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003 ボス火狼

『ガルォォォォォッ』


 火狼のボスは咆哮と共に、ヒスイに向かって炎を吐いた。リックは咄嗟に幌を閉じ、ルーシャをシュヴァルツの後ろにかくまい、叫ぶ。


「やべぇの来たぁぁぁぁぁぁ!?」

「リック君! ヒスイが外にっ」

「あっ。そうだった。この幌は防炎加工がしてあるから多分大丈夫だけど、外は……。あちっ」


 リックは外へ出ようとして幌に触れ、反射的に手を引っ込めた。


「だっ大丈夫!?」

「くそっ。火傷した。……シュヴァルツ」


 シュヴァルツはリックの代わりに幌をめくり上げ、外の様子をその隙間から見ることが出来た。


「あれ? ヒスイ殿。ボス火狼とおしゃべりしてる?」

「本当だわ。お話ししているみたい」


 火狼とヒスイは数メートル離れたまま向かい合い、言葉を交わしているように見えた。地面には焦げた跡が残り、ヒスイの周りだけそれを免れていた。


「ヒスイ殿って、魔法使いなのか?」

「さぁ? ボス火狼さん。凄く不機嫌そうだけれど、大丈夫かしら」

「うーん。ヒスイ殿は涼しい顔してるし。今のところ、ここで様子見としましょうかね……」


 ◇◇◇◇


 ヒスイは火狼の炎を真っ正面から受けた。

 しかしこんな身体でも元は水竜である。

 水を操れるヒスイにとって、火を防ぐことなど朝飯前の事だ。


 ただ、ヒスイは争い事は好まない。あまりにも火狼が不機嫌そうなので、炎を打ち消すことは止めてあげた。

 そんな事をしたら余計に暴れだしそうだから。


 火狼は何の変化もなく目の前に立つヒスイに面食らい、興奮状態のまま大きな口を開いた。


『貴様、俺の炎を止めたな。俺の縄張りでデカい顔しやがって、どういうつもりだ!?』

「はじめまして。僕は、ただの通りすがりの水竜ですよ。空腹で激昂されているようですが、どうやら森に僕がいたことで、狩り部隊はお仕事をサボってしまったみたいですね」

『す、水竜だと!? だから皆ビビってたのか……』


 ボス火狼の周りには、他の火狼は一匹もいなかった。


 あれだけ遠吠えが聞こえていたのに、他の火狼達は、ここへ来る途中でヒスイの気配を感じとり、尻尾を巻いて巣穴へ逃げたのだ。

 ここまで来たのは、空腹と怒りで我を失っていたボス火狼のみだった。


「縄張りを荒らしてすみません。明日の朝には抜けますから。他の火狼に伝えておいてください。そんなに怖がらなくても、僕はただ森を通っただけですから、なにもしませんって」


 にこやかに謝罪する水竜を見て、火狼は思った。

 この水竜は何故、人の姿をしているのだろうか、と。

 それに、人間を連れているのも不思議だし、思いっきり炎を吹き付けたのにお咎めもなしとは変だ。

 きっとこの水竜は何かを隠している。


 火狼は牙をむき出しニヤリと卑しく微笑んだ。


『もしや貴様、禁忌を犯すつもりか?』

「何の話ですか?」

『貴様、人を喰らうつもりだろう?』

「人を……ですか?」

『ああ。今、守護竜は弱っているからな。目を盗んで喰らうのだろ? 人間を二人連れているな。黙っててやるから、俺にも一人寄越せ』

「…………」

『おいおい。そんな怖い顔するなよ。一人が嫌なら半分だけでも──』


 火狼は途中で言葉を発することが出来なくなった。

 理由が分からないまま、目の前が真っ暗になる。

 暗く消え行く意識の中で水竜の声が微かに聞こえた。


「口を慎め。お前、この国から消されたいのか?」



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