最終話
旅行を終えると、ルーシャとヒスイは二人でまたブランジェさん家へと帰って来た。人手不足でもあるし、カルロに可愛いお嫁さんがくるまでお手伝いしようと思っている。
「んなこと言って、本当はウチの店を乗っ取る気だろ!?」
「それもいいかもしれませんね」
悪態をつくカルロに、ヒスイが笑顔でミールへ言葉を振る。
「そうね。二人が引き継いでくれるなら嬉しいわ」
「み、ミル婆。そりゃないだろ~」
半分ぐらい冗談だ。でもカルロは嫁にくるか、など言わなくなったので、前より成長している気がする。
今日は王都へ出向き、新作のレモンタルトの販売を開始した。売れ行き良好、カルロとの合作は大成功だった。
最近では新規の女性客も増えているし、カルロにもいい人が見つからないかとルーシャは期待している。しかしカルロ自身はそんなにガツガツしていないので何とも言えない。
店番が落ち着くと、ヒスイはルーシャを画廊に誘った。
父と母の絵を見ると、あの日の記憶が鮮明に甦える。守護竜がルーシャの記憶を持っていてくれたからか、本来なら忘れてしまいそうな幼い頃の記憶も明瞭に覚えていた。
父と母の声も温もりも愛も全て。それから、別荘で出会った、争いが嫌いな優しい少年のことも。
隣のヒスイに目を向けると、彼は絵じゃなくてルーシャを見ていた。ルーシャと目線が合うと、ふわりと笑顔を浮かべ、床に膝をついた。
「ルーシャ。僕と結婚してください」
「ヒスイ」
「ルーシャのご両親の前で誓います。ずっと傍でお守りすることを」
ヒスイの手には小さなピンクダイヤの指輪が掲げられる。
「素敵な指輪……」
「リックの実家で選びました。──覚えていますか? 一緒に秘密の隠れ家を作りましたよね。ベッドのシーツを天井にして木の実を飾って、川原で拾った石で囲いを作った。毎日目にしていたただの石が、ルーシャが触れただけで煌めいて見えました。貴女の見る世界が僕とは違い過ぎて、その世界に僕もいたくて、僕も触れたくて」
「だから、記憶の中のヒスイは私と同い年ぐらいの少年だったの?」
「はい。お恥ずかしながら、ルーシャと同じ目線に立てば近づけるかな……と」
「ふふっ。ヒスイって可愛いわね」
「る、ルーシャ。……あの、これは受け取ってもらえないのでしょうか?」
耳まで赤く染めて困り顔でルーシャを見上げるヒスイが可愛くて、指輪を受けとればこの時間が終わってしまうから、つい手が伸ばせずにいた。
この瞬間は今しかないのだから。
「ありがとう。これからもよろしくお願いします」
「はい」
その様子をこっそり覗いていた画家の青年は、ルーシャとヒスイの絵を描いた。その絵は、指輪を掲げる青年と、それを受け取る女性の絵。ヒスイは恥ずかしがって絵を持ち帰ろうとしたがルーシャは止めた。
今でも両親の絵の隣に飾ってもらっている。
その場所が秘かにプロポーズの名所になっていることを二人が知ることになったのは、パン屋の青年がここでプロポーズを成功させた時だったとか。
おしまい
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