日常の朝
『あー…行きたくねえ…』
布団の上でいつも通りの言葉を吐く。
ふと隣を見るとヨダレを垂らしだらしない格好で寝る妻と、その顔を蹴飛ばしながら寝る娘の姿がある。
『はぁ…幸せそうで何よりだな…』
とんでもなく大きい石が乗っかっているかのように重い身体を無理に持ち上げて洗面台に向かう。
顔を洗っているとふと気づく。
『… 』
昨日まではなかったはずのそれ。
有名なブランドの赤いパッケージのそれはシンプルな洗面台の上に立ち、圧倒的存在感を放っている。
『はぁ…いくらしたんだよこの化粧水…』
鏡に目を移すと毎日見てる気だるそうなクマの多い細い目がある。
『お前も大変そうだよな…相変わらず。』
鏡の中の人物に皮肉を言うと顔を拭きながら着替えるために自室へと向かう。
部屋で着替えをしていると
「おはよう」
寝起きの掠れた声で妻が挨拶してくる。
『おはよう、そういえば新しい化粧水買ったんだな。』
「うん、勧められたから買ってみたの」
『そうか、肌に合うといいな』
そんな会話をしている間に着替えが終わる。
朝食の準備をしようとリビングへ向かおうとすると
「連れてって」
『君の足はなんの為に付いているのだろうか』
「ははっ、飾りだよ」
『……それを本人が言うのか、まあいいや』
妻の手を持ち引きずるようにリビングへ行く。
朝食を作り、それを2人で話もせず食べる。
『ご馳走様…』
「お粗末さまでした!」
『いや…俺が作ったんだけど』
「ははっ、ご馳走様でした!」
『へい、お粗末さま』
こんなやり取りも何度目だろうか、しょうもないやり取りでもちょっと幸せに感じてしまうのは、それほどこの家という場所の居心地がいいのだろう。
『それじゃあそろそろ行ってくるよ…』
「いってらっしゃい、頑張ってね」
ガチャ!
バタン!
『はぁ…ずっと家に居たいものだよなぁ…』
そうつぶやくと気だるそうに現場に向かうのだった…




