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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 2


リーブラは偶然通りかかっただけだ。それに、こんな光景は



何度も見かけている。ことさら珍しくも無い。



だが、リーブラはセリスのところへ降りた。



半分は気まぐれ。



もう半分はセリスの人並み外れた魔力に



興味を持っただけだ。



そして、実はリーブラはセリスを知っている。



『知り合い』ではない。リーブラの方が、一方的に何度か



見たことがあるというだけだ。





セリスは瀕死ではあるが、この重傷でまだ死なず、



意識も回復したのは、



体内に満ちる魔力が致命傷をギリギリで食い止めたせい。



もちろん、このままなら、失血であと1時間も持たないだろう。



ただ自分の魔力の才能についてセリス自身は知らない。



『ステータスウインドウ』や『鑑定』が一般的でないため、



自分の素質や才能に気づかずに



生涯を終える人の方が多いのは仕方ない。



日本ですら、これだけ教育制度が発達していても、



『この世界より少しマシ』程度なのだから。





リーブラは死にかけのセリスへ、自分との契約をもちかけた。



力を与える代わりに、最後はリーブラへ魂を捧げるというものだ。





すでに視力が無くなりつつあったセリスは、一瞬も迷いはしなかった。



契約内容についての説明も『聞く必要はありません』と拒否。



『娘を助けなくては』という母の心だった。



自分の命も魂も、娘のためならば惜しくない。





契約は成立。リーブラは『大回復魔法』でセリスを治した。



そして『お前になら扱えるだろう』と



セリスに『蛇の王』というスキルを与えたのだ。



感謝の言葉を並べるセリスにリーブラは首を振る。





「感謝はいらぬ。それに残念だが私が手を貸せるのは、ここまでだ。


いろいろ事情が複雑でな。


直接、人間の代わりに動くことはできぬ。


人の世界は、あくまでも人間の意志によって作られねばならんのだ。


ただ、1つだけ助言してやろう。


人狩りを追うなら、逆に南へ行け。


そこに、お前の助けとなる人物がいる」





それだけ伝えるとリーブラは幻のように消えた。



セリスはすぐに南へ向かった。リーブラの助言の意味は



考えるまでもなく理解できたからだ。





セリスたち家族の本来の目的地だ。



ピグモン辺境伯の領地内に、それはある。



バーバ・ババの占いの店。



どこへ行ったかわからない人狩りを闇雲に探すより、



彼女の力を借りろとリーブラは言っているのだ。





ただし、バーバ・ババは退魔師のような仕事もしている。



一年の大半は旅に出て、各国を放浪。店にいなかった。





(だけど! リーブラ様のくださった助言! 


おそらく、今は店に帰ってきている!


バーバ・ババの占いなら、人狩りの、いえ、


ニーナの居場所を探し出せる!


そして、彼女の使える幾多の魔法があれば、


きっと娘を助け出せる!!)





バーバ・ババとセリスは仲のいい友人だった。



セリスの住んでいた村は、



北方の国からピグモン辺境伯領に帰るとき、



ちょうどいい中継地点だったのだ。



旅に出てばかりのバーバ・ババは、何度も村に滞在しているうちに、



セリスと仲良くなった。



バーバ・ババの娘、バーバ・ヤーガも



セリスの家族と仲良くなっていたほど、頻繁に村を訪れている。





セリスは早速『蛇の王』を使用した。



説明など一切聞いてはいないが、自在に扱えるようになっていた。



まるで生まれつきの能力のように。





セリスの体は、あっという間に黒い大蛇へと変貌した。



そして木々の間を縫うように、高速で進む。



地面を音もなく滑るセリスは、森の中なら馬よりも早いだろう。





(早く! 早く! もっと早く!!)





セリスは獣にも、魔物にも気づかれることなく、走り続ける。



『蛇の王』の能力の1つだ。



至近距離を走り抜けているのに、野生生物すら気付いていない。





人狩りに見つかった地点からピグモン辺境伯領までは、



まだ丸一日の距離があったが、



日が傾いたころには辺境伯領に入り、



そこから辺境伯の住んでいる『城塞都市ミルドン』には



夕暮れ前に到着することができた。





セリスは人の姿に戻り、走って防壁の門へたどり着くと、



『町へ入れて欲しい』と懇願した。



人狩りから逃げる時に手持ちの物は一切捨てて逃げたせいだ。



つまり通行料が払えない。



番兵たちは職務上、同情しても通すわけにはいかない。



だが、セリスが『バーバ・ババの助けがいるの! 彼女を呼んで!』と



言うと、今度は逆に通してくれた。



バーバ・ババの友人ということで信用してもらえたのだ。



そのくらい、バーバ・ババは尊敬と恐れを抱かれていた。





バーバ・ババの占いの店に行くと、



『出かけてます。お待ちください』と札がかかっていた。



食料の買い出しにでも行ったのだろうか、



探しに行ってもすれ違いになるかもしれない。



セリスは迷った。



気持ちは焦るが、誰かの家に招かれていたら、



市場などを探し回っても意味が無い。





セリスは、そのまま店の前に座り、待つ事にした。





(少なくとも、旅に出ているわけじゃないんだ。町にいる。


焦るな、焦るな・・・)





セリスは必死に自分に言い聞かせた。





夕方、日が沈むころ、バーバ・ババが店に帰ってきた。



まだ子供のバーバ・ヤーガも一緒だ。



流れるような長く美しい黒髪。抜群のスタイル。切れ長の目。



若いころのバーバ・ヤーガもそうだが、



バーバ・ババは男なら誰もが振り返るような美女だ。



座り込むセリスを見て、遠くから声をかけてくる。





「やあ、セリスじゃないか。久しぶりだな」





だが、バーバ・ババもすぐに異常事態に気が付いた。



バーバ・ババには見える。セリスが微かに纏う黒いオーラが。



そして何より・・・その悲壮な表情だ。





(1人だけ!? 夫と娘はどうした!? 何があった!?)





バーバ・ババは、セリスを店に招き入れ、事情を聞いた。



セリスは、泣きながら、何があったのか一部始終話した。



女神リーブラの出現など、驚くこともあったが、



何よりもセリスの娘が攫われたことに衝撃を受けた。



『あの、穏やかで優しい人々の村までが!』と



信じたくない気持ちになった。



しかし、今さら『信じる』『信じない』と言ってる次元は



とっくに過ぎている。何より、皮肉なことだが、



セリスが微かにまとう黒いオーラが事実であることを証明していた。



かつてのセリスは、そんな黒いオーラなど纏っていなかった。



魔力の才能はあるが、鍛えてもいないし、鍛える気も無い。



それがセリスだったはずなのだ。





早速、バーバ・ババは『カムナガラのカード』で、



人狩りたちの行方を占う。



その結果、人狩りたちはセリスの村から北東方向、



馬で丸一日といった距離の場所にいると判明。



ただ、そこには大きな町は無い。バーバ・ババは推理する。





(人狩りたちの装備。馬と犬。美しいセリスを即座に切り捨てる


思い切りの良さ。罠を張る頭の良さ。ご注文の品というセリフ。


貴族、いや王族レベルの後ろ盾があるか、あるいは直属の


人狩り専門部隊だろう・・・。だとすれば・・・この方向・・・)





バーバ・ババは結論を告げた。





「人狩りたちは、まだ移動中だな。そして、目的地は、ここだ」





バーバ・ババは自分で作った簡易地図を見せて、指さした。





「ここは・・・『ゴルモラ王国』の首都、『ソルセール』!?」





「そうだ。人狩りはまだ移動中と見て間違いない。


そして、移動方向からすれば、この地域で最も亜人、獣人への


差別が激しいゴルモラへ向かっているのだろう」





「そんな!・・・あんな国へ送られたら!」





セリスはぽろぽろと泣きだした。無理もない。



最近、以前にも増して亜人、獣人への差別がひどくなったのは、



ゴルモラ王国が発端だと言われているのだから。



モーラルカ小国群は小さな国がひしめき合う、戦争の絶えない地域。



その中で、ゴルモラ王国は軍事強国として有名だった。



国王『ウラス』は『血の狂王』と周辺の国々から恐れられていたほど。





「すぐに行かなきゃ!! バーバ・ババ、力を貸して!」





セリスは椅子から勢いよく立ち上がった。だが、バーバ・ババは



セリスをなだめて、もう一度座らせた。





「気持ちは分かる。すぐに出発しよう。だが、私も準備が必要だ。


それに、セリスは何も食べてないのだろう?


まずはパンとスープだけでも、腹に入れておけ」





セリスは渋々従った。正直食欲は無いが、バーバ・ババの準備は



待つ必要がある。彼女の力無しでは、とてもゴルモラ王国から



娘を救出できないだろう。





セリスはパンとスープを食べ、食後に紅茶を飲んだ。





(すまないな。必要な準備とは、これなんだ・・・)





バーバ・ババは心の中で謝った。



セリスが眠りに落ちた。バーバ・ババが紅茶に薬を盛ったのだ。





バーバ・ババとて、今すぐにでも出発したい。しかし、



問題はセリスの方なのだ。いきなり『蛇の王』という



強力なスキルを得て、それを慣れてもいないのに、



長時間使用し続けたのだ。



セリスの自覚が無いだけで、



すでにセリスは限界に近かった。このままでは、



おそらく、あと数時間でセリスはスキルに飲み込まれてしまうはずだ。



自我を失い、ただの黒い大蛇になる。



夫の事も、娘のことも忘れて、ただの大蛇になるならまだいい。



最悪の場合、セリスは自分で救出した自分の娘を



飲み込んで殺してしまうかもしれない。



それだけは絶対に避けなければならない。





バーバ・ババはセリスが目覚めたら出発するつもりでいた。



が、結局、セリスは朝まで目が覚めなかった。



今朝の暗い内に村を出て、歩き続け、人狩りに襲われ、



娘を奪われ、強大なスキルを連続で使い続けたのだ。



仕方ないだろう。






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