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007 ドラゴン大好き同盟

「妹君。昼過ぎにシェリクス領に着きますよ」


 外の様子を確認すると、いつも通り明るい声でリックはそう言っていた。

 しかし、こちらを見ようとしない。少し様子がおかしいことにルーシャは気付いていた。


 ドラゴンに近づいていることに緊張しているのか。

 それとも別のことだろうか。


 朝食のパンを頬張りつつ、どこか上の空のリックは、降り続ける雨を横目で眺めている。

 ルーシャはランタンの灯がまだ付いたままになっていることに気が付き、昨夜のハーブを思い出した。久しぶりにぐっすり眠れた。


「あら? 私のネックレスがないわ」

「あっ。昨日シュヴァルツが弄ってましたね。あの香り、すごく気に入ったみたいで」

「そうなの? アリア様からの初めてのプレゼントだから、返して欲しいのだけど」


 そう言うとシュヴァルツは口からネックレスを吐き出してくれた。ロケットが開いたままで中身は空っぽだ。


「シュヴァルツ。食べちゃったのかしら」

「何てことだ! 妹君、申し訳ありません。そうみたいです。あれってアリア様も使ってるんですか? どこで購入したとか聞いてませんか。無くなった分を買ってきますから」


 リックはロケットの中を確認すると、何度も頭を下げルーシャに謝罪した。それが、ちょっと芝居がかっていて、もしかしたら朝からこの事を言い出せずにいたのかもしれないと感じた。


「いいのよ。気にしないで。アリア様も使ってるみたいだったけれど、どこで手に入れたとか、そういう話はしなかったから」

「そうですか。王都に戻ったら、一緒にレイス様に相談させてください」

「どうしたの? そんなに急に改まってしまって。気にしなくて良いわ。ネックレスはあるのだし」

「いえ。絶対にレイス様に相談します。こういうことはしっかりと落とし前をつけなきゃいけないんですから」


 けじめをつけなければならない。そんな強い意思を感じる瞳で見つめ返された。まるで売った商品に対するクレームへの対応みたいだ。


「分かったわ。それから私のことルーシャで良いわよ。妹君って何だか私のことじゃないみたいで。話し方ももっと、友達みたいな感じでいいのに」

「……一応、お客様だと思って接してるんですけど」

「でも私、リック君から何も買ったこと無いわよ。売ったことはあるけど」

「確かに。ルーシャは顧客じゃない……か。今も金で結ばれた関係じゃないしな」


 前回はレイスの依頼であったが今回は違う。

 二人の目的は違うかもしれないが、目指す地を共有している。


「そうそう。だから私たち友達よね?」

「ん? そっちかぁ」

「他に何て言ったらいいのかしら?」

「ドラゴン大好き同盟ってどうだ。金で結ばれた関係より、強いよな絶対に」

「ふふっ。良いかもしれない。じゃあ、同じ同盟員として……、困ってることがあったら言ってね。朝からちょっと変だし」

「……ははっ。そっか。そろそろシェリクス領だなって考えたらちょっと気張っちゃっただけだから」

「なら良かった。私ね、魔法とか何にも使えなくて、行っても何が出来るのかなって、正直言うと不安なの。でも、行かないといけない気がして。ヒスイに会いたくて、何もせずにはいられなくて。だからリックには感謝してる」

「感謝したまえ。そして頼って良いぞ。ドラゴン大好き同盟はオレが盟主だからな」


 リックは右手を突き出し、ルーシャはそれを握り返した。


「うん。頼りにしてるわ。盟主様!」

「バゥっ」


 シュヴァルツもルーシャとリックの手の上に自分の前足を乗せる。もうすぐ馬車は、シェリクス領に到着しようとしていた。


 ◇◇◇◇


 シェリクス領へ入るための検問所が見えてきた。

 シェリクス領の民と、その同行者なら、身分証を提示すれば入ることが許される。


「ルーシャ=アーネストです」

「よし。ルーシャ=アーネストだな。通って良いぞ」


 検問所の兵士のよく通る声が響くと、門が開かれシェリクス領へと通された。


 潜り抜けると、すぐ横に黒い大きな馬車が停まっている。今から領外へ行くようだが、何故か御者が慌てて台から降り、ルーシャの乗る幌馬車に飛び出してきた。


「すみません! お待ち下さい。お待ち下さい!」

「おおぃっ。あっぶねぇだろ!?」


 間一髪馬車は御者の前で止まり、リックが怒っていると、黒い馬車からローブを羽織った男性が降り、雨にも関わらずこちらへ駆けてきた。


「ルーシャ。ルーシャなのか!?」

「て、テオドア様?」


 幌馬車の後方から中へと顔を覗かせたのは、ルーシャの偽装婚約中の相手、テオドア=シェリクスだった。




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