



鼻息も荒くリーブラ教の教会に戻ってきたフェデリーゴ司祭は、



『お帰りなさいませ』と挨拶する教会の幹部たちへ叫んだ。





「至急、会議を行う!! 


これは、この先の歴史を変える大事件である!


女神リーブラの名のもとに、正義の剣をふるう時がきたぞ!!」





教会の幹部たちは、意味がわからず、ポカンとして固まった。



しかし、一歩踏み込んでフェデリーゴ司祭に質問する女性がいた。





「どうしたのですか? フェデリーゴ司祭。


確か、ファルネーゼ辺境伯の屋敷へ呼ばれていたはずですよね。


何かあったのでしょうか」





そこにいたのは『聖騎士ロザリア』。アウシタンの1人だ。



幸太郎が二コラと戦った跡地へ様子を見に行った時、



この聖騎士の女性と出会っている。





なお、『エルロー辺境伯』と言うと、夫の殺人鬼を指すので、



区別するために、人々は『ファルネーゼ辺境伯』と呼んでいる。



一応、戸籍上は『ファルネーゼ・エルロー』となっているからだ。



ただ、ファル自身は『ファルネーゼ・ミューラー』を使っていた。



『エルロー』は自分を人質にしていた『敵』の名字でしかないから。





ロザリアがユタの教会にいたのは偶然ではない。



ロザリアは『黒フードのネクロマンサー』と『荒野の聖者』の



調査を担当しているのだ。



そして、現在は幸太郎について調査をしている最中だった。



ローディストのジーウェイは幸太郎について



『ハズレ』とあっさり見切りをつけているが、



ロザリアは『この男は何かある』と疑い、調査を続けていた。



ただ、現在のところ調査は全て空振りに終わっている。



ギブルスの根回しでカーレのキャサリン支部長も、



商人ギルドも、グリーン辺境伯の執事フランクも、



全て『ただの冒険者。実績も特になし』としか答えない。



実はロザリアは商人を装い、



『フレンド』のエーリッタとユーライカに



幸太郎について尋ねたことがある。



『あの幸太郎って人、強そうね。何か珍しい力を持ってるのかしら』



この質問に対してエーリッタとユーライカは、



必殺の『え・・・?』で返した。



見事なとぼけっぷりでロザリアは完全に空振り。



退却を余儀なくされている。



しかしロザリアは諦めない。



ジーウェイはここで調査を終えているが、



ロザリアはまだ調査を続行。





実はロザリアには、教会とはあまり関係のない、



個人的な夢があるのだ。



その夢の達成に関して、ロザリアの勘が囁き続けている。





『幸太郎には何かある。夢への近道の匂いがする』と。





だから未だにロザリアはユタを拠点として、



黒フードのネクロマンサーを探すという建前で



幸太郎について嗅ぎまわっているのである。








ロザリアの登場にフェデリーゴ司祭は歓喜の声を上げた。





「おお! これは良いところに! 早急にお呼びしなければと


思っていたところです」





渡りに船、とばかりにフェデリーゴ司祭は教会の幹部数名と、



ロザリアと共に会議室へ入った。



そして、ファルとイネスから聞いた話と、その時の様子を



身振り手振りを交え、汗をかき、拳を握り、大興奮で語った。



そのあまりの熱弁ぶりに、ロザリアは若干ひいたほど。





「あまりにも酷い話なので、正直信じたくないほどですが・・・。


この台帳。このゲーガンというサイン。上様という文字。


何よりゲーガン司祭と聖騎士マラケシコフが


30名近い信者と共に現在も行方不明である事実。


確かに話は繋がりますね・・・」





そこへ、フェデリーゴ司祭の命令で書類箱が会議室へ持ち込まれ、



ゲーガン司祭の書状がいくつか並べられた。





そして署名を見比べる。





「この台帳のサインは・・・本物ですね。間違いありません。


誰が疑問を投げかけても、絶対に納得させられる証拠です」





そりゃそーだ。サインはゲーガン司祭自身が書いたものだし、



教会が人狩りの巣窟になっていることは『魅了の邪眼』で



ゲーガン司祭自身が自白したことなのだから。





「事実は確定しました。早急に手を打ちましょう。


私はサーライン様に連絡をとります。囚われた人々を救うのです。


女神リーブラの名のもとに!」





教会の幹部たちから『おおっ!』という歓声が上がる。



そしてロザリアはフェデリーゴ司祭へ微笑んだ。





「お手柄です。フェデリーゴ司祭。このことは、教主様や


枢機卿の方々から、高く、高く、評価されることでしょう。


フェデリーゴ司祭がいずれ枢機卿に推挙されることは確実です」





「いえ、そんな滅相もない。私は女神リーブラ様にお仕えする、


いち信者として、この悪行が絶対に許せないと思ったまでです。


全ては、女神リーブラ様のお導きによるものでしょう・・・」





フェデリーゴ司祭は、慇懃にお辞儀した。



もちろん内心は『わが世の春が来たあ!!』と狂喜しているが。








だが・・・ここにいる誰も知らないのだ。



自分たちが幸太郎の



シナリオ通りに踊らされていることを・・・。





そして、誰も踊らされているとは思いもしない。



自分たちの行動が『最高に気分がいい』からだ。






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