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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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分岐点 (18禁)


昔・・・と言っても、それほど昔ではない。



まだバーバ・ヤーガが子供のころ。場所はモーラルカ小国群の



南のほう。まだローゼンラント王国は滅んでいなかった。





このころ、亜人、獣人に対する差別は今よりも、はるかに酷かった。



バードマンたちが人前に姿を見せなくなって久しいが、



人々の矛先は他の亜人、獣人に向かっただけで、根本的には



何も変わっていなかったのだ。



イーナバース自由国連合のようなところは例外で、



他の地域では亜人や獣人を人間とは扱わない国も存在したのだ。



エルフやドワーフは一応人間扱いを受けていたが、



ダークエルフやリザードマン、ドラゴニュート、アントレイス、



そしてバードマンは動物と同じ扱い。





自分が殺したダークエルフやアントレイス、ドラゴニュートの頭蓋骨を



インテリアとして飾る人も多かった。





自宅の居間に、ずらりと並ぶ人間の頭蓋骨。



もちろん元の地球人なら気味が悪くて、



『なんのホラーゲームだよ』と言いたいだろう。



それは『それだけ人間を殺してきた』という証明だからだ。





しかし、この世界では、その当時



『亜人・獣人は人間の出来損ない』、



『神の失敗作の生き残り』という考えが



はびこっていた。



殺しても、まったく罪悪感を感じない人々も確かにいたのである。



いや、むしろ『道徳的』と考える人すらいたのだ。





善良そうな司祭のいる礼拝堂に、100を超える頭蓋骨が



飾られていた事例すらあった。



司祭の『狩猟』のトロフィーだ。



もちろん、この司祭は人々に優しい声で



慈悲と寛容、弱者へのいたわり、



そして家族愛を説いていた。



その司祭にとって亜人、獣人は



『人』のカテゴリーに入ってなかっただけのこと。





無論、イーナバース自由国連合のような場所もあり、



差別の程度には国、都市、町、村で温度差がある。



このころはイーナバース以外でも



人族の村や町に住むダークエルフが存在した最後の時代。





『セリスの身に起きた事は、その当時では左程珍しい話ではない』





リーブラは、もう一度幸太郎に念を押した。








セリスはイーナバース自由国連合を目指し、



家族と共に逃げていた。



今まで住んでいた村に近い地域で、



次第に亜人への差別がひどくなり、



近隣の村で亜人、獣人が皆殺しにあうという事件が発生したせいだ。





しかも、聞くに堪えない残虐な殺し方だった。



さらに切り落とした子供の頭を、



人族の子供たちがサッカーボールのように蹴って転がし、



遊ぶという話まであった。



子供たちに悪気はない。



『あいつらは人間じゃない』、



『奴らは先祖の犯した大罪の報いを受けているのだ』、



『奴らを殺すことは道徳的に正しい』と、



親や周囲の大人たちに



念入りに、念入りに、念入りに、念入りに、念入りに、



念入りに、念入りに、念入りに、念入りに、念入りに、



念入りに教えられたせいだ。



だが、切断した小さな女の子の頭を集団で



蹴り転がし、歓声を上げて遊ぶ光景は、



亜人、獣人には狂気の光景だった。



狂っているのは、人族たちか? それとも亜人、獣人のほうか?





セリスのいた村のダークエルフたちは、



すでに全員脱出していた。



唯一残っていたのがセリスと、セリスの夫、そして娘のニーナ。



さらに、夫の兄弟2人。



セリスの娘が熱をだし、とても動かしていい状態ではなかったのだ。



セリスと夫は看病のため、残った。



そして、イーナバース自由国連合へ向かった



ダークエルフたちの中から、



セリスの夫の兄弟2人が引き返してきたのだ。



『心配だから』と。





他のダークエルフたちが脱出してから2日後、



セリスたちも村を脱出。



まだニーナの体調が回復してはいないのではあるが、



熱が下がったので、とにかく逃げることにした。



村の人々は、表面上、まだセリスたちに好意的だったが、



もう、誰が裏切るかわからない。



まだ暗いうちに村を出た。



門の丸木の柵を門番が少し開けてくれた。



その男はセリスたちの隣の家に住む男だ。



お互いの家族ぐるみで付き合いのある、信頼できる人々。



セリスたちは何度もお礼を言い、夜の闇へと消えた。





そして、それから約6時間後。街道を外れ、



少し小高い場所で休憩を取っていたセリスたち一行。



水を飲んでいたセリスたちは遠くに



信じられない光景を見ることになる。





追手が来たのだ。



犬を連れて、セリスたちを探し、追いかけてきた。



ダークエルフもエルフと同じく聴力がいい。



すぐに森の中へと進路を変え、身を隠した。



追手の先頭にいるのは、セリスたちの村の村長だった。



森の中から、遠目にではあるが、味方でないのは一目でわかった。



なぜなら、彼らの1人が持っている槍の先端に3つ、



丸いものがぶら下がっていたからだ。





それは人間の首。





1つはセリスたちを逃がしてくれた門番の男。



もう1つは、門番の妻。最後は、その夫婦の子供の首だった。



亜人に味方したため、『人類への裏切り』と断定されたのだ。



無論、彼らの常識に『亜人、獣人も人類』などという記載は無い。





あの優しかった村長が追手の先頭で、



逃がしてくれた男の家族が皆殺し。



『信じられない』光景。だが、現実は非常だ。



泣いている場合ではない。





そして、何より、追手の約半数は『見知らぬ人々』だった。



村の住人が7人。それ以外の7人が見覚えのない顔。



だが、馬に乗り、追跡用の犬を連れている。つまり、





『専門家』





だった。正体は人狩り。



それも盗賊まがいの『ならず者』ではなく、



貴族などの依頼で出動する、



訓練された『人間専門のハンター』である。





狩猟用の犬がいる以上、隠れてやり過ごすことはできない。



セリスたちは、イーナバースの北端、ゼイルガン王国の



ピグモン辺境伯領を目指し、



森の中をショートカットでとにかく走った。



崖を登り、川を渡り、できるだけ馬や犬が通れない場所を進む。



道が険しいとか言ってる場合ではない。



病み上がりのニーナにはつらいが止むを得ないのだ。



だが、遠い。まだ丸一日以上かかる距離が残っている。





そして、ついに人狩りたちに見つかった。





相手の人狩りが考え方を変えたのだ。



犬を連れて追跡しているのに、



一向に追いつかない。匂いが途切れる。



ダークエルフたちは追跡に気が付いただけでなく、



なかなか頭も回ると敵の想定を上方修正。



人狩りたちは『追跡』ではなく、



ピグモン辺境伯領へ行くにあたって、



どうしても通過しなくてはならないだろう場所に『急行』、



先回りして網を張ったのだ。





もちろん、その場所を迂回する方法もある。



だが、それは『できない』だろうと考えた。



まずセリスの娘ニーナが病み上がりで体力が無い事。



とにかく早く辺境伯領へ行くには、



そこに人狩りがいるかどうかもわからないのに、



わざわざ迂回している時間の余裕は無いと判断して、



絶対ここを通過すると人狩りのリーダーは読んだのだ。





人狩りたちの予想は的中。



セリスたちは人狩りたちと戦闘になった。



セリスの夫と、その兄弟は、死ぬとわかっていて、



セリスと娘を逃がすために3人で14人に挑んだ。





セリスは娘を連れ、とにかく逃げる。逃げるしかない。



しかし、3人で14人を抑えることはできない。



人狩りの4人がセリスたちを追ってきた。



人狩りが犬を放って足止めしようとする。





セリスも剣を抜き、逃げながら必死に戦う。



セリスは怪我を負ったが、



なんとか犬を行動不能に追い込んだ。



だが、人狩りにとって犬は消耗品。



犬のせいで、セリスたちの位置がはっきりと



人狩りたちにわかり、追いつかれてしまった。





ドスッ





セリスの背に、矢が刺さった。



人狩りの中にエルフがいたのだ。エルフは森の中での弓の扱いに



長けている。エルフの弓から逃げるのは難しい。





血を流しながらも、娘を連れて必死に逃げるセリス。



エルフの射る矢が、無慈悲に背中に刺さり、増えていく。





背中に刺さった矢が5本になったところで、



ついにセリスは倒れた。





「逃げてニーナ・・・早く、1人でも、逃げるのよ!」





「嫌だよ、お母さん、一緒に逃げてよ! 置いて行けないよ」





「いいから! 逃げるのよ!」





セリスは叫んだが、娘はその場を離れられなかった。



大好きなお母さんを置いて行けなかったのだ。





そして、セリスの娘は人狩りたちに捕まった。





人狩りたちはヘラヘラと笑う。





「なんとか、ご注文の品は確保できましたね」





「ああ、逃げられてたら、俺たちの首が飛んでたかもな」





「なあ、こっちの倒れてる女も、連れて行けば金になるんじゃねーの?


すげえ美人だぜ?」





「『大回復魔法』なら、まだ助かりそうだな」





「だめだ、注文の品は手に入った。欲をかくな。


本隊から大分離れちまってる。獣や魔物に横取りされたら、


せっかくの注文の品が台無しになるぞ。


現在、我々は4人しかいないことを忘れるな。


向こうもカタがついてるだろ。急いで合流だ」





セリスは必死に人狩りに訴えた。





「やめて・・・娘は、娘だけ、は、見逃して、下さい・・・」





しかし、人狩りはセリスの顔を思い切り蹴り飛ばしただけだった。



彼らにとって、ダークエルフたちは人間ではなく、動物なのだ。





セリスの娘の『お母さーん!!』『助けて、お母さーん!!』という、



悲痛な悲鳴だけが森に響いた。



だが、瀕死の上に、昏倒したセリスには何もできない。





意識を失ったセリス。だが、まだ死んではいなかった。



前歯が何本か折れ、背中からも流血が続いている。





どれぐらい意識を失っていたのかは、わからない。



セリスも意識が無く、



この話をしているリーブラも知らないのだ。



ほんの数分だったのか、それとも1時間くらいだったのか。



だが、ともかくセリスは意識が回復した。





セリスは倒れたまま、か細い声で助けを求めた。





「だ、誰か・・・娘、を、娘を、助け、て・・・」





周囲には、誰もいない。人影は無い。



人狩りたちも、とっくに



『商品』を連れてどこかへ立ち去っていた。





しかし、1人だけ、いたのだ。



上空に美しい女性の人影があった。『女神リーブラ』だ。






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