Part1
1603年、3月24日、午前2時、リッチモンド宮殿の王室にて。
臣下に囲まれながら一人椅子に座り込む、
イングランド・アイルランドのテューダー朝第5代君主:エリザベス・テューダー、69歳。
彼女は数々の友人たちの死が続き鬱状態に陥り、さらには健康状態も悪化してこの椅子に座り続けて4日も経つ。
もういいの・・・・。医者も要らない。私に跡継ぎはいないけど、セシル.Jrがスコットランド王を推薦してくれている。政治の仕組みが異なるとはいえ、スコットランドとの争いはもうなくなるだろう。これでようやく、この大ブリテン島が一つにまとまることができる。
ああ・・・セシル、ウォルシンガム、グレシャム、ドレーク。もうすぐ会いに行けそうよ・・・。
体も心なしかフワフワしている、きっと天使たちが私をあの世へ連れて行こうとしているんだ。臣下たちもいなくなっている、代わりに資料を持った変わった服装をした女性たちがニコニコしながらこちらを見ている。いつの間にか誰かに抱かれているような。
眩しい、もうあの世なのだろうか・・・?
「Look, you're a dad~Fia~.(ほらほら~、お父さんですよ~フィア~)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
誰なんだろう・・・この人。なぜ私をフィアと呼んで父親を名乗っているのだろうか?
そもそもここは?
あの世ともこの世とも思えないこの空間は一体何!?
私の体・・・・・・・小さい?
私は今、本当に女性に抱かれている!?
え・・・え・・・え!?
「What's going on!?(何がどうなってるの!?)」
「「「「Yeah!!?(ええ!!?)」」」」
ブツンッ。
〈真に申し訳ございませんが、ここからは英国人の喋りであっても日本語で執筆いたしますので、ご了承下さい〉
私が驚きの声を上げて場が騒がしくなってから1時間後。
状況整理の為にまず、私を抱いていた女性と私に語り掛けていた男性だけと話をする為に二人に頼んでナース?とやらの者たちを部屋から追い出してもらった。
まず、ここはスコットランドのダンディー病院という施設の一室で、この二人はイギリス王室皇太子夫妻でつい昨日出産したばかりだと言う。この私を!
そして何より重要なことを耳にした。
今私がいるのが、ついさっきまで晩年を迎えていたはずの1603年3月24日ではなく、そこから493年後、2096年8月15日の未来だということを!!
私は、あの世に行かず、生まれ変わったのか・・・?
しばらく一人で呆けてしまったあと、説明だけせがまれ、目の前で自分たちの赤ん坊がベッドの上でもう立ち歩き・言葉を発しているという信じられない状況に圧倒されて固まっていた皇太子夫妻にようやく気づき、こっちの紹介がまだだったとしてみると。
「「へ、陛下!!?」」
再び別の意味で驚き、私の前で突然ひざまずき始めた。
「あ、あの~どうぞお構いなく、今は本当にあなたたちの子供なのですから・・・」
「「いえいえとんでもない!!あのエリザベス一世陛下が目の前にいるというだけでも身に余る光栄で!!」」
「・・・・・私、そんなに偉大なのですか?」
「ええ、もちろん!!大陸から離れた孤島の小国を大英帝国にまで繁栄させた君主として有名ですもの!!」
「歴史の表舞台に立てるようになったのもエリザベス一世がいてこそです!」
「わかりましたわかりましたから!とにかくあまり敬語は使わないで欲しいんですが・・・・」
二人の熱が入った喋りに押されて少々焦る私。
「ところでさっき、私のことをフィアって呼んだということは、私の新しい名前ですよね?名前はお二人が?」
私に問われて顔を見合わせる新しい両親たち。そして声を揃えてとびっきりの笑顔付きで答えてくれた。
「「そうです!あなたはフィアです!!」」
2096年9月1日、〈初めての携帯日記〉。
生まれ変わってから17日。私は“ネット”なるものを活用してたくさんのことを知った。
前世の私が死んだ後、やはり予想していた通りスコットランド王のジェームズ6世を招いて王位に就かせていた。そして見事大ブリテン島が統合され、各国との協調政策に尽力し「平和王」とも言われるようになったそうだ。しかし、民の声をあまり聞かず、議会で“王権は絶対である”と後の「王権神授説」の基となる演説をし議員たちとの対立も起こっていたそうだ。後を継いだ息子であるチャールズ一世も父と同じような政治をし続けたため、ついに1642年、国王を支持する人々と議会を支持する人々による内乱:ピューリタン革命が起こり、この結果、議会側が勝利し、王は処刑され、議会側を仕切っていたオリバー・クロムウェルが王政を廃し、共和政を打ち立てた。
しかし彼はやがて議会を無視するようになり、ついには解散させ、独裁政治までするようになってしまった。クロムウェルの死後、議会はフランスに亡命していたチャールズ一世の息子:チャールズ二世を招いて王政を復活させました。始めは議会と協力して政治を行っていたものの、チャールズ二世も議会を無視するようになっていった。彼が死ぬと今度は弟のジェームズ二世が国王になり、彼もまた兄のように王の権力を強くしようとしていました。
そこで議会は、オランダにいる国王の娘・メアリと夫のオレンジ公ウィリアムを招いて、ジェームズ二世に代わる国王になってもらうことにした。当然ジェームズ二世はこれを認めず、軍隊を伴ってブリテンに上陸し向かってくる二人に自分の軍隊を向かわせようとするが、その軍隊自体がほとんど逃げてしまった為、彼はやむを得ずフランスに亡命した。この一滴も血を流さずに成功した革命を人々は『名誉革命』と呼んで称えたそうだ。
ロンドンに着き、共同統治者となったウィリアム三世・メアリ二世は人々の権利を認める『権利の章典』を発布した。それは今日まで憲法の一部としてブリテン政治を支えている。
今では物が豊かな時代になっている。洗濯機、エア・コンディショナー、テレビジョン、携帯電話、自転車、自動車、ゲーム機、私が生きていた時代ではできないこと、楽しむことなどが21世紀にはたくさんある。そして、すべての人類がお互いに協力しあって、平和を楽しんでいる。
私にとっての幸せは物が豊かなことでも文化が発達した世界に生まれたことでもありません。新しい家族に恵まれたことです!
前の父・ヘンリー8世は男子の世継ぎを渇望して6度も結婚をした。私の前の母・アン・ブーリンもその内の一人で女子であった私を産んだが為、離婚し、挙句は反逆の罪を着せて処刑した。恨む依然に親子としての時間すらも過ごせなかった。正直、他の家族が羨ましく思っていました。
だからこそ!生まれ変わって新しき両親に出会えて本当に嬉しいんです!
ちなみに私の新しい名前:フィアの由来は、新しき父・エゼルラルドがゲームを介してスポーツをする『eスポーツ』でオンラインカーレースをした際に当時プレーヤーだった新しき母・ハイネと出会えたことから、そのカーレース大会を開催している国際自動車連盟『FIA』から取ったそうです。
2097年4月1日、〈携帯日記第2記〉
生まれ変わって7ヶ月。ネットは更なる歴史を私に教えてくれた。
18世紀に入ると、ブリテンが所有していたアメリカ大陸にある植民地では現地の人々による自由を求める声が高まり、やがてアメリカ独立戦争を経て、今日まで続く多民族大国家:アメリカ合衆国が誕生した。
フランスでも自由を求める声が出て、フランス革命が起こり王政がなくなった。そんな中ナポレオン・ボナパルトという元コルシカ島人の若いフランス軍人が活躍し、革命の火がヨーロッパ中に広がることを恐れた各国がフランスに対して出した軍隊を次々に蹴散らし逆に領土を増やすほどに、フランス国民の支持を得てついには皇帝にまでなり、のちに『ナポレオン法典』と呼ばれる個人が財産を持つ権利、個人の意思の自由、平等などを含めた国民の権利を守るための法律を作りました。ロシア遠征の失敗によりナポレオンは皇帝の座を退きますが、彼が作った法典は一時フランスが支配したヨーロッパの国々に大きな影響を与え、現在の民主国家の憲法に多く取り入れられています。
ヨーロッパの動乱の中で、蒸気機関の発明などによって貿易を通して国を大きく発展させた『産業革命』で、ブリテンを始めとした強国が次々に力をつけ、香辛料などが豊富なアジアに強大な軍事力を以て18世紀後半から20世紀初頭まで進出した。ブリテン・フランス・ジャーマニー・ロシア・アメリカ合衆国・イタリアなどの強国を当時は“列強”と呼んでいたそうです。
私はというと、最近両親から“アニメーション”という“動くし喋る絵”の作品をたくさん見せてもらいました。
『蒸気船ウィリー』『白雪姫と7人の小人たち』『ピノキオ』『シンデレラ』『ピーター・パン』『眠れる美女』『タングレッド』『フローズン』『ONEPIECE』『ナルト』『ドラゴンボール』『機動戦士ガンダム』『進撃の巨人』、『ルパン3世』、どれもこれも素晴らしいストーリーばかり!作品は数え切れないほどたくさんあるらしいです。
今やこれらのアニメは世界中に通ずる文化の一部となっているそうです。そしてアメリカで生まれたアニメは現在では“日本”という国が大発展させているそうです。
“日本”とは一体・・・?
両親に聞くと、私が気に入り始めた『ONEPIECE』などの作品で英語じゃない言葉が使われているのが、その国の言語らしいのです。
私にとってはとにかく、前世では習わなかった言語の一つです!それになんとなく良い響きの言語もあって、これは習得するのが楽しめるはずです!
2097年12月1日、〈携帯及びPC日記第3記〉
生まれ変わって1年と3ヶ月。
前回記した列強について、20世紀に入って最後に列強入りを果たしていた国がいた。
それは、13世紀においてマルコ・ポーロが口述し、それが見聞記録としてヨーロッパ中に紹介された『マルコ・ポーロ旅行記』(別名『イル・ミリオーネ』『世界の記述』『驚異の書』)、その中でも特に人々の間で有名で興味を引き、数々の探検家にとっては憧れの場所だった黄金の国:ジパング。その国の本当の名前は“日本”、私たち英国人の間では“ジャパン”と呼ぶ。
私が生きていた頃の日本では戦国時代と呼ばれ、ヨーロッパにおける騎士のような存在であり日本の戦士:サムライたちの様々な長:大名たちが統治者になろうと争っていた時期で、その後半に入っていて三英傑として有名な大名:織田信長・豊臣秀吉・徳川家康が活躍していたらしい。しかも、最終的に日本の統治者の証である征夷大将軍の座についた徳川家康が現在の東京:当時では江戸と呼んでいた地に幕府を開いたのが、ちょうど私が死んだ1603年だった。なっという奇縁。彼が開いたその江戸幕府はその後260年も続くこととなるが、この間徳川家は戦国時代にフランシスコ・ザビエルによって伝えられたキリスト教を恐れて禁止し、海外貿易を厳しく制限していた。1637年、3代目将軍・徳川家光の時に、役人によるキリスト教弾圧や作物の厳しいとりたてに対してキリスト教徒:天草四郎を指導者としたキリスト教徒の農民たちによる反乱が起きた。幕府はこれを鎮めるが、宗教で団結した彼らの強さに驚いた。これにより家光はキリスト教禁止令をさらに強化し、キリスト教に深い関りがあるスペインやポルトガルとの貿易も禁止した。そして1639年、キリスト教を広めないオランダと中国だけは貿易を認め、今後日本人が国を出入りすることを禁じ、鎖国国家を築き上げた。これ以降日本は200年も鎖国することになる。
200年間、色んな国が日本と関係を結ぼうと来航するが幕府はこれを断り続けていました。
しかし1853年、、第13代アメリカ合衆国大統領ミラード・フィルモアの親書を携えたアメリカ合衆国海軍マシュー・ペリー提督率いる4隻の軍艦による来航で、日本中が大慌てになった。幕府は世界の情勢を十分理解し、今の日本では絶対に勝てないことが分かっていた為、どうするか迷ってしまった。
開国要求に今すぐ返事を出せないとのことで翌年の1854年に軍艦7隻を引き連れて再び来航したペリーの強い主張に負け、日本は会議を経て和親条約を結び、ついに鎖国を解き、開国した。
これを機に他のヨーロッパの国々、そしてブリテンも日本と同じような条約を結んでいったそうで、これらの事件がきっかけで日本国内では、外国人を追い払う『攘夷』・幕府に代わって元々政治の中心だった“天皇”を尊ぶという『尊王』、外国に習って近代化を図るという『開国』、落ち目になった幕府を武力で倒すという『倒幕』などの考えが錯綜し、国の運命を懸けた革命『幕末維新』の始まりとなりました。
始めは『攘夷』の考えを持つ者が多かったそうですが、外国を改めて知るべきだと考えた勝海舟らによるアメリカ視察、外国との一部での戦いを経て最終的には『尊王』『開国』『倒幕』が合わさり、戊辰戦争を通してついに幕府は滅び、日本は近代的国家へと大きく進むこととなりました。
1889年には天皇が主権の憲法を発布、翌年には議会も始められ、ますます近代化が進み、ついには外国との戦争、1894年と1904年のそれぞれ日清・日露戦争での勝利で国力を世界中に認められ、列強の仲間入りを果たした。
新しい両親は世界でも有名な親日家として知られ、ハネムーンでも日本に訪問するほどらしい。
二人の薦めによって、私も日本を知るきっかけとなり、今回の日記の執筆にも繋がりました。
正直、ヨーロッパが何世紀にも渡って発展させたことを習って、日本はそれをたったの約57年で近代化を遂げていることに、私は驚いた。
サムライたち・・・・・・・すごい。
私もたった半年で日本語をものにしました・・・・でそうろう。なんて☆
2098年8月1日〈携帯及びPC日記第4記〉
生まれ変わって1年と11ヶ月。
20世紀に入って、1914年に世界は連合国側と同盟国側に分かれ、人類史上初めての大規模の戦争:第一次世界大戦が起きた。結果は4年に及ぶ持久戦の末、連合国側の勝利に終わった。
この大戦を経て、第28代アメリカ合衆国大統領:ウッドロウ・ウィルソンが世界平和への道のりを考えて史上初の国際平和機構:国際連盟=“LON”の提唱するのを始めとする戦争を未然に防ぎたいという人類の声が高まり始めていた。だが同時に、ベルサイユ条約により多額の賠償金など厳しい条件をつきつけられ屈辱を味わった敗戦国:ジャーマニー、戦争の裏でアジアでの利権を手に入れるばかりか資源を求めて中国進出の準備をする日本。特にこの二つの国がやがて侵略の暴走・軍事国家への移行・ファシズム化。そして国際連盟の存在も効果なく、1939年9月1日、アドルフ・ヒトラー総統率いるナチス・ジャーマニーの軍がポーランドに侵攻したことにより第二次世界大戦が始まってしまった。
結果は第一次と同じように連合国側と同盟国側に分かれ、6年にわたって連合国側の勝利に終わった。
しかし、終わりの決め手となったのが、原子の研究から生まれてしまったアメリカの原子爆弾、日本の広島・長崎に対する投下でした。
原子爆弾の影響で広島だけでもたったの一瞬で10万人が死んだという。
人類はとんでもない物を生み出してしまった。
とんでもないと言えば、私の存在もかもしれません。
生まれてすぐ自分の足で歩けていたのですが、つい先日宮殿内にある家具をなんとなく動かしたいという興味本位でやったところで、あることに気がついたのです。
私は家具を軽々と動かすことができていたことに、1歳児の赤ん坊の体で!!
身長だけを除けば、その時の感覚はまるで前世の若いころの自分を感じているようだった。多分今の私は前世の潜在能力を引き継いだまま生まれ、力が人並み以上にあるのではないかと、両親にはこのことを何も言えず、私はただ一人この力を恐れています。
2099年6月1日〈携帯及びPC日記第5記〉
生まれ変わって2年と10ヶ月。
大戦後、もう二度と悲惨な戦争を繰り返さないよう、国際連盟に代わる国際機関:連合国=“UN”を設立し、現在も国際平和と安全の維持(安全保障)、経済・社会・文化などに関する国際協力の実現を目的にして世界各国と協力し合っている。
一方、先の大戦で原子爆弾=核の力を手に入れたアメリカと戦後に開発して核を手に入れたソビエト連邦がそれぞれ始めとする資本主義国側と社会主義国側に分かれて、1945年から対立した。
しかし各国は、広島・長崎の悲惨さを踏まえて核兵器を所有する国どうしが争えば間違いなく核戦争へと突入し、世界は滅亡してしまうことを重々理解していたため、、対立が終わる1989年まで直接的な戦争は起こらなかった。その為この対立を『冷戦』と呼ぶそうです。
そして、戦争・核の恐ろしさを知った日本は、戦後に作った国民を主権にした新しい憲法で戦争を固く禁じ、政治方針に「核兵器をもたず、つくらず、もちこませず」の三つからなる“非核三原則”を掲げて今日まで154年間も平和で核を持たない国として改めて発展し、世界中に見直されることになりました。
それでも、製造してしまった核兵器は各国でまだなくなってなく、人類は154年間も核戦争に突入しないことを祈り続けています。
私も祈ります。核がなくなることを。
早くなくなって欲しい・・・・。
現在、ブリテンでは新しい首相が当選し、就任した。名前はランドルフ・スコーンという。
国民は皆彼を選んだそうだが、私はあの男はあまり良い印象を持てない。
しかし現在は『君臨すれども統治せず』のブリテン政治、王族である私が異議を唱えても変わらないこと。
また、気になることと言えば近年行方不明者が急激に増えていることを世界中が話題にしているらしい。新しい世紀がもう目の前だというのに、自殺志願者が増えているのでしょうか?
2100年1月1日〈携帯及びPC日記第6記〉
生まれ変わって3年と5ヶ月。
ついに!新世紀・22世紀が始まった!!世界中の人々が歓喜し、大きな戦争がなかったことから前の21世紀を“平和の世紀”と呼び始めている。
良きことです!
ところで、ここ最近世界中の海であの太平洋戦争で大活躍したことで有名な旧日本軍の零式艦上戦闘機、通称“ゼロ”の小型版が突然現れて突然爆発と共に海に落ちて残骸ごと消えるという謎の怪事件が起こっているそうです。
154年経った今になって、旧日本軍パイロットの亡霊でもさまよっているのでしょうか?
それに、喜んでばかりもいられません。去年私が日記に記した年間行方不明者数について、ここ最近の調べによると、まだ増えているとのことだそうです。ブリテンでの行方不明者数も増えているとか。一体何が起きているのだろうか?
そして、
2101年、
8月15日、
早朝、
バルモラル城の一室で目を覚ますのは、
「・・・・生まれ変わってついに5年!今年もネットを通して世界を楽しもう!!な~んて!」
グレートブリテン王国王女:フィア、本日で5歳。
朝の歯磨き、うがい、顔洗い、手洗いを忘れずに。
そして、朝食の為に食堂に入る。両親はもう既に入っていました。
「!父上、母上。おはようございます!」
「「おはよう、フィア」」
今日もまた元気に挨拶し合う私たち。メイドや執事たちとも挨拶します!
しかし、この後の予定はいつもの城で過ごすのとは違います。
私の5歳の誕生日を別の場所で祝うのですから!!
今日は一日中移動する予定です。
目的地のホテルまでは、普通なら車のみを使って約2時間30分で着きますが、海路を行きたいという私のお願いで北海を船で渡ることになりました。
ダンディーに到着してそこの港から、ノルゲ号から引き継いだ王室ヨット:ブロンプトン号に乗船し、港町の国民たちに盛大に送られながら出発しました。
関係ないですが、あの港町:ダンディーという名前を考えると最近見た『スペース☆ダンディ』というアニメを思い出して、気を抜くとあの様々なギャグコメディで公衆の面前で笑ってしまいそうでした。あの尻好きのリーゼント主人公、めちゃくちゃなただの女好きに見えて義理人情に厚い男だったりして本当に面白いのです。似てるアニメキャラと言えば、坂田銀時、ルパン三世、おそ松、ポルナレフ、冴羽獠、色々ありますが私もそんな人と出会えたらな~なんて常々考えちゃってます。
さっそく私は船首に立って、叫びます!
「『I'm the king of the world!(世界は私のものだ!)』」
「こらこら。海岸沿いに航行するだけなのに沈んじゃったらどうするんだい?」
そんな私を和やかに笑ってくれる両親に付き添いメイド・執事たち。
「海・・・・懐かしの海です!」
「あなたって航海をした経験ってあるの?」
「いえ。ドレークが出航するのを見送ってばかりで。しかし北海を渡るのは初めてであればできるってこと自体想像したこともなかったのです。私の時代ではすぐ目の前が外国でしたから・・・・」
「なら、またこの時代に生まれてこその新しい経験ができて良かったね」
「はい!それに来年の4月がとても楽しみです!!念願でありあの憧れの日本へ訪問できるのですから!!」
「私たちもだよ。早く東京・京都・大阪、この3つの都市を一番に見せたいさ」
「私のオススメは大阪かな。何と言っても、たこ焼きでんがな~」
「おいおい、東京だっておでんがあるだろ?」
「いやいや、おでんは日本どこでも共通だ~てやんでぇバーローちくしょーっ!」
「「「シェー!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」」」
今日も私たちイギリス王家は賑やかです。
「あ、日本でたこ焼きと言えば“たこ焼きパーティ”というのが庶民であるらしいんです。来年日本に行ったらキーラたちも家族とか呼んで一緒にやりましょうね?」
「「「・・・ええ、もちろんです姫様」」」
思えば、
この時、
彼・彼女らのちょっとした“間”に、
私は気づけば良かったのかもしれない。
この日、ブリテンでは皇太子夫妻とフィア王女の誕生日で盛り上がる中、もう一つの報道ニュースでも騒ぎになっていたのだ。
不規則な時期にどこかに出現するあの“ゼロ”がドーバー海峡に現れたとの書き込みがネットに上がっていたことが話題になっていた。
ロンドン、ウェストミンスター区ダウニング街首相官邸にて。
「“ゼロ”が出現した?下らん!そんな情報は放っておけ!今日は世紀の大事件が“起こる”日なんだぞ!!分かっているのか!?」
「・・・・はい・・・」
現首相:ランドルフ・スコーンは部下からの報告をはねのけていた。
「いいか?抜かりは絶対に許すなよ?新世紀の新しい1ページを書き込むのは“我々のブリテン”なのだからな!!」
エディンバラ。
私が統治していたイングランド王国と相反していたスコットランド王国の首都で、現在も連合王国・グレートブリテンの一部であるスコットランドでの首都としてロンドンの次に栄えている都です。
4年前に夏季滞在としてホリールード宮殿に来た際、北海と同じ理由で来れるとは考えもしなかった場所でもあり、来てみて感動した場所でもあります。あのメアリー・スチュアートとも敵国ではなく友好国の女王だったら、あの時代でも招待されてここへ来ることができたのだろうかと考えたこともありました。
夏の時期には必ず一度はここに来ることが私たちの間で習慣になっていました。
そして、泊るのはエディンバラ城か、バルモラル・ホテルのどちらかです。
今年の誕生パーティーはバルモラル・ホテルで開いてくれるそうです。
エディンバラでは皇太子夫妻とフィア王女が来たことで、お祭り騒ぎだった。
そんな中を、ハンチング帽子を被りブリテン国家『~God Save The Queen~(神よ女王を護り賜え)』を鼻歌で歌いながらぶらぶら歩く男の子が一人いた。
バルモラルホテルにて。
レストランの場所をパーティー会場にチェンジアップ中、片隅で皇太子夫妻はアルバムを見ながら娘との思い出を語り合っていた。
「フィアもすっかり現代に慣れてきたもんだな。これであの子の前の暗い幼少時代が解消できれば良いが」
「そうね。あの子への誕生日プレゼント、もう決めてるの?」
「日本の侍がすっごく気に入ってるみたいだからな。まずはこの侍のお人形さんが良いかなと思うよ」
「日本に行く時、絶対に持っていくあの子の様子が簡単に想像できるわね」
そんな様子を、レストランの出入口全てに立っている執事たちとメイドたちは見て、そして何かのアイコンタクトをして一斉に目を閉じた。
一方、フィア王女はというと。
“そう言えばここのホテルの周りをよく見たことがない”というちょっとした素朴な考えの下、護衛二人を連れて散歩をしていた。
そして散歩の末王女は、ホテルの画像とかでも有名なあのナポレオン・ボナパルトをワーテルローの戦いで破った名将:アーサー・ウェルズリー(別名:鉄の公爵)の騎馬像の前に立った。
あのナポレオンに勝ったのがアイルランド出身の彼だったことは歴史を調べる辺りで知ってはいたが、あまりよく調べたことがまだない。こう銅像をいくつも立てられるところを見るとよっぽどの人格者のようです。そう思い至った私は、自分の携帯で調べようとその場でタップし始めました。
空は雲行きが怪しかった。
「これは降り出しそうですね。姫様、そろそろお戻りに・・・」
しかし、
次の瞬間、
ズゥンッガシャ―ーーンッ!!!
突然、ホテルのある階の窓ガラスが爆風と共に吹き飛んできたのです。
「「っ!?姫様!!!」」
一緒だった二人の護衛官が飛んでくるガラスの破片を被らないよう私を守ってくれました。
破片がようやく降り終わったところ、護衛官が「大丈夫ですか姫様?」と私に安否を確認しています。
でも、私の心には、その声は届いていませんでした。
私でも場所ぐらい分かってしまった。
ホテルの“どこ”が吹き飛んだのかが。
誕生パーティー会場が催されるはずだった、レストランの窓から火が上がっていた。
散歩に出る前までは、自分もいた場所に。
父上は?
母上は?
メイドたちは?
執事たちは?
何が起きているのですか?
私は、もはや自分がやっていることをよく理解せずに行動していた。
「父上!母上!キーラ!クリストファー!デシ―!ジャイア!ウォニー!」
泣き叫んでいた。
「姫様!ここは危険です!すぐ移動しましょう!!」
夢中で一部が燃えているホテルの方へ行こうとする私を止める護衛官二人。
次第に雨が降り始めた。
その後、私は放心状態で無線で連絡を取っている護衛官二人と一緒に近くの公園のベンチに座っていた。
辺りが騒がしくなってきた。サイレンを鳴らしながら消防車両が次々と通過していく。救急車もだ。
私の脳の情報処理能力が現実に追い付いていなかった。
何故こんなことに?
誰が仕組んだ?
政治をしない王族を狙って何の意味が?
考えを巡らせていく内に、近くに黒い車が到着し、黒いスーツを着た男たちが来た。きっとSISの人たちだろう。しかし様子が変だ。スーツの裏に手を突っ込んだまま近づいて・・・。
護衛官二人も違和感を感じ、咄嗟に私の方へ駆け出した。
「「姫様!!逃げて!!!」」
まさかっ!!?
パシュパシュパシュッ。
「ぐあっ!!?」
「ぐっ!」
護衛官の一人が撃たれ、倒れた。
もう一人は肩を撃ち抜かれながらも私を抱えて南の方へ逃げ出してくれた。
一体なぜ?
なぜSISの諜報員が?
まさか、国家が王族を殺そうとしている?
そんなことが?
わからない。
ただ、この護衛官だけは味方なのはたしかでした。
ロンドン首相官邸にて。
「フフフ、ネットの反応を見る辺りでは、作戦は大成功したようだな」
執務室でパソコンを眺めるスコーン首相とSIS長官:ブラディ・モリス。
「そのようですな。おや、さっそく部下からの報告です」
「おお、さっそく繋いでくれ」
ブラディが別のパソコンのキーボードで入力すると、首相のパソコンのスピーカーから焦った声が入ってきた。
『こちらエディンバラ!フィア王女が生存中です!!』
「な、なんだと!?」
数時間後、数十kmほど南下した地点で、SIS諜報員たちによる回り込みを受け、弾丸の雨を走る中、唯一の味方だった護衛官も撃たれ、倒れた。
私はSISが乗っていた車と車の間に隠れたが、もう周りはピストルを持った諜報員に囲まれていた。
逃げ場がない状況だ。
しかし、こういう時に日本では“敵地に活路を見出す”という言葉があるらしい。
私にはその言葉通りのことを実行できる考えがあった。
彼らが詰め寄ってきた瞬間を狙い、そして、これまで隠していた怪力を使って車を勢いよく押し出して諜報員たちを吹っ飛ばした。
おかげで油断してた諜報員たちを一気にまとめてノックダウンさせることに成功し、私は南の森に逃げ込めた。
木々の間を抜ける中、私は考えていた。
この後はどうすればいい?
行き先の場所は?
そもそも今の場所は?
ネットを使おうにも、携帯はさっきの公園で落としてきたし。
でも、行き先を決めて逃げられるの?
私を殺そうとしているのは国だ。
この国が混乱状態なのは間違いない。
首謀者は一体誰なの?
そんな考えをしながら走ってる途中、木の根に足をつまづいてしまい転んでしまった。
うつ伏せに倒れた私は立ち上がろうとするが、
“自分はもう助からないんじゃないのか?”
という考えが頭によぎったことで、立ち上がらなかった。
547年前の川からロンドン塔に幽閉された時と同じ気持ちだ。
私は今度こそ国家に殺されるんだ。
でもあの時とは違う。
私はまだ死を覚悟していない。
死にたくないという心があって、誰かに助けを乞いたい。
しかし、私が関わることで国民の誰かが謀殺されてしまう。
そんな無意味な犠牲を、私は望んでいない。
ならどうする?
やはり、このまま倒れたまま死ねばいいのでは?
そもそも人間は倒れたまま簡単に死ねるのだろうか?
でもきっと、役人か諜報員が見つけたらその場で殺すのだろう。
なら逃げても無駄だ。
だんだん意識も、遠のいていく。
いくら“力”があっても、慣れてもいない体を長時間動かし続けた反動で、疲れと共に眠気が襲ってきた。
もうここで見つかっても仕方ない。
その時は、私の第2の人生がそこまでだったと見切りをつけるだけ。
人間の人生は、二度目も長いとは・・・・、
限ら・・・・・、
・・・・な・・・い・・・。
豪雨の中、
濡れた地面に倒れている少女の前に、
駆け寄る、
傘を差した一人の
着物を着た少年が、
いた。
彼は泥だらけの少女を抱き上げ、
背中でおんぶし、
出現させたレインコートを少女と一緒に着て、
その場からゆっくりと歩き始めた。
午後23時前後。
スコットランドの南にて。
少年は少女を背中に背負ったまま、何かを呟くようにながら歩き続けた。
「雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫なからだを持ち
欲は無く
決して瞋からず
何時も静かに笑っている
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜を食べ
あらゆる事を自分を勘定に入れずに
良く見聞きし判り
そして忘れず
野原の松の林の影の
小さな萱葺きの小屋に居て
東に病気の子供あれば 行って看病してやり
西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を背負い
南に死にそうな人あれば 行って怖がらなくても良いと言い
北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろと言い
日照りのときは涙を流し
寒さの夏はオロオロ歩き
皆にデクノボーと呼ばれ
誉められもせず苦にもされず
そういう者に
私はなりたい」
少年は僧侶の読経のようなことをしながら豪雨の中を前へ前へと進む。
時には上下が激しい道のりでは屋根付き電動一輪キャタピラー式運搬台車を何もないところから出現させたかと思うと、少女を乗せて押していく。
急な坂を下りる際はそりを出現させて少女と一緒に乗り一気に滑っていく。
大分歩き、人目が付かない場所まで歩き、少年は休むと同時に少女のバイタルの確認をすることにした。
日本のバス停の休憩所のような屋根をベッドと一緒に出現させて、少女をベッドに寝かせた。
レインコートを被っていたことで中では気温が上昇しているとはいえ少女のドレスは濡れている。人間はいつまでも濡れた服を着せていると健康状態に影響を及ぼすことになる。だから少女が来ている服を全て脱がす必要がある。
少年は出現させた布切バサミでドレスを少女の胸元から下にかけて切っていき、下着のパンツも脱がすしかなかった。
もちろん少年は医学に携わっていない人間だ。こういうのには慣れておらず、赤面していた。
しかし、やり方は知っている。大事な命の為の行動であると自分に言い聞かせながら、少年は作業を進めていき、彼女に毛布をかけた。
バイタルサインの手順はこうだ。体温測定・脈拍測定・呼吸測定・血圧測定の流れで進める。
まずは体温測定を。
出現させた体温計の先を脇の一番深いところへ入れ、体軸に対し30~45度の角度で測る。そして正常値を確認。36℃。そして体温計を消滅させる。
次に脈拍測定を。
少年は自分の腕時計の秒針を使い、右手首辺りの撓骨動脈に示指、中指、薬指の指腹をあてて1分間の脈拍数を計測し、脈拍のリズムが一定であるかを確認する。脈拍数は72回。
次に呼吸測定を。
少女の胸腹部を見て、普段の呼吸とは違う動きがないかを確認する。
最後に血圧測定を。
出現させた電子血圧計を水平にさせた机に置き、示指、中指、薬指で少女の右腕の上腕動脈の拍動を確認、ゴム嚢の中央が上腕動脈の走行に沿うようにマンシェットを2本指が入る程度の強さで巻く。聴診器を装着し、血圧計のコンセントを出現させた発電機に接続し、電源を入れる。聴診器の膜面を自分の手で温め、少女の上腕動脈の拍動部位に当てて加圧する。最初に聴こえた音が収縮期血圧で音が聞こえなくなったところが拡張期血圧であるからそれぞれの際の血圧を確認する。139mmHgと88mmHgだ。音が聞こえなくなったら速やかに空気を抜き、少女に付けたマンシェットをはずす。そして器具を全て消滅させる。
バイタルは全て安定しているのを確認した。
出現させた水を飲んで一息入れる少年。だが遠くにチラチラと光る何かを見つけると、少女を寝かせたベッドごとビニールシートを被せ、さらには泥も出現させ、シートの上に被せ、ちょっとした残土のふりをした。
しばらくするとレンジローバーが2、3台やってきてサーチライトやらフラッシュライトを使って辺りを見回す警察官たち。
ついさっきまでは灯りがここにあったような気がしていたらしいがここには何もないと判断すると、警察官一行たちは車を走らせてどこかへ去っていった。
一行が見えなくなったところで泥を消してシートの中から顔を覗かせる少年。
長居は危険。すぐに移動を決めた少年は、懐から携帯を出して、メールアプリを画面に開いた。
『おもとかくうあれどがえのんりはらするはでがしなみ。あくとばいしさいれうら。だいはて。くこいあ
スパルティに目を向けよ』
この内容を本文にタップし、“第二の親父”の携帯に送信し、向こうが受信したのを確認すると少年は、出現させた小型プレス機ですぐさま携帯を押しつぶし、中にあったGPSチップも出現させたチップで完璧に破壊した。
少女の体を毛布で巻いて、リュックのように背負い、少年は再びレインコートを彼女ごと被り、前進を再開した。
人生初のスピンオフ作品の投稿です!!
こちらの作品を見て『BULLETS』本編が気になった方はぜひ読んで下さい!!
本編との繋がりだけが気になる方は20、21、36発目がおすすめです!!
次回のPart2も本編と一緒に執筆するので、ぜひお楽しみに!!