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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
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番外編 スタンプカード 2


結婚式はフルコースの料理。さすがはナンバー1シェフと



ナンバー2シェフの競演。前菜からトップギアだ。



まずはただの『カプレーゼ』。



モッツァレラチーズとトマトに



オリーブオイルや塩、コショウなどを振りかけたものなのだ。が。



『うまいっ!!』



一体、このシンプルな料理にどれ程の秘技が惜しげもなく



詰め込まれているのか、誰も看破できなかった。



何しろトマトのスライスのために、



専用の研ぎ方をした包丁を数本用意。



切り方までも『トマトの美味しさを最大限に呼び起こす』



包丁さばきをしている。このシンプルなカプレーゼは



トマトの真の実力を見せつけているのだ。



チーズも絶品。最高に美味しい瞬間のチーズを厳選、



それを最高の温度管理でトマトに組み合わせてある。



トマトとチーズの生み出すハーモニーは、



魂を天上界へ誘うが如し。





もうこの時点で『これでお腹いっぱいにしたい!』と叫ぶ



聖人がいたほどである。





スープもシンプルな『卵と5種の野菜のコンソメスープ』だが、



信じられないほどの美味しさ。しかも、これは特殊な



食材や調味料を使っているのではなく、



食材の切り方や、量、温度、時間を完璧に見切っただけ。



基本を究極まで突き詰めたものだ。



だが間違いなく芸術品。





次々に繰り出される美しい料理たち。食材の切り口だけで



食欲が掻き立てられるほどの美しさ!



魚料理、肉料理、デザートに至るまで、裂帛の気合が込められ



一分の隙も無い。



天叢雲剣もかくやという、恐ろしい技と味のキレ。



神々から天使、聖人の全員が感嘆の声を上げずにいられなかった。



まさに『鬼』! 『料理の鬼』である!





途中で酒の神が我慢できなくなって、



『マジックボックス』から酒を取り出した。





『これほど芸術的な料理に酒が無くちゃあ、失礼ってモンだろうが!!』





自分で作っている純米大吟醸『昇天』だ。



さらに1000年もののワイン『神州』のガラス樽。



とどめにがぶ飲み用の芋焼酎『責任転嫁』まで。





神々たちによる、飲めや歌えの大宴会。



しかし、神々はさすがの気遣い。



ちゃんと青鬼と鬼子にサプライズプレゼントを用意していた。





青鬼がロボットアニメが好きなことをリサーチ。



そして、あの人を呼んでいたのだ。








『俺たちのビッグブラザー』を!!








式場の入り口が勢いよく開くと、1人の男が



赤いマフラーを靡かせ、ステージまで猛然と走ってくる。



その目には若い力がみなぎっていた。



神々は拍手ではなく、拳を突き上げ、熱狂して一斉に叫ぶ。





『ウォォォォオオオオオオォォォーーーーーッ!!!!!』





青鬼もこれにはヒートアップ。鬼子も大喜びで一緒に叫んだ。



『ゼェーーーーット!!』



もちろん赤鬼とアムも笑顔で拳を突き上げる。



フルオーケストラに加えて、



100名の天使たちのバックコーラス付きだ!



地上では不可能なレベルの豪華さである。





要所、要所で赤いマフラーを着けた天使たちが



スーパーホーリーコーラスで、



『地獄の最下層まで熱くしろ』とばかりに



ビッグブラザーをサポートする!!





これは名づけるなら



『マジンガーZ 絶対無敵 魔神神話バージョン』だ。



誰もが魂を熱く滾らせずにはいられない。





かくて結婚式は神々、天使たち、聖人たちからの祝福をもって、



大盛況のうちに幕を閉じたのだった。








というわけで先日、青鬼と鬼子の結婚は滞りなく完了。



その結果、現在こうして紅白饅頭が全員に配られたと



いうわけである。





ブラッドリーは饅頭片手に、さっきからずっとノートに



何か書き込んでいる。向かいの牢屋にいる男には、



それがうらやましくて仕方ない。





なぜなら、ノートと鉛筆、消しゴムを持っているのは



ブラッドリー『だけ』だからだ。





理由は、ブラッドリーが幸太郎にコキ使われる契約をしているから。



ブラッドリーが留置場に入れられる時に、赤鬼から



『スタンプカード』を渡された。



幸太郎に『コール・バンパイア』で呼び出されると、



毎回、地獄の独自基準でカードにスタンプを何個か



押してもらえる。そのスタンプが貯まると、



鉛筆や消しゴムと交換してもらえるシステムだ。





『せこい』?





とんでもない。留置場は、というか、牢屋は、



『全然することがない』・・・。



痛みや苦しみは無いが、この『何もすることが無い』というのは、



ものすごい退屈な時間なのだ。現代の日本人なら、



ニンテンドースイッチか、せめて本でも差し入れしてくれと



泣くことになる。



何しろ『死』が無いので、計算上は無限に



退屈な時間が続くことになるのだ。



当たり前だが、ハンガーストライキなど意味が無い。



無限に空腹で苦しみ続けるだけ。死なないもん。





今回、ブラッドリーは召喚から帰ってきた後、獄卒たちに



幸太郎のピンチを必死に訴えた。



さらに『地獄の亡者に襲われている』と伝えたのだ。



それが赤鬼、青鬼に報告され、そこから



左鬼と右鬼に連絡が届き、緊急発進。



結果として、幸太郎の・・・、



つまり『他人の危機を救い』『他人の幸せを願い』



『現世に脱走した地獄の亡者捕縛に協力』と功績が認められ、



一気にたくさんスタンプが貯まったわけである。





貯まったスタンプで、ブラッドリーは念願の『ノート』を入手!





鉛筆、消しゴム、ノートという三種の神器が揃った。



オマケに功績が大きいということで、いつもの食事、



白米に味噌汁、メザシとたくわんに加え、トマトジュースまで



付けてもらえるように待遇改善された。





ブラッドリーは、自分を召喚する



幸太郎専用魔法『コール・バンパイア』の術式を



思い出せる限りノートに描き込んでいる。



ムラサキが大枠を作り、アステラとムラサキが修正、調整を加えた



『芸術品』とも言える魔法。ブラッドリーは一目で惚れ込んだ。



もちろん、全然意味がわからない部分の方が多いのだが、



憧れは止まらない。



自分なりの研究、解釈をして、ノートに描き込み続けている。



ブラッドリーは努力が嫌いではないのだ。





ブラッドリーはいつしか、こんな事を考えるようになっていた。





『今度は、天使になってみたいなぁ』





向かいの牢屋の男は、それをあざ笑った。





『無謀ってもんだぜ。だいたい、お前、吸血鬼だろうが!』





ブラッドリーは爽やかに笑い、答えた。





『違いない』





吸血鬼に違いない。だが、憧れは自由だ。






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