訪問者 3
「おお! これはこれはアステラ様。
突然のお越し、感激です。
久しくお会いしておりませんでしたから、寂しく思っておりました」
巨大な木から声が届く。
「久しぶりって・・・せいぜい100年くらいでしょ。
子供みたいなこと言ってんじゃないわよ」
アステラのケロっとしたセリフに、
幸太郎は、またも神と人間の感覚の違いを思い知る。
「しかし・・・なんですかな? その虫けらのような
悪魔どもは・・・。私が吸収して魂を雑草に分解して
やりましょうか?」
「別にしなくていーわよ。こいつら分体だしね。
あ、それでね。ちょっと場所貸して欲しいのよ。
こっちのガキが幸太郎と話をしたいんだって」
「ほう・・・、そちらの幼子はいつぞやの・・・。
しかも、以前と違って、かすかに霊力が・・・。
ほっほっほ、人間の成長は早いものですなあ。重畳、重畳」
この言葉を聞いていた幸太郎は、リーブラの方に驚いていた。
アステラから『ガキ』と呼ばれても、さっきから一向に気にした様子は無い。
怒る様子も無いし、不満一つ言わない。
幸太郎はリーブラに対する考えを、まるっきり変えるしかなかった。
(オーガスとは別方向で・・・一番恐ろしいのは
この『女神リーブラ』なのかもしれない・・・)
幸太郎はリーブラに対して、敬意に似た気持ちすら感じるように
なり始めている。
リーブラが顔を上げ、世界樹に一言感謝を伝えた。
「お前が世界樹か。騒がせてすまぬが、少し場所を
貸して欲しい。話をするだけだ。決して暴れたりはせぬ。
ここは良い場所だな。場を提供してくれたことに感謝する」
そう言ってから、リーブラは4人用の小さなテーブルセットを
『マジックボックス』から取り出した。
「さ、座れ。アステラ、ムラサキ、幸太郎」
リーブラが椅子を薦める。
そしてセリスが『マジックボックス』から
お菓子の乗った皿を並べ、かわいいティーカップに
紅茶を注いだ。カップからは上品な香りと湯気が立っている。
この光景にロストラエルが青筋をたてて怒った。
「おい、リーブラよう。俺たちの席がねえぞ?」
「お前たちは、そこで立ってろ。無粋な奴だな」
リーブラはしれっと言った。別に挑発しているわけではない。
リーブラは『素』で言ってる。
話を聞くだけなら、テーブルに着く必要は無いと言っているだけだ。
「まあ、そうおっしゃらずに。私も最近運動不足で
立ったままだと辛いのですよ」
オーガスが、また嘘をつく。そして、オーガスが
『マジックボックス』から6人用の六角形のテーブルを
取り出した。オーガスが指を振ると、幸太郎の体がフワリと
宙に浮き、勝手に椅子に着席させられた。
そして、オーガスは幸太郎の隣の席に座った。
「まあ、これならいいだろう」
ロストラエルも幸太郎の隣に座った。幸太郎はオーガスと
ロストラエルに挟まれる形になっている。居心地が悪い。
「仕方ない。ここへ来て、揉め事を起こすつもりは無いのでな」
ため息をついたリーブラは六角形のテーブルに着くことにした。
「ただし、これでは話しづらい」
そう言って、リーブラが指をふると、ロストラエルが
椅子ごと宙に浮き、空いた席にリーブラが座った。
「あんたもよ、オーガス」
アステラが指をふると、今度はオーガスが椅子ごと宙に浮き、
空いた席にアステラが座った。オーガスは『やれやれ』と
微笑んで首を振り、ロストラエルは『ケッ』と不満を吐き捨てて
承諾した。おそらくオーガスには予想通りだったのだろう。
最後にオーガスとロストラエルの間にムラサキが座った。
ムラサキは、この2人が幸太郎に危害を加えるそぶりを見せたら、
すぐに消し炭にしてやるために、この席を選んだのだ。
幸太郎を12時の位置とすると、時計回りに幸太郎、
アステラ、オーガス、ムラサキ、ロストラエル、リーブラの
順に座っている。
幸太郎の両隣りはアステラとリーブラという恰好。
幸太郎はセリスを手伝って、
4人掛けのテーブルから紅茶とお菓子を運んだ。
「お前はリーブラ様の客なのだ。座っていろ」
セリスは冷淡な態度だったが、その目は嫌そうじゃなかった。
「いえ、ここにいるのは、皆、神や天使、そして悪魔の皆様。
全員私より格上です。例え客と言っても、偉そうな態度は
逆位というものでしょう」
幸太郎の態度にセリスは『変なやつだな』と少し笑った。
美しい笑顔だ。ダークエルフは全員美形だが、
中でもセリスは特に美しいと言える。
もちろんセリスは見た目通りの年齢であるはずはない。
「普通、神や天使、悪魔と話をしたとなれば、
人間はみんな自分が偉くなったと
思いあがって自慢し、イキリ散らすものなのにな。
教会の奴らなど、神に会ったことも無いくせに、
『神の代弁者』を自称し、自分の空想の言葉で頭の悪い人々から
金をむしり取る商売をしているのだぞ?
お前は本当に変わってる。
いや、だからこそリーブラ様は、お前と話をしてみたいのか・・・」
「お褒めの言葉と受け取っておきます」
幸太郎はセリスにぺこっと頭を下げた。
セリスは『クスッ』と笑った。
セリスを幸太郎が手伝い、テーブルにお菓子と紅茶が6人分並んだ。
すでにボリボリとクッキーを食べているのがアステラとロストラエル。
全く無警戒。
当たり前だが、アステラにしろロストラエルにしろ、
毒など意味が無いのだ。
もちろんリーブラとて、そんな無意味は事は
するはずもない。幸太郎も『太陽神の加護』があるので
毒は効かない。
要するに、このテーブルについてる者で
毒で死ぬやつは1人もいないということだ。
六角形のテーブルに幸太郎が着く。テーブルの周囲には
モコたちが心配そうに立ってみている。
さすがに全員、見ている事しかできないから。
「さて、幸太郎に聞いてみたい事があるのだが、
その前に・・・。
まずはセリスとバーバ・ババに何があったかを
話してやろう。
愉快な話ではないことは、先に言っておく」
リーブラは紅茶を口に含み、ゆっくりとした口調で話し出した。




