番外編 嫁ーズ会議 2
クラリッサが議題を提案した理由を説明する。
「別に、自分たちへの関心が減るからとか、そういう話じゃなくてさ。
コウタロウの背負っている秘密は『重すぎる』と思うんだ。
今日、初めて『異世界人』という秘密を知ったけど、
この事実に対する反応は『人によってバラバラ』になると思うぜ?
コウタロウを気味が悪いとか、本当に人間なのかとか、
恐れる女だって絶対にいるはずだ」
幸太郎がただの人間であることは、
先日のガイコツの森で幸太郎が死にかけた時に
モコ、エンリイ、ファルが確認している。
幸太郎の意識が無いのをいい事に、幸太郎の胸に耳を当てて
心臓の音を聞いたり、胸にキスしてみたり、やりたい放題で
『詳細な調査』をしていた。
もちろん、幸太郎には内緒である。
ただの人間であることは確認したが、1つだけ、
不思議に思ったままなのは、幸太郎の脳みそだ。
『この頭の中、何が入っているんだろう?』
モコ、エンリイ、ファルは幸太郎の頭をわしわし、ぺちぺちと
撫でまわしていた。幸太郎はサイコ野郎だが、
一応頭の中は物理的には日本人と同じだ。
そう! ぼくらの仲間!
「その上、コウタロウを売れば、とてつもないお金になるだろうぜ。
『異世界の知識』は、権力者たちからすれば、宝の山だ。
ここにいる7人は世界中の富と交換でも、コウタロウは
絶対に譲れないって女ばっかりだから心配ないけどさ」
「・・・今後現れる女は、そうとも限らないってことね?」
モコが眉を寄せる。
「ああ、大金で揺らぐ程度の薄っぺらい『愛』って女は
掃いて捨てるほどいる。
『この人が大好き』とか言っておきながら、
目の前に大金を積まれたら、
あっけなく『真実の愛を見つけた』なんて、
しれっと乗り換える女は冒険者には大勢いるし、実際に見てきた。
ホントにあっさりと他のパーティーに移籍するんだよ。
しかも、その女は、ぜんっぜん悪いと思ってねーんだ。
そんな女が『妻』に加わったら、コウタロウの身が危ない。
なにしろ、コウタロウは女に弱いから」
「・・・確かに、それは間違いないですわ。
それに、もう1つ危惧するべきことは、
妻の数があまりに増えると、
『派閥』ができるかもしれない事ですわね・・・」
ファルも不安な顔をした。
「そうだねー。今はモコがナンバー1ってことで安定してるけど、
派閥が出来て仲間割れすると、幸太郎サンの場合、
仲間割れそのものを嫌って、ボクら全員捨てられちゃうかも・・・」
エンリイの指摘に、全員が青くなった。
『それだけは絶対に嫌!』で満場一致。
「でも、あんまり心配はいらないかもよ?
私とユーライカが弓、クラリッサとアーデルハイドが盾。
モコ、エンリイが遊撃隊。ファルの『ブラック・ジェミニ』は
攻撃、防御、どちらもオッケー。司令塔、魔導士、ヒーラー、
ポーターとして、幸太郎さん。
幸太郎さん自身は、
もうこれ以上誰も仲間に入れようとしないはずだもん」
エーリッタが明るく言った。だが、ファルはしょぼんとした。
「私の『ブラック・ジェミニ』は、まだ、修行中ですわ・・・」
「心配いらねーって。あたいたちで守るからさ!」
クラリッサの言葉に、アーデルハイドも笑顔でうなずく。
「そうすると、やっぱり一番の心配は、
ご主人様が女に弱いってことよね・・・。
悪い女が寄って来た時は、
私たちでしっかりとブロックしないと。
クラリッサの言う通り、ご主人様のパーティーに入れて欲しいって
女は、これからきっと現れるはず。
みんなで、協力して毒婦からご主人様を守るのよ!」
『おー!』
全員で気勢を上げる。
ただし、実際には幸太郎のパーティーに入れて欲しいという
女性は、滅多に現れないだろう。
もちろん、幸太郎が活躍すれば、
パーティーに入りたいと思う女性は出るはずだ。
幸太郎が好きとか、そういう話ではなく
『安全に儲かりそう』だからだ。
言うまでもないが、それは冒険者としては健全と言える。
お互いの戦力を計算して、生き残れそうな方に『賭ける』のは
至極当然。
むしろ、それができない奴はすぐに死ぬ。
魔物や獣は、パーティー内部の事情など考慮してくれないから。
ただ、パーティーメンバーのモコとエンリイが飛びぬけた美女。
さらにフレンドに、エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドがいれば、
普通の女性は並外れた美女揃いに気後れするはずだ。
アステラやムラサキ、ドライアードたち、
シャオレイなら気にしないかもしれないが。
逆に『幸太郎のパーティーに入りたい』というのは、
女性よりも男の方が多くなるだろう。美女ばっかだからだ。
『1人か2人、分けてくれよ』という魂胆。
この夜、『嫁ーズ』会議は重要な議題を話し合い、合意に達した。
実は、幸太郎の知らない所で、
ずっと以前から話は進められていたのである。
アルカ大森林のダンジョンに潜る前、ギブルスによって、
モコとエンリイに
『ファルネーゼ様を3番目の妻に入れて欲しい』と依頼があったのだ。
『幸太郎が持てる妻は3人まで』と分析を披露して、
『もし、3人目に毒婦が入り込めば、幸太郎は破滅するじゃろう』と
モコ、エンリイを説得・・・というか脅して承諾させた。
ここで既にナンバー3まで決まっていたのだ。
エーリッタとユーライカも、モコとエンリイの部屋に引っ越した後、
『4番目、5番目の妻に入れて欲しい』と申請をしていた。
また、先日の『ミーティング』の時に、
クラリッサとアーデルハイドも
『6番目、7番目の妻にして欲しい』と頼み込んでいる。
そう、幸太郎が昼寝している目の前で!
さらに、『嫁ーズ』はギブルスに相談を持ち掛けていた。
『いい作戦を授けて欲しい』と。
ギブルスはケロリと言った。
『幸太郎自身は3人までしか、妻は持てんじゃろう。
それは「平等に愛せない」と思うからじゃ。
じゃがのう・・・
「ならばどうするか?」が肝心じゃよ。
答えは至極簡単じゃ。
「平等でなくて構わない」とお前さんたちが
幸太郎を説得すればええ。「出来る限り」で構わない、とな。
まずはモコ、エンリイ、ファルネーゼ様が幸太郎と結婚する。
そして、その後、3人の妻が「エーリッタとユーライカ、
クラリッサとアーデルハイドも妻にしてあげて欲しい」と
幸太郎に懇願するのじゃよ。
その際に、多くの理由を考えておくんじゃぞ?
幸太郎は普段なら、理由を1つ1つに分解し、
解決してゆくじゃろうが、
7人の美女からバラバラの理由で懇願されれば、
女に弱い幸太郎は間違いなく頭が麻痺して動かなくなるわい。
イチコロよ。ひっひっひ。
しかし、注意せねばならん。
女に弱い分、あまりにもプレッシャーをかけると、
幸太郎が逃げ出しかねんからのう。
ゆっくりと、絆を深めてからじゃ。あせるでないぞ?
そして、お前さんたちの仲が悪いと、幸太郎は即座に
嫌気がさして冷たくなるはずじゃ。
お前さんたちは、よく話し合って、
良好な仲を維持しなくてはならん。ケンカにならんよう、
もう今の内から順位をつけておくべきじゃろう。
幸太郎が破滅するとすれば、
間違いなく女が原因になるはずじゃ。
みんなで幸太郎を守ってやっておくれ』
『嫁ーズ』はギブルスから秘策を授かり、
『絶対に幸太郎を守る』と一致団結。
そして作戦を深く、静かに実行していたのだ。
別にギブルスは幸太郎を裏切ったわけではない。
ただ単に、
『だって、その方が面白そうじゃないか』
と思ってるだけだ。
『嫁ーズ』は、この後もノロケと話し合いを続行していた。
特にファルネーゼが領主を辞める方法と時期について
話題が集中する。でも、誰も難しい顔はしていない。
笑顔で楽しそうであった。雑談は親睦を深める近道。
そして、この時、幸太郎は・・・この時幸太郎は!!
ぐーすか寝てた。