少年は、将来像を修正する
この世には【星界の魔神器】と呼ばれる武具が存在している。製作者不明、素材も不明。しかし、それ1つで、国1つ落とせると言わしめる強力な武具だ。
全部で幾つあるのか、正確な数は分からない。各国は、【魔神器】を手に入れようと躍起になっていると同時に、使い手たる所有者探しにも力を入れていた。
そんな【魔神器】の中でも、群を抜いて有名な物がある。その数は12──
「ちょ……ちょっと待て、テオ! それはっ、まさかっ……【双子の輪舞曲】かっ?!」
風の属性を持つ、双剣【双子の輪舞曲】もその中の1つ。
「はい、そうですよ。姉から入学祝いに頂いたものです」
「はぁ~ッ?! 伝説級、いや神話級かも知れないと言われている【星界の魔神器】を入学祝いだとォ?! 正気か!? 国宝として、宝物殿に納められていても不思議じゃないんだぞ?!」
長椅子から立ち上がり、ルーカスが唾を飛ばしながら、力説する。他の側近たちは、まだフリーズしたまま、動かない。
テオドールはというと「そうおっしゃられましても」と不満げに唇を尖らせ、
「最低でもこれくらい斬れる物じゃないと、ドラゴンを狩るのは面倒なんですよ」
「ドッ、ドラゴンだと──!?」
「はい」
これでもかというぐらい、目玉を大きく見開くルーカスに対し、テオドールは平静そのもの。それどころか、何をそんなに驚いているんだろうと、不思議そうにしているくらいだ。
実のところ、ディードッリヒ伯爵夫人が「男爵家では用意できないでしょう?」と言っていた、賠償金をはじめとする数々の費用。ヴェロニカとテオドールがその気になれば、用立てるのはそれほど難しくない。
そう。ドラゴンだ。ドラゴンを1頭。保険をかけて2頭狩ることができれば、それでお釣りがくる。
もしくは、姉弟が買い取れる人がいないとして、アイテムボックス内に死蔵している戦利品を吐き出す。そうすれば、狩りにいく必要もなかったりする。
当然、ドラゴンを狩れる身内がいるという事実は、政治的にも大きなアドバンテージとなる。王太子妃は難しくとも、フィリーネがルーカスの妻になれる可能性は──彼が王位継承権を放棄し、臣籍降下すればの話だが──十分あったのだ。
「学生の内は、引き続き殿下の護衛を務めさせていただきますが、その後は冒険者として、センタウルの大洞窟を攻略したいと思います」
センタウルの大洞窟と言えば、高難易度の未踏破ダンジョンとして知られている。
幼い子供が夢を語るようにキラキラと瞳を輝かせるテオドールに、その場にいる誰もが「待て」をかけることができなかった。
「テオドールが【星界の魔神器】のオーナーだって!?」
「彼だけではありませんわ。ヴェロニカもそうでしてよ」
妻の言葉に、ケビンは絶句した。確か、ヴェロニカの夫、ハインツも【魔神器】のオーナーだったはずだ。肯定してほしいような、してほしくないような気持で確認すれば、
「ええ。その通りですわ。ヴェロニカは、【牡羊の狂騒曲】のオーナーですし、エーベルト騎士団長は【牡牛の遁走曲】のオーナーでしてよ。あぁ……何という失態でしょう……! エーベルト騎士団長は、テオドールの入団を心待ちにしていると聞いておりましたのに……!」
グレーテルは、嘆かずにはいられなかった。
ヴェロニカのことは好いている。向こうも、こちらを好いてくれているのは間違いない。けれど、その好意の中に政治的な思惑が含まれているのもまた事実であった。
テオドールをルーカスの護衛として、推薦したのもグレーテルである。それは、彼が優れた騎士であると同時に、【魔神器】のオーナーだということ、オーナーの身内を持っているということも含めての推薦だった。
ひいてはそれが、ルーカスの発言力を強め、ゲーゲンバウワー侯爵家やディードッリヒ伯爵家の力も強めることに繋がると確信していたからである。
「ちゃんと話してくれていれば──いや……これは、私のリサーチ不足でもあったな……」
やはり、人の世において、思うようにことが運ぶことは稀なことであるらしい。
余談ではあるが、この数年後、フィリーネはルーカスとの恋は良い思い出として残したまま、とある商家へ無事に嫁入りすることが決まったらしい。
ここまで、お付き合いくださり、ありがとうございました。
設定など、かなり大雑把ですが、お楽しみいただけたなら幸いです。