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07話.[いつでも味方で]

「昨日はありがとうございました、新鮮でした」

「うん、こっちもちょっと新鮮だったよ」


 起きたら既にユウがいて先程からずっと話していた。

 寝ている間に体に戻っていたからそれも新鮮な感じだ。


「あの、それでですね」

「うん?」

「……戻ってもいいですかね、美咲さんのお家に」

「私はいいけど」


 なにかをしてくるというわけでもないから弊害もない。

 おまけに喋り相手ができるというのは単純にいいことだった。

 でも、愛海のことはいいのだろうか、せっかくふたりきりでいられる機会が増えるというのに。


「……やっぱり美咲さんといるのが1番だと思いまして」

「愛海といるのが1番だと思うけどね」

「それは美咲さんが、ですよね?」


 言葉に詰まってしまった。

 強がっても仕方がないから言うが、愛海といたいのは本当だ。

 仮に瑠奈と関係が切れても、愛海とは最後まで一緒にいたいと思う。

 昨日の愛海の反応を見たら期待してしまった、あっさり見破れるなんてすごい。

 あ……もしかしたら表情豊かだったからなのかもしれないけれど。


「変身、しましょうか?」

「ううん、そういうのは本人に頼むよ」

「私は今日、家で本を呼んでいるので必要になったら呼んでください」

「うん、あ、この前ありがとね、調子悪いときさ」

「いえ、あれぐらい当然ですよ」


 唐突だが愛海の嫌な点はお礼を言っても素直に受け取ってくれないことだ。

 当然のことをしたとか、これぐらい普通とか、たまにモヤッとする。

 お礼を言った後はすぐにべつの話題にしようとするのもなんとも言えないところだった。


「おはよう!」

「おはよ」


 一緒に行くことは決定事項みたい。


「愛海、ユウが家にさ」

「うん、ユウちゃんが戻りたいって言ったから」

「いいの?」

「うん、ユウちゃんがそう望むのならね」


 彼女は「私が住みたいぐらいだけど」と笑う。

 ちょっと聞きたいことがあったから後ろから抱きしめて止めた、ちょっと危なかった。


「どうしたの?」

「……愛海はいつまでもいてくれる?」

「美咲ちゃんの側に?」


 こくりとうなずく。

 彼女は私の腕に手で触れつつ「大丈夫だよ」と答えてくれた。

 大丈夫ってあんまり安心できない、もっといると断言してほしかった。


「なんか不安なことでもあるの?」


 自分の方が本当は幽霊だったのではないのかという話をする。

 よく考えてみると辻褄が合うと、幽霊であるユウの方が元気なのはそういうことなのだと。

 が、今度はこちらが正面から抱きしめられてしまった。


「そんなことないよ、私たちはずっと一緒に過ごしてきたじゃん」

「……でもさ、愛海だってユウみたいな明るくて可愛い子とさ」

「確かにユウちゃんは魅力的だけど美咲ちゃんが1番だからっ」


 こういう時間差攻撃は卑怯だと思う。

 必要としている言葉をくれるから怖かった。

 嫌いとか言っていたのもそういうことだ、その度に想いがどんどん強くなっていく。


「手をつないで行こっか」

「……調子に乗らないで」

「私が単純につなぎたいだけだよ」


 彼女の手は少し熱かった。

 こちらはずっと手汗をかかないか不安だった。

 不快な気持ちにさせたくない、いつだって1番だって言ってもらえるようにしたい。


「今日の調べ物さ、自由に組んでできるからふたりでやろうよ」

「あ、そういえばそんなのあったんだっけ」

「うん、図書室で本を広げてさ」

「そうだね」


 発表をしなくてもいい、かわりにレポートを書くやつだから緊張せずに済むのはよかった。

 仮に発表でも人前が苦手とかはないから単純に面倒くさいだけで済むんだけど。

 でも、ふたり一組という話だから瑠奈は仲間外れになっちゃうか、なんか嫌だなそういうの。


「あ、瑠奈ちゃんは他の子と組むんだって」

「それって愛海が勝手に言っているわけではなくて?」

「うん、調べたい内容がドンピシャで合う子がいたんだって」


 まあ、そもそも選択肢が少ないからおかしくはないか。

 そうか、じゃあ気にすることなく愛海とふたりでやればいいか。


「頑張らないと」

「そこまで気負わなくていいでしょ」

「ちょっとしたいことができたから時間をかけていられないんだ」


 へえ、ま、すぐに終わらせられた方がいいのは確かだ。

 で、実際のその時間になって私たちは図書室にやってきた。

 他にも利用する子たちが数組いた、ここを利用しない子はみんなPC室へ行ったことになる。


「本を持ってきたよ」

「はや、じゃあやろ」

「うんっ、頑張るよっ」


 おぉ、なかなかいい本だ、調べたいことがすぐにわかっていい。

 愛海が優れているということだろうか、それとも最初からこれを見つけていた?


「終わったっ」

「はや……」


 やる気がありすぎる、なんなら2周目に突入しそうだった。

 それでも私も10分後には終え、持ってきてくれたから片付けは私がやることに。


「美咲ちゃん」

「あ、これどこにあったの?」

「あ、それはここだよ」


 来てしまったら意味はないけど間違ったところに戻すよりはマシだろう、図書委員的に。


「ふぅ、愛海のおかげで早く終わったよ、ありがとう」

「私のおかげだってことだよね? それならなにかして?」

「え、なにかしてって言われても……」


 面白いことが言えるわけでもなし、調理スキルが高いわけでもなし、ましてやここは図書室だ。

 こんなことは初めてだった、だっていままでは当然だと片付けてきた彼女だから。


「もっとこう具体的に言ってくれないと」

「もー……だから朝みたいに抱きしめてって言ってるの」


 言ってないでしょうが……。

 減るものじゃないからしておいたけど。

 本棚で隠すようにして、自分より少し大きい彼女を抱きしめる。

 肩にあごを乗っけられるほどの高さはないから、抱きしめていると言うより抱きついているような感じだと思う。


「はぁ……こんなのでお礼になるの?」

「うん」


 このまま続けていたら確実におかしくなる。

 なにがおかしいってこの距離感だ、仲がいいのが1番ではあるが。


「美咲ちゃん、ちょっとお顔を見せて?」

「うん、はい」


 抱きしめながらってのがまた難しいところだった。


「美咲ちゃん……」

「え、ちょ」


 顔が近い、なんかいよいよ決めにきた感じだ。

 私の内はこうして色々と自由なのに、表の私は動けないままだった。

 どんどんと間がなくなっていく。


「んー、どの本がいいかな」


 と、他の子が近づいてきたことで慌てた彼女。

 ま……くっついてから愛海らしいドジをかましてくれたなというのが正直な感想だった。


「わ、私はじょ、冗談のつもりで……」

「もういいから離れて、よさそうな本を教えてあげたら?」

「う、うん……」


 わざわざ移動してから床にへたり込んだ。

 いや、こういう形はよくない、本当ならこの前みたいに嘘だよーんで終わらせるつもりだったんだろうけど……。


「中川さんどうしたの?」

「あ、なんでもないよ」


 あの場面を目撃されているのでなければ問題はない。

 

「風邪なの? 顔が真っ赤だけど」

「そうかも、とりあえず教室に戻って休み時間になったら保健室にでも行くよ、心配してくれてありがとう」

「あ、うん、無理しないでね」


 おいおい、幽霊みたいな女が照れてどうする。


「呼びました?」

「えっ」


 ユウが本を持ちながらそこに浮いていた。

 来るまでが一瞬すぎる、しかも内の思考にも反応していたら大変だろう。


「あれ、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「ユウ、今日は放課後までずっといて」

「わかりました、で、大丈夫ですか?」


 そっちは大丈夫だと答えて教室へ。

 レポートの方は提出して席に座る。


「隠したい気持ちはわかりますけどね、でも、冗談で唇同士がつくことぐらいありますよ」

「ぶふ!? ごほごほっ、な、なに言ってっ」


 呼んだのは終わってからだったから見られていないはずなのに。

 それとも記憶とかを共有しているのだろうか、仮にそうなら恥ずかしいこととか悲しいこととか全部筒抜けだということになるけれど……。


「おい中川、どうしたひとりで慌てて」

「あ……すみません、夢の内容が残酷で」

「いまさっきまで起きていたような気がしていたが、ま、終わったからって寝ないようにな」

「はい、気をつけます」


 ああ、もう帰りたい。

 それでも終わりまであと数時間残っていたのが残酷だった。




「……しちゃった」


 本当に冗談のつもりだった。

 ただ抱きしめ合ったりしたらその先は~ぐらいにしか考えていなかった。

 いや、あの子たちが来ていなかったら「冗談だよー」で終わらせられるはずだったんだ。


「る、瑠奈ちゃん!」

「あ、なに?」

「しちゃったっ」

「なにを?」


 美咲ちゃんはもうユウちゃんと出ていってしまったから教室にはいない。

 だからまだ残っていてくれていた瑠奈ちゃんに頼むしかなかった。

 お友達と話しているところを邪魔するのは悪いけど、腕を掴んで廊下まで連れて行く。


「もう、なにをしたの?」

「美咲ちゃんと……ちゅー……しちゃった」

「えっ? いつっ?」

「図書室に行ってたとき……」


 なにやっているのかと怒られた。

 当たり前だ、調べ物をする時間なのに変なことをしていたんだから。


「なるほどね、冗談のつもりだったんだ」

「うん……」

「自由に言ってもいい?」

「ど、どうぞ」

「馬鹿、そういうの1番最悪だから、だってそういうことを冗談でされたら嫌でしょ?」


 確かにそうだ。

 その気がないならしないでほしいって考えると思う。

 でも、さっきのは冗談だったけど、私の中の気持ちはちゃんとある。

 責任だって取る、美咲ちゃんが求めてくれた場合は、だけど。


「愛海は美咲のこと好きなの?」

「うん、好きだよっ」

「それなら早く行って謝ってきなさい」

「わ、わかったっ」


 どうして自分がやらかしておきながら避けようとしていたのかがわからない。

 人生の中で1番速く走った気がする、そのおかげですぐに美咲ちゃんには追いついた――と言うよりも待ってくれていたように思う。


「ユウ、先に帰ってて」

「わかりました、なるべく早く帰ってきてくださいね」

「うん、大丈夫だから」


 どうやらいまはちょっと回復しているようだ。


「愛海も気にしなくていいからね」

「責任取るよ!」

「どうやって取るの? もうされた後なのに」


 うぐ、そう言われるとどうしようもない。

 だって、だから付き合うよなんて自分優先であることには変わらないし。


「なんてね、気にしなくていいよ」

「でも……さ」

「他の子にしないなら許す」

「そ、そんなことしないよ!」


 私は初めてではなかったけども……あっ、相手は美咲ちゃんだけどね。

 しかも今回みたいに勝手にしてしまったわけで、それはずっと言えないでいた。


「帰ろ、今日は家に泊まってよ」

「う、うん、それなら着替えを……」

「いいでしょ、服とか貸してあげるから」


 それでも気になるので替えの下着だけは持ってきた。

 服はわざと持ってこなかった、美咲ちゃんのを着たいから。


「うん? あれ、ユウがいないみたいだね」

「家に帰ってるって言ったのにね」


 ということは完全にふたりきり。

 正直に言って唇の感触より、彼女のその後の真っ赤な顔を意識してしまって駄目になった。


「まあいいや、後で帰ってくるだろうし」

「そうだね」


 さて、どうしたものか。

 今日のがなかったら普通にベッドに座ったりできたのに。

 床にも座りづらい、美咲ちゃんは適当にベッドに転んじゃっていて困っている。


「んー、同性とキスなんて初めてしたけどさ」

「えっ、あ、う、うん、わ、私もー」

「なんかドキドキしたよ、あはは」


 そこ笑うところじゃないからっ。

 しかもこういうときでも無表情!


「早く座りなよ、まだ気にしてるの?」

「そりゃ……」


 あれ、だけど私はもう1回以前にしているんだからここまで緊張するのは意味ない気が。


「あ、ユウが変身できるの愛海は知ってる?」


 ぎくぅ!? やばいやばい、シュミレーションさせてもらっていたのがばれたら不味い。


「私は何回も愛海に変身するかって言われたんだけどさ、本物としたいからってしなかったんだ」


 なんだ……と、なのに私はなんてことをぉ!?


「愛海とキスできてよかった、だってこれで離れられないでしょ? 離れたら消すし」

「な、なんでこういうときに限って笑顔なの!」

「愛海はどうなの?」

「そ、そりゃ嬉しいに決まってるよ」


 今回は美咲ちゃんが起きているときにできたわけだから。

 しかも本人からできてよかったと言ってもらえた、こんなことは早々ないから大切にしないと。


「いいから早く座って」

「うん」

「それにそもそもさ」


 こちらの肩に腕をかけてくる。

 彼女の吐息が耳にかかってかあと全身が熱くなった。


「私、これで2回も奪われたことになるしね」

「ひぇっ? な、なんでし、知ってっ」

「そりゃ寝ているときに口を塞がられたら苦しいでしょ」


 それなのによく一緒にいてくれたなというのが正直な感想だった。

 というか、もしかしてそれでもいてくれているということは私たち、昔から両思い……?


「ま、今日は泊まりね」

「うん、そのために下着を持ってきたわけだし」

「服とズボンは私の貸すよ、スカートでもいいけど」

「って、美咲ちゃんがスカートを履いているところ見たことないんだけど」


 制服以外ではそうだ。

 いつだって手や足を晒すことをしない。

 夏だって薄長袖を着ているぐらい、それが正直に言って意外だった。

 普段無表情で適当だと感じるときもあるのに日焼けは気にしてるってちょっと可愛い。


「ただいまですっ」

「あ、どこ行っていたの?」

「瑠奈さんに呼ばれていまして」


 瑠奈ちゃんと別れたのがさっきなのに瑠奈ちゃんが呼んだとは。


「愛海さん、この巻の続きってありますか?」

「それがまだ最新巻が出てないんだよ」

「そうですか……それは悲しいです。な・の・で、美咲さんに甘えておきます!」


 なにをっと構えている内に美咲ちゃんが押し倒される。


「あ゛あ゛~……美咲さんにくっついていると落ち着きます~」

「そうなの? なにか役に立てている感じはしないけど」


 美咲ちゃんが霊体のときは触れなかったからやはり違うようだ。

 って、そうじゃなーい!


「離れてっ」

「わっ、もう、そんなに乱暴なことをしなくても言ってくれればわかります」

「そ、そっか、ごめんね」


 美咲ちゃんが絡むとつい暴走してしまう。

 過去にも同じようなことをして逆に本人に謝らせてしまったことがあった。

 反省しなければならない、おまけに確実に逆効果だから。


「まったく、冗談でキスしようとする子は最低ですね」

「うぐっ」

「冗談です、美咲さん遊びましょ~」


 これは邪魔してはならない。

 ユウちゃんに嫌われるようなことになってほしくないからだ。

 おまけに焦って美咲ちゃんを困らせてもいけない。


「よかったです、あのまま乗っ取っておかなくて」

「当たり前だよ」

「そうですよね、愛海さんといるより美咲さんといられた方が楽しいですからね」


 うぅ、いいもん、ユウちゃんから自由に言われたって。

 私には美咲ちゃんがいてくれるっ、美咲ちゃんはそんなこと言わない!


「ユウ、あんまり愛海を悪く言わないでね」

「はい、気をつけます」


 ほらっ、やっぱりいつでも味方でいてくれるんだよ!

 こんな子なかなかいない、これからも大切にしておこうと決めたのだった。

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