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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
1007/1043

訪問者


翌朝。



毎度のごとく、いつの間にかチワが幸太郎のベッドに



潜り込んでいる。ぴったりと幸太郎に抱き着いていた。





「起きろ、幸太郎」





誰か、女性の声がした。



幸太郎は眠ったままだが、一緒にいるチワが反応した。



チワが目をこすりながら、ベッドの横に立つ女性を見上げる。





「幸太郎おにーちゃん、知らない人がいるよ」





チワが幸太郎を少し揺する。そこで、やっと幸太郎も



意識が浮かび上がってきた。



幸太郎が寝ぼけまなこで、ぼんやりとベッドの横の女性を見上げた。



そして、ぎょっとして、一気に眠気が吹っ飛んだ。



その美しい女性の姿は見覚えがある。





「女神・・・リーブラ・・・様!?」





「ようやく起きたか。まったく子供のようだな」





ここでモコとエンリイが血相を変えて、部屋に飛び込んできた。



サイコソードと如意棒を構えている。



耳がいい小狼族のモコには



『女神リーブラ』という声が聞こえたのだ。





「モコ、エンリイ、大丈夫だよ。武器を下してくれ。


リーブラ様にその気があるなら、村ごとクレーターになってるさ」





幸太郎はチワを抱っこしたまま、ベッドに体を起こす。



チワはリーブラを見たあと、『ひしっ』と幸太郎に抱き着いた。



知らない人が怖いのだろう。





「まあ、さすがにその辺はよく理解しているようだな。


その可愛い子はお前と、そっちのモコという娘の子供か?


いや、お前はこの世界に来たばかりだったな。計算が合わんか」





『幸太郎との子供』と言われて、モコはふにゃふにゃの笑顔で



相好を崩した。ちょろい。





幸太郎はチワの髪を撫でながら、リーブラに質問した。



チワの小さなしっぽが『もさもさ』と揺れる。





「それで、いったい何の用ですか? あの黒い蛇でなく、


わざわざ、ご本人が姿をお見せになるとは」





「黒い蛇・・・セリスのことか。来ているぞ? 家の前にいる。


用というのは、大したことではない。ちょっとお前と


話がしてみたいと思ってな」





「私と話・・・ですか? 


私が、リーブラ様の興味をひくような


話ができるとは思えませんが・・・」





幸太郎は慎重に話をしている。



『二コラの件で怒っているかもしれない』と警戒したが、



どうやら全然気にしていないらしい。



リーブラの実験体を壊したのに、なぜ怒っていないのか、



幸太郎には全然見当もつかないが、とにかく触れないほうがいい。



逆に二コラの件でリーブラを責めるなど、愚の骨頂だ。



もし、機嫌を損ねたら、村が消滅する。





幸太郎は別に正義の味方ではない。そして『話せばわかる』という



マヌケな考えも持っていない。



『話せばわかる』という理想論を掲げる人は多いが、



ではメキシコやブラジル、南アフリカのギャングに



『お前たちのボスは残虐非道だ。説教したいから会わせろ』と



言ってみたらどうだろう? 



頭に弾丸を撃ち込まれたあとで、



考えが変わったかどうか、その人に質問してみればいい。



沈黙を持って、雄弁に答えてくれるだろう。





「そんな難しい顔をするな。その子がおびえるではないか」





リーブラは優しく微笑んでチワを見た。幸太郎にはショックな



出来事だった。今までのイメージが一気に崩れた。



もちろん、相手は悪魔なのだ。印象操作のために、



わざとそういう表情を作ったのかもしれない。



だが、今のチワを見る優しい目は、とても嘘をついてるようには



見えなかったのだ。





(ルキエスフェルと・・・全然違う!?)





ここで不意にリーブラは斜め上を見た。そして穏やかに言った。





「・・・どうやらゲストも到着したようだ。


外へ行こうか。一応、出迎えねば、無礼というものだろう」





リーブラがくるりと背を向け、樹木の家のドアから出て行った。



幸太郎もチワを抱っこしたまま、モコ、エンリイと外へ出る。





「ようこそ。アステラ、ムラサキ」





リーブラは上空を見ながら挨拶した。



幸太郎の寝泊りしている樹木の家の周囲には、人々が集まっている。



ジャンジャックとグレゴリオも武器を手にしていた。



ファル、エーリッタとユーライカ、クラリッサとアーデルハイド、



ギブルスにイネス、そしてドライアードたちが



バーバ・ヤーガを連れてきていた。



悪魔が来たということで、臨戦態勢なのだ。



もちろん、バスキーとポメラも本気の臨戦態勢である。



アカジン、ミーバイ、ガーラ、タマン、そして武装メイドたちも、



『いざというときは、捨て身の覚悟で』といった緊張した



面持ちで武器を持っている。





その時、幸太郎の目の前で、突然黒い霧のようなものが集まると、



大きな黒い蛇となった。



以前、『鴉』を連れ去った、あの蛇だ。



名前はセリスというらしい。セリスは集まっている人々に



頭を下げ、穏やかに語りかけた。





「みなさん、武器を下してください。今日は、わが主が


この幸太郎と話がしたいということで参りました。


危害を加えるつもりは一切ありません。そのことは、


ここにいる幸太郎自身が証言してくれるでしょう」





幸太郎はチワを抱っこしたまま、うなずいた。



そして、ほぼ同時にアステラとムラサキがふわりと舞い降りる。



アステラは何か作業中だったのか、



車のディーラーのサービススタッフのような



『上下のつなぎ』を着ていた。



暑いのか前のファスナーはへその辺りまで



降ろしてシャツを見せている。



ムラサキはティーシャツにジーパン。





「アステラ様、ムラサキさん、おはようございます」





幸太郎はぺこっと頭を下げた。それは、集まった人々への



紹介を兼ねている。最初に反応したのはジャンジャック。





「え!? じゃあ、この美女たちが太陽神と、その従者・・・」





全員が驚愕の表情で固まった。



イネスやバーバ・ヤーガすら驚いて声も出ない。



もちろんギブルスだけは目からビームを出して



大興奮している。





しかし、アステラとムラサキは険しい顔でリーブラを睨んだ。





「何しに来たの? こんな大勢の前に堂々と姿を見せるとは


いい度胸じゃない」





アステラの厳しい言葉だが、リーブラは気にしない。





「久しぶりだな。アステラ、ムラサキ。


なに、大した用ではない。


この幸太郎と少し話がしてみたくなってな。


危害は加えないと約束する。時間をくれまいか?


もちろん、同席しても構わない」





「信じろっていうの?」





「悪魔の身で『信じてくれ』というのは虫のいい話かもしれんが、


本心だ。私も、この幸太郎に興味がわいたのでな」





アステラとリーブラが話をしていると、



バーバ・ヤーガが幸太郎のそばにやってきて、



意外なことに黒い蛇に話しかけた。





「セリスさん・・・その姿・・・母は・・・バーバ・ババは


嘆いておりましたぞ・・・」





黒い蛇、いやセリスは少し俯くと、目を閉じた。



すると、大きな黒い蛇の姿が急にぼやけた後、



1人の女性が片膝をついている姿に変化した。



そして、すぅっと立ち上がる。



長い耳、プラチナブロンド、褐色の肌。ダークエルフの女性だ。





「あなたの母・・・バーバ・ババ、か。懐かしい友の名ね。


だけど、すでに道を違えたの。戻ることも無い」





「母は、今でも、あなたのことを心配しております・・・」





「それを・・・言われると、少し胸が痛むわ。


バーバ・ヤーガ、今度あなたの母に会ったら、伝えてほしい。


『あなたが私を殺しに来ないだけでも、


私への変わらぬ友情を感じている。ありがとう』とね」





バーバ・ヤーガは顔を曇らせ『それは、ご自分で伝えてください』と



言うのが精いっぱいだった。幸太郎は、こんな辛そうな



バーバ・ヤーガを見るのは初めてだ。



まるで涙をこらえているよう。



そして、セリス自身も苦しそう、いや、泣きそうな顔だった。





幸太郎はバーバ・ヤーガに声をかけずにはいられなかった。





「大丈夫ですか? 何があったのかは、わかりませんが、


私に何かできることがあれば・・・」





バーバ・ヤーガが首を振る。





「昔、悲しい事件があったのじゃ。


あたしは、今でも昨日の事のように


思い出すがな。何があったのかは・・・」





そこへリーブラが割り込んできた。





「幸太郎、私が教えてやろう。この後の話にも少し関係があるのでな。


この世界に亜人、獣人への差別があるのは知っておろう? 


昔、残虐な事件があった。ただし、それは


その当時では珍しくない、ありふれた事件の1つでもあった。


・・・場所を変えぬか? 


お前が抱えている子供に聞かせるには、


少しためらわれる」





リーブラは務めて平静な声と態度で言った。



だが、幸太郎は、



またも今までのリーブラのイメージが崩れた。



幸太郎には、わずかに感じ取れたのだ。





(リーブラは・・・心の奥に、何か、とてつもない大きな


怒りを抱えている・・・。リーブラは、おそらく


『何かの手段として』悪魔となったんだ。


その怒りの炎に身を焦がしながら。


その炎が今も消えることなく、心を焼いているから・・・)





アステラも場所を変えることに賛成した。





「このガキの話を聞くか、聞かないかは、あんたの自由よ、幸太郎。


おすすめはしないけどね。どのみち、あたしとムラサキは


長く地上にいられないのよ。場所は変えましょうか」






この「訪問者」が3話続いたあと、問題の「分岐点」に入ります。


一応、アカバンされたらカクヨムに移籍しようかと考えています。アカバンされたらね。


その時はこれまでの話を再掲載する予定はないので、ご了承ください。


めんどいのです。(^^;)

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― 新着の感想 ―
運営さんアカバンするんじゃないぞ アニメ化や漫画化されないのが不思議な位面白い作品なんだからアカバンなんかして手放すなよ!
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