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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 5
1005/1043

番外編 スタンプカード


 ここは地獄の留置場。



まあ、留置場と言っても、拘置所や牢屋と何ら変わりない。



なぜなら、ここに収容されている人々は、収容されている理由が



全員バラバラだからだ。





同じ人生を歩む人がいないように、裁判前に収容されている理由も



千差万別なのである。唯一共通しているのは、全員まだ



裁判が始まっていない、ということだけ。








ブラッドリーはランニングシャツとトランクスで床に寝そべり、



紅白饅頭を頬張りながら、ノートに何か書き込んでいた。



上機嫌である。





紅白饅頭は、先日、青鬼と鬼子の結婚式があったので、



お祝いの品として、ここにいる全員に配られたもの。








青鬼と赤鬼は、あの日、エルロー辺境伯が地獄へ送られてきた時、



霊界通信と恐怖新聞の記者たちから取材を受けていた。



そして、彼らは凛々しく言ったのだ。





『・・・ええ、最近は加害者の人権とか、厳罰では


人は更生しないという意見も耳にはしています』





『ですが、私たちはそう考えていません』





『正直者が馬鹿を見るような世界、弱き者が踏みにじられて


泣くような世界・・・そんな世界でいいわけがないと思っています』





『人には、それぞれ色んな考え方や意見があるのは


承知していますよ』





『ただ、悲しい被害者の、つらい涙が止まらないような意見は・・・


この地獄じゃあ、通りません!! 私たちが・・・許しはしない!!』





そう言って、青鬼と赤鬼は背負っていた金棒を『ズシン』と



地面に打ち下ろした。





ここで恐怖新聞の鬼型記者が、その金棒に注目した。





『む!・・・その金棒は「断罪 トリプルエックス ジャッジメント」!!


・・・なにっ!? しかも、その刻印は!


当代随一の名工、「鬼平 一平」モデルですね?!」





そして霊界通信の記者も、青鬼の金棒に注目した。





『こっちもスゲエ! イノセント社の「ギルティ インフィニティ」!!


その上こいつは・・・間違いない! 


そのカラーリングは限定10本しか生産されていない


「マスターズトーナメントモデル」だ!』





記者たちから溜息と、どよめきが起きた。





『こいつは・・・なんて凄まじい気迫だ。


悪は許さないという覚悟と心意気がみなぎっている・・・。


さすが地獄はブレませんね。


ようし! 明日の朝刊の一面トップはいただきだ!』





恐怖新聞の鬼型記者はペンを持ったまま、右手を突き上げた。








そして翌日。青鬼はスーツにネクタイという装いで



花屋で花束を買った。真ん中に1本、赤いバラが輝いている。



青鬼はある店の前で髪を整え、ネクタイを締め直すと、



深呼吸してから店のドアを開けた。





カランカラン。





ドアのベルが鳴る。ここは喫茶店『地獄の一丁目』。



青鬼の目当ては、ここの看板娘『日木 鬼子<ひのき おにこ>』嬢。



鬼子嬢は黒目がちの穏やかな目、重たそうな黒髪、



スレンダーな体型、小さく控えめなツノがチャームポイントの



和風美人だ。フリルのついた白いエプロンが良く似合っている。





鬼子嬢は青鬼を見ると、優しく微笑んだ。





「あ、青鬼さん。昨日の霊界テレビ見ました。


とっても素敵でしたよ。かっこよかったです」





「あ、ありがとうございます。えー、そ、それで、


じじ、実は、ですね・・・」





既に店内で紅茶とチョコケーキを食べている赤鬼と、



妻のアムはわくわくしながら、成り行きを見ている。





「ぼっ、ぼくと、けけ、結婚、してくださいっ」





青鬼は真っ赤になりながら、背中の花束を差し出し、



プロポーズした。



青鬼なのに、真っ赤っか。





鬼子嬢は口元を押さえて、数秒声がでなかった。



そして、目に涙を浮かべて、小さく『・・・はい』と



答えたのだ。





店内は歓声が爆発したように巻き起こる。





『イヤッハー!!』


『やりやがったぜ! こいつぅ!!!』


『鬼子、良かったっちゃね!』


『こいつはめでたい!』


『マスター、酒だしとくれ!!』





マスターは『鬼ころし』を取り出した。喫茶店なので



置いてある酒はこれだけだ。その代わり・・・。





「今日はいい日だな。ようし、私のおごりだ。


腕によりをかけて料理を作ってやろうか」





実はここのマスターは『黄泉平坂グランドホテル』の



ナンバー2シェフを長年務めていたのだ。



特に卵料理が得意で『卵料理の鬼』と呼ばれるほどの



超一流の料理人。



喫茶店なのにオムレツや親子丼、カルボナーラを



注文する人が多いのはそのせいである。



モーニングに付いてくる



茶碗蒸しは神々すら唸らせるほど。





小さな喫茶店はマスターの長年の夢だった。





そして、その日は『貸し切り』となり、どんちゃん騒ぎ。



飲めや歌えで、青鬼と鬼子の婚約を祝った。





結婚式は『黄泉平坂グランドホテル』で行われた。



ただ、青鬼と鬼子はささやかな式にするつもりだったが、



とんでもない巨大な式になってしまった。





喫茶店のマスターが『私も料理を作りたい』と申し出て、



それをグランドホテルの総支配人と料理長が、快く承諾したのだ。



料理長のナンバー1シェフは、マスターの兄弟子にあたる。



マスターが『卵料理の鬼』と呼ばれるのに対して、



兄弟子は野菜料理が得意。『野菜料理の鬼才』と謳われるほど。





このかつてのナンバー1シェフと、ナンバー2シェフが



一日限りの復活という話は一気に霊界を駆け巡った。





その結果、神々や天使、聖人たちが『我も我も』と



出席を希望したのだ。招待はしてないけど。





青鬼は『俺たちの結婚式なのに・・・』と渋ったが、



鬼子が優しく『いいではありませんか』となだめた。



そして、この巨大な結婚式が実現したわけだ。








「あにさん、お久しぶりです」





「おうおうおう、喫茶店の『ますたぁ』なんてハイカラなもん


やってて、腕は落ちてねえだろうな?」





「あにさんこそ出世して腕はなまっていませんか?」





「てやんでえ! 出世はしたが、オイラぁいつでも、


最前線よ! どこかの地上に転生するその日まで、


オイラぁ包丁を握り続けるぜ!


そいじゃあ、いこうか? 最初っからエンジン全開だぁ!


ハンパな料理作りやがったら承知しねえぞ!」





「いきましょう!!」





伝説のナンバー1シェフとナンバー2シェフは



調理場に立った。今日限りのコンビ復活だ。



若いシェフたちは、その美技に目を奪われた。



もう見てるだけで『美味しい』のがわかる。



いや、見てるだけで『腹が減る』のだ!





そして青鬼と鬼子の結婚式が始まった。






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