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Part2

今回のPart2投稿に当たって前回のPart1にも追加した文面があります!


先にPart1を読んでから続けてPart2を読むとより楽しめるので先におすすめしておきます!! 






 グレートブリテン島の各地にある新聞社は大混乱中だ。

 一般市民も、警察官や軍人も。

 そして、国内だけじゃない。国外もだ。

 世界中の人類が、その大ニュースに衝撃を受けた。

 『今世紀始まって以来の大事件!!ブリテン皇太子親子、爆破テロにより死亡!!』

 アメリカのワシントンD.C.・ニューヨーク・サンフランシスコ・ロサンゼルス。

 カナダのオタワ。

 ブラジルのリオデジャネイロ。

 日本の東京・大阪・京都。

 韓国のソウル。

 中国の北京・上海。

 フィリピンのマニラ。

 ベトナムのハノイ。

 インドネシアのジャカルタ。

 オーストラリアのシドニー。

 インドのデリー。

 ロシアのモスクワ。

 サウジアラビアのリヤド。

 トルコのアンカラ。

 エジプトのカイロ。

 スウェーデンのストックホルム。

 デンマークのコペンハーゲン。

 ベルギーのブリュッセル。

 スイスのベルン。

 オランダのアムステルダム。

 イタリアのローマ。

 ドイツのベルリン。

 フランスのパリ。

 色んな国々の首都でこのニュースが飛び交っていた。各国の人々が手にする携帯画面にはどれも同じ内容のページばかりが表示されている。

 そして色んな国の諜報機関が事実確認を急いだ。

 CIS、FBI、公安警察、DGSE、CBP、AISE、BND、国家安全部など、その他色々。

 どの機関の諜報員も大忙しだ。

 




 だが、世界中がブリテンのニュースに釘付けの中、別のことを気にして夜も寝ずにずっとネットを介してブリテン国内の情報を探し続けている男女がいた・・・・・。



 杉田宅のリビングにて。

「何で?何であの子の携帯が“存在しなくなってる”の?」

 長髪の女性:沙奈江が自分の携帯で特定のメールアドレス・電話番号・LUMEアカウントを調べてもエラーが起きていて右往左往にオロオロしていた。

「わからない。だがギラが送った最後のメールの内容からして、あいつ絶対にイギリスの事件に絡んでるな・・・」

 息子からのメール内容を棒と細長い帯のような紙で解読したあと、パソコンをキーボードをタイプし続ける家主:大介。

「うむ、あ奴自分の携帯をメールを送信したあとにGPSごと壊したんだな。誰にも追跡されないように。相応の覚悟があってのことなのだろう。でなければそんなことやらん」

 髭もない顎をいじり、解読内容の文章を見ながら推察するとある老人。

「ね~ね~、おにいちゃんかえらないの~?」

 と、小さいツインテールの女の子が夫婦と爺に聞く。






 メール本文を解読した文章を大介は一枚の紙に書き上げていた。

 内容はこうだ。

『おれはしばらくもどらない。ことがすみしだいかえる。さいあくのばあいはうんでくれてありがとう。』








 2101年8月16日、ブリテンの時間で午前6時前後。

 ロンドン、ウェストミンスター区ダウニング街首相官邸にて。

「なんだと!?それはたしかか!?」

「部下からの報告を真に受けるのなら、その通りになりましょうな。しかし5歳児の少女が車を押し飛ばしたなんて話、馬鹿げているとしか思えませんが・・・」

「信じない理由もない!それにあり得ない話でもないのだ!!直ちに警察・SISの全力を尽くしてフィア王女を見つけるのだ!!スコットランド大臣のトンプソンにも警戒を怠るなと伝えろ!まだスコットランドの領域から出てはいないはずだからな!」

 スコットランドにいるSISの諜報員からの報告をそっくりそのままブラディ長官が伝えたことで、起床して早々興奮しまくりなパジャマ姿のスコーン首相であった。

「間違いない。あの王女、まさか“私と同じ”人間だったとは・・・!」











 ・・・・・・・・・・・・・・・・・光を、感じる。



 意識が・・・・・ぼやっとだけど、戻ってきた。



 森林で倒れてから一体どれくらい経ったのだろうか?



 何分?何時間?



 ・・・・・・・いや、それよりも自分は今、“どうなっている”?



 自分の状況を確認すると、



 ある部屋のベッドの上に寝かされていた。


 

 毛布をかけられている。



 暖かい。



 耳にコトコトと音が入ってくる。



 何かを切っている音・・・・・も?



 ・・・・・誰かいる?



 寝惚けていた目を擦り、灯りの近くをもう一度よく見ると、



 そこには・・・・



 自分と同じ歳くらいの黒髪の少年がいる?

 


 なぜ?


 

 私は、驚いた。



 その少年が本格的な料理をしていることに?



 違う。



 その少年がエプロンの下に着ていたのが、


『“着物”っていうのはね。日本の伝統衣装のことよ』

『日本人が僕らが着る服を“洋服”って言うのに対して着物も別名で“和服”とも言うらしいぞ』

 父上と母上が教えてくれた、かつて“ジパング”と呼ばれていた“日本”の伝統衣装:着物だったからだ。



 たしかに、横顔からして顔が平たい。



 では、この少年は本当に日本人?



 そして、壁に立てかけられていた物を見つけて、



 私はさらに驚いた。



 刀だ。間違いない。



 形状はヨーロッパの片手剣にも見えるが、



 こっちの剣の柄にはない、“柄巻”が巻かれていた。



 私は、あの自分で立てたルールを重んじ、ヨーロッパの騎士道にも通ずる鋼の魂を持ったある戦士の存在を思い浮かべていた。



 刀が近くに存在していることで、



 私は少年の正体を確かめたい一心で、



 つい、声を出してしまった。



「・・・・・侍?」



「!」

 少年が私の呟きに気づき、料理の手を一旦止めて私が寝ているベッドに近づいてきた。

 慌てて目をつぶってまだ寝ているフリをする私。

 この少年が日本人なのはたしかだ。だけど、この少年はなぜ私をここに?さっき部屋を見た限り立派な造りからして、豪邸の一室なのもたしかだ。そんなところに日本人がいるなんて変だ。そんな怪しい少年に聞こえる声を出してしまった私はなんて愚かだろう。何十年も平和に生きたからって危機感を疎かにしてしまうなんて。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少年は何をしているのだろうか?

 目を閉じてしまっているので何もわからない。

 近づいてから何もしていない?私の様子を見ているのだろうか?確認したいけど目を開ければ絶対に起きていることがバレてしまう。

 


 すっ、ぎぎぃ。


 ・・・・・・座った?今、そんな音がした。




「Excuse me if I'm awake, princess.(起きていたら失礼します、姫様。)I am Gira Sugita.(自分はギラ・スギタという者です。)On this occasion,I'm sure you'll be full of sorrow after losing your parents.(この度、ご両親を亡くされてさぞ悲痛の思いでいっぱいでしょう。)I know that I am struck by a lot of fear and have a suspicious heart.(数々の恐怖に襲われ、疑いの心を持つのも承知です。)But rest assured.(しかし、ご安心を。)I want to help you, and I will protect you with just that much effort.(お助けしたい、ただそれだけの一心であなた様を保護した次第にございます。)」



 少年が丁寧な英語で語りかけている中、私は目を開けて相手をはっきりと捉え、また驚いた。

 少年は床で正座をし、さらには土下座もしていたのだ。

 さらには私の心中を察したのか、自分が決して敵じゃないことを述べていた。

 

「・・・・・・お顔をお上げください。スギタ・ギラ殿」

「っ!」

 私が日本語を喋ったことに驚いたのか一瞬、間ができたけど、少年はゆっくりと顔を上げてくれた。

 こう言っては失礼かもしれませんが、少年は日本のどこにでも居そうな顔だった。でも、彼の真っ直ぐな目は、芯の強さが感じられた。

「...Princess?(・・・姫様?)」

「・・・・あ、いえ何でもありません!何にも!」

 慌てる私。ついうっとりしてしまっていた。私としたことが。

「すみません、寝たきりで。今起きますね!」

 ベッドから下りて改めて挨拶をと体を動かす私。

「Ah! Don't be a princess!!(ああ!姫様いけません!!)」

 毛布を脱いで起き上がった瞬間、体がひゅうっと冷える・・・・・ような?

 自分の体を見てみると、毛布を被っていただけで自分は一糸まとわぬ姿であったことにようやく気づいた。慌てていたこともあって起き上がる勢いが強すぎた結果、毛布を全部めくってしまいギラ・スギタと名乗る少年に、嫁入り前の女性の肌を見せてしまった。


「No, that... If I stayed in a wet dress, your body would get cold, so I took it off.(いえ、あの・・・濡れたドレスのままだと、体が冷えてしまうので、脱がせました。)」

 少々たどたどしい英語で説明しながら顔を赤くする日本人少年。

 そしてこの後、恥ずかしさのあまり大声は上げなかったものの少年の頬にビンタを繰り出すことになる英国人少女。




「すみません!助けていただいたのに暴力を振るうなんて!!本当にすみませんでした!!」

 本当に申し訳ないことをしてしまった。まだ服を着ていないのでベッドの上で毛布をまとったまま今度は私が彼に土下座をしていた。

「いえいえ~、・・・・・日本語お上手なんですね。ご両親が親日家なのは聞いてましたけど、まさか姫様も影響を受けていらしたとは・・・」

「影響どころじゃありませんよ!日本の社会・歴史・生活・アニメ、色んなものが私にとって魅力的なものばかりで本当にたまらないんですよ!!まさかこんな形で本物の日本人の方にお会いできるなんて・・・・・・・・・・・・・」

 会った形のことを思い出したことで、場の空気が重くなってしまった。

 状況を杉田少年に確認したところ、ここはスコットランドの南東:ホーイックのとある林の中でもう朝の6時30分だそうです。って、私そんなに寝てたんですか?

「話すことはまだ山々ですが、それよりまずは栄養補給です姫様。お口に合うかどうかはわかりませんが、肉じゃがで我慢してください」

「肉じゃが!?肉じゃがって、あの肉じゃがですか!!?」

 私の異常な食いつきに戸惑いを見せる少年。

「うえぇっ!!?は、はいそうです・・・」

「嬉しいです!!だって来年の春で来日する際、父上たちと一緒に食べたい日本料理のうちの一つでしたもの!!」

「そ、そうでありますか・・・。あの、支度を整えておくので、姫様は服を着ていて下さい・・・・」

 後ろからTシャツとパンツと短パンを私の前へ突き出す少年。

「は、はい・・・」

 さっき肌を見られたことを思い出して、再び赤くなる私。

〈あれ?今この人、どこから服を?〉





 は~い読者のみんな~。

 第二の人生を歩んでから5年の歳月を経て初めて(小声:時系列的に)の四次元越え語りの杉田義羅君ですよ~。

 そこの読んでる君たち。シリアス的展開過ぎてつまんないとか思ってない?諦めなよ。たとえ俺がこうやって読者に話しかけることはできても、この作品のシリアスな空気はずっと続くからな。何?俺のせいで既にシリアスな空気がぶち壊し?それもまた俺の自由だ!

 ところで、色々な経緯は後で姫様にも言うけどその前に、実は俺もこのお姫様のことめっちゃ疑ってるんだ。俺と五歳児のはずなのに母国語どころか日本語まで会得しているなんておかしすぎるって。普通の五歳児ならまだ物心つくかもわからないのに社会・歴史・生活・アニメという言葉をちゃんと理解した上で発している。・・・・こいつはなんか裏がありそうだな・・・。

 そんなことを考えながら俺は、“ちゃぶ台”を創造して着替えを終えて座る姫様の前に置き、数か月前に母さんの沙奈江から教わったばかりで作った肉じゃがを皿によそっていき、炊いてあった白米ご飯も用意していき、食器にスプーンも創造した。

「では・・・いただきます」

〈ホントに日本語上手だな!?〉

 さっそく肉じゃがのジャガイモをスプーンですくい上げて一口食べる姫様。すると口元を抑えて喜ぶ。そして次々に肉・人参・玉ねぎを口に運んでいく。そしてご飯も一口入れ、


 涙を流した。


「・・・!?姫様、大丈夫ですか!?」

「・・・はい。大丈夫です、ゴクッ、ただ・・・こんなに美味しい料理を・・・・父上たちとはもう分かち合えないと思うと・・・・涙が、止まらないんですよぉぉ・・・!」



〈・・・・・・ここで疑いの心を持つのは無粋だな・・・〉








 料理も食べ終わり十分泣いたのでさっそく本題に入ることにした。

「・・・・・・・やはり、昨夜のことは事実ですね?」

「・・・はい事実です」

 彼はそう言ってタブレット端末を使ってニュース記事を私に見せてくれた。


 内容はこうだった。

『ブリテン皇太子夫妻及びフィア王女、爆破テロにより死亡。目下スコットランド警察とSISは共同して爆弾を仕組んだ犯人と思しき画像の少女を捜索中とのこと』


 その画像というのが、私・フィアの顔写真だった。名前は“イザベル”であると紹介されて。



「な、なぜ・・・です?こんなのおかしい!!だって私の顔は生まれた時からネット上に上げられて世界中が知っているはずなのに!」

「たしかにそうですね。しかし、姫様の名前で画像検索したところ、事件以前までは出ていた写真が全てネット上から削除され、事件の実行犯として再利用されているそうなんです。どうやらこの国を牛耳った黒幕は、あなたに生きていられると不都合のようですね」

「そんな・・・!そもそも少女が実行犯なんて情報を誰が信じると・・・・」

「・・・・今朝出たばかりなので、あくまで自分の見立てではありますけど、おそらくは賛否両論になるかと。アフガンなどの紛争地域では少年兵がいるほどなので、今では子供が殺しをするというのも完全否定はできないのです」

 何も言えない。自分も『信じると・・・・』と言いかけた時にネットでそういうことが紛争地域で起きていることを以前知ったことを思い出したからだ。


 それから私は後ろのベッドに背中を寄り付かせ、しばらくは私たちとの間に沈黙ができた。


 ようやく心が落ち着くと、私は改まって少年に面と向かって言った。

「杉田さん。どうかお教えください。今はもう追われる身となってなんの身分もないただの少女ですが、未だあなたのことを信用できておりません。先の森での保護、暖かい食事、本当に感謝しております!だからこそ!いつまでもあなたに対して疑いの心を持ち続けるのは私の心が痛みます!お教えください!これまであなたの行動を見て、普通の少年ではないことを確信しております!あなたもお気づきのはず!お互い不安は取り除きたい、そうお考えのはずです!!」

 ずっと喉から出かかってた言葉を全て。

 そしてそれらを、さっき少年が態度で示したように私も、意を決して生まれて初めて日本の土下座をしながら申し出た。

 私が示した誠意を受け止めてくれたのか、杉田少年・・・・いえ、杉田殿は「お顔をお上げ下さい」と私の両肩を掴んで、私の上半身ごと顔を上げさせた。

 そして彼も改まって正座をし、私を真っ直ぐ見て口を開いた。





「自分は、“生まれ変わり”の人間です」




 

「・・・・・はい、分かってました。そして私も、同じ“生まれ変わり”の人間です」




 この5年間薄々考えてはいたが自分以外にも“生まれ変わり”がいるのではないかと。

 そう考えながら日々を過ごしていたけどまさか、憧れの日本に同じ人間がいたとは!

「私の前世は1533年から1603年です。あなたは?」

「自分の前世は1993年から2096年で・・・・・・16、17世紀?」

 1993年から2096年・・・・・まさか。

「あなた・・・・現d」

 私が言い切る前に杉田殿が物凄い勢いで食いついて来た。



「あなたはもしや!エリザベス一世陛下であらされますか!!!?」



 ・・・・・・あら?

「は、はい。間違いありません・・・」

「お、お初にお目にかかります!!自分、子供の頃から歴史が大好きでして!その中でお気にいりで良く知る歴史的人物のうちの一人があなた様なのです!お会いできて本当に!光栄であります!!陛下!!」

 私の手を取って頭を何度も下げる杉田殿。

 さっき彼が言った前世の年からすると、杉田殿は20世紀末と21世紀を生き、死去と誕生を挟んで22世紀も生き続けている現代人ということになる。さらに言えばこの人は、私より43年も年上ということにもなる。すごい人だ。しかも歴史が好きで私の正体をすぐ見破ったのも驚きだ。さらに言えばこんなに歴史大好きな人も珍しい・・・・・。








「創造能力?それが2年前に発現したと?」

「ええ。しかし創造とはいっても限度があるようで。例えばここにある皿。これは特に何にも念じず創造した物。だからこの通りっ!」

 彼が突然後ろを振り向き、奥の壁に向かって皿を投げると、

 ガシャーン!

 ちょっとだけびくっとする私。

「当然割れます。そして、新しく“これは絶対に割れない”と念じながら創造してもっ!」

 何もないところから急に出現したさっきと同じ皿を彼はまた後ろを振り向いて奥の壁に向かって皿を投げる。そして、

 ガシャーン!

 またびくっとした私。

「結局割れてしまう。つまり、自分の能力を正しく言うと“この世に存在してことわりの枠を超えない物を創造する能力”というのが当たりかと。このため、『ライトセーバー』『ブラスター』『デススター』『ベネター級スター・デストロイヤー』『ラピュタ』『パワードスーツ』『レールガン』『ガンダム』『ザク』『サンカラ・ストーン』『インフィニティ・ストーン』、今の時代作ってもいなく存在しない物は生み出せないことがわかっています。あ、でも創造する物のサイズは変えることができますね」

 ・・・・・とりあえず、この人も映画やアニメが好きなのが分かった。しかも20世紀末前後のもの中心に。

「・・・・・一つ分からないことが。あなたはどうやってこのブリテンに?ご両親は?」

「日本にいます。自分は、その~・・・・・・」

 杉田殿の目が泳いでいる。

 ・・・・・・何やら彼は後ろめたいことをやらかしていたみたいだ。

「まさか杉田殿、不法入・・・・」

「さあ!お互いのことも知り得たことですし!そろそろ移動の準備でもしましょうかー」

「これ!話を逸らすんじゃありません!!」

 私が止めるのに見向きもせず、彼はそこらにあった創造したらしき物を次々と消していった。

 外出する際に私の長い髪はまとめて帽子で隠すようにと、初めての帽子とヘアゴムを渡された。靴も高い物ではなくスポーツシューズを履くようにと渡され、羽織物で口元を隠すようにとも渡された。

 彼はというと、着物から濃い緑のボロボロのジャケットスーツによれよれのカッターシャツ、ちょっとぶかぶか気味のズボンを履いて、ハンチング帽子といった服装になっていた。




「まさか、この部屋もあなたが創造してたんですか・・・・」

 身支度を済ませ、ドアを抜けるとそこからはもう外で、木々の中だった。

 中はあんなに重々しい造りだったのに、外から見ればただの小屋にしか見えない。

「見かけはボロ小屋に、でも中身は立派な造りの1LDK。これくらいの偽装した建物はどこかには一つはできてても何らおかしくはありません。まあ見たところ、ここまで警察が捜索する余裕はなかったようですがね」

 と、遅れて出てきた杉田殿。

「・・・・杉田殿。あなた言いましたよね?ここはホイックの山中と」

「ええ、言いましたよ。それがどうかしましたか?」

「だって!エディンバラからここって少なくとも40kmから50kmはあるのに。人間は1分で80m歩けるとしてもまだあなたは子供。つまり夜通し私を運んでこんな山奥まで来てたということに・・・大丈夫なんですか!?」

「アインシュタインは“年に三時間”、偉大な方です。それに途中台車を使っての運びもあったので時間も短縮できましたし苦でもありませんでした」

「いえそういう問題ではなく、あなたそこまでしなくても。それにもうここからは私一人で・・・・・」


 ドンッ。


 突然彼は、私を小屋の壁へと詰め寄り、叩いた。

 ・・・・・・・怒っている?

「人の心配をしている場合ですか?ここからは、何としてでもあなたが生き残らなければいけない状況なんですよ」

「・・・・・・杉田殿、しかし私はたった一人だけ追われる身です!」


 ・・・・・何を、言っているのだろう。・・・・・私は。


「どう考えてもフランスにいる陛下がこの国を取り戻すべきかと」


 あれ・・・?


 私、今何を言い出してるんだろう。


 ・・・・・・・どんな顔、してる?


 これじゃ、まるで・・・・。

「その際に私がタイミング悪く捕まり、人質として利用され、国の救済の妨げになるようであればもはや自ら・・・・」



 パンッ。



 叩かれた、彼に。

 国民に一時非難を受けども暴力を振るわれることすら経験がない私は、たったそれだけで涙が少し零れてしまった。

「陛下・・・・・いや、エリザベス一世。あんたは5年間でこんなにも弱腰になってしまったのか?」

 ・・・・・・違う。

「俺の知ってる『エリザベス一世』という人間は、そんな他人任せにして自分はさっさと消えてしまおうなんて考える自殺志願者じゃなかったはずだが?それが『黄金のスピーチ』で国民と女王の繋がりを強くした同じ人間の考えることか?」

 違う。

「それにあんたは信じないでさっきの発言をしたな。ここにいる男の力を」 

 違う。

 私は、助けてくれたあなたをこれ以上・・・・。



 彼は、私の両肩を掴んで、



「このもと老いぼれの一人ぐらい、頼れって言ってんだよ!!」



 私の体が震えるくらい、幼くとも腹の奥底から重々しい声を張り上げて怒鳴った。

「あ・・・・・あ・・・」

 頬を叩かれて出した私の涙は、もう別のことで流していた。

「あんただって分かってるはずだ、自分にはやり残した王族としての責務があることを。今の行政府は独裁化しつつある。500年以上前では応援してくれている味方がいたことであんたはあれだけの偉業を残すことができた。今の状況だといないと思っても仕方がない、そして自暴自棄に陥るのも無理はない。だがな、そんな考えは本当に目の前から誰も味方がいなくなってからしろ!!ちゃんと見ろ!!あんたの目には誰も映っていないのか!!?」


 この人は、


 いつの間にか死ぬ気だった私を、

 心が折れていた私を、

 助けようとしているんだ。

 私の絶望を、

 怒ってくれた。

 目の前から味方が一度はいなくなったのに、

 たった一人、私の目の前に現れてくれた。


「・・・・・・・・・います。あなたが・・・ここに・・・・!!」

 もう、止まる気がしない。

 彼も、彼の覚悟も。

 私のこの感情も。



「だろ?なら考えるな!!あんたとの出会いは俺の勝手な旅の中で偶然居合わせたことで起きた出来事。だがそこは『旅は道連れ世は情け』!人の情けや思いやり、義理人情があってこその人生!義理も“義”を含む言葉!“全ての"義"を網羅する”!!それが新しい両親がくれた自分の新しい名前の意味であり、この“杉田義羅”という人間の信条なんだ!!だから俺はその信条に従って、あんたの刀・盾・銃となり、今や敵そのものになったこの国から命を賭して、脱出させる!!」

 彼の話を聞いていくうちに、いつしか泣きじゃなく、笑いに変化していた。


「・・・・・だからよ。そういう風に笑ってて良いんだ」


「・・・・・私の、家臣になって・・・くれるのですか?」

 涙を拭いながら私は彼に聞いた。

 この一言で、ようやくその気になったかと言わんばかりに口元を上げる、義羅殿。


「騎士じゃなく、あくまで侍としてだがな。それも一時的に。もちろんこっちに倣って托身たくみ儀礼ぎれいはするけどな」

「っふふ、『郷に入れば郷に従え』ですね」



 彼はハンチング帽子を脱いで、私から少し距離を取り、こう告げた。

「I want to be your vassal.(私はあなたの家臣となることを望みます。)」

 彼の申し出に、私は問う。

「Do you want to be a vassal without reservation?(何の留保もなく家臣となることを望みますか?)」

 そして彼が答える。

「That's right.(その通りです。)」

 私の足元に跪き、両手を組んで前に差し出した。

 その手を私が両手で包むことで受け入れることを示し、家臣を立ち上がらせ、互いに抱擁することで、対等の契約関係にあることを示す。

 その抱擁では、私の方がより強く抱き締めていたかもしれない。


「ではさっそくですが、あなたに命令することがあります!」

「急ですな。命令とは?」

「その敬語はもうやめてください」

「はい!?しかし、陛下。自分は・・・」

「たった二人しかいない状況で敬語なんて無意味ですし。さっきの喋りがあなたの素ならその方がしっくりきます。それに義羅殿は実際私より年上なんですから元々敬語は必要ないはずですよ?ちなみに、私も今から敬語をやめるから」

「・・・・・・わかり・・・わかったよ姫様」

「“様”もダメ。それと更に命令!」

「まだあんのかよ!?」


「“金打きんちょう”をして欲しいの」


「き、緊張!?」

 ガチガチになる義羅殿。

「その“緊張”じゃなくて“金打”!あっ私、生まれて初めて“ツッコミ”をした!?」

 しかも日本語がややこしいボケに対して!!



 義羅殿は部屋の片隅に立てかけられていた軍刀を、私には体に合わせたサイズのレイピアを創造してくれた。

「なんでレイピアを?これじゃ峰が無くて打ちつけ合えないんじゃ?」

「・・・・・なにで、金打を知ったんだ?」

「何って、『薄・・・』」

「OK.もういい。俺が教えるのはそれよりもっと昔のやり方になる、多分だけどな。とりあえず座ろう、姫」

「むぅ、“フィア”って呼んでよ」

「・・・なあ、距離縮めるの早すぎやしないか?ちょっと前までは天と地ほどの身分差だったはずなのに・・・」

「せっかく私の家臣なんだから従ってよ、杉田」

「・・・・・・ならこっちのことも“ギラ”って呼んでくれ、フィア」

「っふふ、それなら良いよ、ギラ」


 そして、お互い地面に座り込み、刀を掲げるギラに合わせて私もレイピアを掲げた。

「刀を鞘から数cmだけ引き抜いて、約束の内容を念じながら『金打』と唱えて再び鞘に納める」

「なるほど。これなら相手がいなくても一人だけで金打ができるわね」

「その通り。それでお互い念じる約束の内容だが、どうする?」


「“生きてこの島から脱出する”と」

「・・・・・“主君と一緒に生きてこの島から脱出する”の方が良い。でなきゃ俺は自分を許せない」

「・・・・・ではお互いにそれぞれの誓いを」

 ここだけは、いくら私の絶望を察して“叱咤”をしてくれたあなたでも、譲れない。

 ギラには、生きて欲しい。

「・・・・・承知した」


 二人は各々が持つ刀・レイピアを鞘から数cm引き抜く。



 フィア王女は、“生きてこの島から脱出する。もしもの時には敵に自分の命を捧げてでも彼の免罪を乞う”。


 杉田義羅は、“一時的のとはいえ主君と一緒に生きてこの島から脱出する。主君を失いし時は第二人生終幕とし、自ら命を絶つ”。

 


 そして二人同時に声を揃えて唱え、鞘に納めた。


「「金打」」


 キンッ。





 小屋も消し、林を抜けていく私たち。

 ボロボロのジャケットに戻って改めてハンチング帽子を被るギラ。

 

「さっきの“叱咤”、私の為にしてくれたんだよね。本当に、ありがとう」

「人のことを勝手に“侍”って呼んでおいて、頼りもしなかったのには本当に腹が立ってたけどな」





 この日、侍:杉田義羅が498年来の私直属の家臣になった。








 道中、私は彼とお互いの前世を語り合いながら歩いた。

 私の暗い幼少時代、10代の頃は館に籠っての苦にならないむしろ好きだった勉強の毎日、姉・メアリ―への反乱の疑いで2ヶ月間ロンドン塔に入れられたこと、25歳で女王に即位した時の感想、セシルたちに結婚してお世継ぎをと迫られていた時期のこと、最初の父・ヘンリー8世のイングランド国教会を復活させて国内でのカトリック・プロテスタントの対立を解決したこと、いつ暗殺されるかもわからない恐怖に怯えていた時期のこと、私を守ってくれたウォルシンガムをSISの長官にしようと思い至ったこと、いとこのメアリーへの処罰に悩んだ時期のこと、ドレークを海賊から貴族に取り立てたこと、スペインが攻め入るかもと用意した兵たちを励ましに出かけた時のこと、ドレークがスペインの無敵艦隊:アルマダを破ってくれて国が救われた時の感想、ウィリアム・シェイクスピアの数々の劇の感想、そしてさっき小屋でギラも言っていた私の『黄金のスピーチ』をした時の心境。

 彼の明るい前世、映画の世界からの音楽の魅力に惹かれるまま小学校・中学校・高校をクラブ活動・サークル活動などで楽器を演奏する日々を送っていたそうだ。しかし音楽は趣味だけに留まり、就職は食べ物を扱うマーケットの会社員を勤めたとのこと。老後は貯まりに貯まった財産を使ってのんびり過ごし、時には若い男女がお家事情のせいではっきりしないのを部外者ながらズバッと言ってめでたく結婚に至らせたり、晩年期には近所に住む原因不明の失声症を患っていた女の子を気にかけていくうちに言葉を交わせる程仲良くなり、寿命を終える頃には家族代わりの存在がその女の子と両親ぐらいだったこと。

 どちらも内容は濃いが、相手の経験話に飽きることなく話し合った。

 “前世の話”、生まれ変わりの人間同士とはいえ普通は興味は持たない。でも彼は歴史も大好きという点があって『エリザベス1世』という人物を知りたいということもあって私の話を聞きたがっている。こんな人に出会えたのも第二の人生での幸運の一つなのかもしれない。





 そして、スコットランドとイングランドの境界線辺りに着いた頃。





「世界中の国に?」

「ああ。零戦の操縦に慣れてからは色んな国に自分で行き来してたんだ。もちろんパスポート申請は親に頼んでもうあるけどな。だが操縦に関しては安全とはまだ言い切れない。毎度毎度レーダーに引っかかっては戦闘機に囲まれるは警告されるはで面倒だったけどな。ぐふふふっ」

「昨日携帯のニュースで知ってたけど、何でこの国に?」

「俺と同じく5歳の誕生日を迎えたっつう王女様を、この目で拝みに行こうかと思い至っただけのことさ」

「飛行機が創造できるならなぜ今すぐそれで脱出をしないの?」

「安全に飛行できる可能性が皆無だからだ。すぐレーダーには絶対に引っかかってたちまち戦闘機に囲まれ蜂の巣になってジ・エンドだ」

「北海を通って最短距離でオランダへ行くのは?」

「それも無理だ。同じく戦闘機に囲まれ蜂の巣になってアウト。たとえ撃ち落とされても尚海の上で生きていたとしても空から機銃の雨を降らされてアウト。さらにバレずに生きて泳ごうとしても前世の潜在能力を引き継いでる俺達でも体力に限界が来てオランダに着く前に溺れ死んでアウト。スリーアウト!チェンジ!ってワケだ。だから俺達が取るべき脱出ルートはブリテン島を南下する陸路を通ってからのドーバー海峡越えのみだ」

「海峡トンネルを?」

「いいや、車も電車も途中で止められたらレッドカードだ。下じゃなく上を行く。あそこを20世紀時代に戻してやるのさ」

「?というと?」

 ああそうだな、いくら勉強好きでもそこは知らないか。

「俺の前世での時代には基地がなかったんだ。だからその時代に戻すように基地の戦闘機類を破壊するってことさ。んで滑走路を零戦に利用させてもらう」

「・・・・・それ、成功できる確率はどれくらい?」

「おっとっと~、この俺に確率を聞くのも方法の確率を教えることもNGだからな。借金癖が悪い密輸業者の言葉を借りるなら、Never tell me the odds!(確率など糞くらえ!)」

「・・・・・あなた本当に『スター・ウォーズ』が好きなのね。もっと深く観ておくんだったわ」

「あの映画シリーズは“本編”だけじゃなく“外伝”も最高だからな。特にCGアニメの『クローン・ウォーズ』シリーズが。そこからのお気に入りのセリフだってある。『戦場では、階級ランクより経験が全てに勝る』、キャプテン・レックスの言葉であり彼の信条だ。それに彼らクローン・トルーパーがすっごく好きでな。勇猛!大胆!結束!彼らのアーマーをいつか自分で創造して着て、そして駆け抜けたいんだ!」

「作れないの?」

「残念ながらクローン・トルーパーアーマーは映画やアニメじゃCGしかなくて、実物が作られてないんだ。イメージ用の模型やファンが作ったコスプレ衣装はあるけどな。同じファンの誰かが作ったのを見て創造はできるんだが、本物と完全に同じと言うにはまだ決定打が足りないし、俺自身が着なくちゃ納得しないけど体がまだ大人じゃないから今は合わせるためには創造したくないんだ」

「こだわるね。ストームトルーパーのアーマーじゃダメなの?」

「あんなマヌケバケツ頭共のペラッペラアーマーなんぞ絶対創造してたまるかぁっ!!」

 俺は思わず感情的に大声を出してしまい、フィアを少々怖がらせてしまった。

「悪ぃ悪ぃ、突然大声を上げちゃって。そして、一部のスター・ウォーズファンの皆さん、どうもすいませんでした」

「どこに謝ってるの?」

「一部の読者のみんなにだよ。いいか?俺は前の幼稚園児ぐらいの頃にテレビ放送された『スター・ウォーズ エピソード4:新たなる希望』を初めて観てな。もちろん好きになったけどな、あの前が見えなくて本来の性能を全く発揮しないどころか敵のなりすまし詐欺に遭いまくりのアーマーはどうしても好きになれなかったんだ。けど数年後に公開された『スター・ウォーズ エピソード2:クローンの攻撃』で初登場したクローン・トルーパーを映画館で目にしたら、俺は一瞬にして好きになっていたんだよ」

「でも『シスの復讐』は?たしかあれでクローン・トルーパーたちは正義であるジェダイを裏切って殺しちゃうんでしょ?」

 ああ、その口ぶりからすると、王女は少なくともあの6、7シーズンを観てないのだろう。でも、俺は、知っている・・・・・のだ。

「ええ!?ガチ泣き!?そこまでなの?」

 俺はその昔、事実を知った時の感情を思い出して涙を流していた。

「彼らにも・・・・・グスッ、色々と事情があったんだよ。当時はジェダイよりも上である最高議長の命令だから従ったのだろうと俺は解釈していた。でも正直に言うとそれでも彼らのことを嫌いになれなかったんだ。だって好きだったからな!んであとから明らかになった設定を嬉しくも感じ、悲しいとも感じた。ここから脱出したら絶対『クローン・ウォーズ』シリーズをフィアに観せてやるからな!」

「は、はあ・・・・・」

 国の行く末とは関係ない個人的な趣味が関係した生き残る理由が、今、できた。

 現実じゃ白い目で見られると思うけど。

「できたらそのシリーズだけじゃなくて『スター・ウォーズ』の全部を一緒に観たいわ・・・・・・!」

 フィアが先のことを言い終える前に、俺も含めてだが何かを感じ取った。

 2台のレンジローバーが遠くからやってきたのだ。

 カラーリングと青色灯からして、警察だな。

 変な動きだけはしないよう平然と歩けばいいだけの・・・・こと?

 レンジローバーに乗っている警官は俺達を見つけるなり方向転換し、真っ直ぐにこちらへ向かってきた。

 まずいな。手当たり次第って感じだ。

 近くで止まると車からは12・・・いや、14人のスコットランド警察官が出てきた。

「どうする?」

「動じないこと、それしかない」

 小声でコンタクトして、怪しまれないよう歩くのみ。だが警察官たちは俺達を囲むように迫ってきた。

「Where are you guys?(君たちはどこの人間かな?)」

「We're from Saw Tree.(ソーツリーから来ました。)We are going to Forest Park from now on.(これから僕たちフォレストパークに行こうとしているんです。)」

「Your English is pretty good.(君は英語がかなり上手だね。)By the way, who is the child behind?(ところで、後ろにいる子は誰かな?)」

 警官はさっそくフィアのことを怪しんだ。

「This is my cousin.(僕のいとこです。)Her name is Berry.(名前はベリー。)」

「Why is she wearing sunglasses?(なぜ彼女はサングラスをかけているのかな?)」

「Ah, according to my uncle, I can't see it because of a disease called congenital blindness.(あ~おじさんの話だと、先天盲っていう病気で見えないんだそうです。)」

「Well, I'm sorry for the polite explanation, but I have to take her when she's blonde and a 4 or 5 year old.(う~ん丁寧に説明してもらって申し訳ないが、彼女が金髪で4、5歳児という時点で連行しなければいけないんだ。)」

 すると、背後にいたひげ面の警官がフィアを連れ始めた。

「A little! leave!(ちょっと!離して!)」

「Wait Wait!(待って待って!)Certainly she is blonde and a 5-year-old.(たしかに彼女は金髪で5歳児です。)But suddenly I'll take her!(ですがいきなり彼女を連行するなんて!)Even though Britain doesn't have a strict warrant, you must have a British gentleman's heart.(ブリテンには厳格な令状主義がないとはいえあなたたちにも英国紳士の心があるはず。)Isn't it a shameful act as a British gentleman to detain her just because she's blonde?(彼女を金髪だという理由だけで拘束するのは英国紳士として恥ずべき行為なのではないでしょうか?)」

 何とかして穏便に止めようとするも、

「Unrelated.(関係ない。)All suspicious children are mercilessly taken.(疑わしき子供は全員容赦なく連れて行くんだ。)」

 俺の説得を跳ね除け、ひげ面の警官はフィアを車の後部座席に放り込んだ。

 おい、ふざけんなよ。

「Where did the country that respects human rights go? !!(人権を尊ぶ国はどこへ行った!!)」

「Shut up!!(黙れ!!)」

 近くにいたもう一人の警官が俺の右腕をも掴み上げ、フィアと同じように車に押し込もうとする。

〈っく!しゃあねえか!!〉

 俺は残った左手で軍刀型の木刀を出現・掴んで、警察官の後頭部に一撃を食らわせた。

 警察官は昏倒し、俺の腕を離して倒れた。


「耳を塞げ!!」

 

 M84スタングレネード。別名フラッシュバン・閃光発音筒。対象の視覚や聴覚を潰すことができる!

 これを出現と同時に安全ピンを抜いて地面に転がした直後、俺はサングラスをかけて耳栓を。フィアも指示通りに耳を塞いだ。

 そして、落ちた缶が起爆し、目の眩み・難聴・耳鳴りを引き起こす爆発音と閃光を放った。

 日本語はわかってたが意図が分からず、ただの子供がスタングレネードなど持っているとは考えなくて油断してた警察官たちが一瞬にして目と耳をやられて呻き声を上げて苦しみだす。

 その隙に俺は、S&W M19コンバットマグナムを今の自分の左手に合わせたサイズで即座に出現させ構え、

 

 ドンッドンッ。


 “特殊な弾”を撃ち込み、まずは車の近くにいた警官二人を倒す。

「逃げろぉっ!!」

 俺の指示で車から逃げ出すフィア。その彼女を捕えようとする警官たちに飛び掛かり、


「てやあっ!!」


 木刀による木刀による一撃で倒していく。

 警官の肩へ肩へと次々に跳ねては木刀、地面に降り立っては距離を取ってリボルバーを撃ちまくる。

 ブリテンの警察官は拳銃を持たない。『MO19』などの一部では武装をしている要員もいるが基本的には警棒しかない。スコットランド警察官も同じ。だから暴れる俺を止めるには警棒か素手で取り押さえるしか方法はない。なら向かってくる警官は迎撃するのみ。

 6発を撃ち終わると、リボルバーはまた装填しなければならない。木刀を口で咥えながらシリンダーを横に振り出して空薬莢を取り出す。ここぞとばかりに向かってくる一番近い警官の顔にその薬莢を投げて怯ませた。その一瞬の間にあらかじめ創造しておいたスピードローダーで装填を完了させ、怯んでた警官は握り直した木刀で一蹴、向かってきた2人を瞬く間に撃ち倒した。そして、逃げていたフィアを追い掛け回していた警官を最後に狙撃し、全員の戦闘不能を確認した。




「彼らに何を撃ち込んだの?」

「麻酔弾だ。昔は注射筒やダーツのような弾丸だったからライフルでしか撃てなかったんだが、2080年代に入って銃社会の色が濃いアメリカで開発された対人用麻酔弾がこれだ」

 創造した弾丸の先が弾頭ではなく注射針になっているのをフィアに見せた。

「機能のこともあってリボルバーかショットガンにしか装填できないが、これのおかげである州では年間死者数が急激に減ったとも言われてる。死者ゼロを目指した良い品物って声があれば同時に人間に対しての薬物投与は医療行為であると非難の声もある賛否両論の麻酔弾は未だに普及はしていない。でも実物があるおかげで俺は創造できるし相手を殺す必要はなくなるから個人的に今は感謝したいところだ。さあこいつらが起きる前に手錠をかけてから無線機も携帯も抜き取ろう」

 その後、二人で大人一人ずつ両手を後ろにして手錠をかけていく。そして8月とはいえここはスコットランド、暑ければ涼しい時もある。直射日光浴びないよう全員を木陰に集め、布を被せて置く必要もあって水分補給の為のストロー付き水筒の用意も忘れてはいけない。彼らを殺すのは間違いだ。でももちろん警察上層部に位置を悟られないよう、連絡手段である無線機と携帯は創造した圧縮機で完全に潰す。

「車は?これを使って一気に南下するのは・・・・」

「この車は使えない。いくら俺達が生まれ変わりで力を持ってても、五歳児の体でこの実寸大の車を運転するのは無理だ。フィアは経験がないからダメだし。かといって体に合わせた車を創造して運転するのも危険だ。車じゃいつ見つかるか分かりにくい。このまま歩く方が良いんだ。でも万が一彼らが揃って動けたとしてもすぐ移動できないようタイヤをパンクさせておこう。ほらっ、フィアも斧を使って」

 創造した斧を渡されて苦い顔をする王女。何か文句あんのか?

「・・・こんな時になんだけど、あなた主君相手なのに人使い荒いわね」

「今更だがお互い生き残るにはいちいち上下関係を気にしてちゃ危機を乗り越えるのは難しい。それに潜在能力+αで苦にもならないだろ?陛下殿」

「はぁ、それさっき私も言ったのに。島を出たら主君の権限でこき使ってやろうかしら」

「おっとっと~それはやめておいた方が良い。俺はやられたらやり返す主義だからな」



 作業を済ませた俺達はすぐさまそこを離れ、目的地であるイングランドのノーサンバーランド:フォレストパークを目指して再び歩き始めた。






「ところであなた、どこで銃の扱いを?さっきのどう見ても初めてやったとは思えない・・・・・」

「親父がその手の道に近しい奴と親しい間柄でね。結婚する前はその道に足先をちょこっとだけ付けたこともあったらしいんだ。俺もそいつを茶じいって呼んで仲良くしててな、彼の屋敷で自分で創造した銃でちょいと試し撃ちをさせてもらったことが一度だけあるんだ。でも、人に向けて撃つのは本当にさっきので初めてだ。射撃による反動がどれほどなのかさえ分かればあとは簡単、『拳銃はじきってものはだな、狙って撃っちゃいけねえんだ。相手に拳銃はじきを突き出して撃つのさ』『敵を仕留めるときに頭を狙うな。的としては小さく狙いづらい。狙うなら心臓だ。心臓なら外してもどこかには当たる』、この二つを理解してしっかりイメージしながら撃つ。おかげでさっきの初陣が成功したワケよ」

 誰の言葉を借りてるのかが分かってしまうあたり、自分もオタク女子に近いのかもしれない。

「剣道は?」

「剣道は昔選択授業でやったから基本は知っていた。あとはルール無用の戦いを想定して茶じいの舎弟たちと手合わせしてみて感覚を覚えるのみ。まあ動きは小さい体的にヨーダの動きをイメージしてたけどな」

「ごめん、聞いててなんだけどその茶じいっていう人が何者か気になってきちゃったんだけど・・・」

「・・・・・脱出したらいつか日本に来た時に紹介するさ」

 警察官たちと戦う前に聞いた限りでは、彼は戦闘経験は皆無のはず。なのに武装してないとはいえあんな大人数を相手に戦い抜いたことすらすごいと私は感じた。

「さっき私のことを“ベリー”って言ってたけど、あれってエリザベスから取ったの?」

「咄嗟に考えただけの偽名さ。嫌だったか?」

「・・・・・“エリ”の方が良い。日本人にも同じ音の名前があるでしょ?どうせならそう呼んで欲しい」

「わかったよ。次からはそうする」

 そうこうするうちに、目の前に見えてきた。

 歩く先にフォレストパークとキールダーウォーターがあるのが。

 つまり自分たちが今いる場所はもうイングランドのノーサンバーランドであるということだ。

「ノーサンバーランド。かつてここはスコットランド王国の軍とイングランドの軍が度々領地を巡って争っていたんだよな。その為に城も多いとか」

「ええ、いとこのメアリーもフランス軍を使って侵攻させたこともあったわ。セシルのおかげで和議を最後にスコットランドとの戦いは終わったけど、ここではそれまでに多くの両国民が血を流し続けた場所。今の光景からは全く想像できないだろうけど」

「フィアの前世を題材にした映画に登場したイングランドの兵たちのデザインから大体は想像できるさ。だが俺達が進むことでこの地以外のイングランドでも血が流れるかもしれないんだ。ここから先はさっき以上の対応策が取られることを覚悟しておくことだな。武装した連中が来ることも」

「さっきのあなたの勇姿を見て希望が出てきたから、きっと大丈夫よ」

「世の中はそう甘くないぞ。俺は敵モブ兵士が撃ってきても当たらないアクションヒーローでもなければ、サーチライトを浴びながらも弾丸を華麗に避けて走れる大泥棒3代目でも、弾丸を居合刀を使って連続で斬れる大泥棒13代目でもない、ただ体力が人より秀でてるだけの5歳児だ」

「ええその通りよ、お互いに。その為にも今夜、私にも銃の撃ち方を教えて欲しいの。もちろんあなたが使っていた麻酔弾入りリボルバーの扱いを」

「・・・・・・・本気で言っているのか?仮にも相手は・・・」

「私の大事な国民一人一人よ。でもこの国を救うには島を出るしかない。かと言ってそれを義務として阻止してくる警官・諜報員たちを私の手で殺すのは嫌よ。だからこそ、さっきの麻酔弾が使えるようになりたいの、お願い」

 私の頼みに対する返事を渋るギラ。しかし彼の心では自分だけが戦っていれば脱出できるなんて甘い考えが通用しないのが世の常だということも理解していた。

「・・・・・わかった。とにかく今はできるだけ道を進ませることに集中しよう。走るからな。大丈夫か?」

「デモンストレーションなら昨日の夜にやったから」

「上等だ」

 そして俺達は、フォレストパークの草原を全速力で駆けて行った。








 一方、ロンドンの首相官邸では。

 ラングストン首相は執務室に籠りっきりだった。

 スコットランド警察を仕切っているフレックス・トンプソン大臣から良い知らせが全く来ないのだ。

 “イザベルという5歳の少女を捕まえた”という知らせを。

 何故こうなった?

 昨夜の計画は順調だった。

 皇太子夫妻が王女の為に用意した誕生パーティー会場に仕掛けた爆弾も完璧に隠されていた。

 執事や侍女のメイドたちもしっかりと家族を人質に王族の情報を何から何まで報告させた。

 ヴァレリー女王はフランス訪問で不在だが、皇太子親子さえ亡き者にすれば王室はもうおしまいだ。

 そして昨日、爆破テロに見せかけることで終わるはずだった!

 なのにあのコーネルとか言った執事め!何が“3人共ここにいます”だ!

 あの従者共。最後の最後にこの私を裏切るとは!

 この件が済んだら、お前たちが外国に逃がした家族をSIS諜報員を使って暗殺させてやる!

 『家族には手を出さない』なんて約束も破棄だ!

 だがそれだけじゃない。今朝の報告であの王女が自分と同じ生まれ変わり人間だという事はわかったが、だからといってこうも捜索が長引くとは到底思えない。

 まさか、“例のあの人”と同じ“能力持ち”か?

 いや、違う。それならば報告であったような彼女にとって危機的状況にはならなかったはずだ。

 では、協力者の存在か?

 可能性は低いが、ゼロではない。

 その協力者がボディガードも兼ねているとしたら、普通の警察官だけでは対応できないということもあり得る。

 今の時代、この国の警察は警棒しか持たない。

 銃の武装をしていない。

 もしかしたらその協力者も生まれ変わり人間で最悪の場合、“能力持ち”だとしたら、この国から脱出できて他の国・・・・・ヴァレリー女王がいるフランスへ亡命できる可能性もゼロではない!

 そうなっては私が仕切っているこの国が犯罪者の国に変わったことが世に知られてしまう。

 国内の民はもちろん、フランスやアメリカどころか世界中、国際連合も黙っちゃいない。

 SIS諜報員が襲ったことで国そのものが王族を殺そうとしていることは生まれ変わり人間であるあの王女にはもうバレているのだ。生き延びた後、彼女は間違いなく世界に知らせ、訴えて、いつの日にかグレートブリテン王国を取り戻しに戻ってきてしまう。

 “大いなる計画”に狂いが生じてしまう。

 この国はその計画の為の拠点にする予定なのだ。

 世界が注目していては計画は完遂できない。

 “例のあの人”に申し訳なくなってしまう。いや、そればかりか不要と判断されて何者かに殺される可能性も・・・!

 その考えに達すると、自分の体が震え上がってきた。

 前世での記憶が蘇る。

 貴族・僧侶・諸侯などが自分に対し、しかめっ面で様々な権利を記した書類を突き出し、私に署名を迫ってきた。署名しなければ王権を剥奪すると発言している。

 当時味わった恐怖がこみ上げ、私は思わず一台のモニターを投げてしまい、壊してしまった。

 あの王女が生きている限り、私は安心できない。

 こうしている内にもあの王女は脱出の計画を練っているのかも。

 脱出されては“あのお方”の計画もやり直し。

 そうなる前に始末しなければ・・・・・・!

 となると、武装した警察部隊:MO19の出動要請も必要か?最悪の場合には軍隊の出動も・・・・・いや、軍隊はもっと後だ。

 その前に“あいつ”を送り出せば良いか・・・・・・・。

 “例のあの人”がわざわざ、今回の爆破テロ計画で万が一の時の為に送り出してくださった。

 “あいつ”ならきっと王女を仕留めてくれるだろう。








 英首相の執務室の外ではとあるベンチがあり、そこにはフードを被り、中心に水晶を埋め込んだ黒い仮面を顔に付け、黒装束に身を包み日本の槍を携えた男がずっしりと座り込んでいた。















『BULLETSブレッツ』本編も気になって読んで下さると幸いです!!


次回のPart3も頑張って執筆中ですので、読んで下さった読者の皆さん、ぜひ楽しみに待っていてください!!

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