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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 8


 リーブラの語る昔話は終わった。



途中、セリス自身もいくつか補足したので、



より詳しく知ることができた。



バーバ・ヤーガは当事者の1人だが、



苦しそうな面持ちで、最後まで黙っていた。





全員静まり返っている。ジャンジャックとグレゴリオも眉を寄せ、



暗い顔で言葉が出ない。



ギブルスやイネスは、ゴルモラ王国が滅んだ話として、



噂だけは知っていた話だ。もちろん、女神リーブラや



バーバ・ババが関わっていたなど聞いたこともなかったが。





アカジンたちや、武装メイドたち、バスキーとポメラも黙ったままだ。



ポメラは泣いている。そして、モコたちもやはり涙を流していた。



かつて亜人、獣人への差別が、ここまでひどい時期があったのか、と。





もう1人、静かに涙を流しているのが幸太郎だ。



テーブルについているメンバーで、唯一の人間。ただの人間。



幸太郎は途中から人目もはばからず、ずっと涙を流していた。



普通、男が泣くのは恥と言われる。だが、幸太郎は泣く。



泣き虫と言われても幸太郎は気にしない。



かつて幸太郎は『大人のくせにメソメソ泣くな』と言われたことがある。



その時幸太郎はこう言った。



『じゃあ、代わりに泣いてくれ』と。



人が涙を流すことを、幸太郎は恥だと思っていなかった。





「お前は・・・私たちのために泣いてくれるのか・・・優しい奴だな」





セリスが微かに微笑んだ。





「うまく言葉がでませんが・・・。せめて、あなたたちのために、


祈らせて下さい・・・」





幸太郎は涙を流しながら合掌した。





(・・・たぶん、自分も同じことをしただろう・・・)





幸太郎は合掌して、冥福を祈りながらそう思った。





そして、この場でただ1人、ずっとニヤニヤと笑っている男がいる。



ロストラエルだ。



話の途中からずっと笑い続けていた。



彼は話を邪魔することはなかったが、涙を流す幸太郎が



面白いのか、ニヤつきながら幸太郎の顔を眺め続けていた。



そして、テーブルに少し身を乗り出し、



唐突に幸太郎に語りかけてきた。





「おい、幸太郎。善人ぶるのはやめろよ。人間ってのは、


全員こういう生物だって知ってるだろ? この偽善者め。


弱い奴は面白半分にいたぶってみたいし、他人の物は奪いたい。


自分の方が強くて上位だと気持ちがいいし、安心する。


動けなくなった相手を蹂躙するのは快感だよなぁ?


誰だって自分を上位に、他人を下位に固定したいもんだぜ?


年齢、住んでる町、職業、親の地位、身長、年収、


なんでも物差しにして自分の方が上位だと確認したがる。


そして下位の人間に対して尊大な態度に出るんだ。


違う人間がいるってんなら、紹介してくれよ。


お前だってニーナをいたぶってみたいって思ったろ?


お前だってソルセールの町を破壊してみたいって思ったんだろ?


正直になれよ。自由に生きろよ。


自分を束縛から解放するんだ。


アステラやムラサキの目なんか気にすることは、ねぇーって。


どうせお前が生きてる間は神や天使は口出ししてこねぇんだからよ。


今を楽しく、思い通りに生きろよ、


自分のためだけに生きろよ、クックック。


『相手の立場を思いやる』なんてのは、弱者のすることだぜ?


さっきから、お前、なに泣いてるんだ。


男のくせにメソメソ泣きやがって。


どうせ、それ、ウソ泣きだろ。


泣いたほうが女たちにモテそうだからって


演技してるんだろう? 


嫌だ嫌だ、あー、嘘ついて善人ぶりやがって。


偽善者のくせによ。少しくらい恥ずかしいって思わないのか?


自分にも嘘ついて、他人を騙して、お前は嫌なやつだな、幸太郎よう」





ロストラエルは幸太郎の目を見ながら、楽しそうにニヤついている。



アステラは無表情だが、



ムラサキとリーブラは不機嫌そうな表情を浮かべた。



オーガスは少し苦笑して首を振るだけ。



オーガスは最初から一貫して



『話を聞く』ことだけに徹している。





「幸太郎もやりゃあいいじゃねえか。


ニーナくらいの年端もいかぬ少女を裸にひんむいて、


思う存分なぶってやれよ。気持ちいいぜ?


きっと楽しいだろうぜ? 最高の気分になれるはずだ。


メソメソ泣くより、スカッとするぜ?


やってみたいだろ? 俺がバックアップしてやってもいいぞ。


素直になれって。今を楽しく生きようぜ。


自分の力は自分のためだけに使おうぜ? な?」





幸太郎は・・・ずっと黙ったまま、ロストラエルの目を見ていた。



そして、ぽつりと、ロストラエルに向かって言った。





「そうか・・・。あなたは・・・もう、涙を流すことが


できなくなってしまったのですね、ロストラエルさん・・・」





ロストラエルはニヤついたまま、2秒ほど固まった。





そして、次の瞬間ロストラエルが眉を吊り上げる。





「てめえ、チョーシに乗っ・・・」





バキャッ





ロストラエルは全部言い終わる前に、下あごを残して、頭が吹っ飛び



続きが言えなくなった。





ムラサキの左の裏拳だ。



ムラサキが左手でロストラエルの顔を殴り、



粉々に吹き飛ばしたのだ。



ロストラエルは手でガードしたのだが、



その手も爆発したように散り散りに弾け飛んだだけ。





ここでアステラが、やや不機嫌そうに口を開いた。





「ムラサキ、そのバカの体を少し上に投げてくんない?」





「わかりました」





ムラサキは椅子を蹴って立ち上がると、



右の『貫手』をロストラエルのみぞおちに突き刺した。



そして胸骨とアバラを掴んで、上空へ片手で放り投げる。



高さが10メートル程度のところで、



アステラが人差し指を向け、何かをした。



すると、ロストラエルの体が光の玉に包まれ、



凍ったように、いや、時間が止まったかのように硬直し、



動かなくなったのだ。





アステラが、ため息をつきながらロストラエルを睨む。





「ロストラエルさぁ・・・。あたし、さっき言ったはずよね。


『あたしはムラサキほど優しくない』って・・・」





アステラが『少し』怒っている。



だが、至近距離の幸太郎は恐怖に震えた。



レベルが少し上がった幸太郎には、以前よりはっきりと感じられるのだ。



アステラの持つ、星をも蒸発させるパワーの一端が。



そしてアステラは顔を世界樹の方に向け、命じた。





「世界樹、こいつを『草』に変えなさい」





「かしこまりました」





世界樹は穏やかに承諾すると、身を震わせた。



現在いる物質界と霊界の狭間の世界、その『世界』が震えている。



アステラ、ムラサキ、



リーブラ、オーガスを除く、全員が思わず悲鳴を上げた。





振動が止まると、恐ろしい光景が始まった。





光球の中のロストラエルの体に異変が起きたのだ。



体から植物が芽吹き、伸びてゆく。



ロストラエルの体は時間が停止したかのように止まったまま。



だが、何か必死の抵抗をしたのだろう。



植物がいきなり千切れて枯れた。





しかし、植物は次から次へと、どんどん生えてくる。





幸太郎は奇妙なことに気が付いた。ロストラエルの体が



次第にやせ細り、小さくなっているのだ。



幸太郎は何が起きてるのか理解した。





(これって、ロストラエルの『体そのもの』が


植物に強制変化させられてるってことか! 


しかも、『呪いの黒炎』のような


種類の性能だとすると・・・魂まで植物になっている!?)





幸太郎の推測は当たっている。ロストラエルの体が植物に



変化しているのは最終的な『結末』だ。



本当はロストラエルの魂そのものが強制的に植物へと



『分解』されている。



だから魂をなぞって肉体も植物へと



変化しているにすぎないのである。





ロストラエルも必死に抵抗はしたのだろう。



体から生える草は次々に千切れ、枯れている。



だが、止まらない。



次第に生える草の方が多くなり、どんどん伸びて、



体を覆いつくした。なおも増えていく植物たち。





「・・・ここまでです。アステラ様」





世界樹が一言、報告した。





「そう。ごくろうさま」





アステラが光球を解除すると、中からは大量の枯草だけが



バラバラと降ってきた。そう、全て『草』だけ。



ロストラエルは全て植物に変わり、消滅したのだ。





「どこまで侵食できた?」





アステラが恐ろしい事をさらっと聞く。





「あの分体は右腕の一部だったようです。大体の感覚ですが、


肩・・・鎖骨のあたりで魂を切断して、奴は逃げ出しました。


肺の辺りまで行きたかったのですが、申し訳ありません」





世界樹の報告に幸太郎たちは戦慄する。



つまり分体の魂から、本体の魂へと侵食し、



次々に植物へと変えていったのだ。





植物となった魂は、もう元に戻らない。動物や虫ですらないからだ。



植物は、植物として輪廻転生を繰り返し、



異世界から異世界へと魂は流転する。





そして、何億年と言う時間のあとに、ミミズなどへ転生することもある。



気の遠くなるような時間をミミズで過ごせば、



もしかしたら昆虫などに転生できるかもしれない。



そしたら両生類などへの道も開ける。



何千億年か修行すれば、もしかしたら人類へ



到達する可能性だってある。



ただ、仮に元々の本体の魂に出会ったとしても、



お互いに、それが誰であるかなど分かるはずもない。



何より、お互いの考え方が相容れないものになっているはずだ。






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― 新着の感想 ―
確かにムラサキさんに比べてアステラ様恐い!
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