分岐点 3 (18禁)
翌朝、朝日が昇るころ、セリスは目覚めた。
バーバ・ババはセリスが目覚めたら、
夜の内でも出発するつもりだったが、
これはどうしようもない。
セリスがただの大蛇になるのは避けたいし、
かといって、バーバ・ババと、バーバ・ヤーガだけで
出発するわけにもいかない。
どうしてもセリスを連れて行かなくてはならない理由があった。
実はセリスが寝ている間に、バーバ・ババはもう一度占っている。
その暗示は悪いものだった。
セリスの娘が『すでに死んでいる』という暗示こそ
でなかったものの、表示されたカードは
どれも暗い未来ばかり暗示している。
バーバ・ババは最悪の想定をして、
絶対にセリスを一緒に連れて行くと決めていたのだ。
目覚めたセリスは泣きながらバーバ・ババを責めたが、
事情を説明されると『ごめんなさい』と謝った。
自覚が無いだけで、自分がそんなに危ない状態だったとは
考えもしなかった。
「さあ、行くぞ」
バーバ・ババは門を出た所で魔法を使った。もちろん無詠唱だ。
「いでよ! 魔犬ケルベロス!!」
かすかな地響きとともに、地面から3つ首の巨大な犬が現れた。
召喚魔法、それも途轍もない高レベルだ。
バーバ・ババ、セリス、バーバ・ヤーガの3人は
ケルベロスの背中に乗ると、ゴルモラ王国を目指す。
途中、ゴブリンやオーガーに遭遇し、戦う時間が惜しくて
迂回することになったが、それでもケルベロスは馬に近い
スピードで森を走り続けた。街道は使いたいが、使えない。
人目に付くと色々面倒だ。
最悪の場合、この地域にピグモン辺境伯が
侵略してきたという誤解を生むかもしれない。
また、ゴルモラ王国の砦などから伝書鳩を飛ばされると
厄介なことになる。
さすがに空を飛ぶ伝書鳩のスピードには敵わない。
途中、休憩を取り、『カムナガラのカード』で
人狩りたちの居場所を確認した。
「・・・間違いない。すでに人狩りたちはゴルモラ王国の
首都、ソルセールに入っている」
「ああ、なんてこと・・・。あの子は大丈夫なのかしら」
「む・・・」
バーバ・ババは『まだ到着したばかりだから、何もされて
いないだろう』と気休めを言おうとした。
しかし、その言葉は喉から出てこなかった。
何しろ、ソルセールは
『血の狂王』と異名を取る『ウラス王』のいる首都なのだ。
ダークエルフの娘を注文したのが誰かはわからない。
ただ、人間専門のハンターに依頼している以上、
貴族・・・それも高位貴族なのは間違いないと思われる。
最悪の場合、ウラス王自身が出した命令の可能性もあるのだ。
「行きましょう! バーバ・ババ!!」
「ああ、急ごう!!」
バーバ・ババは、再びケルベロスを召喚すると、
3人で背に乗り、ソルセールを目指した。
バーバ・ババたちは夜通し走り続けた。娘を助けたい一心で。
何度も何度もケルベロスを召喚し直しているが、
バーバ・ババの魔力には全く陰りは見られない。
そして、その甲斐あって、翌日の朝にはソルセールに到着したのだ。
「・・・まだ門は開いてない、か」
「強行突破しましょう!」
「待て、焦るな。まずは情報を集めねばらん。
そして騒ぎを起こすと、人質にされて、隠されるかもしれんぞ。
救出が目的だ。忘れるな」
バーバ・ババなら、町ごと滅ぼすこともできる。
しかし、まずはセリスの娘を探さなくてはならない。
やるなら、セリスの娘を救出した後だ。
しばらく待っていると、門が開いた。番兵が辺りを見回している。
「やっと開いたか。セリス、『蛇の王』を使え、
自分を小さな蛇にするんだ。バーバ・ヤーガはここで待機。
子供連れでは色仕掛けが使えん」
「わかりました、母様」
バーバ・ヤーガは森に身を潜めた。
セリスは『蛇の王』を使い、
自分の見た目をを20センチ程度の小さな蛇に変身させた。
バーバ・ババは蛇になったセリスを胸元のシャツの中へ入れる。
「おとなしくしてるんだぞ?」
街道へ出たバーバ・ババはゆっくりと門へ向かった。
町へ入る列に並び、通行許可の審査の番を待つ。
バーバ・ババの順番がくると、番兵たちは思わず口笛を吹く。
「これは、またすごい美人じゃないか。お前は何の目的で
ソルセールに来たんだ?」
「あたしは旅の薬屋ですよ。この近くで薬の材料を
集めていました。今日はソルセールで、ゆっくり休もうかと
思いまして」
そう言いながら、バーバ・ババはわずかに首を傾け、
自分の唇をゆっくりなぞった。
「そ、そうか、じゃあ、今夜は一緒に飲まないか?
仕事が終わったら・・・」
「お、おい、待てよ! 1人だけ抜け駆けはずりーぞ」
他の番兵が割り込んできた。
「あ、おれ、いい店知ってんだ。料理と酒がうまくてさ!」
さらに番兵が集まってくる。バーバ・ババは妖艶に微笑んで
『諍いの種』を撒いた。
「今日は楽しみたい気分なのよ。最近、男日照りでさ。
ゆっくり楽しみたいから、誰か1人に絞ってから来てよね。
夕方、宿屋で待ってるから」
そう言ってバーバ・ババはウインクした。
悠々と町へ入るバーバ・ババ。後ろで『俺が!』
『お前恋人いるだろ!』『うっせえ、あんないい女他にいるか!』
などケンカが聞こえる。
そして『仕事しやがれ! 俺が行く!
詳しく調べる必要がある!』という大声がして
ケンカの声は止んだ。
おそらく隊長か誰か、上位の人間が出しゃばってきたのだ。
ただ、『調べる』予定なのはベッドの硬さと人間の体温についてだろう。
バーバ・ババは番兵の審査どころか、通行料も払っていない。
番兵は完全にバーバ・ババに手玉に取られた。
何しろ、名前すら名乗らずに町へ入っているのだから。
泊る宿すら決めてないというのに。
これなら怪しむ者は誰もいない。
どこにも報告しない、できないのだ。
バーバ・ババは、とりあえず中央広場までやってきた。
『ニーナ』よりも奴隷商人を探して情報を集めた方が
早いだろうとの判断だ。
なんなら知っていそうな者に『支配』の魔法をかけてもいい。
しかし、この広場で異様なものが目に入った。
それは、バーバ・ババの『知り合い』だ。
人間が3人、広場中央で串刺しになって飾られていた。
衣服をはぎ取られ、両手、両足を切り落とされ、
両目をえぐられ、
後頭部から口の中へと杭が打ち込まれ、貫通している。
それが地面から1メートルくらいの高さになるように
『設置』されているのだ。
・・・セリスの夫と、その兄弟だった・・・。




