表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
1018/1043

分岐点 9


「まったくバカな奴だな、ロストラエルは・・・。


まあいい、話の邪魔になる奴が消えて、こちらもやりやすい」





リーブラは苦笑した。オーガスも少し笑った。





「では、幸太郎、本題に入りたい。が、その前にもう1つ・・・、


昨日、リーブラ教の者どもがオーガス教の教会を襲った。


中継都市コナ・・・と聞けば、お前にはわかるな?」





「・・・はい。ゲーガン司祭以下、コナのオーガス教の


教会は人狩りたちの巣窟となっていました。


あの教会を潰してやろうとシナリオを作ったのは私です」





幸太郎は認めた。まあ、嘘をついても仕方ない。



オーガスも時々幸太郎を見ていただろうが、



リーブラも時々幸太郎を見ていたのは疑いないからだ。





(そうでなくては、あの襲撃が俺の仕業だとわかる者が


いるはずないからな・・・)





幸太郎はリーブラに謝った。





「勝手にリーブラ教を利用して申し訳ありません」





その謝罪に対し、リーブラは笑った。





「はっはっは、別に構わん。あの『リーブラ教』は


オーガス教を真似して、実験的に作ってみただけだからな。


最終的に邪魔になるようなら、さんざん褒めて増長させたところを


私みずからが破壊する予定だ。


むしろ幸太郎を誉めてやろう。初めて役に立った気がするのでな」








あの時幸太郎は、ゲーガン司祭とマラケシコフを殺した後、



人狩りの巣窟となっているコナのオーガス教を



ぶっ壊してやろうと考えた。





そして、邪悪な作戦を立案したのだ。



絶対に逃れられない計画。作戦が出来た瞬間から、



全員が幸太郎の手のひらの上で踊ることになり、



当事者の誰も『黒幕』までたどり着くことはない。



そして、将来にわたり、禍根となって尾を引くのだ。



信者同士で度々、殺し合いが起きるだろう。



お互いがお互いを監視し合うような構造が出来上がる。



自分が誰かの手の上で踊っているとは



誰一人気付くことも無く、将来にわたって憎み合うのである。





お互いの『正義』を振りかざしながら・・・。





それは『リーブラ教にオーガス教を襲わせる』計画。



幸太郎は、あの時ファルに命令した。



『この奴隷の出荷・入荷台帳をユタのリーブラ教の



司祭に見せろ。それだけでいい』と。



そしてシナリオの説明と、少し演技を教えた。





ただ、それを聞いたイネスが、より詳細なシナリオを描き、



幸太郎たちがアルカ大森林に出発した日の翌日には



リーブラ教が聖騎士サーラインとロザリアの指揮で



コナのオーガス教を強襲するという事態にまで急展開したのだ。



その日は幸太郎たちが、森へ到着した日である。








ユタへ帰り、再び『ファルネーゼ』となったファルは、



イネスに幸太郎から託された作戦を伝えた。



イネスも激怒し、詳細な計画を立て、



演技を最初からラストまで何度も練習。



そして、翌日には『ファルネーゼ』の名で、



ユタのリーブラ教の司祭『フェデリーゴ』を領主の屋敷へ



呼び出したのだ。



これは幸太郎がゴブリンの巣穴を潰した日。








ファルネーゼは挨拶もそこそこに、ソファに座る。



イネスはソファの後ろに立ち、重苦しい表情をした。



そしてファルネーゼはフェデリーゴに沈痛な面持ちで台帳を差し出し、



『まず、これをご覧ください』と言った。





「これは・・・? 何かの台帳・・・? 人の名?


まさか、これは、奴隷の入荷台帳ですか・・・?」





「それは奴隷の入荷・出荷を記した台帳です。


その『ゲーガン』という署名に、お心当たりは


ございませんか・・・?」





「『ゲーガン』・・・。むっ!! まさか!


オーガス教のコナ支部の『ゲーガン司祭』!?


信者と共に行方不明になったという噂を聞きましたが」





「その『まさか』なのです・・・。


これからお話することは秘密にしていただけますか?」





「も、もちろんです! 女神リーブラ様に誓って、


絶対に口外いたしません! 我々聖職者は人々の悩みや


懺悔を聞く立場なので、口は堅いのです。ご安心を!」





これはイネスの策略だ。



単に何も言わずに『秘密にしろ』と言うと、



『面倒なことになりそうだ』と逃げだしたがる人は多い。



しかし、最初に『この台帳の署名はゲーガン司祭だ』と



『撒き餌』をしておくことで、知りたいという好奇心と



『ライバル教会が悪事を!?』という正義感が



抑えられなくなる。



そして実際にフェデリーゴ司祭は興奮し、



もう完全に抑えが効かなくなった。手玉だ。





ファルネーゼは沈痛な面持ちの演技でフェデリーゴ司祭を、



さらに罠の奥へ誘い込む。





「良かった・・・。もう、この事をどうしたらいいのか、


わからなくて困り果てていたのです。そこのイネスに


相談したところ、『フェデリーゴ司祭以外に適任はいない』と


進言を受け、お話することにしました」





「よく相談して下さいました。さあ、安心して、


このフェデリーゴにお話しください」





ファルネーゼとイネスは顔を見合わせ、お互いにうなずいた。



ただ、これは『馬鹿が釣り針を飲み込んだわね』という



確認をしただけ。





「実は・・・私は夫が亡くなってから、ずっと探していたのです。


夫に殺された子供たちの亡骸の場所を・・・」





「では・・・あの『噂』は真実だったのですね・・・」





ファルネーゼはうなずいた。





「はい、我が夫は病気でした。ああすることでしか、


自分が領地を治めるに足る力を持っていると自信を持つことが


できない『心の病気』だったのです。


私は、止めさせようとしましたが、所詮私はミューラー侯爵家から


エルロー辺境伯家に嫁いできただけの女・・・。


話は聞いてもらえず、自室に幽閉される有様でした。


何もできなかった罪悪感から、私は殺された子供たちの


遺体を探し出し、せめて弔ってあげたいと思いました」





前置きは終わり。ここからが幸太郎の邪悪なシナリオだ。



もちろん『でっち上げ』の架空のストーリー。



だが、誰も逃げられない。





「そして私は、ミューラー侯爵家から来てくれた、


私だけの直属の3騎士たちに命じたのです。


『子供たちの遺体の捨てられた場所を探すように』と・・・」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ